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第三章
58.果たされた約束
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昼下がりの柔らかな陽光が射し込むミーミスの自室。
そこに幾人かが集まり、固唾を呑んでリアとゼルドリックを見守っていた。
「うまくいったようだね」
ミーミスは口角を上げた。椅子に深く腰掛け安堵の息を吐く。彼女の前にはアンジェロが立っていて、彼が持つ水晶球に抱擁を交わすゼルドリックとリアの姿がくっきりと映っている。
「慌ただしく王都に呼び戻された時は何事かと思ったが、何の心配も要らないじゃないか」
師の言葉に、オリヴァーはぴくりと眉を動かした。
「先生! 何を脳天気なことを仰っているのです! 契りの薔薇が咲いてしまったのですよ? 禁呪ですよ禁呪! 解除不可能な禁呪が発動してしまったのです! 綿毛女はその魂を、ゼルドリックに縛られてしまったのですよ!」
「何の問題がある? リア自身がそれを深く望んだのだ」
ミーミスは猫のような目を細めた。
「薔薇が持つ役目は果たされた。だからもう、同じことは繰り返されない。ゼルドリックはリアの愛を望み、リアはそれを受け入れた。彼らの狂気は彼らの間で完結し、ゼルドリックの理不尽な殺意が周囲に向けられることはないのだよ。ハッピーエンドだとは思わないか?」
「……それは、そうかもしれませんが」
「オリヴァー、君もこの結末に喜んでいるんじゃないか」
「……」
「記憶を封じられ、リアのことをすっかり忘れてしまったゼルドリックを見た君は顔面蒼白だったからね。彼らの愛が無事に実って良かったと、そう思っているだろう」
オリヴァーは何も答えず、気まずそうに師から顔を逸らした。
「ゼルドリック様……リローラン殿。良かった、良かった……」
「良かったね、リア……頑張ったね……!」
アンジェロが涙を流し、腕の中の水晶球を見下ろす。マルティンは俯く彼の背を摩りながら、何度も鼻を啜った。
「ああ、リンデの子。よく頑張ったね。君は傷付けられてもゼルドリックの傍から離れようとしなかった」
ミーミスは椅子から立ち上がり、アンジェロの頭を労るように撫でた。
「ゼルドリックは幸せ者だ。彼は優秀で心優しい部下を持った。そして髭の子、君もだ。君もよくやってくれた」
「髭の子って……」
「リアの弟だと聞く。君がリアに贈ったシンプルな激励は、聞いていて気持ちが良かったよ」
マルティンの長い髭をくいくいと引っ張りながら、ミーミスは微笑んだ。
「彼女の心に火を灯したのは君たちだ。君たちあってこの結末がある。ありがとう」
「……何だかいい人ですね。エルフなのに高慢じゃない」
「こら、貴様! ミーミス様に向かって何てことを言うのだ!」
マルティンはオリヴァーに小突かれながらも涙を拭い、ミーミスに頭を下げた。
「ここに来た時、猫がぺらぺら喋り出したのを見てびっくりしましたけど。そしてその猫がいきなり化けて全裸の女の人が出てきた時はもっとびっくりしましたけど……。でも、こちらこそありがとうございます。あなたは、リアを助けてくれたって聞きました」
「ふふ、素直な子だね。そう他人に感謝を伝えられるところはリアとよく似ている。我々エルフもその素直さを見習わなければならないね」
ミーミスは再び猫に化け、椅子の上に飛び乗った。そして猫目をじっとアンジェロに向け、にゃあと鳴いた。
「ああ、大変だ。リンデの子の顔色が悪い」
「うぐっ……」
アンジェロは口元を押さえ、込み上げる吐き気を堪えた。
「え、アンジェロ……? 大丈夫? 吐きそう?」
「ああ、後味が……最悪だ」
「後味? 何のこと?」
マルティンが訝しげに訊ねると、ミーミスは大きな笑い声を上げた。
「髭の子、彼を外に連れ出してあげなさい。ここで吐かれたら堪らない」
「え、ええ……。行くよ、アンジェロ」
マルティンは水晶球を椅子の上に置き、必死に吐き気を堪えるアンジェロを伴って部屋を去った。
ミーミスは水晶球を尻尾で器用に転がし、オリヴァーに話しかけた。
「リアが拐われたと聞いて王都に戻ってきたけれど、不思議だったんだ。この世界のどこにもゼルドリックとリアの気配がなかった。彼らは一体どこに行ってしまったのだろうと思った」
「ええ。彼らが見つからないと先生から聞いた時は焦りました」
「ふふ。まさか、精神世界に行ったなんて思わないよねえ」
尻尾でころころと水晶球を転がし、猫は丸まった。
オリヴァーはミーミスの寝台に腰掛け、硝子張りの窓から射す陽光に目を眇めながら、ぽつぽつと話し始めた。
「ずっと疑問でした。ゼルドリックの奴は、なぜ綿毛女にあれほどの魔力を纏わせたのかと。あの魔力量、魔道具を作る時だってあんなには注がない。私はてっきり、奴は綿毛女を使って何か良からぬことをしようとしているのではないかと思ったのです。その動機が、愛によるものだとは思いませんでした……」
「……うん」
「精神世界。一部のエルフしか創り出せない高等魔術領域を百年以上前に創り上げ、そしてそこに己以外の存在を引きずり込んだ……。奴は、やはり怖ろしい男だ」
はは、とオリヴァーは乾いた笑い声を上げた。
「そしてあなたもです、先生。私はあなたの凄さを改めて実感しました。精神世界には、その者自身の魔力を鍵としてでしか向かうことが出来ない筈です。ですが先生は、ゼルドリックの精神世界を垣間見ることが出来た。他人の精神をそのまま覗き見るなど、不可能だと思っていました。一体どうやって……?」
ミーミスは尻尾でサイドテーブルのある方向を指した。
「薔薇?」
透き通った氷晶の薔薇が、ミーミスのサイドテーブルの上に飾られている。
「リアの病室から取ってきた。その薔薇はね、雪の美しい日にゼルドリックが創り出してくれたのだとリアは言っていたよ。雪で城を創り、薔薇の雨を降らしたのだと」
「気障な奴だ」
オリヴァーが鼻を鳴らすと、ミーミスはくすくすと笑った。
