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意地悪陰険腹黒ダリルの告白 - 3
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ルクレーシャ。
彼女はおっとりのんびりしていて、そしてどこか間抜けな少女だった。
ルクレーシャの格好はいつも変わらない。フリルのついた白いシャツに赤いスカート、そして高い位置でひとつに結わえた髪。彼女は己のふわふわした髪をまとめるのが苦手なようで、結ばれた髪は大抵中心からずれていたり、リボンが解けそうになっていた。
ダリルはルクレーシャを放っておくことができなかった。いつもぼんやりとしている彼女は、自分の身嗜みに気を遣うことをしない。上着を裏表逆に羽織っていたり、シャツのボタンを掛け違えていたり、前髪にひどい寝癖をつけたまま教室にやってくる。ダリルはちょっかいを出しながらも、そっと彼女の見た目を整えてやるのだった。
「ルクス、お前はいつも野暮ったい格好をしているな。他の服は着ないのか?」
「う、うん。服を買うお金がないし、他に何を着たらいいのか分からなくて……」
ルクレーシャは恥ずかしそうにもじもじと指を組んだ。
母親が用意してくれた数枚のシャツと花で染めたスカート以外は、特に服を持っていないのだという。ダリルはにんまりと笑い、隣に座るルクレーシャの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。
「よし、それなら俺様がお前の服を用意してやろう!」
「えっ、ダリルくんが?」
「ああそうだ、お前に似合う服を千枚見繕ってやる! だから寮暮らしなんてやめて、すぐ俺様の家に来い! 貧乏人のお前には勿体ないくらいの、華やかなドレスを着せてやるぞ。女はそういうのが好きだろう?」
胸を張るダリルをちらと見上げ、ルクレーシャはゆっくり首を横に振った。
「やだよ。ダリルくんのおうちに行ったらもっといじめられちゃう」
「虐めない!」
「嘘だよ。絶対いじめるに決まってる。今だってわたしの頭をぐしゃぐしゃにしたじゃない。うぅ、髪の毛結ぶの大変だったのに……」
大体、お貴族様のドレスなんか着たくないよ。そう言いながらルクレーシャはじりじりとダリルから離れた。
怯えた顔をして自分から距離を取る少女が気に入らない。ダリルはぎっとルクレーシャを睨み、彼女の細い腕を力強く握った。
「馬鹿ルクス! お前は本っ当に俺様の言うことを聞かないな! 贅沢な暮らしをさせてやると言っているのに! いいか、お前は大人しく俺様の言う通りにすればいいんだ。来いったら来い!」
「や、やだっ! ダリルくんのおうちには行かないもん! 放してよ、ダリルくんみたいな意地悪な男の子は嫌い!」
「ぐっ……」
ダリルは思わず胸を押さえた。
ルクレーシャから「嫌い」と言われる度、胸に鋭い痛みが走り抜ける。目に力を入れなければ涙が溢れてしまいそうだ。鼻がつんとするのを我慢しながら、ダリルはそっぽを向く少女の頬をむにむにと抓った。
「こんのっ、生意気ルクレーシャ! 俺様のことを嫌うなと昨日言ったばかりだろ! 言うことを聞かない平民はこうしてやる!」
「やだっ、嫌い。強引で怖いお貴族様なんか大嫌い! ふえっ、わたひのほっぺ伸ばひゃないで。いひゃい」
大きな桃色の目が潤む。
ぐすぐすと泣き始めた少女を見下ろし、ダリルは罪悪感に唇を噛んだ。
(ま、また泣かせてしまった)
ルクレーシャと仲良くなりたいのに、どうも上手くいかない。
気弱な彼女を見ると何か言ってやりたくなるし、自分から逃げていくのが気に入らなくてつい乱暴に引き止めてしまう。「嫌い」と言われると頭が真っ白になって、もっと強引な態度を取ってしまうのだ。
こんなことをしてはまた泣かれてしまうのに。
自分はいったい何をしているのだろうか……。
「おい、泣き虫女。もう泣くな! ……ああもう、泣くなってば! 俺様が悪いみたいだろうが……」
啜り泣く少女の周りにクラスメイトが集まってくる。
責めるような視線を向けられながら、ダリルはもどかしさに溜息を吐いた。
*
ダリルは毎日ルクレーシャに話しかけた。逃げられても嫌われても、彼女にちょっかいを出すことは決して止めなかった。ルクレーシャとの関わりを持ち続けなければ、愛しい花の妖精が手の届かないところへ逃げてしまう気がしたからだ。
おっとりのんびりした田舎娘。
だがルクレーシャは、紛うことなき天才だった。
初めてのポーション調合講座。ダリルはルクレーシャの隣に陣取り、彼女の一挙一動に対して細かく口出しをした。
「ルクス。先生の話をきちんと聞いていたのか? 傷薬の調合は水属性の錬金材料を使うんだ。お前が手に取ったそれは火属性の材料だぞ」
「えっ、そうなの?」
大トカゲの尾を握りしめる少女を見つめ、ダリルはわざとらしく呆れた素振りをした。
「そうだ。そんな当たり前のことも知らずに、よく錬金術学校に入学できたな? お前は材料選定から間違えている。ほら、こっちでやり直せ。俺様が見ててやるから」
ダリルは材料箱から睡蓮の種を取り出し、ルクレーシャに差し出した。
「水属性の材料ならば、どんなものだって傷薬の調合に使えるが、不器用なお前は睡蓮の種を使うのが一番いいだろう。この材料は物質変化を起こしやすい。俺様の手をよく見ておけ、傷薬の調合はこうやるんだ」
乳鉢で材料を手早く潰し、塩と混ぜたものを火で炙る。材料の元素属性、そして薬効を事細かに伝えながらルクレーシャに調合の手順を教えてやる。幼い頃から材料図鑑を読み込んできたダリルの説明は詳しく、教師も感心するほど素晴らしいものだった。
「わああぁぁ……!」
少女の目がきらきらと輝く。
ダリルの器用な指の動きに、ルクレーシャは感嘆の声を上げて笑った。
「すごい、あっという間に傷薬ができちゃった! ダリルくんって色々なことを知ってるんだね!」
愛しの少女に褒められ、顔に熱が集まっていく。ダリルは内心大喜びをしながら、にやけ顔で咳払いをした。
「あっ、当たり前だ。俺様は天才なんだぞ? これくらい何てことない! ほら、次はお前の番だ。俺様の手本通り調合してみろ。まずは天秤で材料を量り――」
「あ、待って。それは要らないよ」
ダリルの言葉を遮り、ルクレーシャは天秤を机の上から退けた。何か言いたそうな少年を上目遣いで見つめ、再び材料箱からトカゲの尾を取り出す。
「せっかくやり方を教えてくれたのにごめん。でも、天秤なんか使わなくたって、何をどうすればいいかなんとなく分かるの。それに……やっぱりトカゲの尾っぽの方が馴染みがあるんだ。私の村にはこれくらいしかなかったから」
「まっ、待て! 火属性の材料じゃ、絶対に水属性の傷薬は作れないんだ! 俺様の言うことを聞けルクス!」
「作れるよ。私ね、擦り傷を作った時はいつもこうしてきたんだ」
