ヤンデレだらけの短編集

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デルフィニウム おまけ

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 幼馴染の家に泊まる約束の日曜日。
 
 僕は多少浮かれた気持ちで幼馴染が迎えに来るのを待った。

 本当は、今日はクラスの親睦会でバーベキューがあるのでそちらに行くべきなのだろうけれども、幼馴染がそんなことを許すはずもなく。

 僕はソファに寝転んでポキポキ音を立てるスマホの通知を眺める。

 クラスのラインは今日のバーベキューのことでにわかに盛り上がっている。

 もともと仲のいいクラスだし、今日のバーベキューを楽しみにしている人も多い。

 そして、その中には、僕の幼馴染との接近を狙っていた子もいたわけで。

 幼馴染が来ない、ということに多少の抗議のような文章も送られている。

 今日会えるの楽しみにしてたのに!という文章に、涙目でじっと見つめてくるスタンプつきという、抗議、というには可愛らしい文章ではあるが。

 幼馴染の、体調を崩したのだという内容の返事の後には、具合の悪そうなキャラクターが青褪めて横たわっている。

 幼馴染はあまりスタンプを使わないのだが、今日はテンションが高いらしい。

 それにしても、よくこんなに平然と嘘の書けるものだ。

 僕は呆れを通り越して感心した。

 もちろん、と言ってはなんだが、僕も体調が悪いということになっていて、不参加の申し出をしている。

 それに対してのクラスメイトからの反応は特になく、幼馴染へのトークで流れてしまった。

 僕は基本的にSNSのグループに入っているだけで参加はしていない。

 元来大人数でわいわいやるのは得意ではないし、何より幼馴染が怒るので安易に参加するわけにはいかないのだ。

 クラスメイトの数人には個人でトークをくれた人もいるが、当然それは幼馴染によってチェックされ、返信もそこそこに会話を終えなければならない。

 人によっては幼馴染が勝手に返事を送ってしまうこともある。

 どうせ大して仲良くなれるわけでもないのでそのことは特には気にならない。

 むしろ僕はそもそもSNS自体やらなくてもいいくらいの気持ちでいるのだが、幼馴染が勝手にインストールして、グループに招待してきたのだ。

 幼馴染曰く、ある程度の自由は与えてやるのだということ。

 正直、自由もくそも無いわ、とは思うのだけれど、幼馴染が僕に気を使ってくれているのだということは分かるので、大人しくその厚意を受け取っている。  

 ポキポキ、とまた通知音が鳴った。

 「ついた」という短い言葉に、僕は着替えや財布の入ったリュックを背負って玄関へ向かった。

 ドアを開ければ幼馴染がいて、黒いTシャツにジーパンというラフな格好で立っていた。

「暑かったよね、お茶、飲んでいく?」

 そう尋ねると、幼馴染は「ああ」と短く答えたが、僕を一瞥すると、「やっぱいい」と意見を変えた。

 僕はどっちだよ、と思うとおかしくて、小さく笑った。

 幼馴染は、笑ったのを咎める様に僕の髪をぐしゃりと撫でると、僕のからっていたリュックを奪った。

 僕はそれを止めない。

 むしろ腕を動かして幼馴染がリュックを取れる様に誘導した。

 親切になったものだ、と僕は思う。

 小学生の頃はよく幼馴染のランドセルを前に抱いて歩かされた。

 幼馴染は、あの頃はもっと感情的で、意地悪で、暴力をよくふるったものだった。

 その分を今返してもらっているのだと思えば、僕よりうんと力の強い幼馴染が僕のリュックを持ったところで全然足りないのだ。

 …こんな風に考えていることがばれたら恐ろしいので、とっても言えないが。

 それから、他愛のない話をしている内に、幼馴染の家に着いた。

 家に着くまでにご飯はオムライスに決まった。

 幼馴染は卵でチキンライスを包むのが上手だ。

 僕のお母さんは卵でチキンライスを包めない。その不器用さを受け継いだ僕も然り。

 だから僕は、綺麗に卵に包まれたオムライスに常々飢えていて、幼馴染が料理を作ってくれるときはオムライスを注文することが多い。

 幼馴染の機嫌さえ悪くならなければ、僕は美味しくオムライスにありつくことが出来る。

 僕は幼馴染からリュックを受け取ると、いつも宿題をしているテーブルの前に座って、勉強道具を広げた。

 幼馴染はそんな僕の様子を眺めながら、今から作ってやるから待ってろ、と言い残して台所へ姿を消した。

 僕は、これからオムライスが食べられるのだと思うと俄然勉強のする気が沸いた。

 暫くは、といっても10分程度の気がするが、僕は張り切って英語の長文問題を読んでいた。

 しかしそこに、ポキポキ、という通知の間抜けな高い音がして、僕は長文を読んでいた目がスマホに移った。

 グループのトークがまた動いたのだろうか。通知を切るのを忘れていた。

 僕はちらりと英文に目を戻したが、すっかりどこまで読んだか分からなくなって見つからない。

 僕は多少うんざりとした気持ちでスマホを持ち上げた。

 『風邪、大丈夫?』

