騎士不適合の魔法譚

gagaga

文字の大きさ
上 下
75 / 111
第二章

38

しおりを挟む

「ところで、二人に渡した魔道具って、どんな効能があるのー?」

 そう言えば姉妹に渡す前にボツにしたから知らないんだったな。
 シスの疑問に身振り手振りを交えつつ答える。

「剣盾の試製ウルサ・マヨルくんは、普段は鞘と剣だが、剣を抜くと鞘が展開し盾状に変化。ま、それだけだ」

 あとは剣に切れ味を増す効能、盾には衝撃を空気中に逃がす効能があるが、どれもおまけ程度。
 盾もスモールシールドに分類される小さなものだ。

「剣杖の試製ウルサ・ミノルくんは、機構的ギミックはないが、剣そのものが杖と同等クラスの魔力伝達率をほこる」

 魔力は生物的、有機的に死んだ存在の方が通りやすい。
 それをくつがえすのが、俺のウルサ・ミノルくんだ。
 とは言え、一般的な杖とそう変わりはしない。頑丈でよく切れる杖ていどの認識が正しいだろう。

「それだけの装備であのティラントの森を攻略できるのでしょうか?」
「攻略と言っても、群れのボスであるティラント系を一匹狩るだけだからな。少なくともお前たちであれば一人でも余裕だ」
「そうなの?」
「あそこに闇属性の魔物はいない。隠遁で暗殺できるぞ」

 そこが闇属性持ちの利点だ。ソロで行動するなら下位の狩場では無敵と言ってもいい。

 おっと、それで思い出した。

「今のうちに二人のパワーアップを行う」
「私たちのですか?」
「やったー!」

 そもそも、だ。
 あいつらの世話をしていることがイレギュラーなのだ。
 本当なら家に帰ってきた直後からやっておきたかったことだ。

「まず『サモンボール』の更新だ」

 二人から返却されたそれを分解し、再び『サモンボール』を呼び出す。
 それを二人に渡したが、顔をしかめられた。

「これは今までと随分と違いますね」
「なんだかピリピリするよー?」

 気付いたか。
 いや、そのレベルになったから次の段階へと進んだのだよ。
 フッフッフッ。

「それは『トライボール』、三属性だ。だが、今回のは火、土、水の属性を宿している」
「私たちが持っていない属性の『サモンボール』ですか?」
「それって意味ないよね? たしか『サモンボール』って、持ってる属性分しか強化しなかったような?」

 普通はそうだ。
 だが、属性相性は一定以上になると、反対属性の概念が生まれる。

 つまりは、なんだ? 苦手属性と言うべきか?

「特定の属性が強くなると、その反対にある属性と相性が極端に悪くなる。今だと二人は風が強いから、反対の土とは相性がすこぶる悪い」

 そうはいっても、精々が一割から二割悪くなるていどの差でしかないのだが、元が大きければそれだけ反発力も増える。

「そっかー。ならわたしたちは土属性の魔法に注意しなきゃいけないんだねー」
「ヘタをすると、熟練魔法使いの土魔法一撃で殺されてしまうかもしれないのですね」
「ああ、そうだ」

 その辺はすでにペルセウスくんの自動防御で克服済みだが、それでも警戒するに越したことはない。

「それは今は置いておく。属性にはもう一段階あるんだ。それを呼び起こすには反対属性を使うが一番手っ取り早いんだよ」

 上位属性。
 塵、雲、霧、雷と言った複合属性。
 基本の六属性よりもはるかに多いこれらは、自然界にあふれている自然現象そのものだ。
 そしてそれは、後天的に習得可能な属性でもある。

「光の三原色が赤青緑であっても、ならその中間に色はないのか? そう思ったのがきっかけだ」

 基本はあくまで基本。
 それらが入り混じったものは、特殊な方法で分解しない限りはそれそのものだ。
 緑と青が融合して水色になるように、また、より緑が濃い、青が濃いといった差で色が区分けされているように

 属性にもそんなものがあるんじゃないか。

「そう思って検証したら、分かったんだよ。上位属性ってヤツが」

 今まで謎だと言われていた上位属性だが、なんてことはなかった。
 現存する物理法則にしたがい、それらしい検証をしたらあっさり判明。

「ただし、誰がどの上位属性を扱えるようになるかは分からん。しかし火と土、そして水を扱うドワーフの多くは溶の属性を持つと聞いたことがある。これは のじゃ にも確認済みだ」