ルクレーシャは分量を量ることもせず、錬金鍋に大トカゲの尾を放り入れた。そして鍋に両手をかざし、己の魔力を収束させていく。彼女は怒る少年を見つめ、優しく微笑んだ。
「見てて、ダリルくん。こんなやり方だってあるんだよ」
ダリルはルクレーシャが纏う桜の花びらのような魔力が、彼女の掌からぶわりと放たれるのを見た。
「っ!?」
ダリルの目に信じられない光景が映る。
あまりの驚きに、彼は息を呑むことしかできなかった。
錬金鍋が神々しく光り輝く。ルクレーシャの魔力が、大トカゲの尾に不可逆的な変化をもたらす。錬金材料が魔力によって分解され、再構成され、他の物質へと形を変える。
数秒の後、鍋の中は黄金色の液体で満たされていた。
「っ……、は?」
ダリルは目を瞬き、鍋の中の液体が何なのか見極めようとした。
粘度、色、そして傷薬特有のにおい。何度観察しても、鍋の中の液体は傷薬と同じように見える。しかも、ルクレーシャが作り出したそれは、自分のものよりも数倍品質がいいように思われた。
「おまえ、何をした? こんなのあり得ないだろ……」
あり得ない。
ダリルは何度もそう口にした。
錬金術に対する深い知識を持つダリルからすれば、ルクレーシャがやってのけたことは本当に「あり得ない」ことだったからだ。
火、水、土、風。この世界の物質は、四つの元素・属性に分けられる。ある元素を異なる元素に作り変えることはできず、水属性の物質の調合に対し、火属性の材料を決して用いてはならない。
それが、錬金術における不変の制約。
その制約を破れば物質のバランスが崩壊し、必ず調合が失敗してしまう……それは、錬金術的な禁忌としてよく知られた話だった。
だがルクレーシャは、その二つの制約を乗り越えた。己の魔力によってある元素を別の元素に作り変えつつ、火属性の材料から水属性の薬を作り出してみせた。
この世界のルールを無視した、無法ともいえる調合のやり方。周囲から驚嘆の声を浴びせられる少女を、ダリルは呆然と見つめた。
(……ルクレーシャ。お前が、実技試験で俺様に勝った理由がようやく分かった)
調合に必要な材料や道具を使わず、魔力で全てを解決する。天秤も水晶フラスコも、錬金炉も使わない。膨大な魔力を滲ませる華奢な体、その肉体こそが万物を揃えた工房なのだと言わんばかりに、彼女は軽々と奇跡を起こした。
生ける錬金釜。
賢者の石の赤い輝きと、ルクレーシャが放つ魔力の光が再び重なっていく。
(この女は、世界を変える力を持っている)
ダリルは未知に触れた喜びと、それを上回る悔しさにおかしくなりそうだった。錬金術の腕を磨き続けてきた自分が、材料の属性も分からない田舎娘に負けたことが信じられない。今までの必死の努力が無に帰した気がして、ダリルは初めて強烈な劣等感に苛まれた。
「お、おい。ルクス……」
ダリルの声が周囲のざわめきにかき消される。ルクレーシャは少年の声掛けに気付かず、教師に招かれるまま前に進んでいく。
ルクレーシャ、君は天才だ。今日の授業は君が一位だ!
そう称賛されてはにかむ少女を、彼は暗い目で見据えた。
悔しい。妬ましい。自分に構ってくれないルクレーシャが苛立たしい。恥ずかしそうに俯くルクレーシャは、もう自分のことなど見ていない。
彼女はいつか、自分を置いて遥か高みへと行ってしまうだろう……。
(やめてくれ。俺様を無視するな、ルクス!)
ルクレーシャに見てもらえない。
ダリルには、それが許せなかった。
自分を徹底的に打ちのめした女。ルクレーシャに見てもらうためにはどうすればいい? 彼女に笑顔を向けてもらうには何をすればいいだろうか……。
――ダリルくんって色々なことを知ってるんだね!
ルクレーシャに勝てば、彼女は再び自分を見てくれるだろうか?
(もう一度、あんな風に褒めてもらいたい)
ぎゅっと拳を握りしめる。
ダリルはその日、何としてもルクレーシャに勝つと決心した。
*
それからというもの、ダリルはルクレーシャに勝負を仕掛けるようになった。
月に一度の定期試験が行われる度、どちらの成績が上なのか競おうじゃないかと誘いをかける。ダリルは「負けた方は勝った方の言う事を一ヶ月間何でも聞く」というルールを課し、ルクレーシャを執拗に煽り立てた。
「おいルクス、今月も勝負するぞ! 俺様が勝ったらお前は俺様の家に来る、お前が勝ったら俺様の家に遊びに行く! どうだ、フェアな条件だろ。正々堂々勝負をしようじゃないか!」
「なあにそれ、私にいいことないじゃない。勝っても負けてもダリルくんの家に行かなくちゃいけないなんて、そんなのやだよ」
「嫌だと? なんて失礼な奴なんだ。誰よりも格好良くて美しい俺様の家に来れるんだぞ、この上なく喜ばしいことだろうが。平伏して感謝するがいい!」
「もう、どうしてそんなに偉そうなの? その言い方が嫌だって前から言ってるでしょ」
ルクレーシャはきゅっと眉を寄せてダリルを睨んだ。
当初、気弱なルクレーシャはダリルと勝負することを望まなかったが、あまりにもしつこくダリルが挑発するせいで、段々と意地を見せるようになった。反抗心の芽生え。おっとりのんびりしていた少女は、ダリルに煽り立てられるうちにどんどん饒舌になっていった。
「ねえ、どうしてそんなに私と勝負したがるの? ダリルくんは貧乏人の私が気に入らないんでしょ。私なんかに構ってないで、他の子と仲良くすればいいじゃない」
「ふっ、無知蒙昧な田舎女が落第しないようにという俺様の計らいだ。四元素四性質の概念も知らず、調合で一度も天秤を使わない。お前のようながさつ女を放っておける訳がないだろう!」
「放っておいてくれていいよ。それともなに? ダリルくんって私以外に話す子いないの?」
「ち、違う! ……おまえ、結構生意気になったな」
ルクレーシャの頬をむにむにとつつき、ダリルはにやけ顔で彼女に囁いた。
「ところでルクス、魔法式のテストで零点を取ったそうじゃないか。先生が嘆いていたぞ」
「うっ」
ぎくりとしたルクレーシャを見下ろし、ダリルは早口で彼女を焚きつけた。
「ははっ、零点。ゼロなんて、取ろうとしても取れない点数だぞ! そんな悲惨な成績じゃ、お前は一生かかっても俺様には追いつけないな! ま、お前が頭を下げるなら、俺様が魔法式の解き方を教えてやってもいいが」
「だ、ダリルくんなんかに頼らなくたって大丈夫だもん……」
「ほんとかぁ? お前、先生に雷を落とされたくなくて泣いてただろ。俺様の指導は分かりやすいぞ。大人しく頼っておいた方がいいんじゃないか?」
ダリルは己の黒髪をさらりとなびかせた。
「お前が何度しくじろうと、天才の俺様が最後まで面倒を見てやるさ。精々努力して、その小さな頭に解法を叩き込んでみればいい。ああ、礼は要らないぞ。魔力バカのお前がうんうん唸っているのを見るのは楽しいからな」
「ま、魔力バカ!? うぅぅ、好き勝手言ってくれちゃってぇ……!」
ルクレーシャはダリルの胸ぐらを勢いよく掴んだ。
「これ以上ねちねち言われるのはいや! 次の試験こそ、絶対に私が勝ってやるんだから!」