 僕はぎょっとした。グループではなく個人でトークが送られている。

 送ってくれたのはクラスメイトで、すぐに会話を終えてしまう(といっても幼馴染の指示だが)僕に、こうやって時折トークを送ってくれる心優しい人だ。

 普段なら、彼の気遣いを嬉しく思うものだが、今回ばかりはそうはいかない。

 何しろオムライスが僕を待っているのだ。

 僕は音が鳴らないように設定してから、幼馴染に報告するか否か考えた。

 オムライスを食べ終わってからでは駄目だろうか。

 今報告して機嫌が悪くなったらオムライスを作ってくれなくなるかもしれないし、かといって後から報告すると何故隠したのだと言及される危険もある。

 通知に気付かなかったということにしたらどうだろう。うん。そうしよう。僕は、気付かなかった。

 隠蔽することに決めた僕は、スマホをテーブルに置いて、視線をノートに戻そうとした。

 その過程で、部屋のドアが開いていることに気が付き、幼馴染が部屋に入ってくるのが見えた。

 しまった、と思うが、もう遅い。

「誰からだ?」

 幼馴染の声は、まだ不機嫌ではない。

 僕は潔く、スマホの画面を幼馴染に向けた。

「クラスの人、風邪、どうって」

 すると幼馴染は、僕の手からスマホを奪うと、まじまじと眺めて、ちっ、とひとつ舌打ちをした。

「こいつ、しつけぇな。既読無視だ、既読無視」

 しつこいと言っても、月に一度連絡が来るか来ないか程度の間柄だ。

 幼馴染の感覚は少々おかしいように思う。

 幼馴染はちょんちょんと僕のスマホを弄ると、僕に返した。

 僕はそれを受取ろうとしたが、すんでのところでまた幼馴染の手に戻った。

「てかお前、通知切っとけよ。いや、電源ごと切れよ」

 幼馴染は不機嫌に呟きながら、僕のスマホの電源を切った。

 真っ黒になった画面が返されて、僕はおずおずとそれを受け取って、「ごめん」と謝った。

「あー、もう、萎えた」

 幼馴染はそう言うと奥のベッドにどしどし歩いて、どさりと身を投げた。

 僕はおろおろとしながら、幼馴染に近づいた。

 このままでは、オムライスを作ってもらえない。

 そろそろと手を伸ばして、幼馴染の髪を撫でる。

「な、萎えないで」

「うるせえ。もう萎えた」

 すっかりやる気をなくしてしまったらしい幼馴染の髪を撫でながら、どうすればオムライスを作ってくれるか考える。

 とりあえず彼の耳元に顔を近づけて、小さな声でもう一度「なえないで」と言ってみる。もちろん「うるさい」と言われたので単純に声を小さくしたのだ。

 幼馴染は、ちらりと顔を横に向けて僕を見た。

 僕は少し期待した。

「うるさくは、ねえけど…」

 幼馴染はそう言って不満げな顔で僕を睨みつけている。

 僕もじっと幼馴染を見返した。

 すると暫くして、幼馴染はやっと上半身を起こすと、ベッドの上にあぐらをかいた。

 それから膝をぽんぽんと叩くので、僕は幼馴染の脚の間にお尻を入れて、向き合って座った。

 僕は、自分から幼馴染の頬に唇で触れた。

 すると幼馴染も僕の頬にお返しをする。

 そんなことを繰り返すうちに、幼馴染はお返しの場所を無視して、僕の唇に触れた。

「元気、出た?」

 唇が離れたので僕がそう問うと、幼馴染はぐい、と僕の腰を押すと、僕のものに彼の硬くなったものを押し付けた。

 そこの話じゃない。

 僕は多少狼狽したが、俯いて動揺を隠した。

 すると頭のてっぺんに柔らかい感触が数回落ちた。

「顔、上げろ」

 そう言われるのでそうっと幼馴染を見上げると、彼の顔が近づいてきて、僕はぎゅっと目を閉じた。

 幾度か、くっついては離れを繰り返したが、はむっと唇を挟まれて、僕は口を少しだけ開けた。

 そこから舌が入ってきて、好きなように僕の咥内を貪った。

「んん、ぁ、も…っ」

 もうやめて、と言おうとするが言えずに、暫く口中を犯されて、解放された時には僕は荒く肩で息をして、くったりと幼馴染の胸にもたれた。

 幼馴染はご機嫌でぼくのものをズボン越しに撫でた。

 僕の肩がびくりと揺れて、止めようと腕を掴むと、幼馴染はまた僕の唇を塞ぐ。

 そのうちに幼馴染の腕を掴んでいた僕の手はベッドの上に滑り落ちた。

 撫で擦るだけだった幼馴染の手が、僕のズボンと下履きを下ろすと、勃ち上がっているものを掴んだ。

 びくっと身体を揺らす僕に、「大丈夫、優しくしてやるから」と声をかけて、先週と同じ調子で、緩やかに、緩慢と思えるほどの手つきで僕を導いた。

 幼馴染からもたらされる快楽を知っている僕は、特別な抵抗もなく彼にされるがままに、あ、とか、ん、とか、意味を成さない声を小さくあげながら、彼に身を任せた。







 やはり彼は僕を高みにつれていくだけでそれ以上のことはしなかった。

 自分でするよりも数倍気持ちいいこの行為は、僕の思考をぼんやりと曇らせた。

「なあ、付き合ったらもっと優しくしてやるって」

「んんー…それより、オムライス…」

「あ˝ー、そういう感じな。作ってやるから付き合え」

「………」

「寝たのか?寝たふりか?本当ムカつくわ、お前」
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