3 / 6
第二章 フォイと少女と答え合わせ
しおりを挟む
Ⅰ
フォイは少女を抱えたまま、森を突き進んでいた。とは言っても、一人の時とは違う。人を一人抱えているため、普段通りには動けない。流星の如く、突き進んでいた時とは違い、今はゆったりと歩いていた。人を一人抱えているものの、疲れた様子はまったくなかった。
いまだに俵かつぎされている少女は、ようやく落ち着いてきたのか、フォイを高さの面から仕方がなく見下ろしておずおずと口を開く。
「あ、あの……、お、重くないですか?」
「いや、気にならないな。軽すぎて不安になる」
フォイはいまだに右手で緋色の刀を掴んだままだ。どこへ行くのか、森の奥へと進んで行く。少女の問いには答えるものの、足を止める気配はなかった。
今のところ、フォイと少女以外の気配や匂いはない。動物たちが追いかけて行った勇者パーティ一行は真逆の方向へと逃げて行った。動物たちが彼らをどこまで追いかけているのかは知らないが、あの怒り具合だ、もしかしたら森から追い出しているかもしれない。
追い出しているのなら、好都合だ。奴らが居なくなったのなら、な……。邪魔者が居なくなれば、荒らされることもない。
フォイは少しだけ目を細めた。
奴らとは、つい先刻までフォイが戦っていた相手である、勇者パーティのこと。フォイに負け、動物たちの怒りを買った彼らは、動物たちに襲いかかられて森の中を一目散に逃げ出した。いくら勇者パーティとは言え、あれほどに怒り狂った自然の中の獣たちに勝てるとは思えない。
ましてや――。
あの実力では、な……。
フォイは勇者パーティ一行の姿を思い出して肩を竦める。
勇者パーティの噂は、耳にしたことがあった。旅をしていれば、そんな噂はなおさら耳に飛んでくるのだ。しかも、フォイは獣人である。些細な声でも、潜めた声でも、人間には聞こえないものでも拾ってしまう。つまり、余計に必要な情報から嫌な話まで幅広く耳に入ってくるのである。
勇者パーティ……、噂では相当な実力者だという話であったが、あれほどまでに弱いとは……。勇者がいるということは魔王に対抗して、という話なのだろうが、あの実力で勝てるのかは甚だ疑問だな。
まあ、俺には関係ない、とフォイは心の中で付け足した。
別に強さを求めているわけではない。必要があったから、強くなっただけのこと。
しかも、俺の場合はスキルとの相性が良かっただけだしな……。
フォイは自身の右手を盗み見る。手にした緋色の刀には、大きなヒビが入っていた。今にもバキッと音が鳴って折れてしまいそうであった。だが、まだ形を保っていることから、ヒビは入っていても折れていないということになる。
……痛みもあまりないしな。それも良かった点か。
フォイが淡々と考えに浸っていれば、長いこと黙っていたからなのか、少女がまたおずおずと口を開く。
「あ、あの……、この抱え方、どうにかなりませんか……?」
フォイはその言葉に視線を上げる。足は止めずに、少女に尋ねた。
「何だ、嫌なのか」
「この抱え方が好きな人は、なかなか……」
少女は言葉を濁す。最後の方は気まずそうで、視線を逸らしていた。
フォイは少女の姿にあることを思い出す。
そういえば……。
そして、少しばかり表情を緩めながらポツリと呟いた。
「……あいつも、そんなことを言っていたか」
思わず、その言葉が零れていた。無意識だった。
だが、その言葉を少女が聞き逃すはずもなく。少女は首を傾げて問いかけるように言葉を繰り返す。
「あいつ……?」
その言葉に、フォイはハッとする。自身が口走っていたことに気がついていなかったのだ。だが、その姿は一瞬のもので、それからは慌てる素振りはまったくなく、冷静な表情のまま言葉を紡ぐ。
「……いや、何でもない。気にするな」
「……?」
少女がその後に問いかけることはなかった。
だが、フォイは話題を変える。
「それよりも、この状態が嫌なのだろう。なら……」
言うが早いか、フォイは左手に力を込めて、少女をぐるりと回す。少女の口からは驚きの声が上がったが、気にする素振りはなく。ぐるりと回った少女を自身の腕の中に収め、彼女の膝裏と背中に手を添える。そして、落とすまいとフォイは自身の身体に強く己よりも小さな身体を引き寄せた。
対して、少女はいきなりぐるりと回されたからだろう、ギュッと目を強く瞑っていた。しばらくして動きが落ち着いたからか、そろりと目を開いていくと、その後驚いた様子でギョッと目を見開く。心做しか、顔が赤く染まっているように見えた。
――フォイが行ったのは、いわゆる「お姫様抱っこ」というやつで。
フォイが双眸で少女を見下ろせば、少女の口からは言葉にならない言葉が零れていく。
「へ……、あ……」
「これで文句はあるまい。大人しくしていろ」
