失敗作は蜜の味

橙乃紅瑚

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お薬飲んだら生えちゃった! - 2

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 ルクレーシャの説明を聞き終わったダリルは天を仰ぎ、すぐさま彼女を罵倒した。

「馬鹿すぎる」

「ばっ、ばかって言うことないじゃない!」

「いや馬鹿だろ。馬鹿どころか大馬鹿だ。愚か者、頭空っぽ、考えなし! オスの実は媚薬の主材料だぞ? そんな強力な材料を量りもせず丸ごと入れて、なおかつ美味しかったから何度も味見をしただと!? 本当に呆れた、がさつでいい加減な女だと思っていたが、まさかここまでとは」

 案の定、ダリルはねちねちとルクレーシャの不注意を論った。「馬鹿」「愚か者」といった言葉が彼女の心にぐっさりと突き刺さるが、正論なので何も言えない。
 
 股間を押さえながら涙目で震える女を見遣り、ダリルは大きな溜息を吐いた。

「馬鹿ルクス。君は錬金術学校に入学してからいったい何を学んできたんだ? 指定の材料を規定量通り使うということは、初学年の生徒でも知っていることだろうが!」

「仕方ないじゃない! あなたに勝つためには魔力の量で勝負するしかないと思ったのよ! だから魔力増幅剤のオスの実を一個まるまる使ったの!」

「あああもう、本っっ当に馬鹿!! 俺に勝ちたいと思うなら、魔力に頼らず真面目に薬を調合しろよ! 学生の課題に出される程度の薬に、君の膨大な魔力とオスの実を入れたらどうなるか想像がつかなかったのか!? 君が作った仲良しの薬は成功作なんかじゃない。超失敗作だ! そんなものを試験に出したら留年だ留年!!」

「うっ」

 冷静さを打ち捨てたダリルの追撃に、ルクレーシャはとうとう項垂れてしまった。

「……でもまあ、君が俺を嫌って遠ざけた訳ではないと知ってほっとした。ルクスに逃げられては勝負の約束が駄目になってしまうからな」

「逃げる訳ないじゃない。あなたに不戦勝を譲る訳にはいかないわ」

「ほう、見事な心意気だ。だが別に負けても問題はないだろう? この俺の専属錬金術士として一生を共に過ごす、たったそれだけではないか」

「それが嫌なの! 意地悪ダリルといたらストレスでおかしくなっちゃうわ。私は絶対にあなたの小間使いにはならない!」

「ふん、可愛くない奴め。君が好きな奴よりも、俺の方がずっと優しく扱ってやるというのに!」

 またふたりの言い合いが始まる。焦れたダリルがぎゅっとルクレーシャの手を握ると、彼女は大きな悲鳴を上げた。

「ひううううぅっ!?」

「あっ、悪い。今の君は全身が敏感なのだったな」

 全く悪いとは思っていない様子で、ダリルはルクレーシャの手の甲をさすさすと撫でた。彼女の体が刺激にぴくぴくと跳ねる。

「ふっ、ふぁっ! あっ、はあうっ! さ、さっき言ったでしょ!? そうやって触られるときついのよ……!」

 ルクレーシャはぐったりとベッドに倒れ込んだ。ダリルと言い合ううちに、落ち着いていた体がまだ激しく疼き始める。はあはあと荒い息を吐きながら胸を上下させる女を見下ろし、ダリルは華奢な体に伸し掛かった。

 男の美しい顔が、ゆっくりと近づいてくる。

「随分と辛そうだな、ルクス」

「はあっ、はあ……」

「少し触れられたくらいでこうなってしまうなんて、本当にかわいそうだ」

 額に張り付いたルクレーシャの髪を優しく払い、ダリルはわざとらしくにっこり笑った。

「ところで、これからどうするつもりなんだ? そんな体では授業どころじゃないだろ」

「だ、だからもう一度材料屋さんに行こうとしたの。オスの実の魔力が原因でこうなったなら、魔力消し草を使ってどうにかすれば、元に戻るかもしれないと思って……」

「ふん、実に浅はかな考えだ。オスの実に宿る魔力は至極強力だぞ? 魔力消し草を一万本使っても元には戻れないだろうな」

「えっ!? そっ、そんなぁ。じゃあ私はどうしたら……?」

  ルクレーシャは落胆した。錬金術材料の知識に長けたライバルがそう言うのなら、きっと間違いないのだろう……。

「そこでだ。この俺が、ルクスの体を元に戻してやる!」

 桃色の目を潤ませる女を見下ろし、ダリルは張りのある声で提案した。

「君の動機は心底馬鹿らしいが、元はと言えば俺が勝負を仕掛けたせいでもある。責任を取って治療してやろうじゃないか」

「治療? それって何をするの?」

「オスの実は媚薬の主材料。その強大な魔力を霧散させるには、媚薬に蝕まれた者と同じことをしてやればいい」

 じりじりと体を近づけてくる男に、ルクレーシャは嫌な予感がした。

(……まさか)

