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第四章 「女子会」というものに以下略・二日目
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Ⅰ
愛知県蒲郡市にある島、名を「竹島」という。
そこでは、人知れず、いや、人間知れずに女性神様による「女子会」が繰り広げられていた。
神守である冷は男性だが、上司もとい主君の弁財天の命により、神様方のお世話に加え、女子会にも参加させられている。
本日、女子会二日目。
冷は一人でいる際に、深いため息をつくのであった。気合を入れて、朝の支度を終わらせた。
時刻は、午前九時を過ぎていた。すでに、龍神と宇賀神は支度を終え、仕事に手を付けている。昨日同様、眷属の小龍と猫をそれぞれ見張りとして依頼し、心配そうな顔をする彼らをなんとか見送ったのである。そうして、「女子会」へと参加している女性の神様方をどう起こそうかと悩んでいた。
昨夜が大いに盛り上がっていたのはよく知っている。笑い声がよく耳に届いていた。しかし、いくらなんでもそろそろ起こすべきだろうと冷は思う。これが弁財天だけなら、問答無用でたたき起こすところなのだが、さすがにそうもいかなかった。
さて、どうしようか……。
そう考えていれば、そんな彼に歩み寄る一人の老人。
「おはようさん、冷」
「おや、師匠、おはようございます。それと、お久しぶりです」
「うむうむ」
「師匠」と呼ばれた老人は頷く。
このご老人は、島の中にある社の一つ、千歳神社にいる、藤原俊成である。藤原定家の父親であり、冷に武道を教えた本人である。冷はこの俊成に幼い頃から面倒を見てもらっていたため、「師匠」呼びが定着していたのだった。
冷は俊成に向き直って、話を続ける。
「最近、いらっしゃらないと思っていたのですが、どちらに行ってらしたんですか?」
「なーに、散歩じゃよ。動かぬと鈍ってしまうのでな」
「師匠、そんなことしなくても鈍ったことないでしょう」
目の前にいる自分の師の言葉に、冷は思わずため息をついた。
何を隠そう、このご老人、冷を鍛えただけはあってものすごく強い。それこそ、いまだに冷に黒星をつける者である。冷自身、基本的に負けることは無い。そこは大前提だ。しかし、それでもこの俊成は別である。冷がまだ数えられるぐらいしか勝てていないというのが、事実であった。
「何を言うか! 動けなくなるのは、あっちゅう間じゃぞ! 常日頃から鍛えておくに限る」
「その言葉、俺ではなく、御三方にお伝えしていただきたいものです」
冷は再度ため息をついた。
そんな中、俊成は首を傾げて冷に問う。
「それにしても、冷。お主はここで何をしとったんじゃ?」
「……いえ、大したことでは」
冷は悟られないように、淡々と返した。
実は、この俊成、大の女好きである。このご老人に、もし「弁財天が『女子会』というものをしている」、などと軽率に話したら、何をしでかすか分からない。特に、お客様の女性神様方に何かあれば、それこそ時雨たち、ほかの神守に顔向けできなかった。
冷はこっそり頭を抱えた。
師匠はこれだけ何とかしてくれればな……。
俊成に関しては、ここだけいつも悩むのである。これは、冷が幼い頃からの悩みであった。
とにもかくにも、俊成をこれ以上、弁財天の社、八百富神社から離す必要があった。先にそれをどうにかしないと――。そう考えた、だがしかし。
「ところで、話は変わるがの。昨日から女性の声が聞こえておるのじゃが、儂にも紹介してくれんか」
「……こんの爺、気がついていたのか」
「こりゃ、冷! 儂は仮にもお主の師匠じゃぞ!」
「自分で『仮にも』って言うな、この馬鹿師匠!」
冷は思わず師匠の俊成へ敬語も忘れて返答する。元々、休日は昔の名残で敬語では話さない。一応、仕事中だから今は気にして敬語で話していた。しかし、それすらも忘れるほどの困ったご老人であった。冷が頭を抱えていることなど、露ほども知らないのだろう。
見た目は「年老いた可愛いおじいちゃん」とも言えなくないが、中身はなかなかに危ない爺である。
冷はとりあえず、このどうしようもない女好きをどこか別のところに移動させるように仕向けることにした。しかし、すでに女性がいることに気がついている俊成は、弁財天の社へと近づくことにしか頭にない。他のことには目もくれなかった。
冷は俊成を捕まえて、力の限り押す。しかし、相手も目的があるからか、全く力負けしない。爺のどこにこんな力があるんだ、と冷は正直腹を立てていた。
「というか、師匠! 戻ってきたなら、ご自分の社にいてください!」
「儂がいてもいなくても変わらんわい! どうせ隠居している身じゃ!」
「隠居していようがしてなかろうが、あんたの社だろうが! 人間の方々は忙しくてもここに来て参ってくださるんですよ! たまにはいようとか思わないのか!」
「儂の重要事項はこっちじゃ!」
「こんの……、本当に女性にしか目がないんだな、馬鹿爺!」
冷はなりふり構っていられないと考えた。仕事中だが、もはや口調は戻らない。やはり、幼い頃から一緒にいた師匠の前だ。なかなかその口調は直らなかった。最も、口調の悪さは成長するにつれ、比例していったわけだが。
師弟の攻防が続く中、突如悲鳴が聞こえる。弁財天の社からだった。冷は我に返り、とりあえず俊成をはっ倒すと社へと駆けていく。
履物だけを珍しく脱ぎ捨て、廊下を駆ける。目的の場所の襖をすたーんと開け放つ。
「失礼致します! 何事ですか!」
返事も待たずに開け放った冷は、これまた珍しく相当焦っていた。彼の目の前に広がった光景は――。
「あらー、冷くん、おはようー」
「……おはようございます。本当に、何事ですか?」
あっけらかんと言い放つ弁財天は、楽しそうに笑っている。冷は思わず冷静を取り戻し、再度問うていた。
弁財天はにこやかに笑っていた。その奥では、だんだんと積み上がっている女性の神様三人。上から、石長比売、木花之佐久夜毘売、天照大御神の順である。どうやら、そこから聞こえた悲鳴のようだ。
弁財天は笑って話す。
「可愛いわよねー。天照ちゃん、寝惚けて着物の裾を踏んでこけちゃったのよー。近くにいた木花ちゃんたちもそのまま躓いちゃって、鏡餅みたいになっちゃったー」
「いやあ、言わないで、弁財天ちゃん!」
泣きそうな天照大御神の言葉が返ってくる。冷は一つ息を吐きだすと、弁財天へ向き直る。
「……弁財天様、笑ってないで助けてあげてください」
それから、積み重なった三人の女性神様の近くへ膝をつく。
「御三方、ご無事ですか? お怪我はありませんか?」
一人ずつ順番に手を貸す。ゆっくりと順番に起き上がっていき、最後の天照大御神へと手を差し出す。
天照大御神は顔を真っ赤にして、泣きそうになるのを堪えた。
「す、すみません、冷さん。こんなことで、お騒がせしてしまって……」
「いえ、何事もなかったようで安心致しました。……それにしても、急に部屋に突入してしまって、申し訳ございません。女性の方々に大変失礼なことをしてしまいました。少し慌ててしまって」
「いやーねー、冷くんなら大丈夫よー。なんなら、今から着替えるし、見ていく?」
「ええっ!?」
弁財天の言葉に、石長比売の驚きの声が上がる。天照大御神は赤かった顔をさらに赤くし、袖で顔を隠した。木花之佐久夜毘売はにこにこと微笑んでいる。
冷は弁財天の言葉に特段顔色を変えることもなく、むしろ呆れていた。
「……弁財天様、ご冗談だとしてもお止めください。天照様と石長比売様が困っておいでです」
「おー、それは儂は見たいかのう」
ゆっくりと立ち上がった冷の耳に、突如届いた聞き慣れた声。冷は思わず、ばっと襖の方へと振り向いた。その時間、わずか二秒。敵の気配を感じたかのように振り向いていた。そして、視界に入ったのは、はっ倒して来たはずの、自分の師匠である。すっかり鼻の下を伸ばして女性方を眺めている俊成を見て、冷は怒りをあらわにした。
あのくそ爺……!
