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第三章
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しおりを挟む予定より早くにホテルへと戻ったので時間が空いた。
それならばと取り出したのはボウルと卵、植物油、酢、レモン、塩である。
何を作るかといえば、マヨネーズだ。
「マヨネーズ? お店で売ってるよね?」
「そうだな。だが、ありゃ口にあわん」
マヨラーではないが、現代日本の洗練された味を思うとこの世界のマヨネーズの味はどうかと思ってしまう。
「獣脂を使っているから臭みが出ているんだよ」
この国では脂といえば獣脂。安価で手に入りやすいからであり、最初から「これがマヨネーズだ!」と言われれば、納得したのだろう。
だが、マヨネーズに獣くささは似合わない。それが俺の見解だ。
そんなわけで自作をする。
「マヨネーズ最大の難関は、ずばり混ぜるところだ」
「ご主人様、私めにお任せ下さい」
キャスは体力もあるし、最近料理もこり始めたらからやりたいのだろう。
「だが、断る!」
「そんなっ!?」
これは魔法の実験でもあるのだよ。
くっくっくっ。
「念のためにボウルにふたをして、ゆっくりと……、かくはん魔法!」
かくはん魔法。
それは
かくはんするための魔法!
「そのまんまだな。どれ、卵は……おお、きちんととき卵になっているな」
次に油を足して混ぜ、よく混ざったら酢、塩を入れ、最後にレモン汁で風味を整える。
「どうだ! ペロッ。……、まずい!!」
ウベッ。
なんだこりゃ!?
油が乳化していないから、まんま油と酢だ!
「ご主人様。手順が異なっています」
「そ、そうか。……、キャス、何か怒ってないか?」
「いいえ、別に」
だったらそっけない返事であからさまに怒ってるアピールをすんな。
仕方がない。
「キャス、手伝ってくれ」
「かしこまりました!!」
満面の笑みで応じたキャスが手際よく材料を用意する。そんなに主の失態がうれしかったのだろうか。心がやさぐれそうになる。
そんなささくれだった心は、料理をしていて吹っ飛んだ。
次はこれ、これがこうなるまでこう、と事細かに教えられ調理する。
ほうほう、それで?
なめらかな指導のお陰で、ストレスなくあっという間に完成した。
完成したマヨをスプーンの先に軽くつけて、味見をする。
「おお、俺の知るマヨネーズになってる」
そうか、マヨネーズは卵黄だけを使っているのか。
それに油以外の材料は最初に全部まぜてもいい。覚えたぞ。
「キャス、この知識は一体いつ、どこで学んだんだ?」
「マヨネーズの特許はマッケインがご主人様名義で取っておられたので、その際に」
マジかよ。
特許持ってる本人、作りかたを把握していなかったぞ。
「料理も特許も奥が深いな……」
料理は科学だと誰かが言っていた。
手順をふまえ、間違わぬように計量し、組み上げていく。
それを強く実感したな。
物作りと通じるものがあって楽しい。
……、物作りか。
これ、もしかすると上位属性なら作業工程を短縮できるのではないだろうか。
かくはん魔法は混ぜるだけだが、その過程をスッ飛ばせるのであれば、マヨ業界に革命が起きる、ような気がする。
できるとするなら、乳化か?
そんな属性、あるのか?
「乳化は、たしか本来混ざらないもの同士を混ぜる処置、だったな」
しかしイマイチピンとこない。概念と単語は頭にあるが、実際の物理現象として頭に入っていない。
そんなわけで、マヨネーズの構造解析。
ペルセウスくんに補助をさせ、ふんふん、ほうほうと呟くと、隣でシスもふんふん言っている。
共有データを見て、彼女なりに何かを発見しようとしているのだろう。キャスが若干冷たい目で見ているが、研究中の独り言くらいは見逃せ。
「なるほど。油と酢が混ざらない対の存在で、それを卵でコーティングしてその中間を維持させていたのか」
てっきり油と卵を混ぜるのに酢が使われているのかと思ってた。
つまり、これはコーティング?
「ふむふむ……、ほうほう」
「旦那様がマッドモードになっちゃったよー」
お前もさっきまでふんふん言ってただろ!
「別に狂っている訳ではないと思いますが……、集中なさっておられますし、私たちは別の作業をしましょう」
「別の作業?」
「余った卵白と、このマヨネーズを使ったお料理です」
「わーい! やったー!」
クッキングしている姉妹の隣で、俺はああでもない、こうでもないとマヨ実験を続ける。
途中、食材をダメにしかけたものの、キャスのフォローで事なきを得る。
結果は、晩飯の品目が増えただけだった。
新たな上位属性の発見には至らなかったが、それでも新たな魔法の開発に成功した。
「メッキ魔法は今まであったけど、コーティング魔法は初めてだな、クックックッ」
これで今度から、チョココーティングの料理も作れるぞ!
はーーーっはっはっはっは!!
……、何やってんだ、俺!?
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