「何度も性的快楽を与えて、体の魔力を循環させる。体に宿る異質な魔力を霧散してしまえば、その股間の盛り上がりが元に戻るはず! 喜べルクス。この俺が、君の体を隅々まで丹念に可愛がってやろう!」

 黒い目を活き活きと輝かせ、ダリルは爽やかな笑顔で言い切った。その笑みは美しいが、どこか胡散臭くも見える。

 つまり、私の体をあなたが触るということか。
 ルクレーシャのその問いに、ダリルは大きく頷いた。

「ええっ!? だ、だだだ駄目でしょそんなこと! 何でそんな提案してくるの!? ダリルの変態! おばか!」

「変態とは失礼な。俺は自分が持つ膨大な知識の中から、確実な治療法を君に提示してやったのだ。それに、オスの実が人体にもたらす影響は、錬金術を嗜む者として非常に興味がある。俺は君の治療を手伝ってやり、君は俺に身を以てオスの実の薬効を伝える。どうだ、双方得する話じゃないか」

「え、えぇ? そうかな?」

「そうだ。難しいことは考えず、ただ俺に身を任せていればいい」

 ダリルはにやりと笑い、ルクレーシャの赤いスカートを摘み上げた。

「ほら、力を抜け。早速治療に取り掛かるぞ」

「うわああっ!? 待って待って……。あ、ちょっと! スカートめくるのやめてよ! あなただけにはを見せたくないの!」

「じゃあ俺以外の誰に見せる気だ? 教師にも医者にもを見せたくないから、君はひとり材料屋に行こうとしていたんだろう! 恥ずかしくて誰にも相談できないから、こんなに苦しくなるまで我慢してたんじゃないか!?」

「うっ、そ、それは……」

「いいかルクス。頼るならこの俺が一番だ。口は固いし、豊富な薬効知識がある。いざという時は、君のために大枚をはたく覚悟もあるぞ! 何よりも勃起したの鎮め方を知っている男だ! 俺以外に頼る奴なんていないだろう? いないに決まってる! そうだよな!!?」

 ダリルは大きな声で念押しした。その様子には必死さが滲み出ている。

「俺はライバルの君を哀れに思ってこのような提案をしているのだ。決して不純な動機からではないぞ! フェアな勝負をするためには、お互いの体調が万全な方がいいだろう!?」

「それは、そうだけど……」

「君が元の体に戻れるまで、俺がしっかりと面倒を見てやるさ。なあに、この借りは後で返してもらえばいい。たあっっっっぷりとな……」

 耳元でゆっくりと囁かれる。にやにや笑う男を見上げ、ルクレーシャはきゅっと眉を寄せた。

(ダリルってば、とても楽しそう)

 彼は随分と高揚しているようだ。顔は紅潮しているし、だらしなく緩んだ口元からは荒い息が漏れている。きっと、ライバルの自分をいたぶる機会を得られて嬉しいのだろう。

(ずっと嫌味を言ってきた男に身を委ねろですって? そんなことしたらとんでもない目に遭うに決まってる。ううぅ、悔しい! けれど先生に相談するのも、病院に行くのも恥ずかしいし)

「ルクス、何を迷ってるんだ? 俺に助けてと縋りついてきたじゃないか。一刻も早く楽にしてほしいんだろう? それなら早く答えを返せ。ほら、早く早く! ほらっ、ほら!」

「あ、わっ、私。こんなことしたことなくって、その――」

「ああ、そんなことか。君が男に抱かれたことがないのは当然知っている! なあに、初めての君が怖い思いをしないよう気遣ってやろう。さあ、早く。さあ、さあ! 俺を受け入れると言え! 言うんだルクス!!」

 急かす男の目はぎらついている。意地っ張りなルクレーシャは咄嗟に「他の人に頼る」と返してしまいそうになったが、本能的な警鐘が鳴り響いたので止めておいた。

(うぅ……。ダリルに身を任せるのは恥ずかしいよ。でも、もう我慢できない……)