冷は久しぶりに師匠への怒りが頂点に達した。
「あらー、お久しぶりです、俊成様」
「弁財天ちゃん、久しぶりじゃのう、いつも綺麗じゃな。またべっぴんさんになって」
「あら、嬉しい。けど、それ以上近づいたら、はっ倒すわよ、お爺様」
にっこりと笑った弁財天には、有無を言わさない圧があった。さすがの俊成もたじろぐ。冷は思わず、がっつと拳を握った。あくまで小さくだが。
「すみません、弁財天様。師匠のことをすっかり忘れておりました」
「え、師匠さん……?」
思わず聞き返した天照大御神へ、冷は頷いてみせる。
「はい。私の師匠、藤原俊成様です。この島にある社の一つ、千歳神社にいらっしゃいます。私に武道を教えてくださった方なんですが――」
冷は一度区切る。
「どうにも女性に目がないのが難点で……」
「こりゃ、冷! もう少し儂のことをかっこよく紹介せんか!」
「事実でしょう。それよりも師匠、いつまでも女性の部屋に居ないでください。訴えられますよ」
「何じゃ、お主かて独り占めしたいだけだろうに」
「あんたと一緒にするな」
思わず冷は、神様の前ということも忘れ、口調を崩す。
そのまま俊成と冷は言い合いを続けるが、驚いたのは客人として招かれていた三人の神様である。いつも丁寧な口調で話していた冷は面影もなく、冷たく吐き捨てている。
しかし、そんな中でも変わらぬ者が若干一名。
れ、冷さん、そんなところもかっこいいなんて……!
天照大御神、もはや末期である。「恋は盲目」とはよく言ったものだ。
しばし言い合っていた師弟だが、やがて弟子は師匠の首根っこを掴み、出口へと向かう。そして、静かに礼をした。
「大変失礼致しました。ごゆっくり支度をなさってくださいませ。後程朝食をお運び致します」
「こりゃ、冷! 師匠へ何たる仕打ちか!」
「あんまり面倒なことばかり言ってると、一日眠っていただきますよ、師匠。もちろん、実力行使で」
その言葉に、俊成はにやりと笑う。
「……ほう、儂に挑むか、冷。まだ数える程度しか勝てていないだろうに」
「言っておきますが、あなたが悪さをしなければ、こちらも手荒なことは致しません。それと、私もいつまでも負けている弟子のままではいませんよ」
「冷くん、そのおじいちゃん、よろしくねー」
弁財天はにこやかに手を振っている。もちろん、俊成ではなく、冷に向かってである。俊成は何も知らずに、でれでれと顔を崩して手を振り返していたが。
「結界を強化しておきます。それでは、失礼致します」
冷はぎゃーぎゃーと喚く一人の爺を引きずって去っていく。静かになったことを確認した女性の神様たちは各々支度をし始めた。
おもむろに木花之佐久夜毘売は口を開く。
「……少し、驚きましたわ。冷さんでも、あんな口調になるのですね」
弁財天はそれを聞くと、「うん!」と嬉しそうに頷いた。
「冷くん、いつもあんな感じよー? 私たちが全く気にしないからね、口調が崩れるのよ。皆の前では失礼のないように、って気にしてるだろうから、そんなことないけど」
弁財天はふふっと微笑む。その顔はもはや、「我が子を自慢したい母親」である。
「まあ、さっきは俊成様が相手だったし、師弟関係だとまた別かもね」
「そうなのですね。やっと人間らしい、いえ、人らしい一面を見れた気がしますわ」
木花之佐久夜毘売の言葉に、石長比売と天照大御神もうんうんと頷く。弁財天は笑った。
「冷くん、堅物だからねー」
一方、冷は社の外に出た瞬間、一つくしゃみをする。少し呆ける。
「風邪、ではないだろうが……」
あの人か……。
冷は弁財天の顔を思い浮かべる。にこにこと笑っている顔を思い浮かべ、一つため息をつく。
変なことを話していないといいのだが。
再度ため息をついた冷を、現実に戻したのは目の前にいる俊成である。怒っている、というのを身体全体で表している彼は、冷と頭一つ分違う身長を何度も跳ねさせていた。
「こりゃ、冷! 儂は怒っているのじゃぞ!」
「うるさい、爺。師匠だからといって許さないからな。女性の部屋に無言で入るなど言語道断。とりあえず、一発殴らせろ」
「ほほう、本気でやるつもりかのう。いいじゃろう、久しぶりに儂が相手をしてやろうぞ」
「ぬかせ」
師弟の対決が、今、人知れず、いや、神知れずに始まった――。
Ⅱ
圧勝――とはいかなかったものの、勝利を掴んだ冷。叩きのめした俊成を社へと放り込むと、結界を張り直し、遅めの朝食を弁財天の社へと運び込む。もちろん、今回は返事を待ってから部屋に入ることを忘れずに。
朝食が終わると、片付け中にやはり弁財天に捕まり、なんとか片付けだけは終わらせるという約束を取り付けた。その間に昨日同様、眷属の鼠へ小龍たちに遅くなることを伝えるように頼んだ。
そうして、片付けをなんとか短時間で終わらせた冷は、本日も女子会へと無理矢理参加させられることとなった。
冷を入れた五人が丸くなって、向かい合う。茶を飲みつつ、弁財天は考える。
「んー……、昨日ってどこまで話したっけ?」
「冷さんの好みの女性を聞く手前で終わってますわ」
弁財天の言葉に返答したのは、木花之佐久夜毘売である。迷いなくにこやかに答える彼女を見て、冷は頭を抱えたくなった。なんとか耐える。
出来れば、忘れていてうやむやになっていることを淡く期待していた冷。そんな思いとは裏腹に、見事にその想いを打ち砕かれてしまったのである。
木花様、記憶力良すぎです……!
