騎士不適合の魔法譚

gagaga

文字の大きさ
上 下
19 / 111
第一章

18

しおりを挟む
 翌日。
 早朝に俺は買い出しをするために、朝市へ来ていた。
 目的のブツをそろえ、そろそろ帰ろうかと言う時、俺は出会った。

「あらあなた?」
「あん? なんだ?」

 フードを目深にかぶったその女は、いきなり声をかけてきた。
 その怪しげな女は、俺を見て興味深そうにうなづいている。
 キミが悪ぃ。
 なにもしていないのに俺の右腕が粟立ってやがる。

 こいつ、強い!

「面白いわね、あなた。気に入ったわ。これあげる」

 その女は、そう言い残して立ち去った。
 俺の手に、飴を残して。


「関西のおばちゃんか!!」
「え? えっ?」
「何なにー?」

 飴って、あいつ、何なんだ!?
 毒じゃないのか、これ!?
 しかも捨てたら捨てたで呪われそうだ!

「くっ、考えても分からんから、無視するか」

 俺は飴を亜空間にポイっと放り込んだ。

「ご主人様、今日のご予定は?」
「あー、今日は飯食ったら魔法の軽い講義。それからギルドに行く」
「かしこまりー!」

 朝食は姉妹が用意したものだ。
 パンにベーコンを焼いたものをはさんだもの。それと野菜炒めに、オレンジジュース。
 一般的な、バランスの取れたメニューに感心する。
 お嬢様だったはずなのに、ずいぶんとやるようになったものだ。


「って、なんだこのベーコン! 甘ぇ!!」
「もっ、申し訳ござもごごごご!?」
「お前な! なんでベーコンが甘くなるんだよ! 責任持って食え! 食べ物を粗末にするなんざ許さねぇ!」
「もごごー!!」

 パンは、塩漬けしたみたいに塩辛い。
 野菜炒めは無味。
 オレンジジュースは、生温かかった。

「次、次こそはきちんとします! だから、何とぞチャンスを下さい!!」

 もう、好きにしやがれ。

「おかわりー!」

 天狐族には、変り者しかいないのか?



「魔法ってのはイメージだ。できると思えば才能の限界までなら、なんだってできる」

 この世界の魔法に特別なルールはない。
 あるのは想像力で効果を固定するのと、それをどこまで再現できるかってところだけだ。
 想像が強固であるほどイメージに近く、才能があるほど再現度が高くなる。

「頭が悪けりゃ魔法ってのは役に立たない。才能がなけりゃ頭がよくてもよえぇ」

 これも魔法使いが不遇な理由でもあるんだが、知ったこっとではない。
 どうせ大昔の騎士連中が魔法使いこわさに規制でもかけたんだろう。子供のころから魔法を使わせんな、教育すんな、と。貴族だけでなく庶民にもその意識を植え付けてんだからすごいものだ。

 実に、くだらない。

「想像力。そうぞうりょく……」

 頭の固そうなキャスは苦戦している。

「つまり、こう? やー!」

 じゅうなんなシスは早くも魔法の真理に片足を突っこんだようだ。手からそよ風を発生させていた。
 そんなシスの頭に、俺はげんこつを落とす。

「部屋ん中でホコリ立つような真似すんな!」
「あい、ごめんなざい……」

 素直で、お調子者。こういうやつがきっと天才ってヤツだろう。キャスはどっちかと言えば秀才だ。発想よりも学習で、それ以上に現場で力を発揮するタイプと見た。
 俺がきっかけを与えれば、こいつならすぐにでも魔法をモノにするだろう。

 が。

 めんどくせぇ!

「講義は以上だ。ほら、いくぞ」
「はい……」
「あとは実戦だね!」

 そのとおりだ。だいぶ分かってきたようだな。

「魔法も体術も、ぜんぶ生きるために覚えるもんだ。実戦で使えなきゃ意味がない! 頭を使ったのなら、あとは体に覚えさせろ!」
「はい!」
「かしこまりー!」



 ギルドの社屋が騒がしい。
 大通りに面したその巨大建造物が、得も言えぬケハイを漂わせている。

「さて……、帰るか」

 イヤな予感がしすぎていて、思わず俺は回れ右をした。
 そんな俺の肩に誰かの手がふれる。
 姉妹は俺の後ろにいた。つまり今は前だ。
 そうなると俺の後ろにいるのは、それ以外の人物。気配察知や魔力感知をもつ俺の背後をとれる人物など、そう多くはない。

「待ってたよ、カイ」
「俺は待っていない」
「待ってたよ、カイ」
「待たせていない。帰る!」
「待ってたよ、カイ」
「は、な、せ!!」
「待ってたよ、カイ」

 無限ループ、こわい!

「何のつもりだサブマス!」

 振り向き裏拳をみまうが、あっさり回避される。さすが三等級の前衛、腹が立つほどカレイな身のこなしだ。
 細目の優男、三等級パーティのリーダーこと、名前忘れた、は飛びきりの笑顔で俺を迎えていた。

「そのうさん臭い顔を見ていたら腹が痛くなってきた。だから帰る」
「この顔は生まれつきだから勘弁してよ」
「そのうさん臭いしゃべりと、うさん臭い性格にけんお感が止まらないから帰るわ」
「それ、酷いはなしだね。ひどくて傷ついたから、ちょっとだけ話につきあってよ。ちょっとだけ、先っぽだけだからさ」

 なんだそりゃ!?

「お前、そんなしゅみが……」
「いざとなったらそれを差し出すだけの覚悟がある」

 覚悟がある、なんてキリリとした表情でケツをこっちに向けてくる。

 そんなものはいらん!!

「話を聞いてもらうためにも、無理にでも受け取ってもらうよ!」
「いるかボケェ! むしろそんなならよけいに話を聞きたくないわ!」

 そして姉妹!
 そんなご奉仕のしかたも! なんて顔をするな! 俺にそんなシュミはねぇ!

 あまりの事態に脳みそがフットウしそうだ。

「なら逆に、そうしないから話を聞いてほしい。聞くだけでも」

 そんなイヤすぎる脅し文句、初めて聞いた。

 そして聞いたら後には引けなくなる、だろ?
 ふざけるな。

「ギルマスがダンジョンで負傷した」

 こちらには聞く気がないから勝手に話し出すな。

「もうこの情報はギルド全体に行き渡っている。原因は、分かるよね?」
「歳か?」
「違うと思うなぁ。それ、本人には言わないであげてね?」

 知るかよ。
 しかしそうか、あいつがケガをしたのか。
 元二等級冒険者で、現役の二等級と互角にやり合うあのヒゲハゲが?

「どうせケガも大したことないんだろ?」
「右腕を持っていかれた」

 そう言って三等級パーティのリーダーは右の二の腕辺りに左手で手刀を入れる。そこから切断されたってジェスチャーだ。

「マジかよ」
「マジだ。さいわいにも命に別状はないけど、冒険者として復帰は絶望的だね。元々引退していた身ではあるんだけど、それでもこの街の最大戦力の一つが失われたのは事実だよ」

 ……、おおげさな。

「おい、いくぞ」
「は、はい!」
「かしこまり?」

 知ったことか。

 この街に流れ着き、無一文で倒れていた俺を介抱したのがアイツだったとしても。
 身元保証人がいなければ街にすら入れなくて、その保証人にアイツがなって冒険者にもなれたのだとしても。

「俺にはなんも関係がない」
「その割にギルドの中に来てくれるんだね」

 ケッ。

「話、聞かせろ。あとヒゲハゲに会わせろ」

 右腕がぶっ千切れて戦えない?
 は?
 俺には何にも関係ねえよ!!

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...