フォイは何も問題ないとばかりに淡々と告げていく。それから、前方へオッドアイを向けた。器用に刀は脇に抱えているらしく、痛みを押し殺しているような表情はない。
対して、少女が落ち着くはずもなく。両手で顔を覆って、フルフルと小刻みに震えていた。
フォイはそれに気がついて歩みは続けるものの、少女へと問いかける。
「どうした、寒いか」
冗談を言っている素振りもなく、本気で心配しているようで。
少女は両手を顔から外せるわけなく、そのままの状態で青年へと尋ねた。その声は、多少震えていた。
「……あ、の……、素、なんですか……?」
「……素? 素がどうした」
少女の言葉の真意が分からないとばかりに、フォイは首を傾げる。本気で分からないと言った顔で問いかけており、それもまた冗談ではないと告げているようであった。
少女は悟った、この青年に何を言っても無駄なことを。諦めた少女は大人しくフォイの腕の中に収められたのであった。
Ⅱ
フォイはしばらく無言で歩き続けた。あれから少女も何も言わない。フォイもわざわざここで話すことはないとばかりに、特に声をかけることはなかった。
やがて、崖の下にある洞窟に辿り着くと、フォイは警戒する様子もなくその中に足を踏み入れて行く。
少女は目をぱちくりと瞬いて、フォイを見上げる。
少女は何も言わなかったものの、その視線を受け止めたフォイは淡々と答えた。
「しばらく滞在している場所だ。動物たちに断りを入れて借りている。雨風は凌げるし、寝るにしても困らないからな」
フォイは少女を石の上に下ろす。椅子代わりにしているようで、平らになっている岩は足を曲げても苦痛ということはない。
少女はちょこんと座って、フォイの言動に視線を移した。
すると、フォイは脇に抱えていた刀を右手の中に収めると、それを自身の左手の人差し指があった位置に刺そうとするではないか。
その姿を見た少女は、椅子代わりの岩から跳ぶように降りてフォイへと駆け寄る。その行動を止めるように縋り付き、グイッと青年の右腕を引っ張ると、押さえつけるかのように自身の胸元へと抱き込む。
フォイはそれを感じ取っていたらしく、少女の姿に一瞬目を丸くするものの、一つため息をついて告げる。その声音は、呆れていた。
「……危ねえだろう、怪我をしたらどうするつもりだ」
「で、でも……!」
フォイは少女の言いたいことを理解している。だからこそ、少女を安心させるように言葉を紡ぐ。
「安心しろ、戻すだけだ」
フォイはやんわりと少女の手を離す。それから、刀を握り直すと、左手の人差し指に近付ける。すると、左手が緋色の刀を吸収し始め、徐々に人差し指が姿を現し始めたではないか。
これには少女も唖然と見つめてしまっていた。何も言わずに、ただただ呆けて動きを止めている。
フォイは完全に左手が五本の指に戻ったことを確認し、何度か手を握って開いてを繰り返す。そして、人差し指を見て舌打ちをした。
「チッ……、やはり割れていたか。まあ、指にまでは影響が出ていないみてえだから良しとするか」
「あ、あっ……、ゆ、ゆび、指がっ……!」
少女がフルフルと怯えながら、フォイの左手を指差す。
フォイは気分を害した様子もなく、ただ「ああ」と頷いた。
「それに関しては今から説明する。お前――、っと」
フォイは何を思ったか、言葉を途中で区切って口元を右手で覆う。中途半端に紡がれた言葉が、宙で舞っていた。
少女は青年の姿に首を傾げる。理由が分からないからだろう。何も不自然なことはなかった気がする、そう思っているのかもしれない。
フォイは一つ咳払いをしてから、仕切り直すように口を開いた。
「……その前に、自己紹介がまだだった、な。……俺は、フォイ・クローゼ、獣人だ。フォイで良い」
スッと右手を差し出すフォイに、少女は彼の顔と右手を交互に見比べる。何度か見比べて理解すると、慌ててフォイの右手をギュッと握る。そして、頭をペコリと下げる。
「し、シオル・サイフォン、です。あ、あの、た、助けていただいてありがとうございました……!」
シオルがそう言うのを、フォイは頭を振ってやんわりと否定する。
「礼には及ばない。俺は好き勝手暴れただけだからな。シオル、と呼んで良いか? ダメなら、サイフォンと呼ぶ」
「し、シオルで問題ないです……!」
フォイと少女――シオルはお互い簡単に自己紹介を済ませる。それから、話をすることにした。
フォイは再度シオルに椅子代わりの岩に腰掛けるように告げてから、自分は湯を沸かし、二人分の飲み物を用意する。二つのマグカップを取り出し、どちらにも中身を注ぐと、歩み寄って片方をシオルへと差し出す。
「熱いから気をつけろ」
「あ、ありがとうございます……!」
シオルは両手でマグカップを包むように持つ。
フォイはシオルと向かい合うように適当な岩に腰掛け、マグカップに口をつける。そんなフォイにシオルがじっと視線を向けてくるのを感じ取り、フォイは「何だ」と返した。
