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159.チャラ男

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『たえ ケイティ よんでる』
『う…ん』

“バシ!”頬に軽い痛みで目が覚めた。ケイティさんが入室許可を求めている。慌てて起きて返事をする。

「そろそろ用意なさって下さい」
「はい?ケイティさん何か老けてません?」
「顔に出ておりますか?申し訳ありません」

『またカオスな…』

寝室で籠城中に私との面会予定の貴族が手紙を持って来たらしく、休む間なく応対していたらしい。
テーブルを見たら6通の手紙が…

「イザーク様の遣いが来てお茶会の詳細が決まり、バスグルの面会後に執務室にお寄りいただきたいとの事です」
「あ…決まったんだ」

乙女なんて持ち上げられてるけど結構社蓄だ。貴族のお茶会にオブルライト領視察、アーサー殿下とお出かけ、モーブルとバスグルのお見送り…
モーブルに渡るまでに予定盛り沢山。これ報酬以上の働きじゃない⁈

「昼食もまともに召し上がってらっしゃらない。少しでも召し上がって下さい」

テーブルに一口サイズのサンドイッチとお茶が用意されている。正直食欲ない…でもケイティさんの心配ぶりに少しだけ食べる。

軽食を少しつまみビルス殿下とビビアン王女も元へ向かった。ビビアン王女とまともに話すのは初めてだから人見知りが既に始まっている私。緊張し入室したらグリード殿下も同席させていた。

「お帰りなさい。多恵殿。良い旅でしたか?」
「ありがとうございます。皆さんの配慮のお陰でいい経験をさせて頂きました」

侍女がお茶を運び退室すると徐にビビアン王女が立ち上げり片手を胸に当て深々と頭を下げて謝罪された。

「アルディアに来てから断片的には記憶があるのですが、アルディア城に来てからは全く覚えていなくて、グリード殿下と兄上に私の振舞を聞き、何て事をしたのだと恥じました。アルディアの優秀な薬師のお陰で エルバスに盛られた薬も抜け正常な判断が出来る様になってきました。しかしまだ意識が混乱することがあり暫く療養が必要です」

「良かったです。はじめてお会いした時は正直苦手なタイプでどうしようかと思いましたよ」
「申し訳ありません」
「謝罪はお受けしたのです。これからの話をしていきましょう」

まずは今後の予定を話し合った。ダラス陛下に聞いた通り明日ファーブス領の港に移動し明後日にバスグルに帰る。ビルス殿下に帰った後にして欲しい事を伝える。

「ビルス殿下。バスグルでは国民を把握されていますか?」
「把握と言いますと?」
「どの地域にどれだけの住民が住んでいるかです」
「その様なモノが必要なのですか?」

まずは住民管理をしないと。順を追って殿下と王女に説明をする。まずは貴族に自分の領地のどこに何世帯と住民数を把握させる。勿論、男女、年齢も。そのうえで、現在国外(アリアの箱庭の他に国も含む)に出稼ぎに行っている人数の把握をお願いした。就労ビザの発券管理にも必要だし住民管理は国として必ず必要だ。お三方に住民管理が何故大切なのか話した。驚くグリード殿下とビルス殿下。

「そのような考えは全く無かった。しかし言われれば必要だ。早速バルグルに戻ったら着手しよう」
「9日後にモーブルに渡るつもりです。就労ビザや労働協定はモーブルに拠点を移したら本格的に進めます」
「流石、リリスの召喚された乙女だ。博学なうえ思慮深い」
「兄上、グリード殿下!この辺で休息いたしましょう。多恵様も好きなフィナンシェとチョコラーテを用意しましたのよ!」

テーブルに移動すると色とりどりの茶菓子が並んでいた。ビビアン王女は堰を切った様に話し出す。どうやら女性の話し相手があまりいないらしく、私の訪問を心待ちにしていたようだ。
改めて見るとビビアン王女はこの箱庭に来てお会いした女性の中で一番きれいだ。あ!もちろん女神を除いてだけど。リリス貴方が一番です!

その上幼く感じるところもあり男性陣を虜にするタイプだ。以前にお聞きしたビビアン王女の情報は”交渉術に長け相手から言質を取るのが上手い”と聞いたが、交渉術に関しては私はよく分からないが、彼女は自分の話を持っていくのが上手い。自分と関係ない話題でも自然に自分の会話に誘導するタイプ。この手のタイプは知っているし過去の知り合いもこんな感じの人いた。私はその人の事を心の中で“会話泥棒”っと読んでいた。この手のタイプは相手に気付かせる事無く自分のペースに巻き込む。こっちは話したいことにあるのに悉く会話を持って行ってしまうのだ。

『なるほど…この美貌にこの会話術。他国の貴族や王族は不利な話も了承しちゃうんだ』

うーん。親友には難しいなぁ…悪い人では無いんだけどね…
お茶休憩をしていて、どうしてビルス殿下に話しておきたい事があり人払いをお願いした。勿論ビビアン王女とグリード殿下も。

「あの二人も退室させて私と逢瀬を楽しみたいのですか?」
「それはない」
「そんなに力強く否定しなくても…悲しいですね」
「冗談はその辺にして…」

この後、聖人正清さんの意図を伝えた。

「正清さんは私と同じ日本国出身の方です。時代は同じではないでしょうが、日本国は過去に大きな戦争をし自国他国ともに傷つけそれ以降、法律で武力を持たないと定め平和を誓った国です。前にも話しましたが貧富の差は有りますが身分は無く皆平等です。そんな国で育ったので王族優先の政治は理解できなかった思います。身分ある世界でもこの世に生まれてきた限り幸せになる権利はあります。もっと国民が幸福に感じる国であるべきです。国民が居なければ国は成り立ちません。そのためには国民が生活できるようにしなければ…
恐らく正清さんもそれを望んでいたはずです。供養をするなとは言いませんが、まずは国民を幸せにしてあげて下さい。そうしたら自ずと正清さんも供養できるでしょう」

静かに聞いていたビルス殿下は

「よく分かりました。今回のモーブルとの労使協定や就労ビザで、経済的には豊かになるでしょう。それ以降は我々王族が民の為の王政を考える番ですね」
「はい。殿下や王女ならできますよ」
「ビビアンとグリード殿下なら大丈夫です」
「ビルス殿下は?」

腕組みして少し考えて今までにない真面目な表情で

「私はビビアンが女王になったら廃嫡し、平民になるつもりです」
「なぜ⁉︎」

殿下曰く殿下は側室の子で側室のお母様はバスグル人ではないそうだ。バスグルの貴族は建前では王子として接するが認められていない。

「私には愛する人がいて王族で公務を担うと彼女の側に居れない。今まで認められないのに王子として公務をやって来た。バスグルが落ち着いたら自由になりたい…」

ビルス殿下はチャラ男に見せかけて実は苦労人だったんだ。少し好感度が上がる。

「少しは私の印象は良くなりましたか?初対面で私がワザと不誠実に振舞ったので、すっかり嫌われ警戒されましたからね」
「だって絵に描いたようなチャラ男だったら…」
「チャラ男とは?」
「女好きで女性にだらし無い人の事です」
「ゔーん…だらし無くはないが、女性は大好きですよ」
「やっぱり私は殿下はないです」
「悲しいなぁ~」

顔を合わせて笑った。再度、国民の把握をお願いして退室する。帰る前にビビアン王女とグリード殿下に挨拶しに別室で控えているお2人の元に行くと、超ラブラブで目のやり場に困った。直ぐに退室の挨拶をし邪魔者は退散です。
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