「私はその、ゼルドリックの魔力の塊ともいえる薔薇を使った。彼の魔力を増幅器にかけ遠見の水晶球に纏わせる。精神世界に直接行くことは叶わなくとも、精神世界の様子を覗き見ることは出来る」
「そういう訳ですか。素晴らしい! ですが、魔力増幅器などここにありましたか?」
「ぷふっ」
「先生?」
「オリヴァー。私は君にパルシファーを渡し、炒めて適当に味付けしてこいと言ったね?」
「え、ええ。あれは何のために?」
ミーミスは楽しそうに身体をくねらせ、白い腹を出した。
「パルシファーは微量の毒こそあるが、我々エルフには無害で食べることも出来る」
オリヴァーは吐き気を堪え、部屋から去っていったアンジェロの姿を思い出した。
「まさか、先生は貴族の坊に食べさせたのですか?」
「ああ。驚いたよ、パルシファーは無味無臭だというのに、君が持ってきた料理からは耐え難い刺激臭がした。あのリンデの子は無表情な顔を大きく歪めて、君の料理をこき下ろしたよ。……そういえば、君は料理がたいそう苦手だったね?」
「っぐ……。私は! 仕事一筋でしたから、料理は得意ではないのです!」
「ふふ、そうかい。つまりだ、私はリンデの子に魔力増幅器となってもらったのだ」
「ふむ?」
「君はあの子が、ただよく食べるだけの貴族の子だと思ったかい? あの子はね、食べたものの特性を自分の身体に反映させ何倍もの強さにするという素晴らしい力を持っている。悪食だったリンデの子らしい」
「あの貴族の坊に、そんな力が……」
「パルシファーは魔力の塊、それをあの子の力で増幅させる。そうして私はゼルドリックの精神世界を覗き見ることに成功した訳だ。良かったよ、ここに条件が揃っていて。揃っていなければ苦労するところだった」
「不可能だとは、仰らないのですね」
「ああ、不可能だとは言わない。私には九つの命があるし、この国に結界を張り続けられるくらいの魔力量もある。どの分野の魔法もそれなりに得意だ。ゼルドリックがどこへ行こうと追ってみせるよ」
力強い師の言葉に、オリヴァーは微かに笑った。
「……先生。あなたは、ゼルドリックに施した遮蔽魔術をわざと解いたのではありませんか」
「ふうむ、何のことだい?」
ミーミスはぴょんとオリヴァーの膝に乗り、腹を出してとぼけた。
「君はよく知っているだろう。私がゼルドリックに対して施した遮蔽魔術は非常に複雑で、不可逆的だ。私自身がかけたとはいえ、そう簡単に解呪できるものではないよ」
「ええ、ですが……」
オリヴァーはミーミスのふわふわとした腹を撫でながら、ぼんやりと窓越しに王都の美しい空を見た。
「ゼルドリックの屋敷に転移した際、先生の魔術の残滓を感じました。私が思うに、先生は綿毛女に遅効式の解呪を仕込んでいた。特定の言葉で発動する類の魔法です。綿毛女の告白で、ゼルドリックの記憶が戻るようにしたのでしょう」
「ふふ。それに気がつくとはね。君も凄いじゃないか、オリヴァー。魔力探知で君の右に出るものはいないな」
ミーミスはするりとオリヴァーの膝から下り、変化を解いた。
「後悔したのだ。リアの気持ちを確かめる前に、ゼルドリックから記憶を奪ったことを」
低くも透き通った美しい声が、静かに部屋に響く。
俯いたミーミスの顔は銀糸のような髪に阻まれ、窺い知ることはできない。オリヴァーは師の言葉に耳を傾けた。
「ゼルドリックを保護した時、彼の肉体と精神はとうに限界を迎えていて、契りの薔薇の狂気から彼を救うためにはリアの全てを封じてしまうしかないと思った。あの時の判断は間違っていなかったと思う。事実、私達が施した遮蔽魔術によって彼は目を覚ますことが出来た」
「……」
「ゼルドリックが記憶の欠落に苦しむのは想定内だった。だが、リアは……。ゼルドリックに傷付けられ死にかけても、それでも彼を愛しているのだと言った。寝言でずっとゼルドリックの名を呼ぶのだ。戻ってきて、思い出して……と。私の心が切なくて仕方がなくなるくらいにね。罰とはいえ、私は残酷なことをしてしまったのだと悔いた」
ミーミスは嘆息した。
「拗れてはしまったが好き合う者同士、幸せになってほしいと思い始めた。だが、随分と悩んだ。あの薔薇は役目を果たさない限り、ゼルドリックを苛み続ける。リアが薔薇を受け取らなければ、彼はまた同じことを繰り返す。ゼルドリックを愛しているのだとはいえ……リアを、怖ろしい禁呪の犠牲にして良いのかと己に問い続けた」
「……先生」
「出立の前、リアと話したのだ。あの子の覚悟を聞きたかった。ゼルドリックに会いに行くなら、自分の魂を捧げるか、彼を殺すか選びなさいと言った。リアは力強く言い切ったよ。薔薇を受け取ると。ゼルドリックを心から愛しているから、どうなったって後悔はないと。……だからこっそり、リアの身体に遮蔽魔術を解くための鍵を仕込んでおいた。リアがゼルドリックに愛の言葉を囁いた時に発動するようにね」
「そういう訳でしたか」
オリヴァーは師の肩に己のコートをかけた。
「……先生。人間は早く死にます。我々が思うより遥かに早く」
「ああ」
「契りを交わしたとはいえ、ゼルドリックはあの女の喪失に耐えられるでしょうか」
「リアの死は、ゼルドリックを徹底的に打ちのめすだろう。それでもリアと過ごした何十年かが、これから数百、数千年を生きていく彼の心の支えになり続ける。愛とはそういうものだ、年若きオリヴァー。彼女はずっとゼルドリックの中で生き続けるよ」
オリヴァーのおかっぱ頭をくしゃくしゃと撫で、ミーミスは微笑んだ。
「だから今は、ただ祝福してあげよう。二人のこれからに幸あれと」
「……そうですね」
オリヴァーは師の言葉に微笑んだ。
ふと、水晶球が震える。ミーミスは急いで寝台から立ち上がった。
「ああ、いけない。始まってしまった」
「始まった? 何がです?」
「二人の重なり合いだ。オリヴァー、君は見ない方がいい。まだ愛欲を知らぬ君には刺激が強すぎる」
こちらにやって来ようとするオリヴァーを止めながら、ミーミスは水晶球にばさりとコートをかけた。
「なっ……!? は、破廉恥でしょう! やつらを止めるべきです!」