入学から半年。ふたりの関係はすっかりライバルと呼べるものになっていた。少年と少女は言い争い、取っ組み合い、時には一緒に勉強しながら日々を過ごした。
座学試験首位のダリルと、実技試験首位のルクレーシャ。ふたりの総合的な点数は拮抗し、中々勝敗が決まらない。やきもきしたダリルは、日々の授業でもルクレーシャに勝負を持ちかけた。
「やーい、のろま女! そんなスピードじゃ俺様は捕まえられないぞ! そらっ、もう一点!」
スライムボール投げの授業。箒にまたがったダリルは、凄まじいスピードでゴールネットに突っ込んだ。守備のルクレーシャを翻弄しながら、ネットに勢いよくスライムボールを叩きつける。悔しそうに顔を歪める少女を見下ろし、彼はにんまりと笑った。
「あっ!? まっ、また入れられた! ちょっとダリルくん、少しは手加減してよ!」
「手加減だと? 何をふざけたことを言ってるんだ! ライバル相手に手加減なんかする訳ないだろ、悔しかったら俺様のボールを叩き落としてみろ!」
「きゃっ!?」
桃色の髪を引っ掴み、髪留めのリボンをしゅるりと解く。
驚きの声を上げて自分を見つめるルクレーシャに、ダリルは恍惚とした気持ちを抱いた。
「無様だなルクス、俺様にしてやられるばかりじゃないか! 隙ありっ、もう一点! この勝負は俺様が貰ったぞ……!」
「ま、まってっ。私のリボン返してよ!」
「あはははっ、断る! へなちょこルクスめ、悔しかったらここまで追いかけてこい! どうせお前には無理だろうがな」
「馬鹿にしないでっ、私だってやればできるんだから!」
ルクレーシャが叫ぶ。
ダリルは自分を射抜く桃色の目に、ぞくぞくするような歓喜を覚えた。
(ああ、ルクスが俺を見てくれている……!)
自分を真っ直ぐに睨みつける少女。愛しい彼女の目には、自分だけが映っている。
嬉しい。可愛い。そんな風にずっと自分だけを見てほしい……。ルクレーシャの刺すような視線は、少年の心に背徳的な甘さを残した。
「待ちなさいよっ、絶対に逃さない!」
ルクレーシャが懸命に後を追ってくる。だが彼女は箒の操縦に随分と苦労をしているようで、ぐねぐねと暴れ回る柄を握り締めながら困り顔をした。
「ああもう、言うこと聞いてっ、こんな時に暴れることないでしょ!?」
「ぷふっ、くふふふ……。雑魚ルクス、お前が作った箒は随分とじゃじゃ馬だな! 作り主そっくりだ」
「うぅっ、うるさい!」
「それにその箒はとっても不格好だ。箒なのか斧なのか分からない形をしてるじゃないか。そんな箒に乗ってちゃ、俺様には一生敵わないな!」
ダリルは高笑いし、ルクレーシャから奪った髪留めのリボンをひらひらとなびかせた。少女の目の前で飛び回り、わざと緩やかな動きをして挑発する。
近づいてきたルクレーシャのスカートをめくりあげ、ダリルは赤らんだ顔で笑った。
「ははっ、色気のない下着」
「やっ!? きゃっ――きゃあああああああああああっ!!」
ルクレーシャが甲高い悲鳴を上げる。聞いたことのない彼女の悲鳴に、ダリルは胸の奥底が撫でくすぐられるような感じがした。
からかいの延長線のつもりだったスカートめくり。露わになった白く瑞々しい太腿に、未知の衝動が込み上げる。ダリルはルクレーシャの秘密を破った仄暗い喜びに口角を上げたが、その直後、頬に平手を叩き込まれた。
「ぶえっ!?」
「最っ低……。さいってー!! なに考えてんの? 何考えてんの!! 女の子のスカートをめくるなんて!」
ルクレーシャは震えながらダリルに怒鳴った。彼女の見開かれた目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちていく。事の重大さを思い知ったダリルは、叩かれた頬を押さえながら慌ててルクレーシャに謝った。
「わっ……悪かった。泣かせるつもりはなかったんだ」
「うあああっ……! ひどいっ、こんなのひどいよぉっ……」
「ごめん、ルクス! 本当にごめんな……」
ダリルがどれだけ謝ってもルクレーシャの涙は止まらない。彼女はダリルからじりじりと距離を取った後、大泣きしながらフィールドの向こうに飛び去ってしまった。
「ダリルくんのばか!! ダリルくんなんて嫌いっ、大嫌い、大大大大っっ嫌い! もう二度と私に近づかないで!!」
拒絶の声が遠ざかっていく。
ひとり残されたダリルは、呆然とルクレーシャの後ろ姿を見つめた。
(や、やってしまった)
嫌い。嫌い。大嫌い……。その言葉が脳内に反響する。
ルクレーシャに強く拒絶され、ダリルは胸がひしげるのを感じた。
(もう、終わりだ。二度と近づかないでとまで言われてしまった……。なんてことだ。俺様は徹底的に嫌われてしまったんだ……! ああ、儚い初恋だったな)
もう何をする気も起きない。
ショックのあまり箒を操縦できなくなったダリルは、ふらふらと地面に落ちた。
魂が抜けた様子で着地した彼の周りに、クラスメイトたちが集まってくる。
「おい、おいダリル! いくら何でもあれはだめだって! 女のスカートをめくるのは絶対やっちゃいけないって、母ちゃんに教わらなかったのか!?」
「うるさい。下民が気安く話しかけるな。今、お前らの相手をする気にはなれないんだ……」
ダリルが鼻を啜りながら呟くと、クラスメイトたちは呆れ笑いを溢した。
「そう高慢になるのはやめろよ。口を出すつもりはなかったけどさ、いつまでもそんな態度を取ってちゃ一生レーシャに許してもらえないぜ! お前、あいつのことが好きで仕方ないんだろ?」
「なっ!? なっ、ななな、なぜ分かった!?」
慌てふためくダリルにくすくすと笑い声が上がる。クラスメイトたちは顔を見合わせ、面白そうに彼の真っ赤な顔を指差した。
「そりゃあ、な? 分かるだろ。レーシャの尻を追っかけてる時のお前、すっごくでれでれしてるし。あいつにはちっとも伝わってねえみたいだけどさ」
「やっ、やめろ。笑うな! 俺様をからかうんじゃない! そうやって集団でからかうのは良くないぞ!!」
「あははははははっ! ダリル、お前っておもしれー奴だな!」
大笑いしたクラスメイトは、ダリルの手にスライムボールを握らせた。
「ほら、俺達と勝負続行しようぜ。高慢なお貴族様に、庶民の態度ってもんを教えてやるよ」
「庶民の態度?」
「ああ。あいつと仲良くなるための振る舞い方さ。『俺様』とか『お前』なんて上から目線の言い方はやめて、レーシャのことは『君』って呼べよ。その方が、あいつとも俺達とも上手くやっていける」
ダリルはクラスメイトに導かれ、高く高く浮かび上がった。
再び試合が始まる。クラスの男子たちと行う全力のスライムボール投げは、ダリルにとって非常に面白いものだった。
豊かな自然の中で誰かと思い切り遊びたい。鬱屈した生活の中で抱え続けてきたその願いが、今ここで叶っている……。クラスメイトたちとすっかり打ち解けたダリルは、胸が晴れるような解放感を味わっていた。
(楽しい……社交界よりも遥かに楽しい! 同い年の奴らと遊ぶことがこんなにも楽しいなんて! ああ、この学校に来て本当に良かった!)
