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Meets03 小悪魔プリンス
16 人か獣か
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王とエリオットの仲違いをしていたのは、長年仕えていた執事のウツギだった。
彼はついに本性を現し、その身を黒い影の獣、ベスティアに変えた。鷲の頭と獅子の体に羽根を携えたグリフォン型のベスティアだ。
「人が……ベスティアになった、だと?」
「ウソだろ、そんなん聞いてないぜ……」
オルレア王とエリオットが目の前の獣に対峙しながら呟いた。
さすがに魔法の国の王族はもちろんベスティアを知っている。ミチルはそう思いつつも、目の前のグリフォン型ベスティアを見る父子の狼狽に戸惑う。
「べ、ベスティアって、に、人間なの……?」
ミチルは今目の前でウツギがベスティアに変化したことで、これまでの戦いを思い出し血の気が引いた。ジェイが倒したケルベロスティアも、アニーが倒したワイルドボアーティアも元が人間だったとしたら……?
「いや。そんな話は聞いたことがない」
ミチルの想像はオルレア王によって否定されたが、現にウツギがベスティアになったことについての不安は残る。
「アルブスじゃあ、ベスティアなんてのは辺境の森にでもいかねえと会えねえレアモンスターだ。だから研究してるヤツもまだ少ないが……」
エリオットは目前のグリフォン型のベスティア──ベスティフォンを見据えながら続ける。
「目撃情報がレベチのカエルレウムでの論文にだってそんな内容は読んだことがねえ」
「論文なんてあんの?」
ミチルが驚いて聞き返すと、エリオットは視線をベスティフォンから外さずに答えた。
「まあな。ベスティアはいわゆる新興モンスターだ、謎が多過ぎる。だから、人間がベスティアに変身することもあるかもしんねえけど……」
「エリオット、お喋りはそこまでだ」
ギャオオオォォ!
オルレア王が声をかけたのと、ベスティフォンが咆哮を上げたのはほぼ同時だった。
ビリビリとした衝撃が三人を襲う。エリオットはできるだけミチルが衝撃波を浴びないように守るので精一杯だった。
「エリオット、お前はそこでその少年を守りなさい」
「父上……」
オルレア王はベスティフォンに向かって一歩前に進んだ後、振り返って笑った。
「大切な、存在なのだろう?」
「──! ああ!」
エリオットも力強く笑って頷く。ミチルは父子のやり取りを見てとても安心した。
「ウツギよ、私の声が聞こえるか?」
ケケケエエッ!
オルレア王の問いかけに、ベスティフォンは嘲笑うようにその嘴で鳴いた。
「ふむ。どうやらもうウツギの自我はないようだ」
のんびりと頷いているオルレア王の背中を見ながら、ミチルはある事に気づいて青ざめた。
「ねえ、エリオット! 王様、丸腰じゃん! どうすんの、どう戦うの?」
慌てるミチルにエリオットは落ち着き払って言う。
「ミチルはカエルレウムにもいたんだろ? ならあそこの騎士が持つ魔剣じゃないとベスティアは斬れねえってのは知ってるよな?」
「つ、つまり……?」
「アルブスにはベスティアに通用する武器なんかねえよ。だから丸腰でも結果は同じ」
「いやいやいや! だからってダメでしょ! 素手じゃあ、余計勝てないでしょ!」
「それはどうかなー?」
エリオットはニヤニヤ笑って父王がその低い魅惑のボイスで何かを呟いているのを見る。
「我請おう、偉大なる始祖の御力をここに……」
するとオルレア王の足元に赤く光る文字が円を模って現れた。
「ま、魔法陣!?」
ミチルが声を上げると、エリオットは満足そうに笑う。