オリヴァーは顔を真っ赤にして大声を上げた。
「先生! 忘れていませんか!? ゼルドリックは罪人なのですよ! 記憶を取り戻した奴を即刻捕縛し、監視下に置くべきです!」
「分かっている、勿論そうするべきだ。だが、ゼルドリックはやっとリアと想いを通わせることが出来たのだよ。暫くは、二人だけの世界でゆっくりさせてあげなさい」
「何を脳天気なことを! 精神世界は時の流れが違うのですよ? あやつらが二人だけの世界から戻ってこなかったらどうするのです!」
「心配ない、リアの腹の中には子がいるだろう? 産み育てねばならないからね、彼らはここに戻ってくるさ」
ミーミスは口角を上げ、にっと笑った。
「さあオリヴァー。君はレントの様子を見に行きなさい。メルローが治療を施しているが、今も魔力酔いに苦しんでいるだろうからね」
「……承知しました」
オリヴァーは一礼をし、その場から消え去った。
「ふふ」
ミーミスはコート越しに水晶球を撫でた。
「良かったね、ゼルドリック、リア……」
咲き誇った青い薔薇の見事な美しさを思い返し、ミーミスはほうと息を吐いた。
――――――――――
精神世界を抜け出した二人を、ミーミスとオリヴァーが待ち構えていた。
ゼルドリックはすぐさまオリヴァーに捕らえられ、中央政府管轄の刑務所へと連行された。不安を露わにするリアを宥め、ミーミスはゼルドリックの屋敷に戻り、彼の帰還を待つように伝えた。
ゼルドリックのいないばら屋敷で独り過ごしながら、リアは工場でファティアナの装身具を作ったり、メルローと共に獣人の女性が働く菓子屋に行ったり、マルや両親に手紙を書いたり、薔薇の手入れなどをしながら過ごした。
一ヶ月程経った後の天気の良い日、リアはばら屋敷にメルローを招いた。自室の姿見の前に彼女を座らせ耳に留まった新しいピアスを見せる。メルローはにかっと笑い、リアの方に振り向いた。
「ど? 似合う?」
「うん、とっても!」
リアはにこにこと笑い、メルローの問いかけに深く頷いた。リアが彼女のために作った豪奢なピアス。プラチナとグレープガーネットで作られた葡萄の房のような形のピアスは、メルローの紫色の髪と赤葡萄色の瞳を、尚美しく際立たせた。
「おお、派手だ。光を反射してきらっきらしてる。これ、超あたし好みだよ! リアちゃんってすげえんだな」
「気に入ってもらえたみたいで嬉しいわ」
「ああ、本当に気に入った。ずっとずっと大事にする。ありがとうリアちゃん」
メルローは嬉しそうにリアの肩を抱いた。
「うん、大事にしてね! 色々あったけど、やっとピアスを作ることが出来てほっとしたわ。メルローちゃんとの約束を果たせてよかった……」
「リアちゃん……」
「そういえば私、ゼルとも約束していたわね。春になったら一緒に桜の大樹を見に行こうって」
リアは窓から外を見た。桜の雨は続いているが、風に乗って流れる花びらの数は大分減ってきた。
「早く戻ってきてくれないかしらね。もう、緑が芽吹く季節よ。このままでは桜が散ってしまうわ……」
「きっと、もうすぐ戻ってくるさ」
メルローはリアの頭をぽんぽんと優しく叩いた。
(ゼルドリックの野郎は、あんたを囲い込むために多くの罪を犯した。上層部が無罪を下したとはいえ、本来なら牢に三百年の収監だ。ミーミス様とオリヴァーのおっさんは、あいつが犯した罪の尻拭いに追われてる。ゼルドリックの野郎は拘束されて今も尋問を受けてるだろう。……それでも、皆、あんたの隣にあいつがいないと駄目なのは知ってる)
リアの手を握る。ふっくらと柔らかなリアの手を。
「ミーミス様がどうにかしてくれんだろ。だからさ、んな不安そうな顔をすんなって。あいつ、リアちゃんの笑顔が好きって言ったんだろ」
「……うん」
「あたしも一緒」
メルローは真っ赤な唇を美しく歪めた。
「あんたのほわほわした、陽だまりみたいな笑顔が好きだよ」
「ひ、陽だまり? そうかな……?」
照れたように目を逸らすリアの頬をつつき、メルローはくしゃくしゃと頭を撫でた。
「笑って過ごしな。桜が散らないうちに、あいつと見に行けたらいいな」
「うん、……メルローちゃん、ありがとう」
リアは微笑んだ。
――――――――――
そして数日の後、ゼルドリックはリアの元に帰ってきた。
「ゼル! おかえりなさい!」
「リア……会いたかった」
オリヴァーに付き添われ、ゼルドリックはばら屋敷の広間へと転移してきた。現れた彼としっかりと抱擁を交わし、リアは嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、長かった。リア、リア……。君に会えなくて本当に辛かった……。ずっとこうして抱きしめて、髪を撫でて、手を握って、君に触れたい、笑顔が見たいと思い続けてきたんだ……」
「ゼル……」
「ああ、リア。君は本当に可愛い。久しぶりに見るから特にそう感じる……」
ゼルドリックはリアの頬に手を添え口づけようとしたが、オリヴァーが凄まじい勢いで彼を羽交い締めにした。
「おいっ、何をするオリヴァー!」
「ふざけるなよ貴様! 私の前で何をしようとした!?」
「リアに口付けようとしたが?」
「しゃあしゃあと抜かしおって! 貴様は罪人の身だ! 盛るな! 禁欲しろ!」
オリヴァーは大声を出した後咳払いをし、リアに向き直った。
「綿毛女」
「は、はい」
リアが背の高いオリヴァーを見上げると、彼はさらさらのおかっぱ頭を揺らし胸を張った。
「私はミーミス様と共にこやつの尻拭いをしてやった」
「はい……。オリヴァー様、ありがとうございます。大変だったのでしょう」
「ああ、本当にな。こやつは貴様を囲い込むのにどれだけの罪を犯したか! まあ、それは置いておこう。ゼルドリックを中央政府から引き離して貴様の傍に置くためには、様々な細工をする必要があった」
「細工?」
「それは後でゼルドリックから聞くといい。良かったな、綿毛女」
オリヴァーは笑った。緑色の瞳が柔らかく煌めく。リアはオリヴァーがかけてくれた優しい言葉たちを思い出し、目を潤ませた。