 ダリルの言う通りだ。一刻も早く楽にしてほしい。朝から肉棒と化した陰核がずきずきと疼き続けているのだから。
 
 彼に抱かれたい。
 ダリルの大きな手で全身の痺れを鎮めてほしい。

 ルクレーシャの頭が、いやらしい欲求に埋め尽くされる。

 ダリルの温かい手で自分の肉棒を握られたらきっと気持ちがいい。秘部だけじゃない、首筋も胸も、スカートが擦れている太腿も。大きなダリルの手で疼く全身を愛撫してほしい。優しくされたい。その体に寄りかかって、存分に甘やかされたい。楽になるまで気持ちよくしてほしい……。

 ……淫らな欲求を、現実にしてみたい。

「……あのね。汗、かいてるから。先にお風呂借りてもいいかな……?」

 こくりと唾を飲み込み、ルクレーシャは男の手を握り返した。


 *


「や、やだやだ、みないで」

「見ないと治療できないだろ? ふふ。君は下の毛も桃色なんだな」

「あっ、当たり前じゃない! どこ見てるのよ、ダリルのばか! へんたい!」

「変態とは何だ、変態とは。俺は君の身体的特徴を確かめているだけだ。ははっ、柔らかい。髪と同じでふわふわ波打ってる。まるで羊の毛みたいだ」

「うぅぅぅっ! こんのっ、ど変態ダリル! 覚えてなさいよ!」

 ルクレーシャはベッドの上で羞恥に呻いた。

 下着だけを脱がされた状態で、ダリルにじっくり秘部を観察されている。足を大きく開かされながらくいくいと陰毛を引っ張られ、ルクレーシャは顔を真っ赤にした。

 ダリルは何やら本を読みながら、女性器の構造をひとつずつ確認しているようだった。上擦った声で、ルクレーシャの陰部に起きた変化を口にする。

「はあっ、はあ……これがルクスの大事な部分。こ、こんな機会はないからな。じっくり観察させてもらうぞ。ふむ、本来膣口の上にある突起が見当たらない。なるほど、君の陰核それ自体が男の陰茎に差し替わっているのか。なにっ、女の陰核は強い性感帯だと!? それはいやらし――いや、何でもない。調査を続けなければ……」

「陰核が充血し肥大化している。包皮からすっかり飛び出しているな……。これは男性器が勃起するのと同じ現象だ。つまり君は性的興奮を感じているという訳か? ああルクス。俺の手で感じたってことか!? なんて健気なんだ、こんなものを見せられたら俺まで勃……間違えた、興味深いな。竿の先端に亀頭と尿道口があって、先走りらしき液体も溢れている。ここも男の陰茎と同じだが、射精は可能なのか?」

「しかし陰嚢が見当たらない。どこにあるのか……うん? 大陰唇周辺が少し盛り上がっているようだ。もしかしてこの中に隠れているとか? 陰嚢の内部に蓄えられているものも勿論確認する必要がある。性的絶頂を迎えた際、何が飛び出すのか確かめてみることにしよう」

「膣から粘度のある液体が溢れ出ている。これは何だ? あっ……。もっ、ももも、もしかしてこれが愛液というものか? これが、ルクスの……! はっ、はあ……ねっとりとして、ぬめっていて。俺のものに擦りつけたら……! っうっ! ふぅ…………。すごいぞ、あまりにも惹きつけられる。知識欲が存分に刺激されてしまう。オスの実が人体にもたらす変化は実に興味深い。暫く観察し続けたいくらいだ」

 早口で呟きながら女の秘部を覗き込むダリルは危ない雰囲気を滲ませている。目を血走らせたライバルに性器を間近で観察され、ルクレーシャは羞恥のあまり啜り泣いた。

「う、うぅ……ねっ、ねえ。もういいでしょ? 足閉じさせてよ、お願い……」

「駄目だ駄目だ駄目だ! ここで止めたら今後の治療がうまくいかないぞ! 観察させろ! 君のここをもっと見せろ!」

「もっと見せろって何!? いやああっダリルの変態! というか何で鼻血出してるのよぉ!」

 みっともなく鼻を押さえるダリルの頬は真っ赤だ。ルクレーシャは男を蹴飛ばそうとしたが、足首をがしりと掴まれてしまった。そのまま足を大きく割り開かれる。
 
「騒ぐんじゃないルクス! 元の体に戻りたいんだろ!? なら大人しくするんだ!!」

 瑞々しいルクレーシャの太ももをいやらしく撫でさすりながら、ダリルは大声を上げた。

「だっ、だって。こんなの恥ずかしすぎて我慢出来ないよ! しかもよりにもよって意地悪ダリルに見られるなんて!」

「俺で良かったと言うべきだろうが。君に確実な治療を施せるのはこの俺だけだぞ!」

「は、鼻血をぼたぼた垂らしながら言われても……」

「俺はオスの実の薬効を調べているだけだ、不純な動機から君のここを見ている訳ではない! はあっ、はあ、はあ、ああ……すっごい。こんなに濡れて、こんなに陰核を勃ち上がらせて。まるで俺に触れられるのを待ち望んでるみたいじゃないか……!」