おそらくこれが弁財天だけなら、なんとかなった。忘れて話が無くなっていた可能性もある。しかし、予想は外れた。最も、分からなくなったから最初から、という可能性もあることはあったが。
木花之佐久夜毘売が執着していることは感じていたが、ここまでとは思っていなかった冷。思わず肩を落としていた。
「そっかー。じゃあ、冷くん、女性の好みは?」
「直球ですね」
「あ、の……、私も、気になります……」
おずおずと天照大御神が続く。そうすると、木花之佐久夜毘売もぐいぐいと先を促そうとする。一人、石長比売だけはあわあわと周囲の様子を見るだけだった。
冷はふむ、と考え込む。整った顎に手が添えられ、しばし考える姿を、天照大御神はほうっと眺める。
しばし沈黙の後、冷はゆっくりと口を開いた。
「そう、ですね……。あまり考えたことはなかったのですが。……最初に出てきたのは笑顔が素敵な方、それから料理を美味しく食べる方、でしょうか」
冷は天照大御神をじっと見る。視線が気になっただけだが、天照大御神は恥ずかしくなって、ほのかに赤くなった顔を慌てて下へと向けた。
そんな中、弁財天がぽつりと呟く。
「それ、私じゃ――」
「あなたは、対象外です」
「冷くん、ひどーい!」
「弁財天様をそんな風に見たことはありません。まず、私は神守の立場ですので」
すっと目を伏せて言う冷は、何気なく言った言葉だった。自分の立場をよく理解している。
しかし、その言葉は天照大御神の胸に深く突き刺さった。突き放されたように感じたのだ。
まるで、線引きをするかのように――。
天照大御神は無意識に胸の当たりをぎゅっと握っていた。
「……冷さんは、顔とか、外見を気にしないの、ですか?」
今度はおずおずと石長比売が問う。冷は淡々と答えた。
「それはしませんね。まず、自分の顔が整っているとは思っていませんので。それに、相手に失礼かと思います」
あくまで個人的な意見ですが、と冷は付け足した。石長比売はほう、と安堵の息をつく。自分が邇邇芸命に返品されたことを思い出しての質問だった。冷のように、考えが違う人もいるということを知って、少し安心したのである。
「冷くんは顔整っていると思うわよ?」
「よく分かりません」
「……あ、の。理由を教えていただけませんか?」
天照大御神は胸の痛みをそのままに、冷へ質問をする。冷の視線が彼女へ向けられる。何かを気にしている冷は、それには触れずに、少し考えてから答えた。
「……一つ目は、自分があまり笑わないので、笑っている方を見ると素敵だと思ったこと、ですね。二つ目に関しては、私が料理を好むので、美味しく食べてくださる方だと嬉しいと思います。逆に、文句を言われると、二度と作らないと思いますね」
「そう、なんですね……」
天照大御神はなんとかそう返答した。それが精一杯だったのである。痛みがどんどん強くなる。楽しかったはずの時間が、何故か辛い時間へと変わってしまった。そのことに、疑問を持ちながらも、抑え込んだ。
「えー、冷くん。この中だったら、誰の笑顔が好き?」
「弁財天様、御三方に失礼です」
何も気にせずに弁財天は冷へ次から次へと質問を繰り広げる。弁財天は天照大御神のために、冷からいろいろと聞き出そうとしている。今、それが彼女に苦痛を与えているとは知らずに――。
一方、冷は怒りを込めて弁財天へと返答する。聞きたいこと、というよりも、恋の話が大好きな弁財天が聞きたいがために来ることが分かっているからだ。そんな冷に口を尖らせて抗議する弁財天に対し、木花之佐久夜毘売がすっと手を挙げる。
冷は嫌な予感がした。
「私も気になります」
「……木花様、毎回思うのですが、狙って行っていませんか?」
「いいえ、気になることを弁財天ちゃんが聞いてくれますから、つい。それに、冷さんの返答を聞いていますと、姉様の旦那候補としてふさわしいかと思いまして、細かいことは聞いておかないといけませんから」
「木花!?」
驚いたのは、石長比売と天照大御神である。木花之佐久夜毘売に文句を言う石長比売は、恥ずかしいのか顔が真っ赤だ。そんな文句を聞いても、ころころと木花之佐久夜毘売は笑う。
天照大御神は耳を塞ぎたくなった。聞きたい、けど聞きたくない。どっちつかずの想いにぐらぐらと揺れる。
ど、どうしよう……。
来るんじゃなかった、と後悔しかけた天照大御神の耳へ、静かな冷の言葉が届く。その声は簡単に天照大御神の中へとすっと入ってくる。
「――これは私一個人の意見ですが、天照様の笑顔が素敵だと思います。ですが、決して御二方や弁財天様が素敵ではないと言っているわけではありませんので、誤解しないでいただけますと幸いです」
冷は頭を下げつつ、しっかりと告げた。その言葉を理解した天照大御神は目を見開く。木花之佐久夜毘売はふふっと微笑み、石長比売はそっと袖で口元を隠した。弁財天はにこにこと笑っている。
「不快に思われましたら、申し訳ございません。謝罪させていただきます」
「いいえ、私の意見を尊重していただき、ありがとうございました。姉様、天照大御神様、私のほうこそ失礼致しました。嫌な思いをさせてしまって、すみません」
冷の言葉に笑いながら返すのは、木花之佐久夜毘売。その後、天照大御神と石長比売を見て謝罪を述べる。弁財天にも頭を下げた。弁財天は「私は大丈夫ー」と笑う。
天照大御神は慌てて手を振りながら答えた。
「い、いいえっ! 私も、聞けて良かったと、思います……」
「……私も、です」
天照大御神に続いて、石長比売も小さな声でそう告げる。しかし、石長比売の顔はなんとなく元気がないように見える。小さく返した石長比売を見て、冷は一言告げる。
「――石長比売様。私から一つ、よろしいでしょうか」
「え? ……は、はい」
「あくまで、先程のは私一個人の意見です。そして、今から申し上げることも一つの意見としてお聞きしていただければ幸いです」
「……?」
石長比売は首を傾げた。何も思い当たらないのである。それは、冷以外の全員がそうで、皆首を傾げている。
冷はそんな中でも冷静に告げた。
「……この世界、いえ、人間の世界では、女性でも男性でも様々な意見があります。私のように性格を重視する方であったり、見た目を重視する方であったり……お相手に対する想いは十人十色です。それこそ、百人が全員同じことを言わないでしょう。我々の世界でもそれは同様だと、私は思います。――ですから、石長比売様」
「は、はいっ!」
思わず石長比売の声は裏返った。急に名前を呼ばれて驚いたのだ。
「私は、以前お会いした時、そして今回の短い時間ですが、あなたはとても優しい方なのだと感じ取りました。それは、あなたの魅力なはずです。あなた自身が嫌いな部分や短所はあると思いますが、長所は確実に相手に見ていただくことができます。そこは自信を持っていただいてよろしいかと思います」
冷は淡々と告げた。それを聞いて、今度は石長比売が目を見開く。弁財天は満足気に笑い、木花之佐久夜毘売は目を輝かせる。天照大御神は石長比売を羨ましく感じた。
冷さんは、よく人を見てらっしゃるのね……。
嫉妬深くなる、黒く染まる心をぎゅっと掴む。それはまた無意識に行われていた。天照大御神は唇を噛んだ。しかし、それは見られたくなくて、そっと袖で口元を隠す。黒く染まり続ける心も隠してしまいたかった。
誰も何も言わない中、冷は続けた。
「――偉そうなことを申し上げました。どうかお許しください」