笑顔でスライムボール投げに興じていたダリルは、ふと校舎から視線を感じた。
ルクレーシャが、窓越しにじっと自分を見つめている。
(ルクス?)
窓に手をつけ、フィールドを飛び回る自分をきらきらとした目で見つめている。純粋で真っ直ぐなその視線に、ダリルは胸が切なく跳ねるのを感じた。
(そんな風に俺を見るなら、近くに来てくれたらいいのに)
酷いことをして嫌われてしまったが、どんなに拒絶されてもルクレーシャへの恋は諦められない。明日、新しいリボンをプレゼントして仲直りしよう……。
ダリルがそう考えていた時、別クラスの女子生徒が彼に向けて黄色い声を上げた。
「ダリルくーん! こっち向いてー!!」
甲高い声を浴びせられるのはいつものことだ。仕方なく、笑みを浮かべながら声のする方向に手を振ってやる。ダリルにとってそれは単なる習慣だったが、彼が女子生徒に手を振るのを見ていたルクレーシャは、怒った顔をして窓から離れてしまった。
「あっ……」
ルクレーシャの姿が消える。
ダリルは自分を見てくれなくなった彼女に寂しさを覚えた。
それからというもの、ダリルはルクレーシャの視線を感じることが多くなった。
彼女は図書室で勉強している時や、スライムボール投げをしている時、窓越しにじっと見つめてくる。声を掛ければ驚いた様子で逃げ、他の女子生徒と話せばむっとした顔で去っていく。
理由の分からないその行動にダリルは苛々し、余計にルクレーシャを虐めるのだった。
*
「ダリル、見合いのことだが」
夕食の後。父親に呼びつけられたダリルは、ぶんぶんと首を横に振った。
「嫌です、ルクス以外とは絶対に結婚しません!」
「はぁ……お前はまだそんなことを言うのか」
ダリルの父は溜息を吐いた。彼の机の上には、息子と同じくらいの令嬢の写真がずらりと並べられている。見目良い令嬢の写真を渡しても、ダリルは頑として受け取らない。聞き分けのない少年の態度に、父親は苛立たしそうにとんとんと机を叩いた。
「ダリル、聞け。お前の社交界デビューを通常よりも早め、数々の令嬢と顔合わせをさせたのは、将来を共にする女性を落ち着いて選んでほしいと思ったからだ。もうお前も十二歳、そろそろ未来のことを考えねばなるまい。どの令嬢も家柄、見目、成績は申し分ないだろう。いったい何が不満なんだ?」
「その写真の中にルクスがいないことです」
「ダリル!」
父親の怒鳴り声にびくりと肩を震わせながらも、ダリルは真っ直ぐに彼を見つめた。
頑固な息子の態度に溜息が漏れる。ダリルの父親は、部屋の隅に控える老執事に目を遣った。
「彼から聞いているぞ。お前は毎日その女の子を泣かせているらしいな。ルクス、ルクスと。それだけ熱を上げるなら両想いなのかと思いきや、お前は彼女から嫌われているそうじゃないか?」
「ぐっ」
「しかも、入学の儀でレディの髪を引っ張ったと。紳士にあるまじき、恥ずべき行いだ。父さんも母さんも、お前をそんな風に育てた覚えはないぞ」
「…………」
「常々言っているだろう、我々の世界では第一印象が全てなのだと。お前はもう、彼女に好きになってはもらえない。諦めてパーティーに出なさい。そこで将来の妻を探すんだ」
「いっ、いやだ! ルクスしか考えられないのです! 彼女こそ運命の女性なんだ、一緒に生きるならルクスがいい!」
ダリルは必死な顔で父親に食らいついた。
涙を滲ませる黒の目が、机の上のともしびを反射してきらきらと輝く。悲痛を滲ませる少年の顔をじっと見つめ、ダリルの父親はゆっくりと言い聞かせた。
「ダリル、分かっているだろう。お前とその子は身分が違う。お前がいくら彼女のことが好きでも、結婚を許す訳にはいかないんだ」
「嫌、だ。ルクレーシャと結ばれない世界なんて、そんなの要らないっ……!」
泣くのを堪えていたダリルは、とうとうぼろりと涙を溢れさせた。父親の制止も聞かず、急いで部屋を出る。
残されたダリルの父親は、息子の泣き顔を反芻しながら溜息を吐いた。
「はあ……参ったな。ダリルがあれほど反抗するとは」
くすくすと笑い声が聞こえる。
代わりに部屋に入ってきたダリルの母は、頭を抱える夫を見て優雅に笑った。
「うふふっ。身分が違うだなんて、よくあの子に言えたわね。あなたは身分違いのわたくしを、無理やりな方法で手にいれたじゃない。ねえ、成り上がりさん?」
「……メリル、それは言うな」
「あの子、諦めないと思うわよ。だってあなたに似てるから」
目を背ける夫を見下ろし、彼女は上品な笑い声を溢した。
彼女はおっとりのんびりしていて、そしてどこか間抜けな少女だった。
ルクレーシャの格好はいつも変わらない。フリルのついた白いシャツに赤いスカート、そして高い位置でひとつに結わえた髪。彼女は己のふわふわした髪をまとめるのが苦手なようで、結ばれた髪は大抵中心からずれていたり、リボンが解けそうになっていた。
ダリルはルクレーシャを放っておくことができなかった。いつもぼんやりとしている彼女は、自分の身嗜みに気を遣うことをしない。上着を裏表逆に羽織っていたり、シャツのボタンを掛け違えていたり、前髪にひどい寝癖をつけたまま教室にやってくる。ダリルはちょっかいを出しながらも、そっと彼女の見た目を整えてやるのだった。
「ルクス、お前はいつも野暮ったい格好をしているな。他の服は着ないのか?」
「う、うん。服を買うお金がないし、他に何を着たらいいのか分からなくて……」
ルクレーシャは恥ずかしそうにもじもじと指を組んだ。
母親が用意してくれた数枚のシャツと花で染めたスカート以外は、特に服を持っていないのだという。ダリルはにんまりと笑い、隣に座るルクレーシャの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。
「よし、それなら俺様がお前の服を用意してやろう!」
「えっ、ダリルくんが?」
「ああそうだ、お前に似合う服を千枚見繕ってやる! だから寮暮らしなんてやめて、すぐ俺様の家に来い! 貧乏人のお前には勿体ないくらいの、華やかなドレスを着せてやるぞ。女はそういうのが好きだろう?」
胸を張るダリルをちらと見上げ、ルクレーシャはゆっくり首を横に振った。
「やだよ。ダリルくんのおうちに行ったらもっといじめられちゃう」
「虐めない!」