 ダリルの荒い息が肉棒にかかる。肩を上下させ、呻きながら不自然に身を捩らせるダリルは秘部から決して目を離してくれない。彼はオスの実が人体にもたらした影響に興味津々なようだ。

「くくっ、ふふふ……君のここは濃い桃色なんだな。ずっとひくひくしてる。こうなったのもオスの実の影響か?」

「う、うぅ……こんなの、ひどいよぉ……」

 恥ずかしさでおかしくなってしまいそうだ。ルクレーシャは泣きながら服の袖を握りしめた。

 ……そうだ。ダリルは誰よりも勉強熱心だし、錬金術材料に秘められた薬効をどこまでも追求したがる男だった。きっと、己の知識欲が満たされるまで自分の股を覗き込むつもりだろう。

(わ、私のあそこ、ダリルに全部見られちゃってる。おかしくないかな。変に思われてないかな)

 ダリルに頼ったことを後悔し始めたが、時既に遅し。
 腫れ上がった陰唇が、とうとう男の指に割り開かれてしまう。

 下半身を走り抜ける甘い刺激に、ルクレーシャはびくびくと体を震わせた。

「ふああああああああっ!?」

 女の嬌声に沈黙が降りる。ダリルはぴたりと手を止め、真っ赤な顔でぼそりと呟いた。

「……そんな大きな声を上げるな。人払いをしているとはいえ、誰か来てしまうかもしれないだろ」

「あっ、あふっ、無理……しげき、強くてっ! だからもう少し優しく触って? お願い」

 うるうると桃色の目を潤ませるルクレーシャに、ダリルが息を呑む。彼は軟らかな女肉に指を這わせ、ごく優しく撫で上げた。

「はひぃっ!? んっ、んんん……!」

「……少し触っただけだぞ。そんなに敏感なのか?」

「ふっ、ぅ、うん……」

「困ったな、性感帯を刺激しないと魔力の循環は行われないんだが……。ああ、それならあれを使うか」

 ダリルはベッドから離れ、薬品棚からひとつの小瓶を取り出した。彼が栓を開けると、小瓶の口から白色の煙がもくもくと立ち上る。
 
 沈黙の霧。錬金術学校の生徒たちが、初学年で作成することになる薬だ。この薬を作るのは基本中の基本だと担任に言われたことを思い出しながら、ルクレーシャはぼんやりと煙を見つめた。

「これでよし。この『沈黙の霧』は俺の特製だ。君がどんなに大きな声を上げても、絶対に部屋の外には聞こえない」

「ほ、んとう……?」

「ああ、本当だ。俺が作った薬は完璧な出来だからな。安心するといいさ」

 ここには誰もやって来ない。俺と君の二人だけだ……ダリルは微笑みを浮かべながら、ルクレーシャの頭を優しく撫でた。
 
「……ぁ、だりる……」
 
 彼の穏やかな笑みに、胸がとくりと跳ねる。

(ダリルのこんなに優しい顔、初めて見たかも)

 嫌味抜きの、純粋な気遣いの笑みに胸が温かくなる。労るような手の動きに惹かれ、ルクレーシャはライバルの体に擦り寄った。

 体に触れる許しを得るように、ルクレーシャの小さな手が、男の大きな手に掬い取られる。ダリルは華奢な体を抱き上げ、背後から柔らかく抱きしめた。

「ルクス。こうしたら俺の方に寄りかかれるだろ?」

「う、うん……」

「君は小さいな。それに髪から甘くていい匂いがする。ルクスの髪はいつもふわふわで、淡い桃色で、揺れる度にいい香りが漂ってくる……。まるで桜の花みたいだ」

 桃色の髪にうっとりと顔を埋めながら、ダリルはルクレーシャの秘部へ手を伸ばした。

「俺がたくさん気持ちよくしてやるからな、ルクス……」

 色を含んだ男の声が、静かに耳を打った。
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