ヤンデレだらけの短編集

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デルフィニウム

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「ねえねえ、クラスの親睦会?今度の日曜日に決まったけど…どうする?」

 幼馴染の家でゴロゴロとくつろぐ夏休みのある日。

 僕は昨日のクラスのグループラインを眺めながらそう言って、ちらりと幼馴染の顔を伺った。

「…どうするって、親睦会に行くかって聞いてるのか?」

 幼馴染は緩く口元に笑みを浮かべているが、これは不機嫌な時の笑い方だ。

 親睦会には、行かない方がいいらしい。

「その日、俺との約束の方が先だったよなあ?俺より、クラスのことを優先するつもりか?」

 あくまでもにこにことして幼馴染が言うので、うっかり頷いてしまいそうになるが、これは罠だ。

 頷いたが最後、笑顔は一瞬にして消え去り、容赦のない暴力が降ってくる。

「ううん、あの、行かないよね、っていう、確認だから…」

 体格に見合って、大きく骨ばっている彼の拳に与えられる痛みを思い出して、僕は曖昧に笑ってからスマホをテーブルに置いた。

 あまりスマホを弄っているのも、彼の機嫌を損ねるので危険だ。

 雰囲気を悪くしてしまったことに委縮して、体育座りをした僕の尻に敷かれている座布団の隅から出ている紐を引っ張りながら会話を辞めた。

 幼馴染も、今のことは気にしないで宿題の続きをやればいい。

 しかし、そんな僕の思いも空しく幼馴染はテーブルの向かい側に座っていたのに立ち上がって、僕の後ろに回り込んだ。

 幼馴染は脚を開いて座り、その間に僕を入れたので、僕は彼の胸に背中を凭れ掛けた。

 僕のお腹に彼の腕が回って、抱きしめられる形になる。

 8月の後半に差し掛かっているとはいえ、まだまだ昼間は暑い。

 冷房が効いていなかったら耐えられなかったな、と思いながら、幼馴染のやりたいようにさせる。

 僕の家のクーラーは壊れているから、彼の機嫌を損ねて追い出されてしまうと困る。

「あ˝ー、苛々する、何で俺といるのにクラスの話なんかするんだ?」

 行きたいなら勝手に行けよ、と幼馴染は行かせるつもりもないくせにそんなことを言う。

 僕はお腹に巻き付いている幼馴染の筋肉質な腕を宥める様に撫でた。

「ごめん、わざと言ったんじゃなくって…」

「わざとだったらとっくにぶん殴ってる」

 幼馴染が僕の首に顔を埋めて喋るので息が当たって擽ったい。

 僕は少し身を捩ったが、咎めるようにがぶりと首元を噛まれたので大人しくすることにした。

 噛むといってもあくまで甘噛みで、歯形が少しの間残る程度の力でがぶがぶと数回繰り返される。

「あ、あんまり、噛まない、で。血が出るまでする、のは、やめてね」

 怖々と幼馴染にそう声を掛ける。

 以前、僕が制止しなかったときに彼は段々と力を込めて、血が滲むまで止めなかったことがある。

 ただ大人しくされるがままでいたらいいというわけではなく、彼は何かしら僕が反応しないと気を悪くするのだ。

 幼馴染の機嫌が早く良くなるように、なでなでと巻かれた腕を擦っていると、彼の噛む力は段々と弱まって、最後には、唇を押し当てるばかりになった。

 ひとまず安心だが、ここで気を抜くべきではない。

 ぽんぽんと一定のリズムで、腕を優しく撫でる。

 そのうち幼馴染の腕の力は弱まり、僕は彼の腕から抜け出せる程度になった。

 僕はくるりと体の向きを変えて幼馴染と向き合ううに座り直した。

 自分の脚を幼馴染の腰に巻き付かせて密着して隙間なく抱き着く。

 背中に腕を回して硬い胸板に頬を寄せる。こうすると幼馴染は大体落ち着いて、暴力をふるうことはなくなるのだ。

 彼の股間のものが硬くて、ごり、と僕のに押し付けられるのは多少恐怖ではあるのだが、これ以上のことをされないのであれば問題はない、と、思う。