「へえ、ミチルはそんなのも知ってんのか。チキュウっていうトコは案外ココと似てるのかもしんねえな」
エリオットは感心した様子でミチルに言った後、視線で父王を見るように促した。
「熱砂の大地、降り立つ御身の加護を与えよ……」
詠唱を続けるオルレア王の周りに熱風が吹き、陽炎が立ち込める。
「今の所、ベスティアに通用するのはカエルレウムの魔剣だけだ。けどな、その剣に込められた魔法はもともとアルブスのもの」
「それじゃあ……」
ミチルが期待を込めて見ると、エリオットは少し自慢げに笑う。
「アルブスはカエルラ=プルーマ最大の魔法王国。その頂点に立つ王の魔法が、ベスティアに効かない訳ねえだろ?」
見ろ、と言わんばかりに指したエリオットの向こう、オルレア王がついに詠唱を終えようとしていた。
「火竜の息吹!!」
とてつもないエネルギーの火の玉が王の掌から繰り出された。
「キケェエエエッ!!」
ベスティフォンはあっという間に炎にその体を包まれて、断末魔の叫びを上げる。一瞬だけさらに炎が勢いを増した。その衝撃で、黒い影は忽ちに霧散する。
「すごー! 王様、すごー!!」
ミチルはすっかり興奮していた。ゲームでもないし、アニメでもない。ましてやCGなどでもない。本物の魔法を初めて目にした。地球にいたら絶対にできない経験、それを今自分がしていることにミチルは高揚する気分を抑えられない。
「まあな! 父上にかかればあんなもんは造作もねえよ!」
ミチルの反応に嬉しそうにしているエリオット。なんでお前がそんなに自慢げなんだ?と突っ込みたくもなったが、憎んでいたはずの親を褒められて喜ぶ様が微笑ましくてミチルはそれが嬉しかった。
「……気を抜くな、エリオット」
「え?」
「恐らく、まだだ……」
オルレア王はまだ緊張を解いてはいなかった。じっと眼前の状況を見つめている。
火球の魔法により砕かれた黒い影は、完全に消えてはいなかった。
微かに漂う黒い霧。
それが次第に濃くなっていく。
少しずつ、再び獣の形を取り戻していった。
彼はついに本性を現し、その身を黒い影の獣、ベスティアに変えた。鷲の頭と獅子の体に羽根を携えたグリフォン型のベスティアだ。
「人が……ベスティアになった、だと?」
「ウソだろ、そんなん聞いてないぜ……」
オルレア王とエリオットが目の前の獣に対峙しながら呟いた。
さすがに魔法の国の王族はもちろんベスティアを知っている。ミチルはそう思いつつも、目の前のグリフォン型ベスティアを見る父子の狼狽に戸惑う。
「べ、ベスティアって、に、人間なの……?」
ミチルは今目の前でウツギがベスティアに変化したことで、これまでの戦いを思い出し血の気が引いた。ジェイが倒したケルベロスティアも、アニーが倒したワイルドボアーティアも元が人間だったとしたら……?
「いや。そんな話は聞いたことがない」
ミチルの想像はオルレア王によって否定されたが、現にウツギがベスティアになったことについての不安は残る。
「アルブスじゃあ、ベスティアなんてのは辺境の森にでもいかねえと会えねえレアモンスターだ。だから研究してるヤツもまだ少ないが……」
エリオットは目前のグリフォン型のベスティア──ベスティフォンを見据えながら続ける。
「目撃情報がレベチのカエルレウムでの論文にだってそんな内容は読んだことがねえ」
「論文なんてあんの?」
ミチルが驚いて聞き返すと、エリオットは視線をベスティフォンから外さずに答えた。
「まあな。ベスティアはいわゆる新興モンスターだ、謎が多過ぎる。だから、人間がベスティアに変身することもあるかもしんねえけど……」
「エリオット、お喋りはそこまでだ」
ギャオオオォォ!
