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第一部 信長様の大陸侵攻なり
18、バトル・フィールド
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「来たぁぁぁぁ、来たなりぃぃぃぃぃ。」
戸部典子が叫んでいる。
メイン・モニターには大地を駆ける清の軍団が映し出されている。ドローンによる空撮である。
凄まじいスピードである。ものすごい数の騎兵が一糸乱れることなく馬を走らせている。二万、いや三万はいるだろうか。これが清の精鋭騎馬部隊・満州八旗である。八つの騎馬部隊は八色の旗に分けられている。黄・白・紅・藍の四旗、黄・白・紅・藍に縁取りを付けた四旗、合わせの八つの旗が馬上にはためいている。
満州八旗は砂塵をたてながら南下している。
ヌルハチの作戦はこうだ。
南から来る島津軍、西から来る長曾我部軍、この二つの軍が合流する前に各個撃破するのである。
だからこのスピードで進軍しているのか。
ヌルハチはまず長曾我部軍に向かった。
「満州騎兵と長曾我部軍、兵の勇猛さでは互角。でも騎兵のスピードではとても敵わないなり。でもこっちには鉄砲があるのだー。」
戸部典子が採点表みたいなのをつけている。
そう、清はほとんど鉄砲を持っていない。そこが勝ち目だ。あのスピードにさえ目が慣れてしまえば、勝機は十分にある。
だが、ヌルハチは鉄砲の弱点をよく理解していた。長曾我部軍に対して夜襲を敢行したのだ。夜では鉄砲は狙いを定めることができない。それに清軍は全力をもって長曾我部軍に攻め込んだのだ。全力をもって、分散した兵力を叩く。各個撃破の基本だ。
「あぶなーい、敵は大軍なりー。」
戸部典子が悲鳴をあげた。
騎馬民族は夜目がきく。漆黒の闇の中でも確実に敵を仕留めていく。
長曾我部元親は松明を焚かせた。松明の火で浮かび上がった満州騎兵に向けて鉄砲が発射された。
しかし、この時には既に長曾我部軍は包囲されていた。
長曾我部元親は退却を命じた。この暗闇で完璧に包囲することなどできない。
元親は包囲網に穴があるのを見つけた。ここから兵を逃がすのだ。
元親は、家臣たちの制止を振り切り、自らが殿となって敵を防いだ。
「ダメなり。長曾我部君、死んじゃダメなりぃ。」
長曾我部軍はその最後の死力を振り絞って脱出のために戦いに戦った。元親の死を賭した奮戦により兵の半数が逃げ延びた。
「長曾我部元親殿、討ち死にでござりまするなり。」
戸部典子がしょんぼりしている。
長曾我部元親、討ち死にの知らせを受けた島津義弘は夜襲を警戒した。野営地に赤々とかがり火を焚いたのだ。ただし多勢に無勢である。援軍との合流を優先すべきだとの判断から島津軍は後退を始めた。島津義弘の任務は山海関の救援である。山海関が陥落してしまった以上、退却し、作戦を練り直すべきだ。
島津軍が退却を開始した未明、ヌルハチが島津軍を捉えた。満州騎兵が島津軍に襲いかかる。日が昇るとともに、鉄砲で応戦する島津軍。何度も言う、ヌルハチは鉄砲の弱点を知り抜いている。弾込めに時間がかかるということも。鉄砲の一斉掃射の後、神速の騎馬軍団が襲いかかる。島津軍は瞬く間に包囲された。
「このままででは、長曾我部君の二の舞なりー。」
戸部典子の声には悲壮感がこもっていた。
しかし、包囲の中で島津義弘は体制を整えつつあった。島津軍が縦に集結して、包囲網の強行突破を敢行したのである。島津軍そのものが一本の槍となり、清軍の囲みを切り裂いていく。島津軍は死中に活路を開き囲みを破った。膨大な数の満州騎兵が切り崩された。
「やったなりぃ!島津兵の強さ、見たかヌルハチぃー。」
島津義弘は逃げに逃げた。逃走する島津軍を満州騎兵が追う。スピードではとても敵わない。
「追いつかれるー、もっと早く逃げるなりぃー。」
その時だった、伊達政宗の援軍が駆け付けたのだ。政宗は伊達軍を最小限の編成とし、行軍スピードを優先させていたのである。ここまで駆けに駆けて来たのだ。
「政宗君、ナイスなのだー!」
伊達の鉄砲隊が小高い丘の上から火を噴いた。満州騎兵がばたばたと倒れる隙に、島津軍は伊達軍と合流し退却した。
伊達政宗はよほど悔しかったのだろう。清の軍団を見るなり負けを悟ったからだ。政宗はナイキの兜を地面に叩きつけて泣いた。
戸部典子が肩を落としている。
「戦国武将は、弱っちいなりか?」
こいつには珍しく言葉に力がない。
集団戦法を取る満州騎兵に対し、戦国武将たちの基本は一騎駆けである。ここに勝敗を決する要因がある。信長が危惧していたのはこのことなのだ。