シオルは急に問いかけられたからか、視線を下へと向けておどおどと口を開く。
「ふ、フォイさんは、なんでもできるんですね……」
「フォイで良い。あと、敬語も不要だ、堅苦しいだろ。……そういうわけではない。旅をするのに必要に迫られたからできるようになっただけだ。それに、ここでは俺だけじゃなく、動物たちもいるからな、都度力を貸してくれている」
フォイは洞窟の外へと視線を向ける。そこには動物たちの姿はなかったが、彼らの姿を思い出して柔らかく微笑む。その表情はあまりにも優しすぎて、先ほどまで好戦的に戦っていた同一人物とは思えないものであった。
その表情をシオルはぽけーっと見惚れていた。
だが、フォイの言葉に表情を引き締める。
「……さて、これから一緒に旅をしていくなら話をしておくぞ。シオルにも知っておいて欲しいからな」
フォイはオッドアイをシオルに向ける。
二人の表情は険しいものであった。
Ⅲ
「まずは、先の戦いで気になっているだろうから、俺のスキルについて話をしておく。特に、気になることも多いだろうからな」
フォイがそう告げれば、シオルはこくこくと何度か頷く。
それを見たフォイはなんだか納得してしまった。
……まあ、そうなるだろうな。
フォイは内心自分のことではあるが、シオルの反応を見て妙に既視感を覚えてしまった。
自身のスキルは理解してしまえば扱いやすい。使い方も決まっていないから、好きに使えるのだ。だが、初見で見た者は何が何だか理解することは難しいだろう。
フォイが話を進めようと口を開こうとした時、シオルが急に慌て始めた。何かを言いたそうにして、でも言葉にできていなさそうで。
フォイが何事かと首を捻れば、シオルは震える指でフォイのある部分を指差す。やがて、震えた声で言葉を発した。
「ゆ、ゆびっ……、人差し指が……!」
「指……、ああ、忘れていた」
フォイは言われて自身の左手の人差し指へと視線を向ける。先ほど、割れていたことを確認したものの、そのままにしているため血が滲んで地面に無意識に注いでいる。
フォイは自身の人差し指に舌を這わせた。ベロリと舐め取れば、口の中に鉄の味が広がった。思わず眉を寄せる。美味しいものではないが、何度か同じ場所に舌を這わせて舐め取った。あらかた取り終えると、フォイはシオルへと視線を戻した。
「まあ、放っておけ。大したことはない」
「大したことありますよ!?」
シオルが目を剥く。
だが、フォイはあっけらかんとしていた。
「見た目は酷いが、痛みはそうない。出血もそこまで酷いわけではないしな。しばらくしていれば落ち着いてくる」
フォイはそう言ってまた舌を這わせた。血が止まってくると、それをやめてシオルに向き直る。
シオルもフォイが普段通りに見えたからか、それ以上何か言うことはなかった。
「話を戻すぞ。俺のスキルは、こいつだ」
「……? こいつ、って……」
フォイは自身の手を掲げるものの、シオルにはその意図が伝わっていないようで。首を傾げて、青年の言葉を繰り返す。
フォイはそれを見て言い直した。
「すまない、言葉が少なかったな。……俺のスキルは、【爪】なんだ」
フォイは自身の鋭い爪が見えるように、自身の顔の横まで左手を掲げる。緋色、白藍、乳白色など、指一本一本が色とりどりに染められている。洞窟の暗がりでも、染められている爪たちはよく映えて見えた。
少女はぱちくりと目を瞬く。
「爪、がスキルなんですか……? あまり強そうには思えませんが……」
シオルは本心を口にする。敬語はいまだに健在だが、変えるつもりはないのだろう。
フォイは肩を竦める。
まあ、無理強いも良くはないだろう……。徐々に変えていければ良いが……。
勇者パーティに所属していた名残なのだろう、とフォイは予想する。上下関係など、不要だと思っているので外させたいが、それも恐怖の対象となるかもしれない。
気にはなるものの、フォイは話を進めることにした。
「そうだ、その言葉の表面上だけを捉えれば、な。だが、このスキルは裏を返せば使いやすく、強いものだった」
フォイは掲げていた左手を下ろし、その爪に視線を落とす。
「まず、第一にこの爪には一つ一つに別々の効果を付与することができる。同色で塗られていないのは、それのせいだ。両手合わせて一〇の指、このすべてに異なる属性が宿っている。ちなみに、シオルが見たのは、緋色の刀、青鈍色の捕縛、そして乳白色の壁。まあ、それ以外の効果は都度説明したほうが良いだろう」
フォイは自身のスキルを説明しながら、今度は両手を掲げて該当した指を一つ一つ立てて見せる。確かに、立てられた三本の指には挙げられた色が塗り潰されていた。他の指には、該当しない色が塗られている。珍しい色もあれば、見慣れた色もあった。
シオルの口からは「ほえー……」と力のない言葉が零れた。
フォイは話を続ける。