「ありがとうございました、オリヴァー様」
リアはゼルドリックの手を取り、そしてオリヴァーに深く頭を下げた。
「オリヴァー様はずっと優しかった、私を見守り続けて下さいました。私はゼルと共に、この子を守ってみせます。誰からも何も言われないように」
「ああ。貴様の隣にはそやつがいる。支え合い、幸せに生きていけ。……それではな」
オリヴァーは片手を上げ、その場から消え去った。
「……リア。寂しい思いをさせた」
「ゼル……そうよ、こんな広い屋敷でひとり。本当に寂しかったんだから……」
優しく目を合わせられ、そっと口付けられる。リアは唇から伝わる甘やかな感覚にうっとりと目を細めた。姫抱きにされ、自室の寝台に座らされる。リアはゼルドリックの首に、見慣れない首輪のようなものがつけられているのを見た。
「これは?」
「俺への罰だ。そして、君の傍にいるために必要なものだ」
リアが首に手を添えると、ゼルドリックは眉を下げた。
「リア、俺は中央政府で働く上で、監視や諜報、暗殺などの薄暗い仕事をいくつもこなしてきた。中央政府は清廉ではない。未だに汚職に塗れ、私服を肥やす者たちに溢れている」
「……」
「かつての俺は自棄で、政府より命じられるままに与えられた任務をこなしてきた。そしてそのうち、中央政府に於いて最大の権限を持つ上層部の目に留まることになったのだ。俺は奴らの駒として、この手を血で染め続けた……。厳格で真面目な役人という評価は偽りだ。俺はただの駒に過ぎなかった」
「……ゼル」
「俺が犯した罪が露わになった時、奴らが俺に下した判決は無罪だった。上層部は使い勝手のいい俺を手放したくはなかったらしい。だがそれは、これからも奴らの駒として働かなければならないという事。死と隣り合わせの危険な任務も命じられる。そうなれば君の傍にはいられない」
「上層部は俺に冷静を望んでいた。変化することなく、余計なことも言わず、ただ大人しく手を汚すことを要求するのだ。……奴らは君の存在を既に知っている。女一人で俺が落ち着くならくれてやれと言い放ったらしい」
「だが……。君が、俺の心をこれほどに大きく揺らす存在だと奴らに知られてしまっては、俺が今までのように冷静でいられないと知られてしまっては、奴らは君に危害を与えるかもしれなかった。だから俺は、中央政府から離れることを望んだ」
「私の、せい?」
震えるリアの声を聞き、ゼルドリックは首を横に振った。
「違う。決してそんなことはない。リア、言っただろう? 俺は中央政府の役人としての立場など、どうでもいいと思っていた。君以上に必要なものなどなかった」
ゼルドリックはリアをしっかりと抱き締めた。
「中央政府を離れるためには、俺はもう働けないのだと証明する必要があった。先生……ミーミス様が上層部に嘘を吐いてくれたのだ。俺は禁呪に手を出した末に重篤なダメージを負い、回復の見込みなしだと。……この首輪は、先生がしてくれた細工の結晶だ」
「ミーミス様は、その首輪に何を施したの?」
「上層部から俺の姿が認識できなくなる遮蔽魔術、および、俺の魔力を全て先生へと転送する魔術だ。俺はこの先三百年、一切の魔法を使うことができない。上層部の代わりに、俺は先生の手によって罰を下された。三百年に渡る王都追放、および魔封じ。この屋敷を含む財産の没収……」
「ぁ……」
リアは息を飲んだ。
「ねえ、それって物凄く重い罰ではないの?」
「ああ、とても。王都追放までされた中央政府の役人は、俺が初めてだろう」
己に重い罰が下されたというのに、ゼルドリックは晴れやかな顔をリアに向けた。
「だが、その罰のお陰で君の傍にいられるのだ」
くしゃりと顔を歪めたリアを慰めるように、ゼルドリックは赤い髪を何度も何度も撫でた。
「しかし……困ったな。俺の溜め込んだ金を持っていかれるとなると、贅沢はできなくなるな……」
「贅沢なんてしなくてもいいじゃない。日々を送るだけのお金があれば充分。それに、私はまだファティアナ様専属の職人よ、しっかり稼ぐわ」
「リア……」
「ファティアナ様にね、あなたと思いを通わせてきましたって報告したの。そしたらまた命令を下されたわ。今度は私の村に戻り、そこでずっと一緒に暮らしなさい!って。……ゼル、はずれの村に行きましょう。村の人たちはいい人ばかりよ。ハーフドワーフの私が差別されることは一度もなかった。きっとあなたと、この子も優しく受け入れてくれる。何もない田舎村だけど……嫌かしら?」
「いいや。君とならどこへでも。君が傍にいれば……どんな場所も楽園に変わる。ありがとう、リア」
二人は顔を見合わせ笑いあった後、そしてまたキスをした。
――――――――――
翌日、リアとゼルドリックは手を繋いで大樹の広場へと向かった。風に乗って流れる桃色の花びらはだいぶ減ったが、それでも大樹にはまだ桜の花がついている。
「ああ、良かった! 桜が散ってしまう前にあなたと見に来ることが出来たわ。嬉しい……!」
ゼルドリックの腕に手を回し、リアは満面の笑みを浮かべた。
「ねえゼル、冬の日に約束したの覚えてる? 春になったら、ここに来て桜を見ましょうって」
「ああ、勿論覚えている」
ゼルドリックはリアの眩しい笑顔を見つめ、優しく甘い微笑みを浮かべた。
「綺麗ね」
リアは心からそう思った。
「あの日の約束を叶えることが出来て本当に良かった」
「……済まないな、リア」
ゼルドリックはリアの手を握り、俯いた。
「……? なぜ謝るの?」
「葉桜になりかけているだろう。花の盛りはとうに過ぎている」
「ああ、そんなこと」
リアは笑った。
「私ね、満開の桜を見たわ。でも全然綺麗だとは思えなかった。隣にあなたがいないから、どこか色褪せて見えた」
「……リア」
「あなたと見るこの葉桜の方が、遥かに美しく色鮮やかに見える」
首に手を回し、ダークエルフの黒く長い耳に口を寄せる。
「私も同じよ、ゼル。あなたが傍にいればどんな場所も楽園に変わる。どんなものも美しく見える」
「くくっ……あの冬の日も、そんなことをここで言い合ったな」
「ええ」
リアとゼルドリックは手を繋ぎ、葉桜から散る桃色の花びらをしばらく眺めていた。
そこに幾人かが集まり、固唾を呑んでリアとゼルドリックを見守っていた。
「うまくいったようだね」
ミーミスは口角を上げた。椅子に深く腰掛け安堵の息を吐く。彼女の前にはアンジェロが立っていて、彼が持つ水晶球に抱擁を交わすゼルドリックとリアの姿がくっきりと映っている。
「慌ただしく王都に呼び戻された時は何事かと思ったが、何の心配も要らないじゃないか」
師の言葉に、オリヴァーはぴくりと眉を動かした。
「先生! 何を脳天気なことを仰っているのです! 契りの薔薇が咲いてしまったのですよ? 禁呪ですよ禁呪! 解除不可能な禁呪が発動してしまったのです! 綿毛女はその魂を、ゼルドリックに縛られてしまったのですよ!」
「何の問題がある? リア自身がそれを深く望んだのだ」
ミーミスは猫のような目を細めた。
「薔薇が持つ役目は果たされた。だからもう、同じことは繰り返されない。ゼルドリックはリアの愛を望み、リアはそれを受け入れた。彼らの狂気は彼らの間で完結し、ゼルドリックの理不尽な殺意が周囲に向けられることはないのだよ。ハッピーエンドだとは思わないか?」
「……それは、そうかもしれませんが」
「オリヴァー、君もこの結末に喜んでいるんじゃないか」
「……」
「記憶を封じられ、リアのことをすっかり忘れてしまったゼルドリックを見た君は顔面蒼白だったからね。彼らの愛が無事に実って良かったと、そう思っているだろう」
オリヴァーは何も答えず、気まずそうに師から顔を逸らした。
「ゼルドリック様……リローラン殿。良かった、良かった……」
「良かったね、リア……頑張ったね……!」
アンジェロが涙を流し、腕の中の水晶球を見下ろす。マルティンは俯く彼の背を摩りながら、何度も鼻を啜った。
「ああ、リンデの子。よく頑張ったね。君は傷付けられてもゼルドリックの傍から離れようとしなかった」
ミーミスは椅子から立ち上がり、アンジェロの頭を労るように撫でた。
「ゼルドリックは幸せ者だ。彼は優秀で心優しい部下を持った。そして髭の子、君もだ。君もよくやってくれた」
「髭の子って……」
「リアの弟だと聞く。君がリアに贈ったシンプルな激励は、聞いていて気持ちが良かったよ」
マルティンの長い髭をくいくいと引っ張りながら、ミーミスは微笑んだ。
「彼女の心に火を灯したのは君たちだ。君たちあってこの結末がある。ありがとう」
「……何だかいい人ですね。エルフなのに高慢じゃない」
「こら、貴様! ミーミス様に向かって何てことを言うのだ!」
マルティンはオリヴァーに小突かれながらも涙を拭い、ミーミスに頭を下げた。
「ここに来た時、猫がぺらぺら喋り出したのを見てびっくりしましたけど。そしてその猫がいきなり化けて全裸の女の人が出てきた時はもっとびっくりしましたけど……。でも、こちらこそありがとうございます。あなたは、リアを助けてくれたって聞きました」
「ふふ、素直な子だね。そう他人に感謝を伝えられるところはリアとよく似ている。我々エルフもその素直さを見習わなければならないね」
ミーミスは再び猫に化け、椅子の上に飛び乗った。そして猫目をじっとアンジェロに向け、にゃあと鳴いた。
「ああ、大変だ。リンデの子の顔色が悪い」
「うぐっ……」
アンジェロは口元を押さえ、込み上げる吐き気を堪えた。
「え、アンジェロ……? 大丈夫? 吐きそう?」
「ああ、後味が……最悪だ」
「後味? 何のこと?」
マルティンが訝しげに訊ねると、ミーミスは大きな笑い声を上げた。
「髭の子、彼を外に連れ出してあげなさい。ここで吐かれたら堪らない」
「え、ええ……。行くよ、アンジェロ」
マルティンは水晶球を椅子の上に置き、必死に吐き気を堪えるアンジェロを伴って部屋を去った。
ミーミスは水晶球を尻尾で器用に転がし、オリヴァーに話しかけた。
「リアが拐われたと聞いて王都に戻ってきたけれど、不思議だったんだ。この世界のどこにもゼルドリックとリアの気配がなかった。彼らは一体どこに行ってしまったのだろうと思った」
「ええ。彼らが見つからないと先生から聞いた時は焦りました」
「ふふ。まさか、精神世界に行ったなんて思わないよねえ」
尻尾でころころと水晶球を転がし、猫は丸まった。
オリヴァーはミーミスの寝台に腰掛け、硝子張りの窓から射す陽光に目を眇めながら、ぽつぽつと話し始めた。
「ずっと疑問でした。ゼルドリックの奴は、なぜ綿毛女にあれほどの魔力を纏わせたのかと。あの魔力量、魔道具を作る時だってあんなには注がない。私はてっきり、奴は綿毛女を使って何か良からぬことをしようとしているのではないかと思ったのです。その動機が、愛によるものだとは思いませんでした……」
「……うん」
「精神世界。一部のエルフしか創り出せない高等魔術領域を百年以上前に創り上げ、そしてそこに己以外の存在を引きずり込んだ……。奴は、やはり怖ろしい男だ」
はは、とオリヴァーは乾いた笑い声を上げた。
「そしてあなたもです、先生。私はあなたの凄さを改めて実感しました。精神世界には、その者自身の魔力を鍵としてでしか向かうことが出来ない筈です。ですが先生は、ゼルドリックの精神世界を垣間見ることが出来た。他人の精神をそのまま覗き見るなど、不可能だと思っていました。一体どうやって……?」
ミーミスは尻尾でサイドテーブルのある方向を指した。
「薔薇?」
透き通った氷晶の薔薇が、ミーミスのサイドテーブルの上に飾られている。
「リアの病室から取ってきた。その薔薇はね、雪の美しい日にゼルドリックが創り出してくれたのだとリアは言っていたよ。雪で城を創り、薔薇の雨を降らしたのだと」
「気障な奴だ」
オリヴァーが鼻を鳴らすと、ミーミスはくすくすと笑った。
「私はその、ゼルドリックの魔力の塊ともいえる薔薇を使った。彼の魔力を増幅器にかけ遠見の水晶球に纏わせる。精神世界に直接行くことは叶わなくとも、精神世界の様子を覗き見ることは出来る」
「そういう訳ですか。素晴らしい! ですが、魔力増幅器などここにありましたか?」
「ぷふっ」
「先生?」
「オリヴァー。私は君にパルシファーを渡し、炒めて適当に味付けしてこいと言ったね?」
「え、ええ。あれは何のために?」
ミーミスは楽しそうに身体をくねらせ、白い腹を出した。
「パルシファーは微量の毒こそあるが、我々エルフには無害で食べることも出来る」
オリヴァーは吐き気を堪え、部屋から去っていったアンジェロの姿を思い出した。
「まさか、先生は貴族の坊に食べさせたのですか?」
「ああ。驚いたよ、パルシファーは無味無臭だというのに、君が持ってきた料理からは耐え難い刺激臭がした。あのリンデの子は無表情な顔を大きく歪めて、君の料理をこき下ろしたよ。……そういえば、君は料理がたいそう苦手だったね?」
「っぐ……。私は! 仕事一筋でしたから、料理は得意ではないのです!」
「ふふ、そうかい。つまりだ、私はリンデの子に魔力増幅器となってもらったのだ」
「ふむ?」
「君はあの子が、ただよく食べるだけの貴族の子だと思ったかい? あの子はね、食べたものの特性を自分の身体に反映させ何倍もの強さにするという素晴らしい力を持っている。悪食だったリンデの子らしい」
「あの貴族の坊に、そんな力が……」
「パルシファーは魔力の塊、それをあの子の力で増幅させる。そうして私はゼルドリックの精神世界を覗き見ることに成功した訳だ。良かったよ、ここに条件が揃っていて。揃っていなければ苦労するところだった」
「不可能だとは、仰らないのですね」
「ああ、不可能だとは言わない。私には九つの命があるし、この国に結界を張り続けられるくらいの魔力量もある。どの分野の魔法もそれなりに得意だ。ゼルドリックがどこへ行こうと追ってみせるよ」
力強い師の言葉に、オリヴァーは微かに笑った。
「……先生。あなたは、ゼルドリックに施した遮蔽魔術をわざと解いたのではありませんか」
「ふうむ、何のことだい?」
ミーミスはぴょんとオリヴァーの膝に乗り、腹を出してとぼけた。
「君はよく知っているだろう。私がゼルドリックに対して施した遮蔽魔術は非常に複雑で、不可逆的だ。私自身がかけたとはいえ、そう簡単に解呪できるものではないよ」
「ええ、ですが……」
オリヴァーはミーミスのふわふわとした腹を撫でながら、ぼんやりと窓越しに王都の美しい空を見た。
「ゼルドリックの屋敷に転移した際、先生の魔術の残滓を感じました。私が思うに、先生は綿毛女に遅効式の解呪を仕込んでいた。特定の言葉で発動する類の魔法です。綿毛女の告白で、ゼルドリックの記憶が戻るようにしたのでしょう」
「ふふ。それに気がつくとはね。君も凄いじゃないか、オリヴァー。魔力探知で君の右に出るものはいないな」
ミーミスはするりとオリヴァーの膝から下り、変化を解いた。
「後悔したのだ。リアの気持ちを確かめる前に、ゼルドリックから記憶を奪ったことを」
低くも透き通った美しい声が、静かに部屋に響く。
俯いたミーミスの顔は銀糸のような髪に阻まれ、窺い知ることはできない。オリヴァーは師の言葉に耳を傾けた。
「ゼルドリックを保護した時、彼の肉体と精神はとうに限界を迎えていて、契りの薔薇の狂気から彼を救うためにはリアの全てを封じてしまうしかないと思った。あの時の判断は間違っていなかったと思う。事実、私達が施した遮蔽魔術によって彼は目を覚ますことが出来た」
「……」
「ゼルドリックが記憶の欠落に苦しむのは想定内だった。だが、リアは……。ゼルドリックに傷付けられ死にかけても、それでも彼を愛しているのだと言った。寝言でずっとゼルドリックの名を呼ぶのだ。戻ってきて、思い出して……と。私の心が切なくて仕方がなくなるくらいにね。罰とはいえ、私は残酷なことをしてしまったのだと悔いた」
ミーミスは嘆息した。
「拗れてはしまったが好き合う者同士、幸せになってほしいと思い始めた。だが、随分と悩んだ。あの薔薇は役目を果たさない限り、ゼルドリックを苛み続ける。リアが薔薇を受け取らなければ、彼はまた同じことを繰り返す。ゼルドリックを愛しているのだとはいえ……リアを、怖ろしい禁呪の犠牲にして良いのかと己に問い続けた」
「……先生」
「出立の前、リアと話したのだ。あの子の覚悟を聞きたかった。ゼルドリックに会いに行くなら、自分の魂を捧げるか、彼を殺すか選びなさいと言った。リアは力強く言い切ったよ。薔薇を受け取ると。ゼルドリックを心から愛しているから、どうなったって後悔はないと。……だからこっそり、リアの身体に遮蔽魔術を解くための鍵を仕込んでおいた。リアがゼルドリックに愛の言葉を囁いた時に発動するようにね」
「そういう訳でしたか」
オリヴァーは師の肩に己のコートをかけた。
「……先生。人間は早く死にます。我々が思うより遥かに早く」
「ああ」
「契りを交わしたとはいえ、ゼルドリックはあの女の喪失に耐えられるでしょうか」
「リアの死は、ゼルドリックを徹底的に打ちのめすだろう。それでもリアと過ごした何十年かが、これから数百、数千年を生きていく彼の心の支えになり続ける。愛とはそういうものだ、年若きオリヴァー。彼女はずっとゼルドリックの中で生き続けるよ」
オリヴァーのおかっぱ頭をくしゃくしゃと撫で、ミーミスは微笑んだ。
「だから今は、ただ祝福してあげよう。二人のこれからに幸あれと」
「……そうですね」
オリヴァーは師の言葉に微笑んだ。
ふと、水晶球が震える。ミーミスは急いで寝台から立ち上がった。
「ああ、いけない。始まってしまった」
「始まった? 何がです?」
「二人の重なり合いだ。オリヴァー、君は見ない方がいい。まだ愛欲を知らぬ君には刺激が強すぎる」
こちらにやって来ようとするオリヴァーを止めながら、ミーミスは水晶球にばさりとコートをかけた。
「なっ……!? は、破廉恥でしょう! やつらを止めるべきです!」
オリヴァーは顔を真っ赤にして大声を上げた。
「先生! 忘れていませんか!? ゼルドリックは罪人なのですよ! 記憶を取り戻した奴を即刻捕縛し、監視下に置くべきです!」
「分かっている、勿論そうするべきだ。だが、ゼルドリックはやっとリアと想いを通わせることが出来たのだよ。暫くは、二人だけの世界でゆっくりさせてあげなさい」
「何を脳天気なことを! 精神世界は時の流れが違うのですよ? あやつらが二人だけの世界から戻ってこなかったらどうするのです!」
「心配ない、リアの腹の中には子がいるだろう? 産み育てねばならないからね、彼らはここに戻ってくるさ」
ミーミスは口角を上げ、にっと笑った。
「さあオリヴァー。君はレントの様子を見に行きなさい。メルローが治療を施しているが、今も魔力酔いに苦しんでいるだろうからね」
「……承知しました」
オリヴァーは一礼をし、その場から消え去った。
「ふふ」
ミーミスはコート越しに水晶球を撫でた。
「良かったね、ゼルドリック、リア……」
咲き誇った青い薔薇の見事な美しさを思い返し、ミーミスはほうと息を吐いた。
――――――――――
精神世界を抜け出した二人を、ミーミスとオリヴァーが待ち構えていた。
ゼルドリックはすぐさまオリヴァーに捕らえられ、中央政府管轄の刑務所へと連行された。不安を露わにするリアを宥め、ミーミスはゼルドリックの屋敷に戻り、彼の帰還を待つように伝えた。
ゼルドリックのいないばら屋敷で独り過ごしながら、リアは工場でファティアナの装身具を作ったり、メルローと共に獣人の女性が働く菓子屋に行ったり、マルや両親に手紙を書いたり、薔薇の手入れなどをしながら過ごした。
一ヶ月程経った後の天気の良い日、リアはばら屋敷にメルローを招いた。自室の姿見の前に彼女を座らせ耳に留まった新しいピアスを見せる。メルローはにかっと笑い、リアの方に振り向いた。
「ど? 似合う?」
「うん、とっても!」
リアはにこにこと笑い、メルローの問いかけに深く頷いた。リアが彼女のために作った豪奢なピアス。プラチナとグレープガーネットで作られた葡萄の房のような形のピアスは、メルローの紫色の髪と赤葡萄色の瞳を、尚美しく際立たせた。
「おお、派手だ。光を反射してきらっきらしてる。これ、超あたし好みだよ! リアちゃんってすげえんだな」
「気に入ってもらえたみたいで嬉しいわ」
「ああ、本当に気に入った。ずっとずっと大事にする。ありがとうリアちゃん」
メルローは嬉しそうにリアの肩を抱いた。
「うん、大事にしてね! 色々あったけど、やっとピアスを作ることが出来てほっとしたわ。メルローちゃんとの約束を果たせてよかった……」
「リアちゃん……」
「そういえば私、ゼルとも約束していたわね。春になったら一緒に桜の大樹を見に行こうって」
リアは窓から外を見た。桜の雨は続いているが、風に乗って流れる花びらの数は大分減ってきた。
「早く戻ってきてくれないかしらね。もう、緑が芽吹く季節よ。このままでは桜が散ってしまうわ……」
「きっと、もうすぐ戻ってくるさ」
メルローはリアの頭をぽんぽんと優しく叩いた。
(ゼルドリックの野郎は、あんたを囲い込むために多くの罪を犯した。上層部が無罪を下したとはいえ、本来なら牢に三百年の収監だ。ミーミス様とオリヴァーのおっさんは、あいつが犯した罪の尻拭いに追われてる。ゼルドリックの野郎は拘束されて今も尋問を受けてるだろう。……それでも、皆、あんたの隣にあいつがいないと駄目なのは知ってる)
リアの手を握る。ふっくらと柔らかなリアの手を。
「ミーミス様がどうにかしてくれんだろ。だからさ、んな不安そうな顔をすんなって。あいつ、リアちゃんの笑顔が好きって言ったんだろ」
「……うん」
「あたしも一緒」
メルローは真っ赤な唇を美しく歪めた。
「あんたのほわほわした、陽だまりみたいな笑顔が好きだよ」
「ひ、陽だまり? そうかな……?」
照れたように目を逸らすリアの頬をつつき、メルローはくしゃくしゃと頭を撫でた。
「笑って過ごしな。桜が散らないうちに、あいつと見に行けたらいいな」
「うん、……メルローちゃん、ありがとう」
リアは微笑んだ。
――――――――――
そして数日の後、ゼルドリックはリアの元に帰ってきた。
「ゼル! おかえりなさい!」
「リア……会いたかった」
オリヴァーに付き添われ、ゼルドリックはばら屋敷の広間へと転移してきた。現れた彼としっかりと抱擁を交わし、リアは嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、長かった。リア、リア……。君に会えなくて本当に辛かった……。ずっとこうして抱きしめて、髪を撫でて、手を握って、君に触れたい、笑顔が見たいと思い続けてきたんだ……」
「ゼル……」
「ああ、リア。君は本当に可愛い。久しぶりに見るから特にそう感じる……」
ゼルドリックはリアの頬に手を添え口づけようとしたが、オリヴァーが凄まじい勢いで彼を羽交い締めにした。
「おいっ、何をするオリヴァー!」
「ふざけるなよ貴様! 私の前で何をしようとした!?」
「リアに口付けようとしたが?」
「しゃあしゃあと抜かしおって! 貴様は罪人の身だ! 盛るな! 禁欲しろ!」
オリヴァーは大声を出した後咳払いをし、リアに向き直った。
「綿毛女」
「は、はい」
リアが背の高いオリヴァーを見上げると、彼はさらさらのおかっぱ頭を揺らし胸を張った。
「私はミーミス様と共にこやつの尻拭いをしてやった」
「はい……。オリヴァー様、ありがとうございます。大変だったのでしょう」
「ああ、本当にな。こやつは貴様を囲い込むのにどれだけの罪を犯したか! まあ、それは置いておこう。ゼルドリックを中央政府から引き離して貴様の傍に置くためには、様々な細工をする必要があった」
「細工?」
「それは後でゼルドリックから聞くといい。良かったな、綿毛女」
オリヴァーは笑った。緑色の瞳が柔らかく煌めく。リアはオリヴァーがかけてくれた優しい言葉たちを思い出し、目を潤ませた。
「ありがとうございました、オリヴァー様」
リアはゼルドリックの手を取り、そしてオリヴァーに深く頭を下げた。
「オリヴァー様はずっと優しかった、私を見守り続けて下さいました。私はゼルと共に、この子を守ってみせます。誰からも何も言われないように」