「嘘だよ。絶対いじめるに決まってる。今だってわたしの頭をぐしゃぐしゃにしたじゃない。うぅ、髪の毛結ぶの大変だったのに……」
大体、お貴族様のドレスなんか着たくないよ。そう言いながらルクレーシャはじりじりとダリルから離れた。
怯えた顔をして自分から距離を取る少女が気に入らない。ダリルはぎっとルクレーシャを睨み、彼女の細い腕を力強く握った。
「馬鹿ルクス! お前は本っ当に俺様の言うことを聞かないな! 贅沢な暮らしをさせてやると言っているのに! いいか、お前は大人しく俺様の言う通りにすればいいんだ。来いったら来い!」
「や、やだっ! ダリルくんのおうちには行かないもん! 放してよ、ダリルくんみたいな意地悪な男の子は嫌い!」
「ぐっ……」
ダリルは思わず胸を押さえた。
ルクレーシャから「嫌い」と言われる度、胸に鋭い痛みが走り抜ける。目に力を入れなければ涙が溢れてしまいそうだ。鼻がつんとするのを我慢しながら、ダリルはそっぽを向く少女の頬をむにむにと抓った。
「こんのっ、生意気ルクレーシャ! 俺様のことを嫌うなと昨日言ったばかりだろ! 言うことを聞かない平民はこうしてやる!」
「やだっ、嫌い。強引で怖いお貴族様なんか大嫌い! ふえっ、わたひのほっぺ伸ばひゃないで。いひゃい」
大きな桃色の目が潤む。
ぐすぐすと泣き始めた少女を見下ろし、ダリルは罪悪感に唇を噛んだ。
(ま、また泣かせてしまった)
ルクレーシャと仲良くなりたいのに、どうも上手くいかない。
気弱な彼女を見ると何か言ってやりたくなるし、自分から逃げていくのが気に入らなくてつい乱暴に引き止めてしまう。「嫌い」と言われると頭が真っ白になって、もっと強引な態度を取ってしまうのだ。
こんなことをしてはまた泣かれてしまうのに。
自分はいったい何をしているのだろうか……。
「おい、泣き虫女。もう泣くな! ……ああもう、泣くなってば! 俺様が悪いみたいだろうが……」
啜り泣く少女の周りにクラスメイトが集まってくる。
責めるような視線を向けられながら、ダリルはもどかしさに溜息を吐いた。
*
ダリルは毎日ルクレーシャに話しかけた。逃げられても嫌われても、彼女にちょっかいを出すことは決して止めなかった。ルクレーシャとの関わりを持ち続けなければ、愛しい花の妖精が手の届かないところへ逃げてしまう気がしたからだ。
おっとりのんびりした田舎娘。
だがルクレーシャは、紛うことなき天才だった。
初めてのポーション調合講座。ダリルはルクレーシャの隣に陣取り、彼女の一挙一動に対して細かく口出しをした。
「ルクス。先生の話をきちんと聞いていたのか? 傷薬の調合は水属性の錬金材料を使うんだ。お前が手に取ったそれは火属性の材料だぞ」
「えっ、そうなの?」
大トカゲの尾を握りしめる少女を見つめ、ダリルはわざとらしく呆れた素振りをした。
「そうだ。そんな当たり前のことも知らずに、よく錬金術学校に入学できたな? お前は材料選定から間違えている。ほら、こっちでやり直せ。俺様が見ててやるから」
ダリルは材料箱から睡蓮の種を取り出し、ルクレーシャに差し出した。
「水属性の材料ならば、どんなものだって傷薬の調合に使えるが、不器用なお前は睡蓮の種を使うのが一番いいだろう。この材料は物質変化を起こしやすい。俺様の手をよく見ておけ、傷薬の調合はこうやるんだ」
乳鉢で材料を手早く潰し、塩と混ぜたものを火で炙る。材料の元素属性、そして薬効を事細かに伝えながらルクレーシャに調合の手順を教えてやる。幼い頃から材料図鑑を読み込んできたダリルの説明は詳しく、教師も感心するほど素晴らしいものだった。
「わああぁぁ……!」
少女の目がきらきらと輝く。
ダリルの器用な指の動きに、ルクレーシャは感嘆の声を上げて笑った。
「すごい、あっという間に傷薬ができちゃった! ダリルくんって色々なことを知ってるんだね!」
愛しの少女に褒められ、顔に熱が集まっていく。ダリルは内心大喜びをしながら、にやけ顔で咳払いをした。
「あっ、当たり前だ。俺様は天才なんだぞ? これくらい何てことない! ほら、次はお前の番だ。俺様の手本通り調合してみろ。まずは天秤で材料を量り――」
「あ、待って。それは要らないよ」
ダリルの言葉を遮り、ルクレーシャは天秤を机の上から退けた。何か言いたそうな少年を上目遣いで見つめ、再び材料箱からトカゲの尾を取り出す。
「せっかくやり方を教えてくれたのにごめん。でも、天秤なんか使わなくたって、何をどうすればいいかなんとなく分かるの。それに……やっぱりトカゲの尾っぽの方が馴染みがあるんだ。私の村にはこれくらいしかなかったから」
「まっ、待て! 火属性の材料じゃ、絶対に水属性の傷薬は作れないんだ! 俺様の言うことを聞けルクス!」
「作れるよ。私ね、擦り傷を作った時はいつもこうしてきたんだ」
ルクレーシャは分量を量ることもせず、錬金鍋に大トカゲの尾を放り入れた。そして鍋に両手をかざし、己の魔力を収束させていく。彼女は怒る少年を見つめ、優しく微笑んだ。
「見てて、ダリルくん。こんなやり方だってあるんだよ」
ダリルはルクレーシャが纏う桜の花びらのような魔力が、彼女の掌からぶわりと放たれるのを見た。
「っ!?」
ダリルの目に信じられない光景が映る。
あまりの驚きに、彼は息を呑むことしかできなかった。
錬金鍋が神々しく光り輝く。ルクレーシャの魔力が、大トカゲの尾に不可逆的な変化をもたらす。錬金材料が魔力によって分解され、再構成され、他の物質へと形を変える。
数秒の後、鍋の中は黄金色の液体で満たされていた。
「っ……、は?」
ダリルは目を瞬き、鍋の中の液体が何なのか見極めようとした。
粘度、色、そして傷薬特有のにおい。何度観察しても、鍋の中の液体は傷薬と同じように見える。しかも、ルクレーシャが作り出したそれは、自分のものよりも数倍品質がいいように思われた。
「おまえ、何をした? こんなのあり得ないだろ……」
あり得ない。
ダリルは何度もそう口にした。
錬金術に対する深い知識を持つダリルからすれば、ルクレーシャがやってのけたことは本当に「あり得ない」ことだったからだ。
火、水、土、風。この世界の物質は、四つの元素・属性に分けられる。ある元素を異なる元素に作り変えることはできず、水属性の物質の調合に対し、火属性の材料を決して用いてはならない。
