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185.鷹匠

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今朝は予定もなく自然に目が覚めたが、寝ようと思えば2度寝できそうだけど…

『ん?』

ベッドがおかしい気がする。背中が暖かいのは布団ではないし頭上に吐息を感じる?まだ夢の中なの?

「寝顔は堪能したからそろそろ起きて、その愛らしい顔を見せてくれ」
「!!」

今のはフィラ?後ろを見るとフィラに後ろから抱えられている。いつの間に来たの?

「あまり大きい声を出すな侍女が入ってくる。今日は予定がないのだろ?」
「うん。それよりいつ来たの?」
「少し前だ。てんが居るから無体な事はしていないぞ」

そう言うと口付けてくる。ベッドで抱き合ってキスなんて恥ずかしすぎる!

「顔が真っ赤だ。多恵は可愛いなぁ…」
「さっ最近来なかったけど忙しいの?」
「いや。俺にしたら珍しく遠慮した」
「遠慮?」

フィラは箱庭内ならどこでもいける。だから私がモーブル行ってもいつでも会いに来れる。しかしアルディアの皆んなは簡単に他国に会いに行けないから、残りの時間をアルディアの皆んな?元候補?に譲った様だ。俺様主義のフィラが…意外だ

「俺は箱庭なら何処でも行けるからモーブルに移っても会いに行くぞ。暫くは気を許せる者もいないだろうから頼れ。お前の支えになる」
「フィラいい男だね」
「今頃気付いたのか⁈まぁ…そんな鈍いお前も愛おしい」

そうフィラは私がホームシックになるのを知っていて、安心させる為に来てくれたんだ。皆の前では平気だと大口叩いているけど正直不安だ。ダラス陛下がアルディアに近い環境を用意してくれても、人はまでは似せる事は出来ない。すっかりアルディアが家族になっている。
フィラの心遣いに思わず涙が…背を向けて誤魔化そうとしたが無理だった。
そんな私をフィラは何も言わずに抱き寄せ優しい口付けを沢山くれる。今弱っている私は思わず

「フィラに愛されているのを実感した…」
「今ごろか?」

と楽しそうに笑い深い口付けをする。抗わずフィラに身を任せると足元に丸まっていたてん君がフィラの腕を甘噛みして

『ケイティ くる フィラ かえる』

ケイティさんの気配を察知したてん君が知らせてくれる。眉を顰めたフィラは明日の朝また来ると言い

「夜は来ないの?」
「俺は抑えが効かないが、受け入れる気があるのか⁈」
「朝でお願いします」
「お前は本当に手強く最高に可愛い女だ」

そう言って軽く口付けフィラは帰って行った。
直ぐにケイティさんが様子を伺いに来て私の顔を見て驚いている。

「多恵様お風邪でしょうか顔が真っ赤ですわ!失礼いたします!」

そう言って私の額に手を置いて熱を確認する。

「お熱はありませんね…念の為医師を呼びましょう」
「いや!いいから…多分さっきまで布団を頭まで被って寝ていたからのぼせたんだよ」
「そうですか?本当に大丈夫ですか?」

まだ心配そうなケイティさんに微笑んで大丈夫と告げる。本当はベッドであんな濃厚なキスをしたから心臓がバクバクして落ち着かない。
今までキスは何回もしているが、その…ベッドでは初めてでその…その先を意識してしまって…

『たえ フィラ すき いいこと』

何故か子を見守る親の様に、私の手に前脚を重ねるてん君だった。
やっと起きて遅めの朝食を食べてご挨拶の順番を考えていた。紙に順番を書いていたらケイティさんに親密な人は最後にした方がいいとアドバイスを受ける。

「騎士や侍女は付き合いが長い分お話されることが多いと存じます。明日お時間を持たれた方がいいかと…」
「そっか…じゃーそうする。今日は厨房とメイド、下働きして下さる方々の所と、庭師さんと行けたら針子さんの所も行きたいなぁ…」
「畏まりました。グラント様に調整いただきましょう」

ケイティさんは書類を持ってグラント様の元へ行き、私はのんびりお茶を頂きながらシリウスさんの手紙を思い出していた。手紙には身一つでお越しくださいと書いてあった。全て揃っているって下着から化粧品等全て?

