失敗作は蜜の味

橙乃紅瑚

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勝負のきっかけは仲良しの薬 - 1 ♥

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「ああっ、あっ、あぁ……。ダ、リルぅ……。んあぁっ、ひゃう! あぅっ、お、お願いだから、もうしつこくこするのやめてえぇ……!」

 鼻にかかった甘い女の声が響く。摩擦音に混じって聞こえるぬちぬちとした水音と、男の荒い息遣い。カーテンがぴったりと閉め切られた部屋の中で、ルクレーシャは因縁のライバル――ダリルから執拗に秘部をいじられていた。

「はっ、はひ! んぁぁああっ……。わ、わたしのあそこ、あついよぉ……!」

 ルクレーシャは涙目で自分の股間を見つめた。

 めくり上げられた彼女の赤いスカートからは、男の一物が顔を覗かせている。そそり勃つそれはやや小柄ながらも太い血管がいくつも走り、強烈な絶頂の快楽を乞うようにふるふると震えながら天を脅す。ダリルはルクレーシャの股から生えた肉竿を握り込み、粘液にぬめる手で執拗に裏筋を擦り上げていた。

「ふあああっ、あああぁぁ! うらっ、裏はだめ! あっ、ひぃっ! さきっぽも敏感だからっ、いやなのにぃ……」

「ふふっ、随分きつそうだな? 君のそんな顔を見れて清々するよ」
 
 女の蕩けた顔をこちらに向かせ、ダリルは欲望にぎらついた目を瞬いた。 
 
 背後からすっぽり抱きしめられ、自分の弱点をすりすり、こすこすと一定の速度で摩擦される。そうされる度に陰核を優しく包み込まれながら指で捏ねられるような、否、それ以上の快楽が股間から全身へびりびりと走り抜けていく。
 
 窪んだ鈴口を指で抑えられながら、敏感な雁首をくるくると撫で回される。背筋が震えてしまうほど敏感な裏筋をそっとなぞりあげられたかと思えば、骨ばった指でしゅっ、しゅっと竿全体を上下に擦られ熱を植え付けられる。
 
 今弄られている肉棒も元々は女の弱点なのだ。過敏で繊細な陰核に、そんな無体なことをされては堪らない。ルクレーシャは背後のダリルに寄りかかり、感じ入った声を上げた。

「あああああぁ……。そんなことされたらおかしくなっちゃう……! ひっ、ひぃ! もういやぁ! やめてっ、それやめてえええっ!」 

 ダリルが手を動かす度に耐え難い快楽が走る。男の大きな手で遠慮なく急所を扱かれることが、こんなにも気持ちいいなんて……。

 甘美な恍惚に啜り泣くルクレーシャの耳元に、ダリルはそっと唇を寄せた。

「やめてだって? 何を言ってるんだ、擦らないと小さくならないって言ったろ? ほら、俺が扱きやすいようにちゃんと足を開いてくれよ」

「ふやああっ、だ、だめえ! 足広げないで! あはあっ、そんなはやくこすったらまた出ちゃうよぉ! あっ、ぁ、ひっ、もうむり! あ、ふやっ――いやああああぁぁぁぁっ!」

 切羽詰まった悲鳴と共に、肉棒の先端から透明な飛沫がぴゅっ、ぴゅと勢いよく飛び出す。絶頂の快楽に顎を仰け反らせる女を、ダリルは嬉しそうに見下ろした。

「はは、たっぷり出たな。俺の手がびちゃびちゃだ……。ライバルの俺に好き勝手されてるのに、こんなにすぐ気持ちよくなっていいのか? 全く情けない。少しは我慢してみせたらどうだ?」

