因果応報

大和

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因果応報

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「福田さん、これもお願い」「あ、これも」「この件、知らない?」
「あ、はい」「え、」「いや、知らないです。私じゃないんで」

あぁ、いつもの光景だ。

この木見総合病院には厄介な職員がいるーー
受付業務の担う、医事課の福田里香だ。

地域医療に特化したこの病院には、多くの患者が来院する。
その多くの患者のファーストコンタクトとなるのが、医事課である。
つまり、臨機応変に行動できるスペシャリスト、のはずだ。

ここ最近、新型ウイルスの蔓延により、国を挙げてのワクチン接種が進んでいる。
医事課も普段受診のない人からの予約も受け入れ、接種を進めている。
ワクチン運営で大事になってくるのが予約管理である。
その大事な予約管理を行っているのが、福田里香なのだ。
これが一番の問題。

新しい事業になるため、当初からミスは多く見られた。
しかし、運営委員会のメンバーも何が最善か、手探りの中行われていたので、特に問題視はされていなかった。

ワクチン接種が始まって半年ーー

そう、半年だ。
平日毎日接種をおこなってきたので、日数にするとかなりの日数、そしてかなりの経験が詰めているはずなのだが、一向にミスが減らない。
昔から「ここ、こうなりません?」など周りが声をかけてきたのだが、福田里香は「いや、そんな時間ないんで」「それ、手間なんでしません」と拒否の姿勢を貫いていた。
この姿勢に気に留めたのが、統括部長だ。

統括部長が様々なところに「ここはこうしたらどうなんだろうか」「このやり方の方が手数減るけど」など助言をしていた。
しかし、福田里香は一切聞き入れなかった。
どんな問題が起こっても現行のシステムのまま。

「仕事」というものは、ミスを起こした時、次に同じミスを起こさないように試行錯誤して成長していくもので、周りの同僚達と、思いやり意識を持ち、責任感を持って行うものだと思っていたのだが、彼女はどうやら違ったみたいだ。

同僚がどんな声をかけてきたとしても、現行システムで運用し、同様のミスが起こっても「私じゃないんで」の繰り返し。
何かシステム上で気になるところがあり、質問しても「私知らないんで」の1点張り。
そんな人を同僚はどう見るのか。

いいかげん自分の仕事に責任持てよ。と
自分ではないにしても、担当であり、チームでやってるものならば、チーム内で共有し、次に繋がらないようにするべきだ。それができないのはなぜ。どうしたらいいんだ。

結果、同僚が悩むことになり、誰も期待しないようになった。

かといって、仕事が膨大なため、福田から仕事を取り上げても運用ができないため、福田に同じ仕事をさせ続けている。むしろ、その仕事だけを割り振ることになった。

すると、福田は「私がしなきゃ。全部私の指揮下」だと錯覚した。
その錯覚がうまく作動してくれればよかったのだが、現実は違う。

口癖は相変わらず、仕事も相変わらずだったのだ。

その状態に周りは失望し、思いやりの感情をなくしていった。
福田自身にそんな感情、持ち合わせていなかったからだ。

そのため、いろいろな事案が全て福田に舞い込むことになった。
全てが自分の行動が招いたことで、自業自得なのだが、ある日、彼女はとんでもない行動に出た。

運営メンバー、ましてやサポートメンバーに入っている女性に詰め寄ったのだ。

「こっちにも仕事があって、それにプラスしてこんな仕事まではできないです!なので、この書類は提出1度でもいいですよね?受付の仕事もあるので、不定期に仕事が入るので毎回毎回出すのが面倒です。そもそもこのリストはいるんですか。もともとのリストもこうできるんですけど」


…………はい?

突然のことに女性は驚天していた。
それもそのはず。彼女はサポートメンバーであり、メインで活動していなかったためだ。
しかし、あまりにも医事課の仕事が"仕事"になっておらず、患者含め周りが苦労していたため、統括部長より、医事課のリストの変成を頼まれていただけなのだ。

そう、つまり福田里香は的外れのところへ怒りを吐き出していたことになる。

医事課内で解決できる事案で、医事課内で解決しなければならない事案を突拍子もない別部署に文句を言ったのだ。それも各課のトップがいる前で。

その状況を人はどう判断するか。

詰め寄られた彼女を心配する。
福田里香は良くも悪くも知られていたのだ。問題児として。

その様子を見ていた統括部長は福田里香の言葉全てに正論で返した。

福田里香は20歳で、パートからの正社員だった。
この年齢で、この仕事。
考えずともわかるだろう。福田里香には頭が足りないということを。

いまだになぜ彼女が正社員採用になったのか。
このような仕事の仕方で、このような人間性で、たくさんの患者や同僚に迷惑をかけても自分を通し続け、自爆したこんな女を。

いつしか統括部長だけでなく、周りのトップも一斉に詰め寄った。
彼らもワクチンとは別のところで鬱憤が溜まっていたのだろう。
集中砲火に耐えきれなくなった福田里香は飛び出し、次の日から欠勤し続けた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2ヶ月後。
退職届が郵送されてきた。

福田里香は退職となり、その後の彼女は誰も知らない。

木見総合病院は問題児がいなくなったことで、病院としての機能を取り戻し、患者からの評価も上がり、日本全国に知られる病院へと成長したのだ。





福田里香に詰め寄られた彼女だが、裏の世界で有名な一家の娘だったのだ。
彼女自身実家から出て、表の世界で生きていたのだが、この事件をどこからともなく聞いてきた一家が手を回したのだ。

本人は全く気に求めていなかったが、裏の世界において、その一家において、家族を理由なく害するものは排除するという暗黙のルールがあった。
彼女は一家に可愛がられていただけに、福田里香にはとてつもないほどの拷問が行われ、いたぶられ続けた。
福田里香の退職届を郵送したのもこの一家の仕業だ。
今後、ずっと、苦しみを味わわせるために…逃さないように…



今日もまた、

一家の地下から

頭が足りていない、

可哀想な女の

悲鳴が

聞こえてくる。
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