それが、錬金術における不変の制約。
その制約を破れば物質のバランスが崩壊し、必ず調合が失敗してしまう……それは、錬金術的な禁忌としてよく知られた話だった。
だがルクレーシャは、その二つの制約を乗り越えた。己の魔力によってある元素を別の元素に作り変えつつ、火属性の材料から水属性の薬を作り出してみせた。
この世界のルールを無視した、無法ともいえる調合のやり方。周囲から驚嘆の声を浴びせられる少女を、ダリルは呆然と見つめた。
(……ルクレーシャ。お前が、実技試験で俺様に勝った理由がようやく分かった)
調合に必要な材料や道具を使わず、魔力で全てを解決する。天秤も水晶フラスコも、錬金炉も使わない。膨大な魔力を滲ませる華奢な体、その肉体こそが万物を揃えた工房なのだと言わんばかりに、彼女は軽々と奇跡を起こした。
生ける錬金釜。
賢者の石の赤い輝きと、ルクレーシャが放つ魔力の光が再び重なっていく。
(この女は、世界を変える力を持っている)
ダリルは未知に触れた喜びと、それを上回る悔しさにおかしくなりそうだった。錬金術の腕を磨き続けてきた自分が、材料の属性も分からない田舎娘に負けたことが信じられない。今までの必死の努力が無に帰した気がして、ダリルは初めて強烈な劣等感に苛まれた。
「お、おい。ルクス……」
ダリルの声が周囲のざわめきにかき消される。ルクレーシャは少年の声掛けに気付かず、教師に招かれるまま前に進んでいく。
ルクレーシャ、君は天才だ。今日の授業は君が一位だ!
そう称賛されてはにかむ少女を、彼は暗い目で見据えた。
悔しい。妬ましい。自分に構ってくれないルクレーシャが苛立たしい。恥ずかしそうに俯くルクレーシャは、もう自分のことなど見ていない。
彼女はいつか、自分を置いて遥か高みへと行ってしまうだろう……。
(やめてくれ。俺様を無視するな、ルクス!)
ルクレーシャに見てもらえない。
ダリルには、それが許せなかった。
自分を徹底的に打ちのめした女。ルクレーシャに見てもらうためにはどうすればいい? 彼女に笑顔を向けてもらうには何をすればいいだろうか……。
――ダリルくんって色々なことを知ってるんだね!
ルクレーシャに勝てば、彼女は再び自分を見てくれるだろうか?
(もう一度、あんな風に褒めてもらいたい)
ぎゅっと拳を握りしめる。
ダリルはその日、何としてもルクレーシャに勝つと決心した。
*
それからというもの、ダリルはルクレーシャに勝負を仕掛けるようになった。
月に一度の定期試験が行われる度、どちらの成績が上なのか競おうじゃないかと誘いをかける。ダリルは「負けた方は勝った方の言う事を一ヶ月間何でも聞く」というルールを課し、ルクレーシャを執拗に煽り立てた。
「おいルクス、今月も勝負するぞ! 俺様が勝ったらお前は俺様の家に来る、お前が勝ったら俺様の家に遊びに行く! どうだ、フェアな条件だろ。正々堂々勝負をしようじゃないか!」
「なあにそれ、私にいいことないじゃない。勝っても負けてもダリルくんの家に行かなくちゃいけないなんて、そんなのやだよ」
「嫌だと? なんて失礼な奴なんだ。誰よりも格好良くて美しい俺様の家に来れるんだぞ、この上なく喜ばしいことだろうが。平伏して感謝するがいい!」
「もう、どうしてそんなに偉そうなの? その言い方が嫌だって前から言ってるでしょ」
ルクレーシャはきゅっと眉を寄せてダリルを睨んだ。
当初、気弱なルクレーシャはダリルと勝負することを望まなかったが、あまりにもしつこくダリルが挑発するせいで、段々と意地を見せるようになった。反抗心の芽生え。おっとりのんびりしていた少女は、ダリルに煽り立てられるうちにどんどん饒舌になっていった。
「ねえ、どうしてそんなに私と勝負したがるの? ダリルくんは貧乏人の私が気に入らないんでしょ。私なんかに構ってないで、他の子と仲良くすればいいじゃない」
「ふっ、無知蒙昧な田舎女が落第しないようにという俺様の計らいだ。四元素四性質の概念も知らず、調合で一度も天秤を使わない。お前のようながさつ女を放っておける訳がないだろう!」
「放っておいてくれていいよ。それともなに? ダリルくんって私以外に話す子いないの?」
「ち、違う! ……おまえ、結構生意気になったな」
ルクレーシャの頬をむにむにとつつき、ダリルはにやけ顔で彼女に囁いた。
「ところでルクス、魔法式のテストで零点を取ったそうじゃないか。先生が嘆いていたぞ」
「うっ」
ぎくりとしたルクレーシャを見下ろし、ダリルは早口で彼女を焚きつけた。
「ははっ、零点。ゼロなんて、取ろうとしても取れない点数だぞ! そんな悲惨な成績じゃ、お前は一生かかっても俺様には追いつけないな! ま、お前が頭を下げるなら、俺様が魔法式の解き方を教えてやってもいいが」
「だ、ダリルくんなんかに頼らなくたって大丈夫だもん……」
「ほんとかぁ? お前、先生に雷を落とされたくなくて泣いてただろ。俺様の指導は分かりやすいぞ。大人しく頼っておいた方がいいんじゃないか?」
ダリルは己の黒髪をさらりとなびかせた。
「お前が何度しくじろうと、天才の俺様が最後まで面倒を見てやるさ。精々努力して、その小さな頭に解法を叩き込んでみればいい。ああ、礼は要らないぞ。魔力バカのお前がうんうん唸っているのを見るのは楽しいからな」
「ま、魔力バカ!? うぅぅ、好き勝手言ってくれちゃってぇ……!」
ルクレーシャはダリルの胸ぐらを勢いよく掴んだ。
「これ以上ねちねち言われるのはいや! 次の試験こそ、絶対に私が勝ってやるんだから!」
入学から半年。ふたりの関係はすっかりライバルと呼べるものになっていた。少年と少女は言い争い、取っ組み合い、時には一緒に勉強しながら日々を過ごした。
座学試験首位のダリルと、実技試験首位のルクレーシャ。ふたりの総合的な点数は拮抗し、中々勝敗が決まらない。やきもきしたダリルは、日々の授業でもルクレーシャに勝負を持ちかけた。
「やーい、のろま女! そんなスピードじゃ俺様は捕まえられないぞ! そらっ、もう一点!」
スライムボール投げの授業。箒にまたがったダリルは、凄まじいスピードでゴールネットに突っ込んだ。守備のルクレーシャを翻弄しながら、ネットに勢いよくスライムボールを叩きつける。悔しそうに顔を歪める少女を見下ろし、彼はにんまりと笑った。