「塗られている爪によって効果が違うから、色が異なるのは仕方がない。だが、これを一見知らない者が目にすると、大抵の奴がチャラいだのなんだのと口にする。それだけは面倒だな」
「爪、一つ一つに付与って……、も、もしかして、足も――」
「――いや、足は使っていない。見てみろ」
シオルが口にした疑問を、フォイは遮って答えた。それと同時に、自身の足を前に出して見えるようにする。
フォイの足は、革張りのブーツで膝下まで覆われており、スキルが付与されているかなんて分からなかった。だが、ブーツを履いているということが、足を使わないということを示していると言わんばかりであった。
「おそらくはできるのだろうが、付与したことはない。足は面倒だからな」
「え、な、なんで……?」
シオルはキョトンとしている。
フォイは言葉を紡いだ。
「考えてもみろ。もし、足の爪にスキルを付与させたとして、ブーツを履いているんだ、すぐに使えなかったら意味がない。ましてや、毎回ブーツを壊すなんて御免だ。それに、素足で歩くなんて自殺行為にも等しい。それこそ自身で怪我を負うようなものだろう。……ただ、足に付与しておけば、蹴る時の威力は増しそうだがな」
フォイが顎に手を添えて考えを述べれば、シオルは驚いたように目を見開いている。
「……い、意外と論理的」
「……シオルの中での俺へのイメージは理解した」
シオルは青年の言葉に慌てて弁明し始めた。
フォイはそれを耳にしながらも、「気にしていない」と答える。そして、気を取り直しながら話を進めた。
「話を戻す。……スキルを付与した爪を使えば、その爪があった指が消失する。ただし、指が無くなったことで痛みを伴うことはないし、出血することはない。爪が欠けたり、ヒビが入ったりすればダメージを負う。今回のようにな」
フォイは自身の左手の人差し指を見せながら説明する。人差し指はだいぶ出血は止まったようだが、ヒビが入っている姿はとても痛々しい。
しかし、シオルは今の説明を聞いて疑問が湧いた。
「な、なぜ、指が消失するのでしょうか……?」
「まあ、爪を抜いている、という感覚だからな」
サラリと答えるフォイは何も気にしていなかったが、それはシオルに衝撃を与えた。
「つ、爪を、抜く……!?」
相当な衝撃だったらしく、青くなった顔を白くにまでさせて、慌ててフォイの怪我を心配する。慌てた様子で魔法をかけようとしていて、さすがに危ない様子だ。
勝手に想像を膨らませて思い詰めている様に、さすがにフォイも申し訳なくなった。
フォイは「落ち着け」と告げてから、ため息をつく。
「……シオルも、剣を鞘から抜くところは見たことがあるだろう」
「……? は、はい」
シオルが多少落ち着きを取り戻したことを確認して、フォイは再度説明する。
「あれがイメージとして分かりやすいだろう。俺がスキルを使う場合も、正しくそれだ。鞘から剣の刃を抜く、そんなイメージで爪を抜くんだ。だから、痛みは伴わないし、出血もしない。大方、爪がスキルだから、爪を使うとなれば指自体を使っていることになるのだろうな。推測だが」
「な、なるほど……?」
シオルはとりあえず頷いた。
フォイはそれを見て肩を竦めた。
まったく、慌てたり、頷いたりと騒がしい奴だ……。だが――。
――あいつに似ていて、面白い。
フォイはクスリと笑って、話を続けた。
「そう、だから問題はない。……ただ、今回のように怪我をするとすぐに爪は戻らないからな。戦闘が続くと使えない爪も出てくることになる。だから、治癒魔法士を探していた」
フォイが説明を終えれば、シオルは納得しながら頷いた。
まあ、それだけじゃないが、な……。
フォイはマグカップに口をつけながら、そう思う。オッドアイが、じっと少女を捉えていた。
IV
「……ところで、シオルは一緒に来てくれる、という認識で良かったんだよな」
「は、はい……! よ、よろしくお願いします!」
シオルが慌てて頭を下げる。
フォイはその姿を見て、ふと思った。
そういや、シオルの髪、あいつと一緒で黒髪、だな……。
黒くて艶がある、綺麗な髪。その髪にフォイは既視感を覚えた。
だが、瞳の色は違う……。それでも、もしや……。
フォイはシオルのことをじっと見つめて推測する。
オッドアイがずっと向けられているからか、シオルは落ち着かなさそうにソワソワとしていた。だが、フォイに何か言うつもりはないらしく、ただ落ち着かないようにしているだけであった。
聞くだけ、聞いてみるか……。
フォイはふむと頷き、シオルに声をかける。
「……シオル、知っているのであれば正直に教えて欲しい。嫌なら無理強いはしないが」
「……? はい」
フォイはシオルが頷いたことを確認してから、一度息をついて意を決したように問いかけた。
「――単刀直入に聞く。シオルは、ニホンという国のことを、知っているか」
