ダイスの神様の言うとおり!

gagaga

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第二章 大森林

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「カー!! こりゃ一体、どうなってんでぇ!!」
「俺に聞かれても知らぬ!」

 全身全霊、全力全開。
 俺は今、深い森の中をひた走っている。

 いや、違う。
 俺たちは、だ。

 俺の隣には一見して美少女がいる。
 大きめの瞳に赤茶色のショートヘアー、身長は百四十センチくらいの美少女風。ピンと横に伸びた耳が時折ピコピコと動いて可愛らしい、が……

「オイラ、走んのは苦手なんでぇ!! ぶへぇ、ぶへぇ!!」
「しゃべると舌を噛むぞ!」
「てやんでぇ! バァロォ! ぶへぇ!! 叫ばなきゃやってられねぇ!!」

 話す口調はなぜか江戸っ子言葉。この世界に江戸なんてないはずなのだが……。
 そして「ぶへぇ! ぶへぇ!!」と不細工な呼吸音。声は可憐なのに酷くオッサンくさいが、事実としてこの美少女風はオッサンだ。

「お、オイラはエルフ! だから森の中なんて余裕じゃボケェ!!」
「だから舌を噛むぞ!」
「てやんで グッ!」

 ……、やりおった。舌を噛んだぞこのオッサン。

「い、イデェ……」

 涙目になるその姿はかわいいのだが、いかんせんその正体は中身も肉体も完全にオッサンなので、俺は冷たい目線を向けてしまう。
 しかしさすがオッサン。俺の視線になぞまるで怯まず、逆に尊大な態度で近くの木に寄りかかる。

「んだってよぉ! 仕方ねーだろ! あー、イテェ!」

 しかも逆切れして木に八つ当たりまでし始めた。
 ドン、ドンと、そのか細い腕からは想像もつかないほどの衝撃音を発しながら寄りかかった木を殴る。
 可憐な見た目とは裏腹な粗忽すぎる行動。そしてその短気過ぎるとんでもない仕打ちに木が泣いている錯覚すら見える。

「分かった、治してやる。だからいいから、落ち着け。そして、早く逃げるぞ」
「イテェんだよ!! って、なんだおおおお!?」
「……、は?」

 ドンガドンガやり過ぎたのだろうか。オッサンの叩いていた木の根元が突然割れて、その割れ目にオッサンは吸い込まれた。
 急展開に次ぐ急展開の末のこの結末に、俺は目が点になった。

「……、ハ!? いやいや、待て待て! ムラマサ、無事か!?」

 木に出来た穴を覗き込み、オッサンことムラマサ氏に声をかける。中は真っ暗だ。

「よく見えんな! 『ライト』!!」

 こういう時、魔法は便利だ。
 俺の意志に従い光玉は移動を開始する。
 スルスルと斜め下へと向かっていき、その様相を俺に伝えてくれる。

「これは、滑り台?」

 思ったよりも長く深い穴を見て分かったのは、これが人工物だと言う事だ。そして耳をすませば聞こえてくる「てやんでぇ! なんだこりゃぁ!」の声。ムラマサはどうやら無事の様子。
 と、ここでドガドガカサカサと大きな音が後方から迫っていることに気付いた。

「まずいな、このままではヤツに追い付かれてしまう」

 どうする?
 いや、そうだな。

「ここは、飛び込むべきだろう! 南無三!!」

 俺は光玉を追いかけるように穴へと体を滑り込ませる。
 するとどうだろうか。
 その滑り台は思ったよりも緩い傾斜で、それこそ孫と一緒に体験したウォータースライダーのような遅さで下方へと滑り落ちていく。しかも途中に速度軽減の平坦な場所もあり、これはいよいよもって人為的な何か、それも罠などではなく普通に人が移動する為の建造物なのだと分かった。

「だが、こんなものを作ったのは、一体誰だ?」

 わざわざ木に偽装させた入り口。
 階段ではなく、滑り台。まるで緊急用の脱出口のように見えるが、これは逆に地下へと閉じ込められるかのようなルートだ。避難経路先が袋のネズミでは、意味がアベコベだろう。

「さて、この先には一体何があるのだろうか」

 周囲がまっ暗闇なので時間間隔が鈍くなっているが、滑っていた時間は数秒だろう。一度左へ大きくカーブした以外は特に何事もなく、俺は終点に到着した。

「ぐぇェェェ!」

 おっと、先に到着していたオッサンと衝突してしまった。
 幸いにも勢いはほとんどなく、軽く当たっただけなのだが、俺のマッスルウェイトに耐えきれず小柄なオッサンは吹き飛び転がっていく。

「すまぬな。急には止まれなかったのだ。ァ~~」

 悪気はなかったので素直に謝り、ついで回復魔法を使用する。
 『音魔法』を使ったが、思ったよりも声が響かない。どうやらこの洞窟自体があまり音が反響しないような構造をしているようだ。
 そしてそれを、俺は知っている。

 光玉の数を十個に増やし、明るく照らす。
 洞窟内なのに、まるで昼間になったかのような明るさとなった所で状況確認を行う。

「ここは、やはり例の遺跡か」

 ダンジョン化した古代遺跡と同列の文明だろう。見たことある形状の建物が多く見られた。

「ほー、ここにも古代遺跡か。しかも、調査は手つかず、か」

 相変わらず、長い年月を放置されていたにも関わらずホコリがうっすらと積もる程度にしか汚れていない。前回の時に聞いたが、空調が生きているのだろう。古代文明、中々にすごい技術力だ。

「っててて。あー、酷い目にあったぜ!」
「色々とそうだな。だが、その結果がコレなら悪くないのではないか?」

 手つかずと言う事は、先ほど俺たちを追いかけてきた巨大な魔物もこの中には入ってきた事がないだろう。そうなると、一応は安全と言う事だ。
 それに加えて未到達の遺跡だから、これまたお国に報告をすれば金貨の山がまたゲットできる。

「極貧な俺には助かるな……、おや?」

 遺跡を物色、もとい調査をしていた所、曲がり角の向こうに灯りらしきものが見えた。そしてわずかに人影のようなものも視界の端に映った。

「ムラマサ、少しよいか?」
「なんでぇ!?」
「静かに。誰か、もしくは何かがいる」
「なっ!? おっと」

 叫びそうになり、慌てて両手で口を押えるオッサン。見た目だけであれば美少女で、その仕草も美少女なのだがなぁ。

 そのオッサンの長い耳がピコピコと揺れ、音をキャッチしようとしている。その邪魔をしないように、俺も可能な限り音を抑える。彼の耳は魔力も捉えるので、『生活魔法』で『消音』はしない。こういう時、魔法は便利なようで不便だ。

 そうそう。彼、ムラマサはドワーフだ。この世界のドワーフは男が美少女風、女は毛むくじゃらとちょっと俺の知る存在とは違う。ただし金属加工が好きな点は変わらない。
 だが、彼は自分をエルフと言った。その長い耳を見ればその通りだろう。子供のエルフと言えば、それなりに通用しそうな感じではある。
 しかし彼のご両親はドワーフだ。当然、耳は長くないそうだ。
 ではなぜ彼にエルフの耳が付いているのかと言えば、ただの隔世遺伝らしい。

 今から二千年とちょっと前。
 それまで、種族間でのハーフは生まれなかったそうだ。それが種族の垣根を超えた愛により誕生し、不可能を超えたと、世界中に広がった。そして種族間での垣根が取っ払われ、ワールドグローバルな感じに世界はなったと言う。

 愛の力。
 それはいい。
 だが本来ではあれば別物の異なる種族が交わり続けたその結果、世代を重ねるうちに彼のような存在が増えてきて、今やこれが社会問題となっている。

「あっちに五人いやがるな」

 五人、か。
 つまりは人。魔物の類ではないことに安堵しつつも、この古代遺跡にいる存在が何者なのかが分からず困惑する。

「彼らの目的はなんだろうか。話が通じるといいのだが……」

 盗賊の類であれば、殺し合うしかない。ここはそう言う世界だから。

 なぜ、こんな所に、と言う疑問はない。冒険者は結構金を持っている上に、魔物の領域で死んだら誰も探しにはこない。だから真っ当に生きられない連中、あるいは歪んでしまった連中は時折こうやって遺跡にこもっているそうだ。
 歪んだ連中。
 ダンジョンで大切な仲間を失った。ダンジョンコアに魅了された、操られた。色々あるが、とにかく人だったから安心できる訳ではない。

 だがしかし、俺の心配を余所に、ムラマサは平然とした態度だった。
 そして俺を安心させるように肩を叩いた。

「大丈夫だ。俺がなんとかしてやらぁ。食い物と水を人数分、俺を含めて六個くれ。それと光る玉を一つ俺に付けてくれ」

 そう言ってニカリと笑うので、俺は『収納棚』から弁当六個と水筒六個を取り出し、それを一緒に取り出した袋に詰めた。弁当とは、巨大な笹の葉のようなものに包まれたおにぎり弁当だ。アジンタの街で大量購入したもので、俺のお気に入りだが在庫がまだ百以上残っている。どうしてこんなに買ってしまったのかと後悔していたが、なるほどこういう時の為だったのかと己を正当化した。

「じゃ、行ってくる。オメーさんは後から来な!」

 そう言ってから、「おぉい!」と派手に声を挙げながらムラマサはその物陰に移動する。
 一応、俺は彼の護衛だからすぐさま動けるようにする。最悪は光玉を弾けさせて目つぶしをすれば、救助する時間は稼げるだろう。

 俺のそんな警戒を余所に、その物陰から困惑する気配がする。
 だがそれもつかの間。
 ムラマサを完全に視界に入れたであろうその者たちの空気が緩む。
 ふむ、一体何をしたのだろうか?



「おーい、こっち来いや!」

 見守る事数分。
 弁当を広げ、和気藹々としただんらんを遠目に見て疎外感たっぷりで少し落ち込んでいた俺にようやく声がかかった。
 そこで物陰まで移動して、やっと俺は彼らが何者であるかを知った。

「そうか……」

 五人、確かにそこには五人いた。最年少は、十歳くらいの少年。最年長は、今の俺とそう歳の変わらなさそうな青年。全員男で少し安心したが、なるほど。

 少年の一人は、顔の右側が普通の人、しかし左側は獣のように毛むくじゃらで、右耳は人だが左耳は側面についておらず、頭頂部に三角形のケモノ耳が付いていた。
 一人は口元が犬のように前面へと伸びており、鋭い牙が見えるが、顔の上半分はつぶらな瞳が見える普通の人。耳も側面に付いている。
 他の者たちも、まるで体を継いで接いだような外見をしていた。


 モザイク。


 丁度今考えていた社会現象の最たる例が、この場にいたのだった。
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