ヤンデレトナカイと落ちこぼれサンタクロースの十二月二十四日

橙乃紅瑚

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第四話 ★

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 地図、コンパス、酒瓶、食料、釣り竿とつるはし、簡易的な寝具。サンタクロースの袋にものをいっぱい詰め込んで、ニコルとレインは旅に出た。

 数日かけて鉱山へ向かい、分光石を手に入れた後はそのまま子供が住む国へ直行する。決して余裕がある訳ではないが、順調に行けば聖夜には間に合うはずだ。ニコルは道中、吹雪に見舞われて足止めを食らうことがないようにと祈った。

 辺り一面の銀世界。
 青空の下、ひとりのサンタクロースと一頭のトナカイが征く。

「ニコ! スピード上げるよ、しっかり捕まってて!」

 雪原を嬉しそうに駆けながら、レインは腹に回されたニコルの手をぎゅっと握った。ご機嫌なレインの足は速い。彼が駆け抜けた後には雪煙が渦を巻き、ニコルの真っ赤な聖人服をひらひらとなびかせる。

 鉱山に行くことに難色を示していたレインだが、彼は主とのふたり旅にとても高揚している。レインがこれだけのスピードを出してくれるなら、予定よりも早く目的地に着くかもしれないとニコルは思った。

「ふふっ、大好きな君と密着してる。幸せだなあ!」

「レイン、疲れてない? ちょっと降りて休憩しようか?」

「ううん大丈夫! 一日中乗っていてほしいくらいだよっ!」

 弾むレインの声にニコルは安心感を抱いた。彼はサンタクロースの務めを果たしたいという自分の願いを、共に叶えようと頑張ってくれている。

「一緒に来てくれてありがとうねレイン! お家に帰ったら、あなたにいっぱいお礼をするね! なんでもお願い事を聞いてあげる!」

 ニコルが背に顔をくっつけると、レインは笑い声を溢し小さく呟いた。

「何をお願いしようかなあ」


 *


 旅は続く。
 一日、また一日と時が過ぎる。
 
 聖人の村を発ち、六花の都市、白樺の街を経て、そして最果ての村へ。ニコルは途中、各地に寄って分光石が手に入らないか確かめたが、どこも目当てのものは置いていなかった。やはり、国境近くの鉱山に行くしかないらしい。

 目的地へと近づくにつれ、何もできない日が増えてきた。凄まじい吹雪は視界を覆い、一歩も前に進むことを許さない。天気の悪い日は仕方なくその場に留まり、白い闇が消え去るのを待つしかなかった。

 聖夜の訪れは刻々と迫り、最早旅程に余裕はない。
 高まる焦燥にニコルは口数少なくなり、日が陰ると憂鬱そうに溜息を吐いた。

 薄暗く長い北国の冬。陽が落ちてしまえば、雪原はたちまち真っ暗闇に包まれる。ふたりは夕暮れになると野営の準備をし、焚き火の傍で体を休めた。





 極光が美しい、静かな夜。
 ぱちぱちと木が爆ぜる音に耳を傾けながら、ニコルは一生懸命に地図を読んでいた。

「ニコ、あまり根を詰めすぎない方がいいよ。夜はしっかり休むんだ」

「分かってる。でも、私のドジで遅れるようなことはしたくないから。もう少しだけ」

 少女の艷やかな金髪が、炎の揺らめきを宿してきらきらと輝く。脂の乗った川魚を焼きながら、レインは横目で主を見た。

 ユッカ村を出てからというもの、ニコルは毎夜遅くまで地図を読み、旅程を頭に叩き込んでいる。休むようにと言っても決して聞かず、無理やり寝かせればいつの間にか起きて同じことをしている。ひたむきなその姿勢をレインは好ましく思っていたが、同時に心配もしていた。

 ニコルは風邪を引きやすい。少し無理をしただけで、あっという間に熱を出してしまう。自分の背に乗せているとはいえ、華奢な体つきの彼女にこの長旅は辛いはずだ。

 主が限界を迎える前に休ませなくては。レインは杯にホットワインを注ぎ、俯くニコルの肩を叩いた。

「ほら、できたよ。一旦食事をしよう」

「……うん、ありがと」

 ニコルは湯気が立つワインに口を付けた。ほのかに香るシナモンとクローブの香りが、強張った体にやすらぎを与えてくれる。

 焼き魚と、山羊のチーズを乗せたライ麦パン。スパイス入りのワインにコケモモのジャム。代わり映えのない旅糧も、料理上手な獣人のお陰で毎日新鮮に楽しむことができる。

 美味しい料理を味わいつつ、微笑む男を見つめる。こうやって焚き火の傍で温まっていると、彼と初めて会った時のことを思い出す。

(あれから十年以上も経ったんだね。私たちはあの日から、ずっと一緒に過ごしてきた)

「ニコ、どうしたの? そんなに見つめられると照れちゃうよ」

 嬉しそうに笑うレインに胸がとくとくと跳ねる。
 このささやかな動悸は年を経る毎に強くなっていく。

 これは、一体なんだろう。

 レインのことを考えると顔が赤くなる。こそばゆく、けれど決して不快ではない甘やかな刺激が心を満たしていく。耳元で可愛いと囁かれ、額にキスを落とされた時のような。

 彼といたい。これからもずっと、ずっと。

 ……でも。

 完璧なレインに比べて自分はどうだろう。
 良いところなんてひとつもないんじゃないかと思うほど何もできない。

 落ちこぼれ。ドジのニコル。
 祖父もレインも巻き込んで悪く言わせてしまうほどの、どうしようもない娘。

 自分は今までに、レインに何をしてあげられただろうか?

 ……鼻が、つんとする。

「ねえ、レイン」

「うん?」

「あなたは私が嫌にならないの? 料理も満足に作れない、テントもひとりじゃ張れない。こんな主人を嫌いにならないの」

 深紅色の瞳が揺らいでいる。
 元気を失くした少女を見て、レインはぱちぱちと目を瞬いた。

「そんなのいつものことじゃないか。急にどうしたの」

「…………あの、ね……」

 ニコルは口を噤んだ。

 リザに勝つと決めたのに、気分が落ち込んで前向きになれない。
 
 聖夜まであと十日しかないのに、目的のものはまだ手に入っていない。自分は本当に贈り物を届けられるのだろうか?

 リザにかけられた言葉を思い出してしまい、堰き止めていた悲しみがどんどんと溢れ出す。

 今から言うことは、自分を慕ってくれるレインを傷つけてしまうかもしれない。それでもニコルは動く唇を止めることができなかった。

「近頃思うの。優秀なトナカイはこんな落ちこぼれじゃなくて、誰か他の人といた方が幸せになれるんじゃないかって」

「……えっ……? なに、それ……どういうこと?」

 レインが息を呑む。
 涙が溢れないように、ニコルは天に咲くオーロラを見上げた。

「例えば、リザみたいな。華やかで、お金持ちの女の子に可愛がられた方がレインのためになるんじゃないのかって……。あなたも、こんなちんちくりんの女はいや――」

「ちょっと待って、リザって誰?」

 ニコルの言葉を遮り、レインは固い声で訊き返した。不機嫌そうに鼻を鳴らす彼は嘘を吐いているようには見えない。本当にリザのことを知らなさそうだ。

「誰って、リザよ。緑色のコートを着た女の子。いつもあなたに好きって言ってくるじゃない!」

「知らないね。ニコと爺さん以外はみんな棒人間に見えるし、興味もないし。というか、君はそんなどうでもいい奴の下に行けって言ってるの?」

 黄と青の目をきゅっと細め、レインは持っていたカップを乱暴に置いた。物を大切に扱わないその様子からは怒りが感じられる。

「……酷いね。僕、すっごく傷付いたよ。君にとって僕はその程度の存在だったの?」
 
 おどおどとレインの顔を見上げ、ニコルは震え交じりの声で謝った。

「ご、ごめんなさい。でも、レインのことを大切に思っているからこそよ。あなたは私の家族だもの、心穏やかに過ごしてほしいわ」

(いつまでも私と一緒にいたら、酷い言葉ばかり吐かれてしまうから)

 目を伏せたニコルを見下ろし、レインはぎゅっと拳を握りしめた。

「ふぅん、家族ね……。はあ、呆れる。最近元気がないと思ったら、そんな下らないことを考えてたんだ」

 大きな獣人の体が近づいてくる。色違いの双眸にどろどろしたものが滲み出し、灼けるような熱を宿す。

「僕のためだとか何だとか言って、本当はニコが嫌になったんじゃないの。独占欲の強いトナカイにうんざりした? 手放したくなった?」

「ち、違うよ! 私はただレインのために……!」

「へぇ、どうだか。君も年頃だ、こんな獣じゃなくて他の男がよくなったんじゃない」

 美しい眼が少女を射抜く。
 男の強い視線にニコルは思わず後ずさったが、レインの手が細い腕をぐっと掴んだ。
 
「ねえニコ、初めて会った時に言ったよね? 途中で嫌になっても離れてやらないし、逃げたらどこまでも追いかけて必ず捕まえるって。君はその言葉を忘れちゃったの? 僕たちは何があっても一緒なんだよ! それを忘れるな!」

 腰が抱き寄せられる。そのまま背筋を撫でられながら、長い舌で頬を舐められる。唇の端をかすった舌にニコルは小さな声を漏らした。

「ひっ……!?」

「僕のことを本当に思うなら、二度と残酷なことを言うな。いいか、君が逃げるなら地の果てまでも追ってやるからな。君はどこへも行けやしない。永遠に、永遠に僕の傍にいるんだ」

 間近にあるレインの顔は強張っている。激情を抑え込むような低い声で囁かれ、背がぞくぞくと震えてしまう。

「僕は哀れなトナカイだ。いつもニコのことを考えているのに、君は全然僕を見てくれない」

「な、何言って……。あなたとは毎日顔を合わせてるじゃない……?」

 首を傾げるニコルに、レインは小さく舌打ちをした。

「ほら、ちっとも分かってない。自分から抱きついてくるくせに、僕がアピールするとそうやってはぐらかすんだ。無意識? それともわざと? 君の中で、僕はいつまでも可愛いぬいぐるみのまま? ……くそ、やってられないよ」

「んっ!?」

 顎を持たれ、口の端をちろちろと舐められる。親愛の情を示すものではない、仄暗い欲望が籠もった接触。キスに似たそれにニコルはびくりと肩を震わせ、急いでレインから離れようとした。しかし彼はニコルの後頭部に手を回し、なおしつこく舌を這わせてくる。

「ぁ、待って。ふあっ、んぅ……! 」

「鈍感なニコ。こんなことをされてもまだ僕を可愛いって言える? ふふ……ニコの唇は本当に美味しそうだ、舐めたらどんな味がするのかな?」

 ……可愛かった彼が、知らない男に見える。

 大きな体とそれに見合う力強さ。耳元で囁かれた声は低く、少し掠れていて。顔を覗き込まれながらべろりと舌を動かされると、おかしくなりそうな興奮が込み上げてくる。

「君がそんな風に振る舞うなら、もう我慢しなくたっていいよね」

 温かい鼻息が唇にかかる。
 人とは異なった獣の息遣いに、胸がきゅっと締め付けられる。
 
 こんなレインは初めてだ。
 今の彼は、少し怖い……。

「いい加減に僕を見てよ。見てくれなかったら、君を無理やり食べちゃうよ」

 獲物を狙うような目で見られると不思議と泣きたくなって、体の奥に甘い痺れが走る。野生の厳しさを体現する美しくも荒々しい貌に、ニコルは彼が怖ろしい獣人なのだと思い知った。
 
 色違いの目が、潤んでいく。

「ニコは、僕がどんなに君のことを好きなのか知らないんだね」 

 自分の手を握ってくれた少女が好きだった。
 何があっても、家に帰ろうと言ってくれた少女が好きだった。

 ニコルが自分を必要としてくれるなら、何もかも捧げたっていい。
 僕たちはずっと一緒、そう思いながら過ごしてきたのに。

 なのに今頃になって、自分を手放そうとするのか。

「……知らないから、あんな酷いことを言えたんだ」

 愛する少女と離れ離れになるかもしれない、その恐怖がレインの心を痛めつける。
 
 それなら、離れられないようにしなければ。
 もっと自分のにおいを擦り付けて、どこへも行けないようにしなければ。

「知らないなら、思い知らせてやる」

 暗い声で呟いて、レインはそっとニコルを解放した。


 * 


 それからの旅は、やや気まずいものだった。

 ニコルはいつも通りに振る舞おうとしたが、レインの傍にいるだけで顔が熱くなる。口を開くと緊張で吃ってしまうため、彼女は日中、無言で男の背に顔を埋めることにした。

 そしてレインも、少女の変化をしっかり感じ取っていた。
 
 ニコルが自分の行動に戸惑っている嬉しさと、彼女を怯えさせてしまったかもしれないという後悔が頭の中でぐるぐると回っている。愛する主人から見放されるような言葉をかけられた怒りも相俟って、レインも口数少ないまま雪原を駆けた。

 ふたりの間に流れる空気がはっきりと変化する。
 
 心安らげる就寝前の時間は、甘く淫らなものに変わった。

「っ、はっ……あっ! だめっ、まって……」

 薄暗いテントの中。ぴちゃぴちゃとした水音と、少女の弱々しい声が響く。

 敷布の上に寝かされたニコルは、両手をレインに押さえつけられながらしつこく顔を舐められていた。頬に冷たい鼻を押し付けられ、唇の際を何度も舌でなぞられる。己の下で体を震わせる主に、レインは蕩ける目を向けた。

「ニコ、口を開いて。君の吐息を感じたいんだ」

「っ……は、むぅ……! あ、はぁぁ……」

「はっ、はぁ……。ふふっ、こうしてると本当にキスをしてるみたいだね。僕がちょっと舌をずらせば、君の唇にくっついちゃうね……」

 ふたりの荒い息が交じり、溶け合う。

「れ、いん……だめ、だよ。キスは口にしちゃだめ……」

 ニコルはあまりの恥ずかしさにぽろりと涙を流した。間近にある黄と青の瞳に、自分の顔がくっきりと映り込んでいる。ニコルはレインから逃れようとしたが、力の強い獣人を少しも退けることはできなかった。

 あの日から、レインの接触は熱を帯びたものになった。
 
 彼は夜になると必ずニコルの肌に舌を這わせる。耳をちろちろと舐め、首筋にそっと歯を沈めて噛み跡を付ける。華奢な体に己のにおいを擦り付けながら、男は嬉しそうに囁いた。

「ニコ、ニコ。顔が真っ赤だよ、可愛いね……。ね、もっと君をちょうだい」

「ひっ……も、やめて……!」

「そんなことを言わないで。まだ舐めてないところはたくさんあるんだ」

 欲をあらわにした男の声に体が震えてしまう。ニコルが羞恥に顔を背けると、レインは無理やり自分の方を向かせてきた。

「駄目だよニコ、こっちを見て。今君に触れているのは誰? 君は誰の舌で気持ちよくなってるの? ちゃんと確認してよ」
 
 レインはそう言いながら己の舌を見せつけてきた。赤く長い獣人のそれが、薄暗いテントの中でいやらしく光っている。

「今夜もいっぱいぺろぺろしてあげるね、ニコ」
 
 敏感な耳にねっとりと舌を挿し入れられ、ニコルは弱々しい嬌声を上げた。

「ん、はあああっ……! ぁ、まって……。そんなところ舐めちゃだめなの……ね、レイン。もう寝よう? いい子だから言うことを聞いてっ……」

 幼子に言い聞かせるようなニコルの声。それに苛立ちを覚えたレインは彼女の手首をがっしりと掴み、目に昏い欲望を渦巻かせた。

「やだよ。もう我慢しないって決めたんだ、君は僕の気が済むまで体を預けていろ」

「きゃぅっ!?」

 ニコルは悲鳴を上げた。はだけた寝衣の隙間からにゅるりと舌が滑り込み、彼女の胸元をれろれろとなぞる。下着越しに胸の先端に触れられ、ニコルはかっと体が熱くなるのを感じた。

「ひあっ、れっ、レイン! まって、そこは本当にだめなところだからっ……!」

「はぁっ、はあ……ニコのおっぱい、甘くていいにおいがする……」

 乳房に尖った鼻を押し付けられ、すんすんと音を出しながら嗅がれる。頬を紅潮させた少女を上目遣いで見つめながら、レインは鎖骨の下にキスを落とした。

「僕ね、君とこういうことがしたかったんだ。いつも可愛がってたぬいぐるみが、何を考えながら傍にいたのか思い知ればいい」

「ああぁ……は、はなしてよぉっ……!」

「放さない。どうせ逃げ場なんてないんだから、諦めて大人しくしてて」

 太く長い舌が、ひとつの生き物のように白い肌の上を這い回る。くびれを掴まれながら丹念に臍を舐められ、下着ごと乳房を揉まれる。薄い布越しにかりかりと胸の先端を引っ掻かれ、ニコルは不慣れな性感に喘いだ。

「ん、んううぅっ! やっ、それだめ! なんかびりびりしちゃうっ……あっ、ぁあっ、ふあぁんっ」

「ふふ。ニコのおっぱいってふにふにしてる。形を保っているのが不思議なくらい柔らかくて、でも先っぽの方はちょっと固くて。もっとここで気持ちよくなろうね」

 きゅっと胸の頂きを抓まれる。敏感な乳首を指で捏ねられ、ニコルは肩を跳ね上がらせた。

「はうぅんっ!? あっ、あっ! はあぁぁん……」

「ニコの声、かーわい……。ねえニコ、いつかここもしゃぶらせてね。このふわふわおっぱいを、僕の舌でべろべろ舐め回して気持ちよくしてあげる。甘えん坊のトナカイのお願い、聞いてくれるでしょ?」

 ……これはおかしい。
 
 レインはただ甘えているのではなく、別の目的で自分に触れている。ここできっぱりと拒絶しなければ、いつか取り返しのつかないことになってしまう。

 だが拒絶したとて、レインからは絶対に逃れられない。屈強な肉体に、不思議な力を持つ獣人の男。何もできない女が対抗できる存在では決してない。自分は、このトナカイに食べられてしまうのが運命なのだろう。

 だが、それを怖ろしいとは思わなかった。

(レインになら食べられてもいい)
 
 彼に触れられると、恐怖や嫌悪ではない別の感情が込み上げてくる。
 
 自分の芯が甘く締め付けられるような切ない気持ち。
 こそばゆくて向き合うのを避けていた、彼に対する淡い感情。

「哀れなトナカイにお恵みを。ねえ、愛しいサンタクロース。いい加減に僕のことを見てよ……」
 
 これは何だろうと問いかけ続けてきたその答えを、ニコルは掴んだ気がした。

(恥ずかしくて堪らないけれど、こうやって触られるのは嫌じゃない。むしろ嬉しい……温かくて気持ちいいから、もっとしてほしい)
 
 レインの手は密度の高い柔らかな毛に包まれていて、その手で肌を摩られると刷毛でなぞられるような心地よさを感じる。男からもたらされる甘い痺れに、下腹の奥がきゅうと収縮してしまう。

 幸福感と僅かに混ざる哀しみに、深紅色の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちていく。

(レイン。リザのところになんか行かないで。ずっとずっと私といて)

 聖夜の訪れが近い。
 男の胸に顔を寄せ、ニコルは眠れない夜を過ごした。
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