フォイは少女を抱えたまま、森を突き進んでいた。とは言っても、一人の時とは違う。人を一人抱えているため、普段通りには動けない。流星の如く、突き進んでいた時とは違い、今はゆったりと歩いていた。人を一人抱えているものの、疲れた様子はまったくなかった。
いまだに俵かつぎされている少女は、ようやく落ち着いてきたのか、フォイを高さの面から仕方がなく見下ろしておずおずと口を開く。
「あ、あの……、お、重くないですか?」
「いや、気にならないな。軽すぎて不安になる」
フォイはいまだに右手で緋色の刀を掴んだままだ。どこへ行くのか、森の奥へと進んで行く。少女の問いには答えるものの、足を止める気配はなかった。
今のところ、フォイと少女以外の気配や匂いはない。動物たちが追いかけて行った勇者パーティ一行は真逆の方向へと逃げて行った。動物たちが彼らをどこまで追いかけているのかは知らないが、あの怒り具合だ、もしかしたら森から追い出しているかもしれない。
追い出しているのなら、好都合だ。奴らが居なくなったのなら、な……。邪魔者が居なくなれば、荒らされることもない。
フォイは少しだけ目を細めた。
奴らとは、つい先刻までフォイが戦っていた相手である、勇者パーティのこと。フォイに負け、動物たちの怒りを買った彼らは、動物たちに襲いかかられて森の中を一目散に逃げ出した。いくら勇者パーティとは言え、あれほどに怒り狂った自然の中の獣たちに勝てるとは思えない。
ましてや――。
あの実力では、な……。
フォイは勇者パーティ一行の姿を思い出して肩を竦める。
勇者パーティの噂は、耳にしたことがあった。旅をしていれば、そんな噂はなおさら耳に飛んでくるのだ。しかも、フォイは獣人である。些細な声でも、潜めた声でも、人間には聞こえないものでも拾ってしまう。つまり、余計に必要な情報から嫌な話まで幅広く耳に入ってくるのである。
勇者パーティ……、噂では相当な実力者だという話であったが、あれほどまでに弱いとは……。勇者がいるということは魔王に対抗して、という話なのだろうが、あの実力で勝てるのかは甚だ疑問だな。
まあ、俺には関係ない、とフォイは心の中で付け足した。
別に強さを求めているわけではない。必要があったから、強くなっただけのこと。
しかも、俺の場合はスキルとの相性が良かっただけだしな……。
フォイは自身の右手を盗み見る。手にした緋色の刀には、大きなヒビが入っていた。今にもバキッと音が鳴って折れてしまいそうであった。だが、まだ形を保っていることから、ヒビは入っていても折れていないということになる。
……痛みもあまりないしな。それも良かった点か。
フォイが淡々と考えに浸っていれば、長いこと黙っていたからなのか、少女がまたおずおずと口を開く。
「あ、あの……、この抱え方、どうにかなりませんか……?」
フォイはその言葉に視線を上げる。足は止めずに、少女に尋ねた。
「何だ、嫌なのか」
「この抱え方が好きな人は、なかなか……」
少女は言葉を濁す。最後の方は気まずそうで、視線を逸らしていた。
フォイは少女の姿にあることを思い出す。
そういえば……。
そして、少しばかり表情を緩めながらポツリと呟いた。
「……あいつも、そんなことを言っていたか」
思わず、その言葉が零れていた。無意識だった。
だが、その言葉を少女が聞き逃すはずもなく。少女は首を傾げて問いかけるように言葉を繰り返す。
「あいつ……?」
その言葉に、フォイはハッとする。自身が口走っていたことに気がついていなかったのだ。だが、その姿は一瞬のもので、それからは慌てる素振りはまったくなく、冷静な表情のまま言葉を紡ぐ。
「……いや、何でもない。気にするな」
「……?」
少女がその後に問いかけることはなかった。
だが、フォイは話題を変える。
「それよりも、この状態が嫌なのだろう。なら……」
言うが早いか、フォイは左手に力を込めて、少女をぐるりと回す。少女の口からは驚きの声が上がったが、気にする素振りはなく。ぐるりと回った少女を自身の腕の中に収め、彼女の膝裏と背中に手を添える。そして、落とすまいとフォイは自身の身体に強く己よりも小さな身体を引き寄せた。
対して、少女はいきなりぐるりと回されたからだろう、ギュッと目を強く瞑っていた。しばらくして動きが落ち着いたからか、そろりと目を開いていくと、その後驚いた様子でギョッと目を見開く。心做しか、顔が赤く染まっているように見えた。
――フォイが行ったのは、いわゆる「お姫様抱っこ」というやつで。
フォイが双眸で少女を見下ろせば、少女の口からは言葉にならない言葉が零れていく。
「へ……、あ……」
「これで文句はあるまい。大人しくしていろ」
フォイは何も問題ないとばかりに淡々と告げていく。それから、前方へオッドアイを向けた。器用に刀は脇に抱えているらしく、痛みを押し殺しているような表情はない。