「はあっ、はあっ、はあ……。うぅぅ……うるさい! 私がどれだけ辛いか分からないくせに!」

 自分を覗き込む男を、ルクレーシャは必死に睨みつけた。

「あなたこそ、私のあそこを触って顔真っ赤にしてる変態じゃない! うぐぅっ、くやしい。こんなものが生えなければ、あなたなんかに絶対頼らないのに!」

 ルクレーシャは赤らんだダリルの顔と、自分の股間を交互に見つめた。
 
 今や、立派な男根と化してしまった自分の陰核。先端から何度愛液を吐き出しても収まりがつかないそれに、彼女は力なく鼻を啜った。

「ぐす、うぅ……! どうしてこんなことに……」

「どうしてって、君の自業自得じゃないか。『愚かな』ルクスが『馬鹿』なことをしでかさなければ、こんなことにはならなかったんだ」

「うっ」

 力を込めた「愚かな」と「馬鹿」が、ルクレーシャの心にぐっさりと刺さる。彼女は俯き、自分の浅慮を心から後悔した。

 ……自業自得、その通りだ。

 すべては自分のせいだ。
 ダリルに勝とうとして馬鹿なことを考えた自分が悪いのだ。

 あんなことをしなければ股間から立派な一物が生えることも、こうしてライバルの男からねちねち虐められることもなかったのに……!

「……でもまあ。そのお陰で俺は生意気な君をぎゃふんと言わせることができるし、貴重な材料の薬効も存分に調べることができる。ライバルに塩を送るだなんて馬鹿だなルクス。これに懲りたら少しは真面目に勉強に取り組むんだな?」

「うっ、うぅっ……。好き放題言ってくれちゃってぇ……! この変態! 痴漢! 陰険いじわる男!」

「へえ。恩人にそんなことを言っていいのか? 俺は忙しい中、わざわざ君の治療を手伝ってやってるんだぞ? こんなに優しい俺を変態扱いするんだから、君って本当にひどい女だな。どうやらお仕置きが必要みたいだ」

 ダリルは呆れ顔で呟き、ルクレーシャの雁首に着けられた銀の輪をぴんと弾いた。
 
 途端に輪が激しく振動し、ルクレーシャの肉棒全体を強烈に痺れさせる。

「くひぃっ!? あっあああああっ!! だめっ、それだめええっ!!」

 また肉棒の先端から勢いよく飛沫が飛び出る。絶頂にがくがくと体を震わせる女を、ダリルは力強く抱きしめた。

「ははっ、甲高くて情けない声だ。顔もこんなに蕩けさせて……。ほらルクス、まだ治療は終わってないぞ? いつまでも泣いてないで足を開くんだ。さあ、もう一度」

 顔を真っ赤にしたダリルが、ルクレーシャの耳を優しく食む。そしてそのまま彼女の耳から首筋に舌を這わせ、震える桃色の唇を優しく奪った。

「んぅっ!? だり、るぅ……」

「……はあっ、ルクス……。君の泣き顔は堪らない。あの生意気なルクスが、俺の手で喘いでいると思うともっと虐めたくなる。ルクス。ルクレーシャ。君のここを存分に扱いて扱いて扱き上げて、元に戻れないくらい気持ちよくしてやるからな……!」

 まなじりからこぼれた涙をべろりと舐め取られ、ルクレーシャは息を呑んだ。

 興奮を抑え込むような、低くやや掠れたダリルの声。その声を聞くと背筋がぶるりと震えてしまう。彼はやる気だ。このねちっこくて嫌味な男は、この機会に気に入らない自分を存分にいじめ倒すに違いない……。

 ルクレーシャはダリルに潤む目を向けた。
 油断ならない男に急所を握り込まれて、つい情けない懇願をしてしまう。

「お、お願いダリル。女の子のそこってほんとうに敏感な場所なの……。いっぱいいじられたら絶対におかしくなっちゃう! だからやさしくして……ね……? お願いよ……おねがいだから……」

 弱々しい懇願にダリルの眉が下がる。彼はぐっと唇を噛み締め、殊更敏感な肉棒の先端を指で捏ねた。

「ひぃんっ!?」

「……君って本当に馬鹿だ。よほど俺に虐めてもらいたいらしい」

「んやっ、なっ、なんでそうなるのよぉ!? あっ、またいくぅ……! いやあっ……。あっ、ああああぁぁぁぁっ!」
 
 再度強烈な絶頂に襲われる。開いた口をダリルの唇で塞がれ、こぼれた唾液を舐め啜られる。肥大化した陰核になおも与えられる淫虐に、ルクレーシャはほんの少しの恐怖と、浅ましい期待を抱いた。


