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俺たちはハッピーエンド
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あの日、俺たちが雨と土砂と共に失ってしまった村は酷く懐かしくて、美しかった。
すっかり日の落ちてしまった身体と夜の空気とぬるい河と区別もつかないような暗闇の中で、俺たちはぱちゃりと小さなしぶきをあげながら深い方へと歩く。
ああ、そうだ。俺たちはずっと、こうしてふたりきり、呑み込まれてしまいたかったのだ。
夜闇が昏く俺たちを塗り潰す。水面も、俺たちも黒く境界を失って一つの塊になる。
俺たちはずっと、一つの個体に還りたかった。
「ずっとずっと好きだよ。いつまでも好きだ」
「いつまでも俺たちは俺たちの所有だ」
くすくすと、ささやかな息をこぼして秘めやかに笑い合う。互いの呼気が耳をくすぐる。頬を押し付け合う。ゆるやかなぬるい河の中に包まれて、いつまでもどこまでも揺蕩う。
身体中に幸福が満ち満ちて、幸福な身体を絡めて、押し付け合って、幸福の純度が二人同一なことを、均質なことを確かめ合う。それは俺たちにとって当然だけれど確かめ合わずにはいられないことだった。
俺だけの神さま。俺だけの子ども。
くすくす、くすくすと秘め事を共有した幼い兄弟のように息を多分に含んだ笑みをこぼして強く強く抱き合った。背中に回された手のひらの大きさや形を、熱を、俺たちが生きてきた痛みを、俺たちだけが知っていて、そして永久に失われることはない。
それは幸福だった。過ぎた幸福だ、と思った。
名を呼び合えなかった俺たちが。その名を認められなかった、存在することができなかった者たちが、確かに一対に共にいられるということ。
「幸福だったな、俺たちは」
「夢物語みたいに幸福だった」
「いつまでもいつまでも」
眼球に薄く涙の膜が張って、ぼと、と溢れるように落ちて頬を伝った。ぬるく、甘い。
唇を合わせて、ふやけた温度と味をくっつける。
呑まれる。
ぬるく、深く、黒い河。
やさしく穏やかに、正しく幸福な場所に還るように、呑まれる。
世界から弾き出されてふたりきり、俺たちはどこまでも、正しく共にあるのだった。
すっかり日の落ちてしまった身体と夜の空気とぬるい河と区別もつかないような暗闇の中で、俺たちはぱちゃりと小さなしぶきをあげながら深い方へと歩く。
ああ、そうだ。俺たちはずっと、こうしてふたりきり、呑み込まれてしまいたかったのだ。
夜闇が昏く俺たちを塗り潰す。水面も、俺たちも黒く境界を失って一つの塊になる。
俺たちはずっと、一つの個体に還りたかった。
「ずっとずっと好きだよ。いつまでも好きだ」
「いつまでも俺たちは俺たちの所有だ」
くすくすと、ささやかな息をこぼして秘めやかに笑い合う。互いの呼気が耳をくすぐる。頬を押し付け合う。ゆるやかなぬるい河の中に包まれて、いつまでもどこまでも揺蕩う。
身体中に幸福が満ち満ちて、幸福な身体を絡めて、押し付け合って、幸福の純度が二人同一なことを、均質なことを確かめ合う。それは俺たちにとって当然だけれど確かめ合わずにはいられないことだった。
俺だけの神さま。俺だけの子ども。
くすくす、くすくすと秘め事を共有した幼い兄弟のように息を多分に含んだ笑みをこぼして強く強く抱き合った。背中に回された手のひらの大きさや形を、熱を、俺たちが生きてきた痛みを、俺たちだけが知っていて、そして永久に失われることはない。
それは幸福だった。過ぎた幸福だ、と思った。
名を呼び合えなかった俺たちが。その名を認められなかった、存在することができなかった者たちが、確かに一対に共にいられるということ。
「幸福だったな、俺たちは」
「夢物語みたいに幸福だった」
「いつまでもいつまでも」
眼球に薄く涙の膜が張って、ぼと、と溢れるように落ちて頬を伝った。ぬるく、甘い。
唇を合わせて、ふやけた温度と味をくっつける。
呑まれる。
ぬるく、深く、黒い河。
やさしく穏やかに、正しく幸福な場所に還るように、呑まれる。
世界から弾き出されてふたりきり、俺たちはどこまでも、正しく共にあるのだった。
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本当に好き
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Yさん 最後までお付き合いいただいてありがとうございました!
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