対して、少女が落ち着くはずもなく。両手で顔を覆って、フルフルと小刻みに震えていた。
フォイはそれに気がついて歩みは続けるものの、少女へと問いかける。
「どうした、寒いか」
冗談を言っている素振りもなく、本気で心配しているようで。
少女は両手を顔から外せるわけなく、そのままの状態で青年へと尋ねた。その声は、多少震えていた。
「……あ、の……、素、なんですか……?」
「……素? 素がどうした」
少女の言葉の真意が分からないとばかりに、フォイは首を傾げる。本気で分からないと言った顔で問いかけており、それもまた冗談ではないと告げているようであった。
少女は悟った、この青年に何を言っても無駄なことを。諦めた少女は大人しくフォイの腕の中に収められたのであった。
Ⅱ
フォイはしばらく無言で歩き続けた。あれから少女も何も言わない。フォイもわざわざここで話すことはないとばかりに、特に声をかけることはなかった。
やがて、崖の下にある洞窟に辿り着くと、フォイは警戒する様子もなくその中に足を踏み入れて行く。
少女は目をぱちくりと瞬いて、フォイを見上げる。
少女は何も言わなかったものの、その視線を受け止めたフォイは淡々と答えた。
「しばらく滞在している場所だ。動物たちに断りを入れて借りている。雨風は凌げるし、寝るにしても困らないからな」
フォイは少女を石の上に下ろす。椅子代わりにしているようで、平らになっている岩は足を曲げても苦痛ということはない。
少女はちょこんと座って、フォイの言動に視線を移した。
すると、フォイは脇に抱えていた刀を右手の中に収めると、それを自身の左手の人差し指があった位置に刺そうとするではないか。
その姿を見た少女は、椅子代わりの岩から跳ぶように降りてフォイへと駆け寄る。その行動を止めるように縋り付き、グイッと青年の右腕を引っ張ると、押さえつけるかのように自身の胸元へと抱き込む。
フォイはそれを感じ取っていたらしく、少女の姿に一瞬目を丸くするものの、一つため息をついて告げる。その声音は、呆れていた。
「……危ねえだろう、怪我をしたらどうするつもりだ」
「で、でも……!」
フォイは少女の言いたいことを理解している。だからこそ、少女を安心させるように言葉を紡ぐ。
「安心しろ、戻すだけだ」
フォイはやんわりと少女の手を離す。それから、刀を握り直すと、左手の人差し指に近付ける。すると、左手が緋色の刀を吸収し始め、徐々に人差し指が姿を現し始めたではないか。
これには少女も唖然と見つめてしまっていた。何も言わずに、ただただ呆けて動きを止めている。
フォイは完全に左手が五本の指に戻ったことを確認し、何度か手を握って開いてを繰り返す。そして、人差し指を見て舌打ちをした。
「チッ……、やはり割れていたか。まあ、指にまでは影響が出ていないみてえだから良しとするか」
「あ、あっ……、ゆ、ゆび、指がっ……!」
少女がフルフルと怯えながら、フォイの左手を指差す。
フォイは気分を害した様子もなく、ただ「ああ」と頷いた。
「それに関しては今から説明する。お前――、っと」
フォイは何を思ったか、言葉を途中で区切って口元を右手で覆う。中途半端に紡がれた言葉が、宙で舞っていた。
少女は青年の姿に首を傾げる。理由が分からないからだろう。何も不自然なことはなかった気がする、そう思っているのかもしれない。
フォイは一つ咳払いをしてから、仕切り直すように口を開いた。
「……その前に、自己紹介がまだだった、な。……俺は、フォイ・クローゼ、獣人だ。フォイで良い」
スッと右手を差し出すフォイに、少女は彼の顔と右手を交互に見比べる。何度か見比べて理解すると、慌ててフォイの右手をギュッと握る。そして、頭をペコリと下げる。
「し、シオル・サイフォン、です。あ、あの、た、助けていただいてありがとうございました……!」
シオルがそう言うのを、フォイは頭を振ってやんわりと否定する。
「礼には及ばない。俺は好き勝手暴れただけだからな。シオル、と呼んで良いか? ダメなら、サイフォンと呼ぶ」
「し、シオルで問題ないです……!」
フォイと少女――シオルはお互い簡単に自己紹介を済ませる。それから、話をすることにした。
フォイは再度シオルに椅子代わりの岩に腰掛けるように告げてから、自分は湯を沸かし、二人分の飲み物を用意する。二つのマグカップを取り出し、どちらにも中身を注ぐと、歩み寄って片方をシオルへと差し出す。
「熱いから気をつけろ」
「あ、ありがとうございます……!」
シオルは両手でマグカップを包むように持つ。
フォイはシオルと向かい合うように適当な岩に腰掛け、マグカップに口をつける。そんなフォイにシオルがじっと視線を向けてくるのを感じ取り、フォイは「何だ」と返した。
シオルは急に問いかけられたからか、視線を下へと向けておどおどと口を開く。