オルレア王が声をかけたのと、ベスティフォンが咆哮を上げたのはほぼ同時だった。
ビリビリとした衝撃が三人を襲う。エリオットはできるだけミチルが衝撃波を浴びないように守るので精一杯だった。
「エリオット、お前はそこでその少年を守りなさい」
「父上……」
オルレア王はベスティフォンに向かって一歩前に進んだ後、振り返って笑った。
「大切な、存在なのだろう?」
「──! ああ!」
エリオットも力強く笑って頷く。ミチルは父子のやり取りを見てとても安心した。
「ウツギよ、私の声が聞こえるか?」
ケケケエエッ!
オルレア王の問いかけに、ベスティフォンは嘲笑うようにその嘴で鳴いた。
「ふむ。どうやらもうウツギの自我はないようだ」
のんびりと頷いているオルレア王の背中を見ながら、ミチルはある事に気づいて青ざめた。
「ねえ、エリオット! 王様、丸腰じゃん! どうすんの、どう戦うの?」
慌てるミチルにエリオットは落ち着き払って言う。
「ミチルはカエルレウムにもいたんだろ? ならあそこの騎士が持つ魔剣じゃないとベスティアは斬れねえってのは知ってるよな?」
「つ、つまり……?」
「アルブスにはベスティアに通用する武器なんかねえよ。だから丸腰でも結果は同じ」
「いやいやいや! だからってダメでしょ! 素手じゃあ、余計勝てないでしょ!」
「それはどうかなー?」
エリオットはニヤニヤ笑って父王がその低い魅惑のボイスで何かを呟いているのを見る。
「我請おう、偉大なる始祖の御力をここに……」
するとオルレア王の足元に赤く光る文字が円を模って現れた。
「ま、魔法陣!?」
ミチルが声を上げると、エリオットは満足そうに笑う。
「へえ、ミチルはそんなのも知ってんのか。チキュウっていうトコは案外ココと似てるのかもしんねえな」
エリオットは感心した様子でミチルに言った後、視線で父王を見るように促した。
「熱砂の大地、降り立つ御身の加護を与えよ……」
詠唱を続けるオルレア王の周りに熱風が吹き、陽炎が立ち込める。
「今の所、ベスティアに通用するのはカエルレウムの魔剣だけだ。けどな、その剣に込められた魔法はもともとアルブスのもの」
「それじゃあ……」
ミチルが期待を込めて見ると、エリオットは少し自慢げに笑う。
「アルブスはカエルラ=プルーマ最大の魔法王国。その頂点に立つ王の魔法が、ベスティアに効かない訳ねえだろ?」
見ろ、と言わんばかりに指したエリオットの向こう、オルレア王がついに詠唱を終えようとしていた。
「火竜の息吹!!」
とてつもないエネルギーの火の玉が王の掌から繰り出された。
「キケェエエエッ!!」
ベスティフォンはあっという間に炎にその体を包まれて、断末魔の叫びを上げる。一瞬だけさらに炎が勢いを増した。その衝撃で、黒い影は忽ちに霧散する。
「すごー! 王様、すごー!!」
ミチルはすっかり興奮していた。ゲームでもないし、アニメでもない。ましてやCGなどでもない。本物の魔法を初めて目にした。地球にいたら絶対にできない経験、それを今自分がしていることにミチルは高揚する気分を抑えられない。
「まあな! 父上にかかればあんなもんは造作もねえよ!」
ミチルの反応に嬉しそうにしているエリオット。なんでお前がそんなに自慢げなんだ?と突っ込みたくもなったが、憎んでいたはずの親を褒められて喜ぶ様が微笑ましくてミチルはそれが嬉しかった。
「……気を抜くな、エリオット」
「え?」
「恐らく、まだだ……」
オルレア王はまだ緊張を解いてはいなかった。じっと眼前の状況を見つめている。
火球の魔法により砕かれた黒い影は、完全に消えてはいなかった。
微かに漂う黒い霧。
それが次第に濃くなっていく。
少しずつ、再び獣の形を取り戻していった。
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