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第六章 リュータと神と勇者の秘密

第七十二話 リュータと、ひと段落と

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 何もかもが終わり、俺たちは自分たちの街、オビヒロへと帰って来た。

「はー、もうやだ、疲れた」
「そうじゃのぉ」
「そうですね・・・」
「そうだナー」
「そうか?」

 アンリエット様はタフだなぁ。
 元々実入りの無い調査をよく行なうそうだから、結果が出た今回の調査は彼女的には大成功の大満足だったのかな。

「しかし茶番だったな」

 アンリエット様以外の俺たちの感想は、最後にウィルが言った通り、茶番だ。
 少女は俺が名前を与える事で俺と契約し、ごく普通に他の妖精さんたちの仲間入りを果たした。

「何が、これからもよろしくなのよー、だ。あのクソガキッ」

 ツヨシ君の呟きももっともだと思う。
 無事にハッピーエンドで終わったんだからいいんだけど、正直コレは心にクるよ。

『大丈夫よ。私が絞めておいたから。ウフフッ』

 え? 何今の? 幻聴?
 ソラミちゃんの声が、聞こえたような・・・?

『幻聴じゃないわよ。まったく、困った人ね。そこが可愛いんだけど、ウフフ』

 俺が亜神となってからは『ステータス』が開けず、今の今まで、彼女たちとは魔石から直接的出てきてもらってしかコミュニケーションを取れなかったのに、どうして・・・?

『波長を合わせるのに時間がかかったのと、コレ、結構魔力を消費するわ。だからあまり乱用は出来ないのよ』

 そ、そうなの。

『外に出られる時間は短くなるし、外に出てこれるようになるまでの時間も長くなるから緊急時以外は遠慮したいわ』

 わ、分かりました。

『ともかく、この子、ドラちゃんは私にお任せなさい』

 はい、よく分かんないけどお願いします。

『ええ、任されたわ。ウフフ』

 そして、プツッ、と言う音と共に、声が消えた。

 いやしかし。

「ドラちゃんとソラミちゃんって、ギリギリすぎない?」

 己のネーミングセンスの無さに身震いするわ。

「しかし良かった。これで今後は完全にあの密林ダンジョンはシルビィエンテクライテア様の管轄下に置かれた訳か」
「うむ、そうだな。だが、ウィリアムよ。話を聞くにつれ、思ったのだがな」
「何だ? オバ上・・・おい、その杖を掲げる動作を今すぐやめたまえ、魔戦隊長殿!?」
「『ウィンド・・・』、いや、そうであるな。いや、なに、私の想像ではあるが、恐らくあのダンジョンは魔王の手先に乗っ取られてしまっただけなのではないかとな」
「乗っ取られた?」

 それは、穏やかじゃないな。

「そうだ、リュータ殿。そしてその魔王の手先からダンジョンコアを死守していたのが、あのハイドライアドだったのではないかと私は推察している」
「アンよぉ、ナンか心当たりがあるってか?」

 アンリエット様をアン呼びするのが定着してしまっているワン君が、椅子でグデーっとしながら訊ねている。
 みんなも似たような・・・、あ! 静かだと思ったらシルちゃん寝てるし!

「そうだな。それはだな・・・」
「そう言うのは後でまとめてから報告しましょう! ね? ほら、みんな疲れてますし」
「む、そうだな。ダンジョンの再支配を果たしたシルビィエンテクライテア様がお疲れのご様子だ。この話は明日以降にしよう」
「アー、そうだなー。俺様も、正直眠てーわ」
「そうですね。結局・・・、あれ? 誰か来ましたね」

 ん? 誰もドアにはいない・・・、ノック?
 ああ、ミチルさんは足音が聞こえたから反応したのか。
 ミチルさんも基本スペックだけは高いからなぁ。

「おーい、リュータ。戻ってきてるって聞いたぞー」
「ああ、ガルフ。戻ってるし、みんな揃ってるぞ」

 ガルフの声を聞くと「戻ってきたー!」って気になるな。

「おう。って、おいおい、死屍累々ってヤツだな。おら、オメーら、身体拭いてとっとと寝ちまえ。リュータ以外」
「「「はーい」」」
「私もそうさせてもらおう」
「ムニムニ・・・」
「私はシルビィちゃんを連れて行きますね」

 よし、俺も・・・、ってガルフさん? なんで俺の手首を掴んで離さない感じなんですかねぇ!?

「リュータ男爵様ァ。ここの領主様にはお仕事、たんまり残ってるんで、ちょいと、まる三日ほどお付き合いいただけませんかねぇえええ!?」

 ひょ、ひょえええええええええええええええええ!?