「ふ、フォイさんは、なんでもできるんですね……」
「フォイで良い。あと、敬語も不要だ、堅苦しいだろ。……そういうわけではない。旅をするのに必要に迫られたからできるようになっただけだ。それに、ここでは俺だけじゃなく、動物たちもいるからな、都度力を貸してくれている」
フォイは洞窟の外へと視線を向ける。そこには動物たちの姿はなかったが、彼らの姿を思い出して柔らかく微笑む。その表情はあまりにも優しすぎて、先ほどまで好戦的に戦っていた同一人物とは思えないものであった。
その表情をシオルはぽけーっと見惚れていた。
だが、フォイの言葉に表情を引き締める。
「……さて、これから一緒に旅をしていくなら話をしておくぞ。シオルにも知っておいて欲しいからな」
フォイはオッドアイをシオルに向ける。
二人の表情は険しいものであった。
Ⅲ
「まずは、先の戦いで気になっているだろうから、俺のスキルについて話をしておく。特に、気になることも多いだろうからな」
フォイがそう告げれば、シオルはこくこくと何度か頷く。
それを見たフォイはなんだか納得してしまった。
……まあ、そうなるだろうな。
フォイは内心自分のことではあるが、シオルの反応を見て妙に既視感を覚えてしまった。
自身のスキルは理解してしまえば扱いやすい。使い方も決まっていないから、好きに使えるのだ。だが、初見で見た者は何が何だか理解することは難しいだろう。
フォイが話を進めようと口を開こうとした時、シオルが急に慌て始めた。何かを言いたそうにして、でも言葉にできていなさそうで。
フォイが何事かと首を捻れば、シオルは震える指でフォイのある部分を指差す。やがて、震えた声で言葉を発した。
「ゆ、ゆびっ……、人差し指が……!」
「指……、ああ、忘れていた」
フォイは言われて自身の左手の人差し指へと視線を向ける。先ほど、割れていたことを確認したものの、そのままにしているため血が滲んで地面に無意識に注いでいる。
フォイは自身の人差し指に舌を這わせた。ベロリと舐め取れば、口の中に鉄の味が広がった。思わず眉を寄せる。美味しいものではないが、何度か同じ場所に舌を這わせて舐め取った。あらかた取り終えると、フォイはシオルへと視線を戻した。
「まあ、放っておけ。大したことはない」
「大したことありますよ!?」
シオルが目を剥く。
だが、フォイはあっけらかんとしていた。
「見た目は酷いが、痛みはそうない。出血もそこまで酷いわけではないしな。しばらくしていれば落ち着いてくる」
フォイはそう言ってまた舌を這わせた。血が止まってくると、それをやめてシオルに向き直る。
シオルもフォイが普段通りに見えたからか、それ以上何か言うことはなかった。
「話を戻すぞ。俺のスキルは、こいつだ」
「……? こいつ、って……」
フォイは自身の手を掲げるものの、シオルにはその意図が伝わっていないようで。首を傾げて、青年の言葉を繰り返す。
フォイはそれを見て言い直した。
「すまない、言葉が少なかったな。……俺のスキルは、【爪】なんだ」
フォイは自身の鋭い爪が見えるように、自身の顔の横まで左手を掲げる。緋色、白藍、乳白色など、指一本一本が色とりどりに染められている。洞窟の暗がりでも、染められている爪たちはよく映えて見えた。
少女はぱちくりと目を瞬く。
「爪、がスキルなんですか……? あまり強そうには思えませんが……」
シオルは本心を口にする。敬語はいまだに健在だが、変えるつもりはないのだろう。
フォイは肩を竦める。
まあ、無理強いも良くはないだろう……。徐々に変えていければ良いが……。
勇者パーティに所属していた名残なのだろう、とフォイは予想する。上下関係など、不要だと思っているので外させたいが、それも恐怖の対象となるかもしれない。
気にはなるものの、フォイは話を進めることにした。
「そうだ、その言葉の表面上だけを捉えれば、な。だが、このスキルは裏を返せば使いやすく、強いものだった」
フォイは掲げていた左手を下ろし、その爪に視線を落とす。
「まず、第一にこの爪には一つ一つに別々の効果を付与することができる。同色で塗られていないのは、それのせいだ。両手合わせて一〇の指、このすべてに異なる属性が宿っている。ちなみに、シオルが見たのは、緋色の刀、青鈍色の捕縛、そして乳白色の壁。まあ、それ以外の効果は都度説明したほうが良いだろう」
フォイは自身のスキルを説明しながら、今度は両手を掲げて該当した指を一つ一つ立てて見せる。確かに、立てられた三本の指には挙げられた色が塗り潰されていた。他の指には、該当しない色が塗られている。珍しい色もあれば、見慣れた色もあった。
シオルの口からは「ほえー……」と力のない言葉が零れた。
フォイは話を続ける。
「塗られている爪によって効果が違うから、色が異なるのは仕方がない。だが、これを一見知らない者が目にすると、大抵の奴がチャラいだのなんだのと口にする。それだけは面倒だな」