『勿体ない。特に衣類なんかは持っていけばいいのに』

ゴードンさんが全て誂えて用意済みだそうだ。その用意にかかる費用は国の為に使って欲しい。レッグロッドに移る際はその辺を早めに対処しなければ…

少しするとケイティさんが帰ってきた。スケジュールはグラント様が纏めて昼から持って来てくれるそうだ。陛下との昼食まで少し時間がある。どうしようか考え思いついた。
まだ行きたい所が残っていたのだ。ケイティさんに相談したらすぐに騎士さんに連絡してくれる。返事はすぐ有り早速向かう。

やって来たのは騎士棟だ。そう前々から行きたかったのは第3騎士団の鷹匠訓練を見てみたかったのだ。
ベイグリー公国の元皇太子に狙われた時に鷹匠が潜入者を見つけてくれた経緯があり、鷹に会ってみたかったの。モーブルにもいるかもしれないがお礼も兼ねて見学に来た。
訓練時間では無いが鷹に合わせてくれるそうだ。
演習場にでたら鷹を連れた鷹匠がいた。今日の護衛騎士さんと近づくと鷹の鋭い視線に思わずたじろぐ。元の世界でも動物園や図鑑でしか見た事無いが、元の世界の鷹と少し違うようだ。鷹匠のチェイスさんにご挨拶すると実演してくれる。
鷹はトゥースと言い数羽いる鷹の中でも一番賢いそうだ。チェイスさんがトゥースを飛ばすと急上昇し演習場を旋回している。チェイスさんの数メートル横に立ち笛を吹きトゥースを呼ぶ。チェイスさんは肘まである皮手袋を嵌めていて腕を上げてトゥースを受ける準備をした。
そうしたらトゥースは戻って来る。そう戻って来る…

『ん?軌道がおかしくない?』

護衛のリックさんがマントを外し舌打ちをして私の前に出た。リックさんが壁になり前が見えない。

「トゥース!」

チェイスさんが叫び駆け寄る。
状況が分からず少し横にずれたらリックさんトゥースを受け止めている。
咄嗟にマントを腕に巻き付けトゥースの前に腕を突き出した。条件反射でリックさんの腕にトゥースは着地した。
演習場は騒然としだす。今まで従順に従っていた鷹が命令を無視し私を襲った!…様に見える。
しかしチェイスさんが説明はこうだ。

トゥースは私が来てから喉をずっと鳴らしていたそうだ。以前スカーフ祭りで私が行方不明になった時に捜索に出たのがチェイスさんとトゥースだった。その時に私の愛用品の匂いを覚えさせた。その後捜索では見つからず、トゥースの中では依然私は捜索対象であり、今やっと私を見つけという訳だ。

「信じて下さい!トゥースは多恵様を襲った訳ではありません。その証拠にトゥースはもう喉を鳴らしていない。喉を鳴らすときは何かを探している時なのです」

トゥースはチェイスさんの腕に戻る。咄嗟にリックさんが庇ってくれたが鷹の爪は鋭い。腕や肩にとまられてら大怪我をしていた。リックさんはマントを巻き付けたがやはり少し傷を負ってしまったようで治療を受けに行き、代わりに急遽騎士棟にいたマーカスさんが来てくれた。

「ごめんなさい。急に伺ってトゥースやチェイスさんが悪い訳じゃないから穏便に済ませて下さい」
「多恵様!」 

騎士棟からレオさんが走って来る。顔色が悪い。どうやら騎士棟から一部始終を見ていたようだ。駆け寄るなり抱き付かれた

「お怪我はありませんか?申し訳ございません。チェイスとトゥースは謹慎の後再訓練します故…」
「レオさん必要有りませんから。私が急に押しかけたんです。それにトゥースはスカーフ祭から私を捜す役目を忘れてないなんてやはり賢いです。叱責するより褒めてあげて。トゥースもやっと見つけて安心したでしょう。それに庇ってくれたリックさんも褒めては欲しい」

難しい顔をするレオさんが何か言おうとした時

「多恵殿の意見尊重しよう。レオ引け」

振り返るとトーイ殿下がいた。

「まずは多恵殿を危険な目に合わせてしまい、謝罪いたします。そして寛大な心でお許し頂いた事を感謝する。
今報告を受けリックの様子を見て来ました。擦過傷と鬱血があるが数日もすれば治るそうです。鍛えている騎士がマントでガードしても無傷とはいかないくらい鷹の爪は鋭い。これが多恵殿の腕なら引き裂かれていただろう。それにリックは騎士としての職務を遂行したのです。当たり前で褒める事では有りませんよ多恵殿。
今回チェイスとトゥースには多恵様の温情で罪には問わないが、今後この様な事が起きない様に対策を講じる必要があります。チェイス!暫く訓練は中止とする」

こうして軽い気持ちで訪れた鷹匠見学は大事になったがトーイ殿下が治めてくれて無事?に終えた。
陛下との昼食時間になり何故かレオさんにエスコートされ陛下の昼食へと急ぐ。
今朝文官さんから連絡からあり、明日の夕食は王族の皆さんと一緒となった。だから恐らく昼食ではアーサー殿下の話をしたいだろう。殿下とは円満に終わってるけど…考え直してくれとか言わないよね…
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