「ああ。貴様の隣にはそやつがいる。支え合い、幸せに生きていけ。……それではな」
オリヴァーは片手を上げ、その場から消え去った。
「……リア。寂しい思いをさせた」
「ゼル……そうよ、こんな広い屋敷でひとり。本当に寂しかったんだから……」
優しく目を合わせられ、そっと口付けられる。リアは唇から伝わる甘やかな感覚にうっとりと目を細めた。姫抱きにされ、自室の寝台に座らされる。リアはゼルドリックの首に、見慣れない首輪のようなものがつけられているのを見た。
「これは?」
「俺への罰だ。そして、君の傍にいるために必要なものだ」
リアが首に手を添えると、ゼルドリックは眉を下げた。
「リア、俺は中央政府で働く上で、監視や諜報、暗殺などの薄暗い仕事をいくつもこなしてきた。中央政府は清廉ではない。未だに汚職に塗れ、私服を肥やす者たちに溢れている」
「……」
「かつての俺は自棄で、政府より命じられるままに与えられた任務をこなしてきた。そしてそのうち、中央政府に於いて最大の権限を持つ上層部の目に留まることになったのだ。俺は奴らの駒として、この手を血で染め続けた……。厳格で真面目な役人という評価は偽りだ。俺はただの駒に過ぎなかった」
「……ゼル」
「俺が犯した罪が露わになった時、奴らが俺に下した判決は無罪だった。上層部は使い勝手のいい俺を手放したくはなかったらしい。だがそれは、これからも奴らの駒として働かなければならないという事。死と隣り合わせの危険な任務も命じられる。そうなれば君の傍にはいられない」
「上層部は俺に冷静を望んでいた。変化することなく、余計なことも言わず、ただ大人しく手を汚すことを要求するのだ。……奴らは君の存在を既に知っている。女一人で俺が落ち着くならくれてやれと言い放ったらしい」
「だが……。君が、俺の心をこれほどに大きく揺らす存在だと奴らに知られてしまっては、俺が今までのように冷静でいられないと知られてしまっては、奴らは君に危害を与えるかもしれなかった。だから俺は、中央政府から離れることを望んだ」
「私の、せい?」
震えるリアの声を聞き、ゼルドリックは首を横に振った。
「違う。決してそんなことはない。リア、言っただろう? 俺は中央政府の役人としての立場など、どうでもいいと思っていた。君以上に必要なものなどなかった」
ゼルドリックはリアをしっかりと抱き締めた。
「中央政府を離れるためには、俺はもう働けないのだと証明する必要があった。先生……ミーミス様が上層部に嘘を吐いてくれたのだ。俺は禁呪に手を出した末に重篤なダメージを負い、回復の見込みなしだと。……この首輪は、先生がしてくれた細工の結晶だ」
「ミーミス様は、その首輪に何を施したの?」
「上層部から俺の姿が認識できなくなる遮蔽魔術、および、俺の魔力を全て先生へと転送する魔術だ。俺はこの先三百年、一切の魔法を使うことができない。上層部の代わりに、俺は先生の手によって罰を下された。三百年に渡る王都追放、および魔封じ。この屋敷を含む財産の没収……」
「ぁ……」
リアは息を飲んだ。
「ねえ、それって物凄く重い罰ではないの?」
「ああ、とても。王都追放までされた中央政府の役人は、俺が初めてだろう」
己に重い罰が下されたというのに、ゼルドリックは晴れやかな顔をリアに向けた。
「だが、その罰のお陰で君の傍にいられるのだ」
くしゃりと顔を歪めたリアを慰めるように、ゼルドリックは赤い髪を何度も何度も撫でた。
「しかし……困ったな。俺の溜め込んだ金を持っていかれるとなると、贅沢はできなくなるな……」
「贅沢なんてしなくてもいいじゃない。日々を送るだけのお金があれば充分。それに、私はまだファティアナ様専属の職人よ、しっかり稼ぐわ」
「リア……」
「ファティアナ様にね、あなたと思いを通わせてきましたって報告したの。そしたらまた命令を下されたわ。今度は私の村に戻り、そこでずっと一緒に暮らしなさい!って。……ゼル、はずれの村に行きましょう。村の人たちはいい人ばかりよ。ハーフドワーフの私が差別されることは一度もなかった。きっとあなたと、この子も優しく受け入れてくれる。何もない田舎村だけど……嫌かしら?」
「いいや。君とならどこへでも。君が傍にいれば……どんな場所も楽園に変わる。ありがとう、リア」
二人は顔を見合わせ笑いあった後、そしてまたキスをした。
――――――――――
翌日、リアとゼルドリックは手を繋いで大樹の広場へと向かった。風に乗って流れる桃色の花びらはだいぶ減ったが、それでも大樹にはまだ桜の花がついている。
「ああ、良かった! 桜が散ってしまう前にあなたと見に来ることが出来たわ。嬉しい……!」
ゼルドリックの腕に手を回し、リアは満面の笑みを浮かべた。
「ねえゼル、冬の日に約束したの覚えてる? 春になったら、ここに来て桜を見ましょうって」
「ああ、勿論覚えている」
ゼルドリックはリアの眩しい笑顔を見つめ、優しく甘い微笑みを浮かべた。
「綺麗ね」
リアは心からそう思った。
「あの日の約束を叶えることが出来て本当に良かった」
「……済まないな、リア」
ゼルドリックはリアの手を握り、俯いた。
「……? なぜ謝るの?」
「葉桜になりかけているだろう。花の盛りはとうに過ぎている」
「ああ、そんなこと」
リアは笑った。
「私ね、満開の桜を見たわ。でも全然綺麗だとは思えなかった。隣にあなたがいないから、どこか色褪せて見えた」
「……リア」
「あなたと見るこの葉桜の方が、遥かに美しく色鮮やかに見える」
首に手を回し、ダークエルフの黒く長い耳に口を寄せる。
「私も同じよ、ゼル。あなたが傍にいればどんな場所も楽園に変わる。どんなものも美しく見える」
「くくっ……あの冬の日も、そんなことをここで言い合ったな」
「ええ」
リアとゼルドリックは手を繋ぎ、葉桜から散る桃色の花びらをしばらく眺めていた。
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