「爪、一つ一つに付与って……、も、もしかして、足も――」
「――いや、足は使っていない。見てみろ」
シオルが口にした疑問を、フォイは遮って答えた。それと同時に、自身の足を前に出して見えるようにする。
フォイの足は、革張りのブーツで膝下まで覆われており、スキルが付与されているかなんて分からなかった。だが、ブーツを履いているということが、足を使わないということを示していると言わんばかりであった。
「おそらくはできるのだろうが、付与したことはない。足は面倒だからな」
「え、な、なんで……?」
シオルはキョトンとしている。
フォイは言葉を紡いだ。
「考えてもみろ。もし、足の爪にスキルを付与させたとして、ブーツを履いているんだ、すぐに使えなかったら意味がない。ましてや、毎回ブーツを壊すなんて御免だ。それに、素足で歩くなんて自殺行為にも等しい。それこそ自身で怪我を負うようなものだろう。……ただ、足に付与しておけば、蹴る時の威力は増しそうだがな」
フォイが顎に手を添えて考えを述べれば、シオルは驚いたように目を見開いている。
「……い、意外と論理的」
「……シオルの中での俺へのイメージは理解した」
シオルは青年の言葉に慌てて弁明し始めた。
フォイはそれを耳にしながらも、「気にしていない」と答える。そして、気を取り直しながら話を進めた。
「話を戻す。……スキルを付与した爪を使えば、その爪があった指が消失する。ただし、指が無くなったことで痛みを伴うことはないし、出血することはない。爪が欠けたり、ヒビが入ったりすればダメージを負う。今回のようにな」
フォイは自身の左手の人差し指を見せながら説明する。人差し指はだいぶ出血は止まったようだが、ヒビが入っている姿はとても痛々しい。
しかし、シオルは今の説明を聞いて疑問が湧いた。
「な、なぜ、指が消失するのでしょうか……?」
「まあ、爪を抜いている、という感覚だからな」
サラリと答えるフォイは何も気にしていなかったが、それはシオルに衝撃を与えた。
「つ、爪を、抜く……!?」
相当な衝撃だったらしく、青くなった顔を白くにまでさせて、慌ててフォイの怪我を心配する。慌てた様子で魔法をかけようとしていて、さすがに危ない様子だ。
勝手に想像を膨らませて思い詰めている様に、さすがにフォイも申し訳なくなった。
フォイは「落ち着け」と告げてから、ため息をつく。
「……シオルも、剣を鞘から抜くところは見たことがあるだろう」
「……? は、はい」
シオルが多少落ち着きを取り戻したことを確認して、フォイは再度説明する。
「あれがイメージとして分かりやすいだろう。俺がスキルを使う場合も、正しくそれだ。鞘から剣の刃を抜く、そんなイメージで爪を抜くんだ。だから、痛みは伴わないし、出血もしない。大方、爪がスキルだから、爪を使うとなれば指自体を使っていることになるのだろうな。推測だが」
「な、なるほど……?」
シオルはとりあえず頷いた。
フォイはそれを見て肩を竦めた。
まったく、慌てたり、頷いたりと騒がしい奴だ……。だが――。
――あいつに似ていて、面白い。
フォイはクスリと笑って、話を続けた。
「そう、だから問題はない。……ただ、今回のように怪我をするとすぐに爪は戻らないからな。戦闘が続くと使えない爪も出てくることになる。だから、治癒魔法士を探していた」
フォイが説明を終えれば、シオルは納得しながら頷いた。
まあ、それだけじゃないが、な……。
フォイはマグカップに口をつけながら、そう思う。オッドアイが、じっと少女を捉えていた。
IV
「……ところで、シオルは一緒に来てくれる、という認識で良かったんだよな」
「は、はい……! よ、よろしくお願いします!」
シオルが慌てて頭を下げる。
フォイはその姿を見て、ふと思った。
そういや、シオルの髪、あいつと一緒で黒髪、だな……。
黒くて艶がある、綺麗な髪。その髪にフォイは既視感を覚えた。
だが、瞳の色は違う……。それでも、もしや……。
フォイはシオルのことをじっと見つめて推測する。
オッドアイがずっと向けられているからか、シオルは落ち着かなさそうにソワソワとしていた。だが、フォイに何か言うつもりはないらしく、ただ落ち着かないようにしているだけであった。
聞くだけ、聞いてみるか……。
フォイはふむと頷き、シオルに声をかける。
「……シオル、知っているのであれば正直に教えて欲しい。嫌なら無理強いはしないが」
「……? はい」
フォイはシオルが頷いたことを確認してから、一度息をついて意を決したように問いかけた。
「――単刀直入に聞く。シオルは、ニホンという国のことを、知っているか」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる