「あやかし図書館」にて、解決策を見つけてみませんか?~悩みごとや迷いごと、お受けします~

色彩和

文字の大きさ
上 下
1 / 11

序章 図書館の主は、予言する

しおりを挟む
    木造建築の大きな建物は、森の奥で構えていた。存在感があるはずのその建物は、ひっそりとそこに建っていたのである。
    建物の中も、木造となっており、年季の入った床が、時折ぎしりと大きな音を奏でた。建物内が静かであるため、余計にその音は大きく感じる。
    その床の上には、棚が一定の間隔を保って、綺麗に並べられていた。棚ももちろん木製である。人が行き来する間隔を保って、列を成していたのであった。並んでいる棚の中には、これまたぎっしりと本が詰められている。一寸の乱れもないそれは、数え切れないほどあった。薄いもの、厚いもの、大きいもの、小さいもの……様々な本が所狭しと並んでいる。
    建物は二階建てで、二階からは一階がよく見えた。一望できると言ってもいい。
    その二階から一望できる場所にある柵に、一人の青年が煙管を片手に腰掛けていた。
    スノーホワイトの長い髪が揺れる。頭には、髪と同色の獣の耳がぴんと立っていた。アメジストの瞳が、一階を捉えて離すことはない。ただ、一人でいるこの空間をじっくりと品定めをするかのように眺めている。下駄を履いている足が、微かに揺れる。ぶらぶらと空中で遊ぶかのように揺らし、その動作によって着ている着物の裾が踊る。本日は濃紺の着物を選び、白の羽織を肩にかけていた。
    誰もいない空間で、彼は煙管を口に持っていき、煙を含んでゆっくりと離す。空間へ、ふーっと静かに息を吐き出した。空中で煙は溶け込んで消えていった。
「……ふふ」
    青年は一人笑う。大きな笑い声ではなかったのに、この空間ではよく響いた。
「――今日は、誰か新しいお客が扉を叩きそうだね」
    柔らかく微笑む彼は、どこか楽しそうな声をしていた。右手で持っている煙管を再度口へと運び、煙をゆっくりと吐き出す。煙はまた空間へと溶け込んでいった。青年がいくら煙を吐き出そうと、この空間が煙っぽくなることはなかった。
「……誰が、何を、何のためにお望みか。何を私に見せてくれるのか、楽しみだね」
    彼は誰もいない空間で呟き、それから足を組む。その足へと、右手を静かに下ろした。
    頭にある尖った耳が、ぴくりと動く。微かな音を聞き取ったからであった。彼の耳は、とても優秀なのである。
「そろそろか。――さて、開館と行こうかね」
    彼は空いている左手で、パチンと指を鳴らす。

    ――彼がいる場所は、あやかしのみが通うことのできる、妖専門の図書館である。
    建物の名を、「あやかし図書館」と言った。
    彼はこの図書館の主なのである。

    ――そして、彼は「犬神」と呼ばれる妖怪であった。

    だが、この場所には、一つの例外があった。
    それは――。

    図書館の扉が、重々しい音を奏でながら、ゆっくりと開く。
「――さて、お待ちの妖怪諸君、本日もどうぞごゆるりと」
    彼――紫雲しおんは煙管を片手に、妖怪たちを図書館へと招き入れる。開館時間より前から待機していた妖怪たちが、次々に足を踏み入れていく。
    紫雲はそれを見ながら、微笑をたたえた。
「――さて、何が待っているのかね」
    彼は怪しく笑うのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

これもなにかの縁ですし 〜あやかし縁結びカフェとほっこり焼き物めぐり

枢 呂紅
キャラ文芸
★第5回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました!応援いただきありがとうございます★ 大学一年生の春。夢の一人暮らしを始めた鈴だが、毎日謎の不幸が続いていた。 悪運を祓うべく通称:縁結び神社にお参りした鈴は、そこで不思議なイケメンに衝撃の一言を放たれてしまう。 「だって君。悪い縁(えにし)に取り憑かれているもの」 彼に連れて行かれたのは、妖怪だけが集うノスタルジックなカフェ、縁結びカフェ。 そこで鈴は、妖狐と陰陽師を先祖に持つという不思議なイケメン店長・狐月により、自分と縁を結んだ『貧乏神』と対峙するけども……? 人とあやかしの世が別れた時代に、ひとと妖怪、そして店主の趣味のほっこり焼き物が交錯する。 これは、偶然に出会い結ばれたひととあやかしを繋ぐ、優しくあたたかな『縁結び』の物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

処理中です...