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戸部典子が叫んでいる。
メイン・モニターには大地を駆ける清の軍団が映し出されている。ドローンによる空撮である。
凄まじいスピードである。ものすごい数の騎兵が一糸乱れることなく馬を走らせている。二万、いや三万はいるだろうか。これが清の精鋭騎馬部隊・満州八旗である。八つの騎馬部隊は八色の旗に分けられている。黄・白・紅・藍の四旗、黄・白・紅・藍に縁取りを付けた四旗、合わせの八つの旗が馬上にはためいている。
満州八旗は砂塵をたてながら南下している。
ヌルハチの作戦はこうだ。
南から来る島津軍、西から来る長曾我部軍、この二つの軍が合流する前に各個撃破するのである。
だからこのスピードで進軍しているのか。
ヌルハチはまず長曾我部軍に向かった。
「満州騎兵と長曾我部軍、兵の勇猛さでは互角。でも騎兵のスピードではとても敵わないなり。でもこっちには鉄砲があるのだー。」
戸部典子が採点表みたいなのをつけている。
そう、清はほとんど鉄砲を持っていない。そこが勝ち目だ。あのスピードにさえ目が慣れてしまえば、勝機は十分にある。
だが、ヌルハチは鉄砲の弱点をよく理解していた。長曾我部軍に対して夜襲を敢行したのだ。夜では鉄砲は狙いを定めることができない。それに清軍は全力をもって長曾我部軍に攻め込んだのだ。全力をもって、分散した兵力を叩く。各個撃破の基本だ。
「あぶなーい、敵は大軍なりー。」
戸部典子が悲鳴をあげた。
騎馬民族は夜目がきく。漆黒の闇の中でも確実に敵を仕留めていく。
長曾我部元親は松明を焚かせた。松明の火で浮かび上がった満州騎兵に向けて鉄砲が発射された。
しかし、この時には既に長曾我部軍は包囲されていた。
長曾我部元親は退却を命じた。この暗闇で完璧に包囲することなどできない。
元親は包囲網に穴があるのを見つけた。ここから兵を逃がすのだ。
元親は、家臣たちの制止を振り切り、自らが殿となって敵を防いだ。
「ダメなり。長曾我部君、死んじゃダメなりぃ。」
長曾我部軍はその最後の死力を振り絞って脱出のために戦いに戦った。元親の死を賭した奮戦により兵の半数が逃げ延びた。
「長曾我部元親殿、討ち死にでござりまするなり。」
戸部典子がしょんぼりしている。
長曾我部元親、討ち死にの知らせを受けた島津義弘は夜襲を警戒した。野営地に赤々とかがり火を焚いたのだ。ただし多勢に無勢である。援軍との合流を優先すべきだとの判断から島津軍は後退を始めた。島津義弘の任務は山海関の救援である。山海関が陥落してしまった以上、退却し、作戦を練り直すべきだ。
島津軍が退却を開始した未明、ヌルハチが島津軍を捉えた。満州騎兵が島津軍に襲いかかる。日が昇るとともに、鉄砲で応戦する島津軍。何度も言う、ヌルハチは鉄砲の弱点を知り抜いている。弾込めに時間がかかるということも。鉄砲の一斉掃射の後、神速の騎馬軍団が襲いかかる。島津軍は瞬く間に包囲された。
「このままででは、長曾我部君の二の舞なりー。」
戸部典子の声には悲壮感がこもっていた。
しかし、包囲の中で島津義弘は体制を整えつつあった。島津軍が縦に集結して、包囲網の強行突破を敢行したのである。島津軍そのものが一本の槍となり、清軍の囲みを切り裂いていく。島津軍は死中に活路を開き囲みを破った。膨大な数の満州騎兵が切り崩された。
「やったなりぃ!島津兵の強さ、見たかヌルハチぃー。」
島津義弘は逃げに逃げた。逃走する島津軍を満州騎兵が追う。スピードではとても敵わない。
「追いつかれるー、もっと早く逃げるなりぃー。」
その時だった、伊達政宗の援軍が駆け付けたのだ。政宗は伊達軍を最小限の編成とし、行軍スピードを優先させていたのである。ここまで駆けに駆けて来たのだ。
「政宗君、ナイスなのだー!」
伊達の鉄砲隊が小高い丘の上から火を噴いた。満州騎兵がばたばたと倒れる隙に、島津軍は伊達軍と合流し退却した。
伊達政宗はよほど悔しかったのだろう。清の軍団を見るなり負けを悟ったからだ。政宗はナイキの兜を地面に叩きつけて泣いた。
戸部典子が肩を落としている。
「戦国武将は、弱っちいなりか?」
こいつには珍しく言葉に力がない。
集団戦法を取る満州騎兵に対し、戦国武将たちの基本は一騎駆けである。ここに勝敗を決する要因がある。信長が危惧していたのはこのことなのだ。
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