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第七章 リュータと魔王
第七十九話 検証と妖精リターンズ
しおりを挟む賢者の話を聞いて、そして今までの俺の行動を思い返して、一つ疑問に至ったんだ。
「『生活魔法』って、本当にただの便利魔法なのかな?」
以前、『生活魔法』を『調査』した時は、こうだった
『生活魔法-生活に必要そうな魔法の詰め合わせ。』
確かに『生活魔法』はすごく便利だった。
変な魔法も多いし、本当にこれ必要か? と思うような魔法もあった。
芳香剤の魔法がそうだ。
ただ生きるだけなら必要ない。
特に『カメムシ臭』なる対魔物・対生物に対して絶対的な優位性を持つ臭いは、絶対に『生活魔法』でも『生活に必要そうな魔法』でもない。断言できる。
でも、それは前の世界での感覚の話だ。
シルちゃんや他のこの世界の人たちと話していた時の違和感。
魔力について。
これらを総合的にまとめると、見えてくるものがあった。
「それを証明する為に、いざ、『生活魔法』を『鑑定』だ!!」
お、おお。
おおおおお!!
「来た、来たぞ! なんでだ!? って思うけど、でも、これが、これこそが光明だ!!」
俺はこの『鑑定』結果をみんなに伝え、対ゴースト戦で打つべき手を伝えた後、開戦までの間、二時間の仮眠を取った。
***
「いよいよこの時が来たのじゃ」
「そうだね」
時刻は午前三時。
開戦まであと三十分を切ろうかと言うタイミングだ。里に軍勢が到着してしまうのはアウトだから、それより前に迎撃するとなって、三時半にこちらから攻勢を仕掛ける事になったのだ。
「天候予報士の話では、日の出は五時二十三分だそうよ」
「ウゲェ、予想より延びてんじゃネーカ」
「それは、仕方がないのじゃ」
昨夜の話し合い、情報のすり合わせの際に予想していた時間より二十三分も長い。
しかし、自然に文句を言うのも、予報をした人を恨むのも筋違いだ。
「ツヨシ君は空気読め。それとミントさん、起きていて大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫よ。でもペパミンは大事を取って後方待機だわ」
「本当は私も共に戦いたいのだがな」
そう言ってくれるのは頼もしい限りなんだけど、足が小鹿のようになっている。
つまり、立っているだけでプルプルしている。
「リザードマン四人も抱えていたら、まだ体力が戻らないのは当然よ。いいから休んでいなさい」
「し、しかしだなミント!」
「大丈夫よ。彼がなんとかしてくれるから」
うん、その頼ってます的なセリフとは裏腹に頭を優しく撫でるの、やめません?
ほら、ペパミンさん、めっちゃ怪訝そうな顔してるし。
「リュータ殿はミントをめと・・・、いや、なんでもない」
何か言いかけてやめたけど、めと? なんだろう。
って、ペパミンさんが俺を巻き込みつつミントさんに抱き着いた!?
「二人とも、どうか無事に帰ってくるのだぞ」
「ええ、もちろんよ」
もちろんです。
ちなみに背の高いお二人に抱きしめられる行為がどういう結果に結びついたかと言えば、俺の頭は完全にお二人のお胸に取り囲まれております。
「ダブルおっぱい!」
「え?」
やべぇ! 本音と建前が逆になった!
でも口をおっぱいで塞がれているからくぐもった感じで、うまく聞き取られなかったようだ、セーフ!
「必ず! 無事に帰ってきます!!」
「そ、そうか。気合が入っているようで何よりだ」
ふう、色々とヤバかった。
「リュータ、私も行くわ。それでは、あとで、ね?」
「ええ、ご武運を」
ミントさんと俺は別部隊だ。と言うか、俺と勇者二人にはまず真っ先にやらねばならない事があるから。
「さて、そろそろ時間か」
俺がやらねばならない事。
いや、むしろ俺にしかやれない事。
それは、いつものアレだ。
「ゴーストが魔物なら、『生活魔法』が絶対に効く」
「むしろあの『解説』を聞いた後では、それしかないって思えますよね」
「ミチルさん。うん、そうだね、自分でもびっくりだけど」
「はい。でも本当に、リュータさんには驚かされてばかりです」
「そう? って、なんで手を掴むの?」
「え、えへへ・・・。ちょっと、緊張してしまいまして」
なるほど、そう言えばそもそもミチルさんは女子高生、いやギリギリ卒業したくらいか。
どっちにしてもまぁ、本物の幽霊って怖いよね。
俺? 俺は幽霊って、ほんと怖い。苦手なの。
ビビりだからね!
「いやー、俺も幽霊苦手でさぁ。気持ちわかうををおおお!? イタイイタイ!?」
「 そ う じゃ な い で す 」
「にぎ、握り絞めめめめ!?」
「んーー、もう!」
ぐっはー! ミチルさんに手を握り潰されるかと思ったわ!
決戦を前に、なんてことを!
「ひ、ひいい。『応急手当』、はぁ~~、死ぬかと思った」
この世界、HP制だから手を握りつぶされても死ぬ可能性があるんだよね。ほんとこの世界怖い。
「もう、リュータさんがこんな状況で変な事を言うからです!」
「え? そうなの?」
「アン? むしろ変なのは姉御じゃネーカぁ?」
だよねー。
そしてミチルさんは顔を真っ赤にして、プルプルし始めた。
流行りなんだろうか、小鹿プレイ。
「もう、もうもう! 知りません! シルビィちゃーん!!」
ミチルさんは奇行に及んだあげく、シルちゃんの元へと向かい、なぜかヨシヨシされている。
はて、一体なんだったんだろうか。
付き合いの長いツヨシ君も困り顔だ。
カンカンカン。カンカンカン。
「っと、始まるみたい、だね」
「ンだなぁ。ま、いっちょモンでやっか」
予め決められていた開門の合図、金物を叩く音が響く。その合図を聞き、俺を含む周囲の者たちは全員、片眼をつぶった。
もし明るくならなかった時の為に、闇夜に目を慣らすためだ。
そして残った片目で見た門のその先は、やはりと言うか、闇だった。
「まだ夜中だしね。さて、ウィルの発明品はどうかなー」
まず武装したエルフたちが門周辺を警戒、次に飛び出したのは何かの機械を四人で抱えている集団。
「ひのふのみの、八個もアンのか、アレ」
「ウィルのヤツ、いつの間にあんなに作っていたんだ。ビルを作る魔道具と言い、絶好調過ぎない?」
「ハッハ! 作りたいモンが山ほどあるっつってたカンな!」
そう言えばそれで恨みが募られてたんだった。
なんて思っていたら、森に向けて光が放たれた!
「うおお!?」
その機械の先端から放たれた光は、夜の闇で覆われた森を明るく照らした。
そして森から響くは、嘆きの声。
「これは、ゴーストの声! やった!」
誰かの、多分リザードマンか交渉団か、いずれか実際にゴーストを目の当たりにした人たちの声だろう。
つまり、俺の予想は当たった訳だ。
「やっぱりだ! 『生活魔法』はゴーストに効く!」
さぁ、人類の反撃のお時間ですよ!
***
最初に飛び出したのはツヨシ君だった。
手に持つ刀に『生活魔法』の『微風』をまとわせ、森の中を一気にかける。
それに追従するのは、ミチルさん。
彼女の剣には『生活魔法』の『明かり』が灯っていて、その軌道がなにやら幻想的だった。
「姉御、それズリー!!」
「いいから前を向きなさい!」
ツヨシ君の気持ち、分かるわー。
「おら、記念すべき第一号が見えたゾ! くたばれ!」
剛腕一閃、ツヨシ君の刀が目の前にいたゴーストらしき黒いものを切り裂く。
『ギャァァァ・・・』
そんな断末魔を残して、ゴーストは消え去った。
そしてそれを見たミチルさんが、続いてその隣にいたゴーストを切り裂く。
『カミヨォォォ・・・』
こちらも一撃。
続いてツヨシ君が使う魔法を変え、今度は土、火、水と切り替えていく。
どれもこれも、今まで魔法も物理攻撃も効かないと言われていたゴーストを易々と倒していった。
意外だったのは、闇属性らしき『生活魔法』でも効果があった事だろうか。
「スゲェぜ『生活魔法』!!」
うん、俺もそう思うよ。
「でも、あの『解説』を聞けば納得です」
そう、アレを聞いたら誰もが納得する結果だ。
しかし、ゴーストとの遭遇率が低く、また放っておけば消え去っていたから今まで誰も実験しようとしなかっただけで、誰もが思いつく結果でもあるんだよなぁ。
『生活魔法-生命活動に必要そうな魔法の詰め合わせ』
生命活動に特別効果があるのなら、その反対の存在であるゴーストにも特別に効果があるんじゃなかろうか。
そう思っての事だったが、どうにも予想通り過ぎて拍子抜けだ。
しかし神様は『生活魔法』を攻撃に転用するのは想定外って言ってたんだよなぁ。
ほんと、この世界ってよく分からないわ。
システム的な穴が多すぎじゃね?
「だが、これじゃ焼け石に水じゃねーカ?」
「そう、ですね。十万、いやそれ以上の軍相手となると一体二体こうやって潰しても、全く減る様子がないですよ!」
そうなんだよね。
エルフの里の総勢で戦っても、獣人王国からの応援を頼りにしても二千程度。とてもじゃないけど十万の軍勢は止められない。
「でも、まだ手はあるから! 一旦引くよ!」
「オウ!」
「分かりました! でやぁ!」
検証は終了。
即座に反転、帰還!
「シルちゃん!」
「リュータ! 二人も無事じゃな。そしてその顔、つまりは」
ああ、そうさ。
「実験成功! 奴らには、『生活魔法』が通用する!」
「おお、おお! さすがリュータなのじゃ!」
わーお、大胆にもシルちゃんがこの公衆の面前で抱き着いてきた。
もちろん俺も抱き返す。熱い抱擁・・・、って俺の襟首を掴んでいるのはどなたカシラ!?
「ぐ、ぐぇぇ。何気にツープラトンアタックになってるぅぅぅ」
シルちゃんが俺の腰をガッチリつかんで、襟首掴んでいる方が俺の首を絞める。
なんて連携の取れた攻撃なん・・・だ・・・。
「久しぶりに出てきてみれば、どう言う事なのよ!」
二つの魔の手から解放されたので振り向いてキレてる元凶を見た。
パンクロックな格好に真っ赤な髪。
身長は、俺の知っている普段の彼女ではなく、百六十センチほどの美少女。
「え? 真紅、さん?」
「そうよ! やっと戻ってこれたわ!」
「戻って、これた?」
彼女が一体何を言っているのか分からない。
うおっと、背中に何やら幸せな感触が・・・。そして同時にちょっとしっとり、いやだいぶしっとり、ぐっちょりしてきたぞ!?
「その真っ赤で下品なのは放っておいて、私とイイコトしましょう?」
「どっちが下品なんだよ! 藍子!」
背中のは、藍子さんか。
赤のダンジョンコアの妖精さん、ハイゴブリンの真紅さん。
そして青のダンジョンコアの妖精さん、ハイマーメイドの藍子さんが緊急参戦、なのか?
「私も、いるよ?」
「クロちゃん! 会いたかったよーー」
「ミチッ!?」
等身大クロちゃんに抱き着いたのは、結構世話になっていたミチルさん。
彼女もダンジョンコアの魔石、黒い妖精さん、クロノ。通称クロちゃん。
大人しそうなのにヤンチャと言うちょっとよく分からない性格をしている子だが、とてもいい子だ。
「うふふ、楽しそうね」
「そう言いながら俺の手の甲をつねるのやめませんか!? ソラミちゃん!」
笑顔で背後にブラックホール的な雰囲気を漂わせているのは、世にも珍しい宙のダンジョンコアの妖精さん、ソラミちゃん。
実年齢がちょっと表現しづらい桁数だけど、見た目だけなら綺麗なお姉さん。秘書的な見た目に寄らすとても家庭的なお人だ。
「魔王も迂闊でござったな。これほどの魔力が満ちておれば、我らも実体を持てると言うもの」
「その声は、玄武? ・・・、玄武?」
「なんでござろうか、主殿?」
うん、いや、いいんだけどさ。
玄武のサイズ、五十センチほどしかない。まんま直立した亀って感じ。
「さすがに本来のサイズでは邪魔になりもうす。それ以外にも、魔力を無駄に消費する訳にも参らぬ故」
ああ、そうなんだ。
「それで、君たちは今までどうしてたの? こっちからの問いかけに全く反応してなかったけど?」
って、なんで妖精さんが一斉に俺の方を向くの!? しかも真顔で!
「アンタの、アンタのダンジョンに迷い込んだからよ! なんなのよあの滅茶苦茶なダンジョンは!」
「私たちの全てを詰め込んだようなあのダンジョンは反則よ」
「おまけに仮想ダンジョンだったから、コアがなかった」
「リュータの声だけは聞こえているのに、こちらからの声は聞こえない」
「うむ。そして外の様子は見れるが、我らには何も出来ない。実に歯がゆい所でござったな、はっはっは」
そ、そうなんだー。
「そうかそうか。うむ、よく分からんが、積もる話は後にしてもらえんかのぉ」
「シルビィエンテクライテア。・・・、そうね、今はそんな事言っている場合じゃないわね」
「うむ、理解が早くて結構なことじゃ。それで、お主らは」
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「そうでござるよ。主殿のお役に立つ、それが玄武としての」
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「何言ってるの! 私こそ惚れたのよ!」
「あの人は、私の・・・」
「ほーっほっほ! 何を言い出すのかと思えば、私のものよ!」
ほ、ほー、そうなのかー。
いや、大変おモテになる人がいるんですねー。
これだけの美女美少女(見た目は)に慕われるとか、すごいなー。
「オイ、リュータ、遠い目、してんじゃネーゾコラ」
だ、だって、今の状況、魔王軍より怖いじゃん!!
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