「あっ!? まっ、また入れられた! ちょっとダリルくん、少しは手加減してよ!」
「手加減だと? 何をふざけたことを言ってるんだ! ライバル相手に手加減なんかする訳ないだろ、悔しかったら俺様のボールを叩き落としてみろ!」
「きゃっ!?」
桃色の髪を引っ掴み、髪留めのリボンをしゅるりと解く。
驚きの声を上げて自分を見つめるルクレーシャに、ダリルは恍惚とした気持ちを抱いた。
「無様だなルクス、俺様にしてやられるばかりじゃないか! 隙ありっ、もう一点! この勝負は俺様が貰ったぞ……!」
「ま、まってっ。私のリボン返してよ!」
「あはははっ、断る! へなちょこルクスめ、悔しかったらここまで追いかけてこい! どうせお前には無理だろうがな」
「馬鹿にしないでっ、私だってやればできるんだから!」
ルクレーシャが叫ぶ。
ダリルは自分を射抜く桃色の目に、ぞくぞくするような歓喜を覚えた。
(ああ、ルクスが俺を見てくれている……!)
自分を真っ直ぐに睨みつける少女。愛しい彼女の目には、自分だけが映っている。
嬉しい。可愛い。そんな風にずっと自分だけを見てほしい……。ルクレーシャの刺すような視線は、少年の心に背徳的な甘さを残した。
「待ちなさいよっ、絶対に逃さない!」
ルクレーシャが懸命に後を追ってくる。だが彼女は箒の操縦に随分と苦労をしているようで、ぐねぐねと暴れ回る柄を握り締めながら困り顔をした。
「ああもう、言うこと聞いてっ、こんな時に暴れることないでしょ!?」
「ぷふっ、くふふふ……。雑魚ルクス、お前が作った箒は随分とじゃじゃ馬だな! 作り主そっくりだ」
「うぅっ、うるさい!」
「それにその箒はとっても不格好だ。箒なのか斧なのか分からない形をしてるじゃないか。そんな箒に乗ってちゃ、俺様には一生敵わないな!」
ダリルは高笑いし、ルクレーシャから奪った髪留めのリボンをひらひらとなびかせた。少女の目の前で飛び回り、わざと緩やかな動きをして挑発する。
近づいてきたルクレーシャのスカートをめくりあげ、ダリルは赤らんだ顔で笑った。
「ははっ、色気のない下着」
「やっ!? きゃっ――きゃあああああああああああっ!!」
ルクレーシャが甲高い悲鳴を上げる。聞いたことのない彼女の悲鳴に、ダリルは胸の奥底が撫でくすぐられるような感じがした。
からかいの延長線のつもりだったスカートめくり。露わになった白く瑞々しい太腿に、未知の衝動が込み上げる。ダリルはルクレーシャの秘密を破った仄暗い喜びに口角を上げたが、その直後、頬に平手を叩き込まれた。
「ぶえっ!?」
「最っ低……。さいってー!! なに考えてんの? 何考えてんの!! 女の子のスカートをめくるなんて!」
ルクレーシャは震えながらダリルに怒鳴った。彼女の見開かれた目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちていく。事の重大さを思い知ったダリルは、叩かれた頬を押さえながら慌ててルクレーシャに謝った。
「わっ……悪かった。泣かせるつもりはなかったんだ」
「うあああっ……! ひどいっ、こんなのひどいよぉっ……」
「ごめん、ルクス! 本当にごめんな……」
ダリルがどれだけ謝ってもルクレーシャの涙は止まらない。彼女はダリルからじりじりと距離を取った後、大泣きしながらフィールドの向こうに飛び去ってしまった。
「ダリルくんのばか!! ダリルくんなんて嫌いっ、大嫌い、大大大大っっ嫌い! もう二度と私に近づかないで!!」
拒絶の声が遠ざかっていく。
ひとり残されたダリルは、呆然とルクレーシャの後ろ姿を見つめた。
(や、やってしまった)
嫌い。嫌い。大嫌い……。その言葉が脳内に反響する。
ルクレーシャに強く拒絶され、ダリルは胸がひしげるのを感じた。
(もう、終わりだ。二度と近づかないでとまで言われてしまった……。なんてことだ。俺様は徹底的に嫌われてしまったんだ……! ああ、儚い初恋だったな)
もう何をする気も起きない。
ショックのあまり箒を操縦できなくなったダリルは、ふらふらと地面に落ちた。
魂が抜けた様子で着地した彼の周りに、クラスメイトたちが集まってくる。
「おい、おいダリル! いくら何でもあれはだめだって! 女のスカートをめくるのは絶対やっちゃいけないって、母ちゃんに教わらなかったのか!?」
「うるさい。下民が気安く話しかけるな。今、お前らの相手をする気にはなれないんだ……」
ダリルが鼻を啜りながら呟くと、クラスメイトたちは呆れ笑いを溢した。
「そう高慢になるのはやめろよ。口を出すつもりはなかったけどさ、いつまでもそんな態度を取ってちゃ一生レーシャに許してもらえないぜ! お前、あいつのことが好きで仕方ないんだろ?」
「なっ!? なっ、ななな、なぜ分かった!?」
慌てふためくダリルにくすくすと笑い声が上がる。クラスメイトたちは顔を見合わせ、面白そうに彼の真っ赤な顔を指差した。
「そりゃあ、な? 分かるだろ。レーシャの尻を追っかけてる時のお前、すっごくでれでれしてるし。あいつにはちっとも伝わってねえみたいだけどさ」
「やっ、やめろ。笑うな! 俺様をからかうんじゃない! そうやって集団でからかうのは良くないぞ!!」
「あははははははっ! ダリル、お前っておもしれー奴だな!」
大笑いしたクラスメイトは、ダリルの手にスライムボールを握らせた。
「ほら、俺達と勝負続行しようぜ。高慢なお貴族様に、庶民の態度ってもんを教えてやるよ」
「庶民の態度?」
「ああ。あいつと仲良くなるための振る舞い方さ。『俺様』とか『お前』なんて上から目線の言い方はやめて、レーシャのことは『君』って呼べよ。その方が、あいつとも俺達とも上手くやっていける」
ダリルはクラスメイトに導かれ、高く高く浮かび上がった。
再び試合が始まる。クラスの男子たちと行う全力のスライムボール投げは、ダリルにとって非常に面白いものだった。
豊かな自然の中で誰かと思い切り遊びたい。鬱屈した生活の中で抱え続けてきたその願いが、今ここで叶っている……。クラスメイトたちとすっかり打ち解けたダリルは、胸が晴れるような解放感を味わっていた。
(楽しい……社交界よりも遥かに楽しい! 同い年の奴らと遊ぶことがこんなにも楽しいなんて! ああ、この学校に来て本当に良かった!)
