枷を取り外し、整った暮らしを

さちな

文字の大きさ
上 下
24 / 47

静かな時間

しおりを挟む
「この子、俺の子だった」
「へ?!」
「ど、どういう事かニャ?!」

 ルイをお姫様抱っこして世界樹の中から出てきたアズの第一声に、エカとナムロ王様が困惑する。
 それから、アズとルイが知った事を聞いて、アズの発言の意味を理解した。


 実の子……正しくはその生まれ変わりと知ってから、アズのルイに対する溺愛っぷりは凄かった。
 お城で暮らすルイに差し入れを持ってきたり、ルイがねだらなくてもお姫様抱っこしたり頬や額にキスしたり。

「学校の授業で必要な素材があれば獲ってきてあげるからね」
「は、はい……」

 我が子の授業に使う素材の提供も惜しまないアズは、竜でも余裕でソロ狩り出来る特S級冒険者。
 一方でアズに惚れかけていたルイは、前世のお父さんだと知ってしまい困惑気味だ。


「お母さんと話をしに行こう」

 学園が長期休暇に入ると、アズはルイを誘ってアサギリ島に向かった。
 世界樹の中で保管されている亡骸ではなく、この世に残されたルルの霊に会わせてあげるらしい。
 アズが見せたいものがあるらしくて、エカとボクも同行したよ。
 エカとボクにとっては、魔王討伐隊として行って以来のアサギリ島訪問だ。


 アサケ大陸北東の海上に浮かぶ、アサギリ島。
 草も生えない不毛の地で、かつては魔族と魔物がいる危険な場所だったけど、アズとルルが住むようになってから雰囲気が変わったと聞いていた。

「どう? ちょっと風景良くなっただろ?」
「ちょっとっていうレベルじゃない気がするよ」

 エカがツッコミを入れる通り。
 岩と土しか無かった大地が、一面の花畑に変わっていた。

「……綺麗~……コスモス畑みたいだ……」

 元の世界にある花畑を連想したのか、ルイが呟いた。
 咲き乱れる花々は種類も色も様々で、単色の花畑よりも華やかに見える。

「世界のあちこちから集めて植えたんだよ」

 ベノワの背中の上から花畑を見下ろして、穏やかな声でアズが言う。

「最初はルルが花を育てようって言って、2人で行った場所から花を少しずつ持ち帰って植え続けたんだ。今はそれが自然に広がって咲いてるよ」

 花々に慈しむような眼差しを向けた後、アズは花畑の中心にある小屋の隣に立つ、1本の木の近くにベノワを着陸させた。

「ルル、ただいま」

 アズが声をかけると、瑞々しい緑の葉を茂らせる木の枝の間から、幻のように実体のない女性が現れた。
 世界樹の中で眠る女性と同じ青いワンピース、長い黒髪と同じ色の犬耳とシッポ、開かれた黒い瞳は艷やかな宝石のように澄んでいる。

『おかえり、アズ。久しぶり、エカ』

 念話が優しい波長で心に流れてくる。
 精霊のように神秘的な雰囲気を漂わせて微笑むルルは、アズの隣にいるルイを見てハッとした。

『アズ、その黒髪の子は……?』
「ルルが異世界へ送った子だよ」

 アズがルイの両肩に手を置き、微笑んで伝える。

『……よかった。生まれてきてくれて凄く嬉しい……』

 その時浮かんだルルの微笑みは、切ないくらいに綺麗だった。

「……」

 言葉の代わりに、ルイの瞳から涙が流れ始める。
 何故泣いているのか、本人も分からない様子だった。
 次々に頬を伝う涙が、地面に落ちて吸い込まれてゆく。

『日本のお父さんとお母さんは、どんな名前を付けてくれたの?』
「……る……【琉生ルイ】……です……」

 問いかけられて、ルイは嗚咽しながらやっとの思いで答えた。

『素敵な名前、これからはルイって呼ぶね』

 ルルがまた微笑む。

『……おかえり、ルイ……』

 その【声】に呼応するように、周囲の花々から無数の花びらが舞った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

リアル男子高校生の日常

しゅんきち
エッセイ・ノンフィクション
2024年高校に入学するしゅんの毎日の高校生活をのぞいてみるやつ。 ほぼ日記です!短いのもあればたまに長いのもだしてます。 2024年7月現在、軽いうつ状態です。 2024年4月8日からスタートします! 2027年3月31日完結予定です! たまに、話の最後に写真を載せます。 挿入写真が400枚までですので、400枚を過ぎると、古い投稿の挿入写真から削除します。[話自体は消えません]

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

処理中です...