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Interlude01 ぽんこつナイトVSホストアサシン

3 ぽんこつナイト再び

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 ミチルが目を開けると、超イケメンのどアップがあった。
 彼は目をぎゅっと閉じてミチルを守るように抱き締めている。

 わーお、なんていい匂い。ってそうじゃない!

「アニー、アニー!」

 ミチルはアニーの腕をポンポンと叩いて呼びかける。
 それでアニーはやっと目を開けた。

「ん……んん?」

「アニー、だいじょぶ?」

 アニーは突然意識をはっきりさせてから、クワッと目を見開いた。

「ミチルこそ! 平気? 何ともないかい?」

「う、うん……多分、だいじょぶ……」

 だがアニーはミチルを離すことはせず、その腕に収めたまま辺りを見回した。

「ここは……どこの森だ?」

 ミチルには周りの景色はよくわからなかった。目の前にはアニーの胸しかない。
 だが、陽の光を感じる。おかしい。真夜中だったはずなのに。

「朝……? 何故……?」

 アニーは用心深く周りを見回していた。そしてこう結論づける。

「知らない森だ」

「あの、アニー……」

「うん?」

「オレ、くしゃみ、したんだよね……」

 そうして二人はやっと思い出した。
 ミチルが突然鳥の羽根の大群に囲まれたこと。
 はずみでくしゃみをしたこと。
 必死で、お互いにしがみついたこと。

「オレ、また転移しちゃったんだ……」

 しかも今度は。

「アニーも、一緒、に……?」

 ミチルはようやく顔を上げてアニーの顔を見た。
 輝くようなイケメンは、てへっと笑って答える。

「……きちゃった♡」

「ええええっ!?」

 ミチルの大声でアニーは顔を顰めながら笑っていた。



「何ここ、もう……どこ、ここぉ?」

 ミチルとアニーは当てどなく森を歩いていた。
 もう30分は歩いたのに、一向に変わらない景色にミチルはうんざりだった。

「ミチル、少し休もうか」

「うん……」

 そうして二人は大きな木の下に腰かける。
 しばらくするとそよそよと涼しい風が木陰から吹いてきた。

「ごめん、アニー。オレのせいで変な所に連れてきて……」

 ミチルは心底情けなくなった。
 くしゃみが出そうな時点でヤバいと思ってしまった。
 
 一人でまた知らない所に飛ばされたくない。助けて。
 そんなことを願ってしまった。アニーの都合など構わずに。

 ルブルムから遠く離れた大陸だったらどうしよう。
 いや、もし、今度こそ別の異世界だったら?
 アニーまで連れてきてしまって、そんな責任の重さにミチルは半べそをかく。

 だが、アニーはケロッとしていた。

「俺は、これで良かったと思ってるよ」

「ええ!? ウソ!」

 信じられないミチルがその顔を見ると、アニーはこの上なく優しく笑っていた。
 それからミチルの頬に手を伸ばす。

「あのままミチルを一人で行かせたら俺は後悔で死ぬところだった。もう君がいない世界は考えられない」

「へ……」

 ほっぺを撫で撫でされながらミチルは固まった。
 何それ、何の口説き文句? え、マジ? 口説かれてんの!?

 やだあ! またうまいこと言ってえ! そんなに気を使わなくていいのにぃ!

 ……と軽口が言えたら良かったのに。
 なのに、アニーの瞳が熱っぽくてミチルは何も言えなかった。

「あー、でもひとつだけ残念だなあ」

「何?」

 アニーはミチルの戸惑いを感じ取ったのか、頬から手を離して明るい声で呟いた。

「いつの間にか朝になっちゃってるじゃん……今夜キめられると思ったんだけどなあ」

「ナニが?」

「まあ、チャンスはいくらでもあるよねえ。これからもずーっと一緒なんだから!」

「だからナニがあああぁ!」

 ミチルは昂った感情を大声で発散し、アニーはそれを笑って躱した。
 イケメンは自信と余裕があるので長期戦を選んだのだ。



 ミチルがいつものようにギャーギャー騒いでいると、森の木々もそれにつられてザワザワと揺れた。
 キャーキャーと猿が遠くで鳴くような声が聞こえる。ぼんぼろぼーんと何かが鳴く声も。

「──!」

 急にアニーは顔に緊張を走らせ、立ち膝で警戒する。
 その雰囲気はミチルにもすぐに伝わった。

「な、何?」

「ミチル、静かに。俺から離れないで」

 アニーはミチルを背に匿う。
 しばしの静寂の後、すぐ側の茂みから黒い獣がゆっくりと姿を現した。

「ベスティア!?」

 それは小さいけれど獰猛な牙を剥いた狐型のベスティアだった。

「マジかよ……本当に昼間でも黒いんだな……」

 アニーは緊張を孕んだ声でベスティアと対峙する。腰に装備しているナイフに手をかけた。
 狐ベスティアはアニーに狙いを定めてにじり寄ってくる。

 アニーは威嚇の意をこめて、大振りな動作でナイフを構えた。
 青い刃がキラリと光って、狐ベスティアは一瞬怯んだ。

「──今だ!」

 アニーは一歩踏み出して、ナイフをベスティアの喉元に突き刺そうとした。

 だが。

 

 ザンッ!!

 

「!」

 狐ベスティアはアニーの攻撃を受けるよりも先に、大きな斬撃を受けて霧散した。

「なっ……」

 それは、圧倒的で、無慈悲な大きな力だった。
 アニーの小手先など埃を払うようなもの。絶大な一撃だった。

「……怪我はないか?」

 そうして茂みの中から大きな人影が現れる。
 黒髪短髪。涼しげな目元の超イケメン。

「ジェイ!?」

 ミチルの声が森に響く。
 ぽんこつナイトがそこに立っていた。
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