笑顔でスライムボール投げに興じていたダリルは、ふと校舎から視線を感じた。
ルクレーシャが、窓越しにじっと自分を見つめている。
(ルクス?)
窓に手をつけ、フィールドを飛び回る自分をきらきらとした目で見つめている。純粋で真っ直ぐなその視線に、ダリルは胸が切なく跳ねるのを感じた。
(そんな風に俺を見るなら、近くに来てくれたらいいのに)
酷いことをして嫌われてしまったが、どんなに拒絶されてもルクレーシャへの恋は諦められない。明日、新しいリボンをプレゼントして仲直りしよう……。
ダリルがそう考えていた時、別クラスの女子生徒が彼に向けて黄色い声を上げた。
「ダリルくーん! こっち向いてー!!」
甲高い声を浴びせられるのはいつものことだ。仕方なく、笑みを浮かべながら声のする方向に手を振ってやる。ダリルにとってそれは単なる習慣だったが、彼が女子生徒に手を振るのを見ていたルクレーシャは、怒った顔をして窓から離れてしまった。
「あっ……」
ルクレーシャの姿が消える。
ダリルは自分を見てくれなくなった彼女に寂しさを覚えた。
それからというもの、ダリルはルクレーシャの視線を感じることが多くなった。
彼女は図書室で勉強している時や、スライムボール投げをしている時、窓越しにじっと見つめてくる。声を掛ければ驚いた様子で逃げ、他の女子生徒と話せばむっとした顔で去っていく。
理由の分からないその行動にダリルは苛々し、余計にルクレーシャを虐めるのだった。
*
「ダリル、見合いのことだが」
夕食の後。父親に呼びつけられたダリルは、ぶんぶんと首を横に振った。
「嫌です、ルクス以外とは絶対に結婚しません!」
「はぁ……お前はまだそんなことを言うのか」
ダリルの父は溜息を吐いた。彼の机の上には、息子と同じくらいの令嬢の写真がずらりと並べられている。見目良い令嬢の写真を渡しても、ダリルは頑として受け取らない。聞き分けのない少年の態度に、父親は苛立たしそうにとんとんと机を叩いた。
「ダリル、聞け。お前の社交界デビューを通常よりも早め、数々の令嬢と顔合わせをさせたのは、将来を共にする女性を落ち着いて選んでほしいと思ったからだ。もうお前も十二歳、そろそろ未来のことを考えねばなるまい。どの令嬢も家柄、見目、成績は申し分ないだろう。いったい何が不満なんだ?」
「その写真の中にルクスがいないことです」
「ダリル!」
父親の怒鳴り声にびくりと肩を震わせながらも、ダリルは真っ直ぐに彼を見つめた。
頑固な息子の態度に溜息が漏れる。ダリルの父親は、部屋の隅に控える老執事に目を遣った。
「彼から聞いているぞ。お前は毎日その女の子を泣かせているらしいな。ルクス、ルクスと。それだけ熱を上げるなら両想いなのかと思いきや、お前は彼女から嫌われているそうじゃないか?」
「ぐっ」
「しかも、入学の儀でレディの髪を引っ張ったと。紳士にあるまじき、恥ずべき行いだ。父さんも母さんも、お前をそんな風に育てた覚えはないぞ」
「…………」
「常々言っているだろう、我々の世界では第一印象が全てなのだと。お前はもう、彼女に好きになってはもらえない。諦めてパーティーに出なさい。そこで将来の妻を探すんだ」
「いっ、いやだ! ルクスしか考えられないのです! 彼女こそ運命の女性なんだ、一緒に生きるならルクスがいい!」
ダリルは必死な顔で父親に食らいついた。
涙を滲ませる黒の目が、机の上のともしびを反射してきらきらと輝く。悲痛を滲ませる少年の顔をじっと見つめ、ダリルの父親はゆっくりと言い聞かせた。
「ダリル、分かっているだろう。お前とその子は身分が違う。お前がいくら彼女のことが好きでも、結婚を許す訳にはいかないんだ」
「嫌、だ。ルクレーシャと結ばれない世界なんて、そんなの要らないっ……!」
泣くのを堪えていたダリルは、とうとうぼろりと涙を溢れさせた。父親の制止も聞かず、急いで部屋を出る。
残されたダリルの父親は、息子の泣き顔を反芻しながら溜息を吐いた。
「はあ……参ったな。ダリルがあれほど反抗するとは」
くすくすと笑い声が聞こえる。
代わりに部屋に入ってきたダリルの母は、頭を抱える夫を見て優雅に笑った。
「うふふっ。身分が違うだなんて、よくあの子に言えたわね。あなたは身分違いのわたくしを、無理やりな方法で手にいれたじゃない。ねえ、成り上がりさん?」
「……メリル、それは言うな」
「あの子、諦めないと思うわよ。だってあなたに似てるから」
目を背ける夫を見下ろし、彼女は上品な笑い声を溢した。
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