 解放されたのは本当に三日後でした。
 グヘェ。


***


「それで、最後に、イビルエントの残した言葉、魔王復活についてなのだが」

 俺たちが戻ってから四日後の今日、今回の調査結果のレポートを全てまとめ上げたアンリエット様が、その結果を改めて俺たちに教えてくれた。

「魔王、か」
「いるらしいとは思っていましたが、やはりいるんですね」
「そうだ。魔王は実在する。もっとも、国民は半分おとぎ話の世界だと思っているようであるがな」

 七十五年前の話なら仕方がないだろう。何せこの世界の人間の寿命はおよそ六十歳。つまり、二世代前であるお爺さんお婆さんでさえ既にお亡くなりになっているレベルの話なのだから。

 しかし、魔王か。
 どこかで聞き覚えと言うか、見覚えがあるような・・・。

「あ、ああ!!」

 そうだ、あの夢だ!
 記憶のダンジョンで見た、勇者がやられてしまった夢。

「ぬ、どうしたのじゃ? リュータ」

 うぇ!? 注目されてる!

「え、ええと、実は」

 カクカクシカジカと、俺は記憶のダンジョンで見た巨大イカ人間と三人の勇者ご一行っぽい人たちの話を、その時見た光景をみんなに話してみた。
 そして、それを聞いて渋い顔をしたのは、王族の二人。

「それはもしかすると、本当に七十五年前の勇者の出来事かもしれないぞ」
「私の記憶でも、そうだな。それにその話は王族にしか伝わっておらんのだし、何がしかの啓示かもしれん」
「記憶のダンジョンと言うと、記子さんか。そう言えばあれから全く音沙汰がないな」
「アァ、テメーが亜神になったつって以来カ?」

 そう、そうなのである。
 辛うじて藍子さんとはコンタクトが取れたけど、その彼女も今は見かけていない。

「そもそも『収納小箱』から、彼女たちの魔石を取り出せないんだよね」

 いや、本当に、俺の『収納小箱』だよね?
 私物化されてない?
 乗っ取られてない?

「俺の亜空間のはずなんだけどなぁ」
「そ、それはよく考えたすごいセリフですね」
「まるで神様じゃのぉ。むしろその亜空間こそがリュータ専有のダンジョン化しておったりしての」

 わー、そりゃすげー。

 ・・・。

 考えだしたら怖くなってきた。

「それはおいおいとしよう。今は目の前の脅威、魔王復活について話すべきであろう」
「そうですね。それで、どうしましょう?」
「私によい考えがある。王都へと戻り、この一件を報告し、七十五年前の魔王と勇者について、再度調べてみようぞ。父上もこれだけ情報が出揃っていれば、禁書の開示もなさって下さるだろうでな」

 アンリエット様の父上と言うと、あの国王様か。
 そして何気にヤバワード、禁書。

「その、大丈夫なんですか? 禁書って」
「アー、ンな大したモンじゃねーぜ、姉御」
「ワン君、知ってるの?」
「チラっと見ただけだが、ありゃ単なる歴史書だ。ただ、真なる、って感じだがナァ」

 なるほどね。
 つまり不都合な歴史まで書き込まれているから禁書扱いである、と。

「後は話しかけてくる程度だナ。他はなーんもネェヨ」

 なるほどね。

 え?

「その程度で禁書ですか。どうやらこの国の歴史は少々黒いようですね」
「ンな御大層なモンじゃねーよ、姉御。要は、勇者が死んじまったみたいな話を美談にしてるか、ありのままに表記してるかってなモンだわ」

 お、おう。本が話す程度は普通なのか。さすがファンタジー世界。
 そして何気にミチルさんが、リザードマンの街で出会った時よりも着実にこの世界に馴染んでいる。

 そう言えば、彼女とあの街で別れた後の詳細を聞いてなかったな。

「ひとまずは情報収集をする。おそらく勇者の二人、およびリュータ殿には力を貸してもらう事になるだろう。元々この世界の住人でもなく、力があるそなたたちにとってはこの国の事は、他人事かもしれぬ。だが、それでも私たちにはそなたたちしか頼る者がないのだ。済まないが、逃げずに、協力して頂きたい」

 ふかぶかとお辞儀をするアンリエット様のつむじを見て、俺たち三人は顔を見合わせ

「ハツ! テメーに頼まれるまでもネェんだよ! もう二度と、逃げたりするもんか・・・」
「破壊神に魔王、どれもファンタジーっぽくて好きです。もちろん、勇者がそれらを倒す英雄譚が、ですけどね」
「放っておいてもどうせ向こうから襲ってくるんだし、やるしかないでしょ」

 それに、何のかんの言っても、俺たちは神様に選ばれてこの世界に送り出されたんだ。
 神様には色々聞きたいことも、言いたいこともあるけど

「アンリエット様は勘違いしてますよ」
「そうだぞ。テメーは頭でっかちすぎンダヨ」

 そうそう。

「だって俺たち、この世界も、この国も、この街も、住む人も、そして不器用なアンリエット様も」

「「大好きですからね!!」」

 ミチルさんと二人でハモりながらの宣言に、アンリエット様は破顔一笑した。

「は、はは! そうか! そうか! では友たちよ、これからもよろしく頼むぞ」

 これから先、きっと今まで以上に過酷な運命が待ち受けているかもしれない。
 でもきっと、ここにいる仲間たちとなら、友達となら、一緒に潜り抜けられる!

 俺はそう、強く確信した。





「あ、ア゛ー。俺様ァ、別に大好きって訳じゃ・・・」

 ここでツンデレるとか、台無しだよツヨシ君!?
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