 耳の外郭をはむ、と幼馴染の唇に挟まれるのを気にしないようにしつつ、僕は彼の気を逸らして落ち着かせようと話しかけた。

「えええと、日曜、楽しみだね、お泊り」

 ちゅ、と吸われてぴくりと肩が跳ねるが、ここで動揺してはいけない。

 僕は深呼吸をして自分を落ち着かせて、幼馴染の背中をそうっと撫でた。

「ご飯、何作るの?僕も、何か手伝った方がいい?」

  答えなんて分かりきっているのだが、質問を重ねる。

「お前が、食べたいやつ。何もするな」

 このやりとりはお泊りが決まると必ず毎回するもので、もはやわざわざ尋ねる必要もないのだが、この質問をすれば彼はどんなに機嫌が悪くても必ず返してくれる。

 そうして彼は、僕からこう言われると多少危うい場面になっていても自分にブレーキをかけてくれるのだ。

「いつも美味しい料理作ってくれて、ありがとう…出来れば、毎日食べたいくらい、好き」

 幼馴染は、はああ、と細く長いため息を吐くと、僕を抱く腕に力を込めた。

「だから、それならもうウチに住めって言ってるだろ…」

「そうしたいけど、親が納得しないから」

 ああもう、と幼馴染は呟いて、僕を抱えて立ち上がった。

 途端に高くなった視界に、慌てて彼の首に腕を回す。

 幼馴染はベッドに僕を寝かせると、首に巻き付いている腕を解いた。

 どういうことだろうかと頭の中で疑問符を飛ばす僕に、幼馴染は言った。

「なあ、お前には、俺だけだって証拠をよこせよ…頭がおかしくなりそうだ」

 携帯も全部見せているし、電話帳には幼馴染と両親しか登録されていない。

 暇つぶしのアプリをインストールすることにだって彼の許可を取っているのに、僕はこれ以上何をすればいいのだろうか。

 僕は、チラリと幼馴染の下半身を覗き見た。

 硬く張り詰めてズボンを押し上げているそれに、ぎくりと身体が強張る。

 視線に気づいたらしい幼馴染は、にやりと不遜に笑って僕を見下ろした。

 僕はぶんぶんと首を振る。

「む、無理、無理だよ。絶対に無理。痛いのとか、僕、だめだから」

「別に、嫌がることはしねえよ」

 そう言うと幼馴染は、僕の唇を、彼の唇で塞いだ。

 やめてくれ、と声を上げようと口を開けば舌が入ってくる。

 ぬるりと暖かいものが歯列をなぞり、上あごをちろりと往復して舐められると、くすぐったいようなむず痒いような変な心地がして、息が上手く出来なくなった。

「んっ、ふ、ぁ…っ、」

 その間に僕が来ていたTシャツは胸まで捲り上げられていて、幼馴染の少しかさついた手が僕のわき腹を触れるか触れないかくらいでするりと撫でた。

 その手は段々と下に移動していって、ズボンに潜り、下履きの中にまで侵入を果たすと、頭をもたげているものを見つけ出して、きゅっと掴んだ。

 僕が身体を大きくびくつかせると、幼馴染はやっと口を離してくれた。

「ぁ、だめ、だめ、手、やめてぇ」

「キスだけでこんなにしてんだ」

 幼馴染はどこか機嫌良さげに言うと、ゆるりと手を上下に動かし始めた。

「んう、あ、ぁっ」

 その手は存外優しくて、ゆっくりと高められる感覚は穏やかな気持ちよさでさえあった。

「そうやって俺だけ見てたら、ちゃんと、優しくしてやるから」







 そう言った通りに、幼馴染は優しく、ふわふわとした夢の中にいるみたいに僕を導いて、そのあとは射精後の疲れに微睡む僕の身体を綺麗にしてくれた。

 犯されるかと思ってしまった自分が恥ずかしい。

 幼馴染は、嫌がることはしないと言ったのを、律儀に守ってくれたのだ。

 僕は、うつらうつらと夕方の優しい日差しに包まれながら、幼馴染の言葉を聞いていた。

「優しくしてやるから、付き合うって言えよ」

「んんう…それは、ちょっと…」

「あ˝ー、もう、本当ムカつくわ、お前」






デルフィニウム:傲慢
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