 そこから察するに、扱い、接している属性が多ければ多いほど、上位属性を習得しやすくなる。
 姉妹はすでに風と闇の属性相性がマックスなのだから、他の属性と接していれば上位属性を覚えるだろう。

 ただし、ここまではあくまで俺の理論だ。
 俺自身で試したが、素質がカンストしているので全く参考にならない。こういう時、俺の身は不便だ。
 姉妹がいて助かった。

「さぁ、実験開始だ。クククッ」





「天狐姉妹は放っておいてもいいとして」
「よくないです」
「最近構ってもらえてないから不満ー」

 ……。

「放っておいて、連中はどうだ?」

 警備ゴーレムを介して彼らの様子を見る。

「乗合馬車に乗って最寄りの駐屯地まで移動か」

 ティラントの森は魔物の森だから、常に入り口には兵士が立っている。
 その彼らの為に駐屯地が作られ、利聡い商人が立ち寄り、今はそれなりの規模の村となっている。

「ある意味では、この迷宮都市と同じようなものだな」
「魔物の素材が取れるから商人がいて、間引きに騎士たちでは手が足らないから冒険者を引き込んでいる所もそっくりですね」
「あそこもここの領主の土地だからな。方針が似通るのは当然だ」

 しかしハーマイン伯爵は冒険者の扱いと言うものをよく分かっているな。
 普通、冒険者と言えば粗野で乱暴だから貴族受けは悪いだろうに。

「それだけ魔物に悩まされてるってことだねー」

 シスの言う通りなのだろう。
 あとは、騎士は職業軍人なので金がやたらとかかる。

「あ、何やら揉め事が起こったようですよ?」
「伯爵家ご令嬢が目を付けられたのか」
「うん。でもすぐに解決したみたい。一にらみで撃退って、中々すごいねー」
「まるでご主人様の眼光を劣化させたような、鋭い眼差しでした」

 ……、それ褒めてんのか?

 ま、気にしても仕方がない。ボチボチと様子を見ながら観察日記でもつけるか。



 十五日目。
 二人が出発した。
 荒くれものと揉めそうになったが眼力で撃退した。
 その日は移動でつぶれたのでそれ以上のイベントはなかった。

 十六日目。
 駐屯地から二人が出発した。
 何度も騎士に呼び止められていたが、それ以外のアクシデントはなし。
 雑魚魔物と数回の交戦。全撃破。
 収納ポーチに入れていた、騎士団に配備されているのと同じレーションをまずそうに食っていたが、文句は出なかった。

 十七日目。
 雑魚魔物の群れと遭遇。ただし数が異様に多い。
 二人は、なんと敵わないと察知して逃走。
 悪くない判断だ。
 その日はそれ以上特筆すべき点はない。

 十八日目。
 目当ての群れを発見したようだ。
 サル系魔物の群れ。
 賢く、素早く、群れの結束力も固い。
 二人には荷が重そうだが、どうやら狩るつもりらしい。
 今日の所はチャンスがなかったようだ。

 十九日目。
 二人に焦りが生じてきた。
 このままでは無謀な突撃を行うだろうか。いいぞ、やれ。
 しかし俺の願いもむなしく、二人は慎重に行動していた。
 罠を仕掛け、確実に相手の群れを弱らせていく。

 入れ知恵したの、誰だよ!?
 俺じゃねーぞ!?
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜

HY
ファンタジー
主人公は伯爵子息[レインズ・ウィンパルト]。 国内外で容姿端麗、文武両道と評判の好青年。 戦場での活躍、領地経営の手腕、その功績と容姿で伯爵位ながら王女と婚約し、未来を約束されていた。 しかし、そんな伯爵家を快く思わない政敵に陥れられる。 政敵の謀った事故で、両親は意識不明の重体、彼自身は片腕と片目を失う大ケガを負ってしまう。 その傷が元で王女とは婚約破棄、しかも魔族が統治する森林『大魔森林』と接する辺境の地への転封を命じられる。 自身の境遇に絶望するレインズ。 だが、ある事件をきっかけに再起を図り、世界を旅しながら、領地経営にも精を出すレインズ。 その旅の途中、他国の王女やエルフの王女達もレインズに興味を持ち出し…。 魔族や他部族の力と、自分の魔力で辺境領地を豊かにしていくレインズ。 そしてついに、レインズは王国へ宣戦布告、王都へ攻め登る! 転封伯爵子息の国盗り物語、ここに開幕っ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...