「……! い、いえ! あ、の……えっと、ありがとう、ございます……」
最後のほうは小さく儚く、それでも全員の耳に石長比売の言葉が届く。もじもじと恥じらいながら、嬉しそうな色を滲ませていた。
木花之佐久夜毘売は目をきらきらと輝かせ、冷に詰め寄る。
「冷さん、やはり姉様の夫となりませんか! あなたであれば、私も安心しますわ!」
「いえ、私は神守の身ですので。それと、私にはもったいないお方だと思います。……天照様」
「えっ、は、はいっ!」
ぐいぐいと来る木花之佐久夜毘売を落ち着かせ、冷は天照大御神へと向き直る。
黒く染まる心に、急に届いた冷の声。驚きのあまり、天照大御神の声は裏返ってしまった。
は、恥ずかしいー……。
赤くなりつつある顔を袖で隠す。冷はそれには触れずに淡々と告げた。
「少し、よろしいでしょうか」
「……え?」
「こちらへ」
冷は立ち上がって、行く先を誘導する。それは襖の先、部屋の外を示していた。天照大御神は意図を理解出来ていなかったが、慌てて立ち上がり部屋を出る。冷は頭を下げた後、襖を閉めた。天照大御神へ声をかけ、歩き出す。その後を、彼女は疑問を浮かべつつ、追いかける。
そうして、それを静かに見送った三人の神様。
「やーだ、冷くん、やるー!」
「あらあら。意外と冷さん、女性殺しと呼ばれる者でしょうか。本人は自覚していらっしゃらないようですが。それにしても、姉様にあんなに堂々と発言する方は初めて見ましたわ」
「わ、私も、驚いたわ……」
「ふふっ、私の冷くん凄いでしょー!」
自慢げに話す弁財天へ、姉妹は頷く。その後、部屋から出た二人には触れずに、三人の時間を楽しむのだった。
Ⅲ
冷が先頭を歩き、社内の廊下を進む。天照大御神はそんな彼の背を見つめるが、話題は出てこない。二人に会話はない。
天照大御神は冷静を保っているが、内心ではとても焦っていた。上手く足を動かすので精一杯である。
ど、どうしよう……。冷さんを怒らせてしまったのかしら。それとも、私が嫌な顔をしていた、とか……。
ぐるぐると回る想いを必死に落ち着けようとする。しかし、嫌な考えは次から次へと出てきて、全く落ち着かずにいた。心臓が激しく音を立てている。どうにかなってしまいそうだった。
冷さん……。
後ろ姿だが、しっかりと伸びている背筋が、自分よりも大きく見える手が、普段よりもゆっくりと進む足が、全てがかっこよく見えた。
私は――。
「天照様」
「はいっ!」
急に名前を呼ばれた天照大御神は、またもや焦って返事をしてしまう。今回は声が裏返らなかっただけましであった。
冷はいつの間にか振り返っており、庭先へと着いていた。どうやら、社の裏側まで来たらしい。綺麗な庭は天照大御神の心を少しだけ落ち着かせてくれた。
そのまま縁側へ促され、天照大御神はゆっくりと腰をかける。冷は少し後ろで正座して控えていた。
しかし、何も言ってこないことに、天照大御神はやはり疑問が出てくる。なぜここに連れてきてくれたのか、全く検討がつかなかった。
少し声を震わせながら、聞いてみる。
「あ、の……」
「――ご気分、優れませんか?」
「……え?」
戸惑いつつも声をかけた天照大御神へと返ってきた言葉は、彼女を気遣うものだった。思わず問い返してしまう。
冷はじっと天照大御神へ視線を向けたまま続けた。
「いえ、先程から顔色が優れないようでしたので。あの場所ではおっしゃりにくいかと思いまして、こちらへご案内させていただきました」
「ど、どうして……」
「時雨殿から事前に伺っておりました。天照様は、抱え込んでしまうお方だと。我が主、弁財天の手前では言いにくいかと思い、私がお話を伺おうと思った次第です。それに、先程から胸元を押さえておいでで、口数も少なかった気がしましたので」
「間違っておりましたら、申し訳ございません」と冷は最後に続けて言った。天照大御神の顔はほのかに紅く染まっていく。
見ていて、くださったの……?
些細なことだったはずだ。それでも、あの短い時間で気にして、声をかけて部屋から出してくれた。天照大御神の様子がおかしいと周囲が気が付かなくても、冷は気がついてくれた。
冷をじっと見つめる。天照大御神は視線を外して、ゆっくりと口元を袖で隠す。緩む口元を隠すためだった。
嬉しい……。
心が暖かくなる。先程まで暗く黒く染まっていた心は、澄み切った青空のように晴れていく。たったそれだけのこと、されどそれぐらいのこと。彼女にとってはとても大事な、嬉しい出来事だった。
「……ありがとうございます、冷さん。気分が優れないわけではありませんので、大丈夫ですよ」
「……そうですか、失礼致しました。それと、もう一つよろしいでしょうか」
「……? はい」
冷は次は少し言いにくそうに口ごもった。初めて見る彼の一面だった。
「……先程は失礼致しました。我が主、弁財天の無茶振りとはいえ、失礼なことを申し上げました。……私も話しすぎた点が多かったと思いまして、もしや天照様が不快に感じたのではないかと――」
冷は静かに頭を下げる。一瞬、理解出来ていなかった天照大御神は何事かと首を傾げる。しかし、好みの女性の話だと察し、慌てて返答した。
「れ、冷さん、気にしていませんから! 話の流れですし、そういう会だったのですし、怒ってませんし……! そ、それに――」
「……?」
今度は冷が首を傾げる番だった。天照大御神の言葉を待つ。彼女は、悩んだ末に、ゆっくりと告げた。
「……そ、の……、私は、聞けて嬉しかった、です」
「……! もったいないお言葉です」
柔らかな風が二人を包む。それ以降、お互いに話すことも無く、静かな時間が過ぎていく。心地よい時間であった。
IV
その後、しばらくしてから天照大御神を部屋へと送り届ける。弁財天の冷やかしが待っていて、それには怒りをあらわにする冷と、紅く頬を染める天照大御神という正反対の態度が繰り広げられた。
それから冷は弁財天の社を後にし、二人の男性神様の仕事を見張りに行く。眷属たちが泣きついてきたのは、また別の話。
弁財天の社と、男性神様二人の社を何度も行っては去ってを繰り返す冷。やはり、眷属たちには頼ってしまって、泣きつかれてを繰り返す。
しかし、昨日のこともあって、多少なりとも慣れた眷属たちが午後になると「お任せ下さい」と言うようになってきた。それには少し安心した冷だった。
なんとか本日も男性神様二人の仕事は無事に終わった。何度も龍神が言うことを聞かなくて制裁したり、宇賀神の発作に近い眷属たちのもふもふ効果を行ったりすることはあったが、暴走にはならずに済んだ。
逆に、俊成が何度か結界を壊そうとしていたことのが大問題で、気がついた冷が圧勝とはいえないもののはっ倒して結界を貼り直すという状況が、一日で何十回と起こった。少し目を離すとこれである。俊成が散歩と称して、外にしばらく放浪の旅に出ていた時が一番良かったのだと再認識した。
「あと、一日……!」
女子会もなんとか終盤に差し掛かっている。冷はため息をついた。
本当にここまで大変だとは思っていなかった。しかし、それももう少しである。気合いを入れ直す。
空を見上げれば、雲一つなく、三日月が優しく微笑んでいるだけであった。
愛知県蒲郡市にある島、名を「竹島」という。
そこでは、人知れず、いや、人間知れずに女性神様による「女子会」が繰り広げられていた。
神守である冷は男性だが、上司もとい主君の弁財天の命により、神様方のお世話に加え、女子会にも参加させられている。
