神守さんは苦労性で

序章 朝を迎える

    愛知県蒲郡市、竹島。

    海の上にかかった橋は日本列島と繋がっており、唯一島に渡ることができる物だった。その橋は珍しくも島の入口となる鳥居の中へとかかっていた。通常より低く見える鳥居を眺めながら島へと歩いて上陸できる仕組みとなっている。
    その鳥居の上には、青年が一人立っていた。小袖と袴に身を包み、凛と立つその腰には黒き鞘。その刀身の柄へと手を置き、囲まれた海を眺める。静かな波へと耳を澄ませた。
    橋の先、日本列島の陸地へと目を凝らし、明るくなりつつある世界を見つめる。青年はしばし見つめた後、くるりと日本列島へ背を向けた。どんと構える島へと向き直る。
「さて」
    青年は鳥居をとんと蹴り、森林へと飛び込む。
    がさりと突っ込んだ音は、唯一波が聞きつつかき消していた——。