 *


 王立錬金術学校。
 そこでは各地から集まった生徒たちが、一人前の錬金術士になるため日々研鑽に励んでいた。

 錬金術とは夢のある学問だ。水と塩から薬を作り出す力も、人形を自在に動かす力もある。生活をよりよくするため、あるいは鉄から黄金を生み出してみせるため……。あらゆる願いを叶えられる未知の学問に魅了され、学校には多くの者が集まった。

 錬金術に必要なものは、扱う材料に対する深い知識と、物品に魂を込めるための魔力だ。知識がなければ目的の品を作り出すことはできず、魔力を操れなければ品に動力や命を吹き込むことができない。それゆえ錬金術学校の生徒は、知識と魔力、どちらも身に着けることを求められた。

 千人を超える生徒の中で、飛び抜けて優秀な者がふたりいた。

 ひとりはルクレーシャ。
 彼女は膨大な魔力を有していて、作り出す品に活き活きとした力を吹き込むことができた。ごくごく珍しい、桃色の髪と瞳の持ち主。華奢な体格と可愛らしい顔、波打つ長髪は周囲に繊細な印象を与えたが、本人はがさつで、とにかくいい加減な性格だった。

 勉強嫌いで面倒くさがり。勢いだけで突き進み、どんな試練も無理やり魔力でどうにかしてみせる。そんなルクレーシャが作り出す品はいずれも非常に粗い作りだったが、人を強烈に魅了する魔力が込められていたので、彼女はいつも成績上位に君臨しているのだった。

 もうひとりはダリル。
 手先が器用で勉強熱心。材料の扱いに長けた彼は、精巧で細部の作りにまでこだわった品を生み出した。貴族出身の彼は、自分の出自に驕ることなく、真摯に学問に向き合った。

 錬金術に関する知識と経験において、ダリルに比肩する生徒はいない。彼は膨大な知識を以ていくつもの卑金属を貴金属へと変化させてきた、錬金術の神秘を体現する者だった。

 ダリルという男もまた常に成績上位で、かつその容貌から多くの人間に慕われていた。切れ長の目にすっと通った鼻筋、さらさらとした黒髪、そして黒曜石のような瞳。
 
 燕尾服に似た黒い魔導衣装を纏う立ち姿はすらりとしていて、王子のように華麗だ。天才的な頭脳を持ちながらも謙虚で優しい。

 紳士的で完璧なダリルだが、なぜかルクレーシャに対してだけ意地悪だった。彼はルクレーシャの行く先々に現れては、彼女の作品をねちねちした言い方でこき下ろすのだった。

「やあルクス。君が作った首飾りを見たぞ。何というか、いつも通りの作品だったな。君のがさつさが全面に滲み出ている。少しつついたら崩れてしまいそうな作品だった」

「なっ、なんですって!?」

「玉にはヒビが入っていて、彫られた模様は何が何だか分からないほど歪んでいて……。くくっ、本当に君は手先が不器用だな。まるで初学年の生徒の作品みたいだ」

 ダリルは顔を紅潮させながら、怒るルクレーシャを嬉しそうに見つめた。

「ルクスが作った品は一目見ただけで分かる。細部の美しさなど何も気にかけていないような勢いだけの作品、そのくせ魔力がたっぷり詰まっているから、錬金術の神秘を全く解さない君が成績で俺と並んでしまう。はあ……この状況は実に嘆かわしい。この俺が『がさつ』で『いい加減』な君と同点一位だなんて!」

「何よ。私と同点だったのが不満なわけ?」

「ああ、不満だ。不満も不満、今回の定期試験は君に勝てると思ったのに、まさかあんな型破りの作品で同点に並ばれるとは」

 ダリルはルクレーシャの手を取った。彼女の小さな手が握り込まれ、男の大きな手の中でぐりぐりと撫で回される。ダリルは執拗に掌をルクレーシャの手の甲に擦りつけ、黒い目を喜びに細めた。

「この手も全く荒れていない。俺は指にたこが出来るほど真摯に学問に向き合っているのに、君の手はいつまでもふわふわしている。よほど苦労を知らないらしい」

「お生憎様。私は誰かさんのせいで常に苦労の連続よ! あなたの手が荒れているのは単に手入れが足りないからじゃないの? 貴族のボンボンお坊ちゃま、こんな庶民に構ってる暇があったら手に軟膏のひとつでも塗りなさいよ。あなたのささくれが手に刺さってちくちくするわ」

「……生意気ルクスめ。きゃんきゃん吠える君を見ていると躾のなっていない仔犬を思い出すよ。もう少し大人しければ可愛げがあるものを」

 ふたりの間に険悪な雰囲気が漂い始める。ルクレーシャは自分よりずっと背丈の大きい男を睨み付けながら、じりじりと後ずさった。それに応じてダリルが一歩一歩前に進む。捕らえた女を逃さないとでも言うように、華奢な手首を握りながら近づいてくる。

 ルクレーシャは困惑の視線をダリルに向けた。

「も、もう用は済んだでしょ。放してよ! これ以上あなたの嫌味を聞きたくないんだけど」

「嫌味だって? まさか! 俺は共に切磋琢磨する同輩、そしてライバルの君に挨拶をしに来ただけさ。もう少しだけ話をしようじゃないか」

 男の美しくも精悍な顔が近づけられる。ダリルは黒い瞳をぎらつかせながら、ルクレーシャの淡い桃色の目をじっと見据えた。

「ルクス、次は絶対に負けないぞ。俺は君に打ち勝つためにひたすら努力し続ける。そして圧倒的な差をつけて、どちらが上なのか思い知らせてやるんだ。来月の定期試験が楽しみだな? ルクスの悔しがる顔を想像するだけでわくわくするよ」

「ふうん、随分と自信満々に言うのね? もしかしたら私が勝つかもしれないじゃない。意地悪ダリル、あなたが負けたらたくさんこき使ってやるんだから!」

「くく、そう強がれるのも今のうちだぞ。君に勝って言う事を聞かせる日がとても待ち遠しい……。さて、今回はどんなお願いごとをしようか? スイカパンを毎日買ってきてもらうか、あるいは紅茶葉の仕入れを頼むか。ああ、俺の専属錬金術士にして調合を手伝ってもらうのもいいな? 俺は忙しくて堪らないから、ちょうど小間使いが欲しかったんだ」

「はあ? 誰があなたの手伝いなんかするもんですか!」

「そう言うな。狭い寮で暮らすより、広い俺の家で過ごした方が君のためにもなるだろう。座学の成績が残念な君に俺自ら指導もしてやろう。田舎者の君には勿体ないくらいの豪華な部屋も用意するぞ? 三食高級料理付き、服も日用品もすべて揃えてやる。……どうだ、悪い話ではないだろう。いい加減諦めて、俺と一緒に暮らすんだ」

「いっ、嫌よ! どんなに恵まれたってあなたの家で過ごすなんてごめんだわ!」

 ふたりの言い合いは続く。ダリルが煽り立てるようなことを次々に言い、それを真に受けたルクレーシャがどんどんと怒りを溜め込んでいく。焦れたルクレーシャが白黒つけようと言うと、ダリルはにんまりと笑い、中庭に出るよう促した。

 ルクレーシャの魔法剣とダリルの魔法剣がぶつかり合う。ルクレーシャから凄まじい勢いで放たれた魔力の刃が、ダリルの魔力障壁によって霧散していく。顔を真っ赤にしながら必死に食らいつくルクレーシャと違い、ダリルは余裕たっぷりの笑みでルクレーシャを翻弄した。

 クラスメイトたちは窓からふたりのいがみ合いを見て、またやってるよと呆れ顔で呟くのだった。散々言い合った後に剣を交わし、やがて見兼ねた教師に止められること……それがダリルとルクレーシャの日常だった。

 真面目なダリルとがさつなルクレーシャ。成績首位を争う男女のいがみ合いは錬金術学校の名物で、クラスメイトたちは仲良くも仲悪くも見える彼らを、温かい目で見守っていた。

 彼らは知っていたのだ、ダリルがルクレーシャだけを執拗にからかう理由を。

 早くダリルが素直になればいいのに。
 鈍感なルクレーシャが、早く相手の気持ちに気付けばいいのに……。

 周囲からそんな風に思われているとも露知らず、ふたりは陽が傾くまで取っ組み合った。
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