本日、女子会二日目。
冷は一人でいる際に、深いため息をつくのであった。気合を入れて、朝の支度を終わらせた。
時刻は、午前九時を過ぎていた。すでに、龍神と宇賀神は支度を終え、仕事に手を付けている。昨日同様、眷属の小龍と猫をそれぞれ見張りとして依頼し、心配そうな顔をする彼らをなんとか見送ったのである。そうして、「女子会」へと参加している女性の神様方をどう起こそうかと悩んでいた。
昨夜が大いに盛り上がっていたのはよく知っている。笑い声がよく耳に届いていた。しかし、いくらなんでもそろそろ起こすべきだろうと冷は思う。これが弁財天だけなら、問答無用でたたき起こすところなのだが、さすがにそうもいかなかった。
さて、どうしようか……。
そう考えていれば、そんな彼に歩み寄る一人の老人。
「おはようさん、冷」
「おや、師匠、おはようございます。それと、お久しぶりです」
「うむうむ」
「師匠」と呼ばれた老人は頷く。
このご老人は、島の中にある社の一つ、千歳神社にいる、藤原俊成である。藤原定家の父親であり、冷に武道を教えた本人である。冷はこの俊成に幼い頃から面倒を見てもらっていたため、「師匠」呼びが定着していたのだった。
冷は俊成に向き直って、話を続ける。
「最近、いらっしゃらないと思っていたのですが、どちらに行ってらしたんですか?」
「なーに、散歩じゃよ。動かぬと鈍ってしまうのでな」
「師匠、そんなことしなくても鈍ったことないでしょう」
目の前にいる自分の師の言葉に、冷は思わずため息をついた。
何を隠そう、このご老人、冷を鍛えただけはあってものすごく強い。それこそ、いまだに冷に黒星をつける者である。冷自身、基本的に負けることは無い。そこは大前提だ。しかし、それでもこの俊成は別である。冷がまだ数えられるぐらいしか勝てていないというのが、事実であった。
「何を言うか! 動けなくなるのは、あっちゅう間じゃぞ! 常日頃から鍛えておくに限る」
「その言葉、俺ではなく、御三方にお伝えしていただきたいものです」
冷は再度ため息をついた。
そんな中、俊成は首を傾げて冷に問う。
「それにしても、冷。お主はここで何をしとったんじゃ?」
「……いえ、大したことでは」
冷は悟られないように、淡々と返した。
実は、この俊成、大の女好きである。このご老人に、もし「弁財天が『女子会』というものをしている」、などと軽率に話したら、何をしでかすか分からない。特に、お客様の女性神様方に何かあれば、それこそ時雨たち、ほかの神守に顔向けできなかった。
冷はこっそり頭を抱えた。
師匠はこれだけ何とかしてくれればな……。
俊成に関しては、ここだけいつも悩むのである。これは、冷が幼い頃からの悩みであった。
とにもかくにも、俊成をこれ以上、弁財天の社、八百富神社から離す必要があった。先にそれをどうにかしないと――。そう考えた、だがしかし。
「ところで、話は変わるがの。昨日から女性の声が聞こえておるのじゃが、儂にも紹介してくれんか」
「……こんの爺、気がついていたのか」
「こりゃ、冷! 儂は仮にもお主の師匠じゃぞ!」
「自分で『仮にも』って言うな、この馬鹿師匠!」
冷は思わず師匠の俊成へ敬語も忘れて返答する。元々、休日は昔の名残で敬語では話さない。一応、仕事中だから今は気にして敬語で話していた。しかし、それすらも忘れるほどの困ったご老人であった。冷が頭を抱えていることなど、露ほども知らないのだろう。
見た目は「年老いた可愛いおじいちゃん」とも言えなくないが、中身はなかなかに危ない爺である。
冷はとりあえず、このどうしようもない女好きをどこか別のところに移動させるように仕向けることにした。しかし、すでに女性がいることに気がついている俊成は、弁財天の社へと近づくことにしか頭にない。他のことには目もくれなかった。
冷は俊成を捕まえて、力の限り押す。しかし、相手も目的があるからか、全く力負けしない。爺のどこにこんな力があるんだ、と冷は正直腹を立てていた。
「というか、師匠! 戻ってきたなら、ご自分の社にいてください!」
「儂がいてもいなくても変わらんわい! どうせ隠居している身じゃ!」
「隠居していようがしてなかろうが、あんたの社だろうが! 人間の方々は忙しくてもここに来て参ってくださるんですよ! たまにはいようとか思わないのか!」
「儂の重要事項はこっちじゃ!」
「こんの……、本当に女性にしか目がないんだな、馬鹿爺!」
冷はなりふり構っていられないと考えた。仕事中だが、もはや口調は戻らない。やはり、幼い頃から一緒にいた師匠の前だ。なかなかその口調は直らなかった。最も、口調の悪さは成長するにつれ、比例していったわけだが。
師弟の攻防が続く中、突如悲鳴が聞こえる。弁財天の社からだった。冷は我に返り、とりあえず俊成をはっ倒すと社へと駆けていく。
履物だけを珍しく脱ぎ捨て、廊下を駆ける。目的の場所の襖をすたーんと開け放つ。
「失礼致します! 何事ですか!」
返事も待たずに開け放った冷は、これまた珍しく相当焦っていた。彼の目の前に広がった光景は――。
「あらー、冷くん、おはようー」
「……おはようございます。本当に、何事ですか?」
あっけらかんと言い放つ弁財天は、楽しそうに笑っている。冷は思わず冷静を取り戻し、再度問うていた。
弁財天はにこやかに笑っていた。その奥では、だんだんと積み上がっている女性の神様三人。上から、石長比売、木花之佐久夜毘売、天照大御神の順である。どうやら、そこから聞こえた悲鳴のようだ。
弁財天は笑って話す。
「可愛いわよねー。天照ちゃん、寝惚けて着物の裾を踏んでこけちゃったのよー。近くにいた木花ちゃんたちもそのまま躓いちゃって、鏡餅みたいになっちゃったー」
「いやあ、言わないで、弁財天ちゃん!」
泣きそうな天照大御神の言葉が返ってくる。冷は一つ息を吐きだすと、弁財天へ向き直る。
「……弁財天様、笑ってないで助けてあげてください」
それから、積み重なった三人の女性神様の近くへ膝をつく。
「御三方、ご無事ですか? お怪我はありませんか?」
一人ずつ順番に手を貸す。ゆっくりと順番に起き上がっていき、最後の天照大御神へと手を差し出す。
天照大御神は顔を真っ赤にして、泣きそうになるのを堪えた。
「す、すみません、冷さん。こんなことで、お騒がせしてしまって……」
「いえ、何事もなかったようで安心致しました。……それにしても、急に部屋に突入してしまって、申し訳ございません。女性の方々に大変失礼なことをしてしまいました。少し慌ててしまって」
「いやーねー、冷くんなら大丈夫よー。なんなら、今から着替えるし、見ていく?」
「ええっ!?」
弁財天の言葉に、石長比売の驚きの声が上がる。天照大御神は赤かった顔をさらに赤くし、袖で顔を隠した。木花之佐久夜毘売はにこにこと微笑んでいる。
冷は弁財天の言葉に特段顔色を変えることもなく、むしろ呆れていた。
「……弁財天様、ご冗談だとしてもお止めください。天照様と石長比売様が困っておいでです」
「おー、それは儂は見たいかのう」
ゆっくりと立ち上がった冷の耳に、突如届いた聞き慣れた声。冷は思わず、ばっと襖の方へと振り向いた。その時間、わずか二秒。敵の気配を感じたかのように振り向いていた。そして、視界に入ったのは、はっ倒して来たはずの、自分の師匠である。すっかり鼻の下を伸ばして女性方を眺めている俊成を見て、冷は怒りをあらわにした。
あのくそ爺……!
冷は久しぶりに師匠への怒りが頂点に達した。
「あらー、お久しぶりです、俊成様」
「弁財天ちゃん、久しぶりじゃのう、いつも綺麗じゃな。またべっぴんさんになって」
「あら、嬉しい。けど、それ以上近づいたら、はっ倒すわよ、お爺様」
にっこりと笑った弁財天には、有無を言わさない圧があった。さすがの俊成もたじろぐ。冷は思わず、がっつと拳を握った。あくまで小さくだが。
「すみません、弁財天様。師匠のことをすっかり忘れておりました」
「え、師匠さん……?」
思わず聞き返した天照大御神へ、冷は頷いてみせる。
「はい。私の師匠、藤原俊成様です。この島にある社の一つ、千歳神社にいらっしゃいます。私に武道を教えてくださった方なんですが――」
冷は一度区切る。
「どうにも女性に目がないのが難点で……」
「こりゃ、冷! もう少し儂のことをかっこよく紹介せんか!」
「事実でしょう。それよりも師匠、いつまでも女性の部屋に居ないでください。訴えられますよ」
「何じゃ、お主かて独り占めしたいだけだろうに」
「あんたと一緒にするな」
思わず冷は、神様の前ということも忘れ、口調を崩す。
そのまま俊成と冷は言い合いを続けるが、驚いたのは客人として招かれていた三人の神様である。いつも丁寧な口調で話していた冷は面影もなく、冷たく吐き捨てている。
しかし、そんな中でも変わらぬ者が若干一名。
れ、冷さん、そんなところもかっこいいなんて……!
天照大御神、もはや末期である。「恋は盲目」とはよく言ったものだ。
しばし言い合っていた師弟だが、やがて弟子は師匠の首根っこを掴み、出口へと向かう。そして、静かに礼をした。
「大変失礼致しました。ごゆっくり支度をなさってくださいませ。後程朝食をお運び致します」
「こりゃ、冷! 師匠へ何たる仕打ちか!」
「あんまり面倒なことばかり言ってると、一日眠っていただきますよ、師匠。もちろん、実力行使で」
その言葉に、俊成はにやりと笑う。
「……ほう、儂に挑むか、冷。まだ数える程度しか勝てていないだろうに」
「言っておきますが、あなたが悪さをしなければ、こちらも手荒なことは致しません。それと、私もいつまでも負けている弟子のままではいませんよ」
「冷くん、そのおじいちゃん、よろしくねー」
弁財天はにこやかに手を振っている。もちろん、俊成ではなく、冷に向かってである。俊成は何も知らずに、でれでれと顔を崩して手を振り返していたが。
「結界を強化しておきます。それでは、失礼致します」
冷はぎゃーぎゃーと喚く一人の爺を引きずって去っていく。静かになったことを確認した女性の神様たちは各々支度をし始めた。
おもむろに木花之佐久夜毘売は口を開く。
「……少し、驚きましたわ。冷さんでも、あんな口調になるのですね」
弁財天はそれを聞くと、「うん!」と嬉しそうに頷いた。
「冷くん、いつもあんな感じよー? 私たちが全く気にしないからね、口調が崩れるのよ。皆の前では失礼のないように、って気にしてるだろうから、そんなことないけど」
弁財天はふふっと微笑む。その顔はもはや、「我が子を自慢したい母親」である。
「まあ、さっきは俊成様が相手だったし、師弟関係だとまた別かもね」
「そうなのですね。やっと人間らしい、いえ、人らしい一面を見れた気がしますわ」
木花之佐久夜毘売の言葉に、石長比売と天照大御神もうんうんと頷く。弁財天は笑った。
「冷くん、堅物だからねー」
一方、冷は社の外に出た瞬間、一つくしゃみをする。少し呆ける。
「風邪、ではないだろうが……」
あの人か……。
冷は弁財天の顔を思い浮かべる。にこにこと笑っている顔を思い浮かべ、一つため息をつく。
変なことを話していないといいのだが。
再度ため息をついた冷を、現実に戻したのは目の前にいる俊成である。怒っている、というのを身体全体で表している彼は、冷と頭一つ分違う身長を何度も跳ねさせていた。
「こりゃ、冷! 儂は怒っているのじゃぞ!」
「うるさい、爺。師匠だからといって許さないからな。女性の部屋に無言で入るなど言語道断。とりあえず、一発殴らせろ」
「ほほう、本気でやるつもりかのう。いいじゃろう、久しぶりに儂が相手をしてやろうぞ」
「ぬかせ」
師弟の対決が、今、人知れず、いや、神知れずに始まった――。
Ⅱ
圧勝――とはいかなかったものの、勝利を掴んだ冷。叩きのめした俊成を社へと放り込むと、結界を張り直し、遅めの朝食を弁財天の社へと運び込む。もちろん、今回は返事を待ってから部屋に入ることを忘れずに。
朝食が終わると、片付け中にやはり弁財天に捕まり、なんとか片付けだけは終わらせるという約束を取り付けた。その間に昨日同様、眷属の鼠へ小龍たちに遅くなることを伝えるように頼んだ。
そうして、片付けをなんとか短時間で終わらせた冷は、本日も女子会へと無理矢理参加させられることとなった。
冷を入れた五人が丸くなって、向かい合う。茶を飲みつつ、弁財天は考える。
「んー……、昨日ってどこまで話したっけ?」
「冷さんの好みの女性を聞く手前で終わってますわ」
弁財天の言葉に返答したのは、木花之佐久夜毘売である。迷いなくにこやかに答える彼女を見て、冷は頭を抱えたくなった。なんとか耐える。
出来れば、忘れていてうやむやになっていることを淡く期待していた冷。そんな思いとは裏腹に、見事にその想いを打ち砕かれてしまったのである。
木花様、記憶力良すぎです……!
おそらくこれが弁財天だけなら、なんとかなった。忘れて話が無くなっていた可能性もある。しかし、予想は外れた。最も、分からなくなったから最初から、という可能性もあることはあったが。
木花之佐久夜毘売が執着していることは感じていたが、ここまでとは思っていなかった冷。思わず肩を落としていた。
「そっかー。じゃあ、冷くん、女性の好みは?」
「直球ですね」
「あ、の……、私も、気になります……」
おずおずと天照大御神が続く。そうすると、木花之佐久夜毘売もぐいぐいと先を促そうとする。一人、石長比売だけはあわあわと周囲の様子を見るだけだった。
冷はふむ、と考え込む。整った顎に手が添えられ、しばし考える姿を、天照大御神はほうっと眺める。
しばし沈黙の後、冷はゆっくりと口を開いた。
「そう、ですね……。あまり考えたことはなかったのですが。……最初に出てきたのは笑顔が素敵な方、それから料理を美味しく食べる方、でしょうか」
冷は天照大御神をじっと見る。視線が気になっただけだが、天照大御神は恥ずかしくなって、ほのかに赤くなった顔を慌てて下へと向けた。
そんな中、弁財天がぽつりと呟く。
「それ、私じゃ――」
「あなたは、対象外です」
「冷くん、ひどーい!」
「弁財天様をそんな風に見たことはありません。まず、私は神守の立場ですので」
すっと目を伏せて言う冷は、何気なく言った言葉だった。自分の立場をよく理解している。
しかし、その言葉は天照大御神の胸に深く突き刺さった。突き放されたように感じたのだ。
まるで、線引きをするかのように――。
天照大御神は無意識に胸の当たりをぎゅっと握っていた。
「……冷さんは、顔とか、外見を気にしないの、ですか?」
今度はおずおずと石長比売が問う。冷は淡々と答えた。
「それはしませんね。まず、自分の顔が整っているとは思っていませんので。それに、相手に失礼かと思います」
あくまで個人的な意見ですが、と冷は付け足した。石長比売はほう、と安堵の息をつく。自分が邇邇芸命に返品されたことを思い出しての質問だった。冷のように、考えが違う人もいるということを知って、少し安心したのである。
「冷くんは顔整っていると思うわよ?」
「よく分かりません」
「……あ、の。理由を教えていただけませんか?」
天照大御神は胸の痛みをそのままに、冷へ質問をする。冷の視線が彼女へ向けられる。何かを気にしている冷は、それには触れずに、少し考えてから答えた。
「……一つ目は、自分があまり笑わないので、笑っている方を見ると素敵だと思ったこと、ですね。二つ目に関しては、私が料理を好むので、美味しく食べてくださる方だと嬉しいと思います。逆に、文句を言われると、二度と作らないと思いますね」
「そう、なんですね……」
天照大御神はなんとかそう返答した。それが精一杯だったのである。痛みがどんどん強くなる。楽しかったはずの時間が、何故か辛い時間へと変わってしまった。そのことに、疑問を持ちながらも、抑え込んだ。
「えー、冷くん。この中だったら、誰の笑顔が好き?」
「弁財天様、御三方に失礼です」
何も気にせずに弁財天は冷へ次から次へと質問を繰り広げる。弁財天は天照大御神のために、冷からいろいろと聞き出そうとしている。今、それが彼女に苦痛を与えているとは知らずに――。
一方、冷は怒りを込めて弁財天へと返答する。聞きたいこと、というよりも、恋の話が大好きな弁財天が聞きたいがために来ることが分かっているからだ。そんな冷に口を尖らせて抗議する弁財天に対し、木花之佐久夜毘売がすっと手を挙げる。
冷は嫌な予感がした。
「私も気になります」
「……木花様、毎回思うのですが、狙って行っていませんか?」
「いいえ、気になることを弁財天ちゃんが聞いてくれますから、つい。それに、冷さんの返答を聞いていますと、姉様の旦那候補としてふさわしいかと思いまして、細かいことは聞いておかないといけませんから」
「木花!?」
驚いたのは、石長比売と天照大御神である。木花之佐久夜毘売に文句を言う石長比売は、恥ずかしいのか顔が真っ赤だ。そんな文句を聞いても、ころころと木花之佐久夜毘売は笑う。
天照大御神は耳を塞ぎたくなった。聞きたい、けど聞きたくない。どっちつかずの想いにぐらぐらと揺れる。
ど、どうしよう……。
来るんじゃなかった、と後悔しかけた天照大御神の耳へ、静かな冷の言葉が届く。その声は簡単に天照大御神の中へとすっと入ってくる。
「――これは私一個人の意見ですが、天照様の笑顔が素敵だと思います。ですが、決して御二方や弁財天様が素敵ではないと言っているわけではありませんので、誤解しないでいただけますと幸いです」
冷は頭を下げつつ、しっかりと告げた。その言葉を理解した天照大御神は目を見開く。木花之佐久夜毘売はふふっと微笑み、石長比売はそっと袖で口元を隠した。弁財天はにこにこと笑っている。
「不快に思われましたら、申し訳ございません。謝罪させていただきます」
「いいえ、私の意見を尊重していただき、ありがとうございました。姉様、天照大御神様、私のほうこそ失礼致しました。嫌な思いをさせてしまって、すみません」
冷の言葉に笑いながら返すのは、木花之佐久夜毘売。その後、天照大御神と石長比売を見て謝罪を述べる。弁財天にも頭を下げた。弁財天は「私は大丈夫ー」と笑う。
天照大御神は慌てて手を振りながら答えた。
「い、いいえっ! 私も、聞けて良かったと、思います……」
「……私も、です」
天照大御神に続いて、石長比売も小さな声でそう告げる。しかし、石長比売の顔はなんとなく元気がないように見える。小さく返した石長比売を見て、冷は一言告げる。
「――石長比売様。私から一つ、よろしいでしょうか」
「え? ……は、はい」
「あくまで、先程のは私一個人の意見です。そして、今から申し上げることも一つの意見としてお聞きしていただければ幸いです」
「……?」
石長比売は首を傾げた。何も思い当たらないのである。それは、冷以外の全員がそうで、皆首を傾げている。
冷はそんな中でも冷静に告げた。
「……この世界、いえ、人間の世界では、女性でも男性でも様々な意見があります。私のように性格を重視する方であったり、見た目を重視する方であったり……お相手に対する想いは十人十色です。それこそ、百人が全員同じことを言わないでしょう。我々の世界でもそれは同様だと、私は思います。――ですから、石長比売様」
「は、はいっ!」
思わず石長比売の声は裏返った。急に名前を呼ばれて驚いたのだ。
「私は、以前お会いした時、そして今回の短い時間ですが、あなたはとても優しい方なのだと感じ取りました。それは、あなたの魅力なはずです。あなた自身が嫌いな部分や短所はあると思いますが、長所は確実に相手に見ていただくことができます。そこは自信を持っていただいてよろしいかと思います」
冷は淡々と告げた。それを聞いて、今度は石長比売が目を見開く。弁財天は満足気に笑い、木花之佐久夜毘売は目を輝かせる。天照大御神は石長比売を羨ましく感じた。
冷さんは、よく人を見てらっしゃるのね……。
嫉妬深くなる、黒く染まる心をぎゅっと掴む。それはまた無意識に行われていた。天照大御神は唇を噛んだ。しかし、それは見られたくなくて、そっと袖で口元を隠す。黒く染まり続ける心も隠してしまいたかった。
誰も何も言わない中、冷は続けた。
「――偉そうなことを申し上げました。どうかお許しください」
「……! い、いえ! あ、の……えっと、ありがとう、ございます……」
最後のほうは小さく儚く、それでも全員の耳に石長比売の言葉が届く。もじもじと恥じらいながら、嬉しそうな色を滲ませていた。
木花之佐久夜毘売は目をきらきらと輝かせ、冷に詰め寄る。
「冷さん、やはり姉様の夫となりませんか! あなたであれば、私も安心しますわ!」
「いえ、私は神守の身ですので。それと、私にはもったいないお方だと思います。……天照様」
「えっ、は、はいっ!」
ぐいぐいと来る木花之佐久夜毘売を落ち着かせ、冷は天照大御神へと向き直る。
黒く染まる心に、急に届いた冷の声。驚きのあまり、天照大御神の声は裏返ってしまった。
は、恥ずかしいー……。
赤くなりつつある顔を袖で隠す。冷はそれには触れずに淡々と告げた。
「少し、よろしいでしょうか」
「……え?」
「こちらへ」
冷は立ち上がって、行く先を誘導する。それは襖の先、部屋の外を示していた。天照大御神は意図を理解出来ていなかったが、慌てて立ち上がり部屋を出る。冷は頭を下げた後、襖を閉めた。天照大御神へ声をかけ、歩き出す。その後を、彼女は疑問を浮かべつつ、追いかける。
そうして、それを静かに見送った三人の神様。
「やーだ、冷くん、やるー!」
「あらあら。意外と冷さん、女性殺しと呼ばれる者でしょうか。本人は自覚していらっしゃらないようですが。それにしても、姉様にあんなに堂々と発言する方は初めて見ましたわ」
「わ、私も、驚いたわ……」
「ふふっ、私の冷くん凄いでしょー!」
自慢げに話す弁財天へ、姉妹は頷く。その後、部屋から出た二人には触れずに、三人の時間を楽しむのだった。
Ⅲ
冷が先頭を歩き、社内の廊下を進む。天照大御神はそんな彼の背を見つめるが、話題は出てこない。二人に会話はない。
天照大御神は冷静を保っているが、内心ではとても焦っていた。上手く足を動かすので精一杯である。
ど、どうしよう……。冷さんを怒らせてしまったのかしら。それとも、私が嫌な顔をしていた、とか……。
ぐるぐると回る想いを必死に落ち着けようとする。しかし、嫌な考えは次から次へと出てきて、全く落ち着かずにいた。心臓が激しく音を立てている。どうにかなってしまいそうだった。
冷さん……。
後ろ姿だが、しっかりと伸びている背筋が、自分よりも大きく見える手が、普段よりもゆっくりと進む足が、全てがかっこよく見えた。
私は――。
「天照様」
「はいっ!」
急に名前を呼ばれた天照大御神は、またもや焦って返事をしてしまう。今回は声が裏返らなかっただけましであった。
冷はいつの間にか振り返っており、庭先へと着いていた。どうやら、社の裏側まで来たらしい。綺麗な庭は天照大御神の心を少しだけ落ち着かせてくれた。
そのまま縁側へ促され、天照大御神はゆっくりと腰をかける。冷は少し後ろで正座して控えていた。
しかし、何も言ってこないことに、天照大御神はやはり疑問が出てくる。なぜここに連れてきてくれたのか、全く検討がつかなかった。
少し声を震わせながら、聞いてみる。
「あ、の……」
「――ご気分、優れませんか?」
「……え?」
戸惑いつつも声をかけた天照大御神へと返ってきた言葉は、彼女を気遣うものだった。思わず問い返してしまう。
冷はじっと天照大御神へ視線を向けたまま続けた。
「いえ、先程から顔色が優れないようでしたので。あの場所ではおっしゃりにくいかと思いまして、こちらへご案内させていただきました」
「ど、どうして……」
「時雨殿から事前に伺っておりました。天照様は、抱え込んでしまうお方だと。我が主、弁財天の手前では言いにくいかと思い、私がお話を伺おうと思った次第です。それに、先程から胸元を押さえておいでで、口数も少なかった気がしましたので」
「間違っておりましたら、申し訳ございません」と冷は最後に続けて言った。天照大御神の顔はほのかに紅く染まっていく。
見ていて、くださったの……?
些細なことだったはずだ。それでも、あの短い時間で気にして、声をかけて部屋から出してくれた。天照大御神の様子がおかしいと周囲が気が付かなくても、冷は気がついてくれた。
冷をじっと見つめる。天照大御神は視線を外して、ゆっくりと口元を袖で隠す。緩む口元を隠すためだった。
嬉しい……。
心が暖かくなる。先程まで暗く黒く染まっていた心は、澄み切った青空のように晴れていく。たったそれだけのこと、されどそれぐらいのこと。彼女にとってはとても大事な、嬉しい出来事だった。
「……ありがとうございます、冷さん。気分が優れないわけではありませんので、大丈夫ですよ」
「……そうですか、失礼致しました。それと、もう一つよろしいでしょうか」
「……? はい」
冷は次は少し言いにくそうに口ごもった。初めて見る彼の一面だった。
「……先程は失礼致しました。我が主、弁財天の無茶振りとはいえ、失礼なことを申し上げました。……私も話しすぎた点が多かったと思いまして、もしや天照様が不快に感じたのではないかと――」
冷は静かに頭を下げる。一瞬、理解出来ていなかった天照大御神は何事かと首を傾げる。しかし、好みの女性の話だと察し、慌てて返答した。
「れ、冷さん、気にしていませんから! 話の流れですし、そういう会だったのですし、怒ってませんし……! そ、それに――」
「……?」
今度は冷が首を傾げる番だった。天照大御神の言葉を待つ。彼女は、悩んだ末に、ゆっくりと告げた。
「……そ、の……、私は、聞けて嬉しかった、です」
「……! もったいないお言葉です」
柔らかな風が二人を包む。それ以降、お互いに話すことも無く、静かな時間が過ぎていく。心地よい時間であった。
IV
その後、しばらくしてから天照大御神を部屋へと送り届ける。弁財天の冷やかしが待っていて、それには怒りをあらわにする冷と、紅く頬を染める天照大御神という正反対の態度が繰り広げられた。
それから冷は弁財天の社を後にし、二人の男性神様の仕事を見張りに行く。眷属たちが泣きついてきたのは、また別の話。
弁財天の社と、男性神様二人の社を何度も行っては去ってを繰り返す冷。やはり、眷属たちには頼ってしまって、泣きつかれてを繰り返す。
しかし、昨日のこともあって、多少なりとも慣れた眷属たちが午後になると「お任せ下さい」と言うようになってきた。それには少し安心した冷だった。
なんとか本日も男性神様二人の仕事は無事に終わった。何度も龍神が言うことを聞かなくて制裁したり、宇賀神の発作に近い眷属たちのもふもふ効果を行ったりすることはあったが、暴走にはならずに済んだ。
逆に、俊成が何度か結界を壊そうとしていたことのが大問題で、気がついた冷が圧勝とはいえないもののはっ倒して結界を貼り直すという状況が、一日で何十回と起こった。少し目を離すとこれである。俊成が散歩と称して、外にしばらく放浪の旅に出ていた時が一番良かったのだと再認識した。
「あと、一日……!」
女子会もなんとか終盤に差し掛かっている。冷はため息をついた。
本当にここまで大変だとは思っていなかった。しかし、それももう少しである。気合いを入れ直す。
空を見上げれば、雲一つなく、三日月が優しく微笑んでいるだけであった。
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どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
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スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
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小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
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