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157.自己嫌悪
しおりを挟む『もう今日は閉店…』
私の表情を理解したケイティさんは部屋の外の騎士さんに今日の面会を断る様に伝えてくれた。
早く休む為に夕食を食べて湯浴みし寝室に籠る。寝室に行くとベッドサイドに綺麗な花があった。見た事ない花で爽やかな香りに気持ちが落ち着く。
『たえ はな フィラ』
『そっか… リラックスする香りでこれ好き』
『いいこと フィラ よろこぶ』
居間に行きケイティさんに花瓶を出してもらう。花を見たケイティさんは妖精の森に咲く花だと教えてくれた。
「その花は確か香りが無くならずリラックス効果のある花です。妖精王は多恵様をよく分かってらっしゃる」
「だってフィラは見守りという名目のストーカーだから」
「それに関しては私は何も申せません」
ケイティさんは横を向いてしまった。だって最近本当にストーカーちっくだもん!
寝室に戻りフィラが贈ってくれた花の香りに包まれ心地いい眠りについた。
朝、目が覚めると隣の居間が騒がしい。何かあったのだろか⁈てん君はベッドを降りて居間に続く扉前に行き、居間の様子を伺いまたベッドに戻ってきた。
『アーサー いる』
『そっか。殿下早いね』
『たえ もう ひる』
時計を見たら4刻だ!「うそ!!」
思わず叫ぶ!
“バン!”凄い勢いで扉が開きアーサー殿下が入ってきた。私はまだベッドに腰掛けていてもちろん夜着のまま…
「どうされましたか⁉︎」
「殿下こそ何かあったのですか⁈」
殿下に遅れて騎乗さんとケイティさんが入ってくる。ケイティさんの手にはショールがあり、すぐに上半身をぐるぐる巻きにされた。ケイティさんはぷりぷり怒って男性陣を寝室から追い出した。
「ごめんなさい。寝過ごしたみたい」
「多恵様はお疲れなのですよ。旅から帰り休みなく皆さんの面会に応じられていたのですから…」
「ごめん!すぐ起きるわ。午後からの予定を教えて」
午前に予定していたダラス陛下との面会は昨日前倒しになってたから助かった。昨日ダラス陛下にお願いしたビルス殿下とビビアン王女の面会が午後からであればいつでもいいと連絡が来ているようだ。
とりあえず食事をして5刻位に行く事にしケイティさんに連絡をお願いした。すると気不味そうにケイティさんが…
「お約束していませんが、アーサー殿下はいかが致しますか?」
ゔーん…お土産を渡しに行ったら留守でまた来ますって伝言してあったなぁ…だったら断るは無し?
「ケイティさん。急でごめんなさい。殿下がよければ昼食を共にと窺ってもらえますか?また用意もよろしくお願いします」
「畏まりました。お着替えを持って参りますので身支度下さい」
「はぁ~い」
洗面室に行き顔を洗い髪をとかして、ケイティさんを待つ。てん君が膝の上に座り私を見上げて
『アーサー つがい ない』
『ゔーん。薄々私も感じてる』
『アーサー サリナ がいい』
『へ!旅の時にサリナさんとの話聞いてた?』
『うん でも もっとまえ しってる』
色々考えていたらケイティさんが着替えを持ってきてくれた。ビルス殿下とビビアン王女に会うから、いつもより装飾がある綺麗めのワンピースだ。ケイティさんに薄化粧をしてもらい居間へ…
扉から居間を覗くとアーサー殿下が優雅にお茶飲んでいる。イケメンは何しても絵になるなぁ…ガン見してたらアーサー殿下の温かいオレンジ色の瞳と目が合う。
少し躊躇しながらも立ち上がり私の目の前にきて
「ハグしていいですか?」
「えっと…はい」
優しくハグした殿下は小さい声で…
『おかえりなさい。無事で安心しました』
なんだか嬉しくて同じく小さい声で
『ただいまです』
殿下が続けて何か言うかと思い見上げたら、破顔していて驚いた。
「失礼いたします。昼食の準備が調いましたのでお席にどうぞ」
「あっありかとう。殿下いただきましょう!」
殿下は私の手を取りテーブルへ。
殿下は旅の報告に目を通したらしく、怖い思いをさせたと謝罪された。
「殆どは自分の不注意なので謝らないで下さい」
「しかし城内の者が情報を漏洩したせいで貴族に追われ、暴動にも巻き込まれた上に貴族達と面会する事になったのだ。モーブルにも移る準備もあるというのに…」
「私がモーブルに行った後に陛下と貴族が対立とか嫌だし、貴族の方が面会を望まれる気持ちも分かります。バース領で感じましたがそれぞれの領地で大小あるでしょうが問題は有ります。領主が民の為に必死なんですよ。各国の問題が解決したらゆっくり各領地を周ってもいいかもしれません。観光にもなりますしね楽しそう…」
そう話すとアーサー殿下は溜息をついて
「はぁ…多恵殿は人が良すぎる。騙されないか心配だ」
「アルディアにそんな悪い人いないでしょう⁈」
「確かにいない!」
アーサー殿下と笑い合った。婚約者候補を解消して気まずいと思ったけど案外あっさりしている。もう候補はあきらめたのかなぁ… それにしても殿下痩せた様に感じる。でもそれはグラント様の様に窶れたのではなく鍛えて引き締まった感じだ。
「殿下?お痩せになりました?」
「デュークにかなり絞られたからな。貴女が帰るまでに情けない自分とさよならしたのだ」
確かにデュークさんが旅の前に鍛え直すと豪語していた。殿下は自然な笑みを浮かべて
「ちなみに私はまだ貴女を諦めていませんよ」
「・・・」
「返事して欲しい訳ではない。実は多恵殿が旅行中に陛下から候補を降りる事を勧められた」
「えっ!初耳です!」
私の知らない間に話が進んでいる。陛下はお会いした時そんな話はしなかった。殿下曰く年齢的に周囲から妃を迎える様に急かされている事。そして私が召喚され妃の話は鎮火しているが、依然乙女がダメなら妃候補者をと家臣から常に話が出ている。
私が今からモーブル(バスグルも)とレッグロッドに行き帰ってくるとなると、最長数年はアルディアに帰ってこない。そうなるとアーサー殿下は30歳近くなる。お世継ぎや王位継承もあるから私を待ってられないと判断した陛下が、モーブルに行くまでに決断する様に殿下に話したらしい。
恐らく私に話すと責任を感じてしまうから内緒にしてくれた様だ。陛下はすっかり父親だ。
候補の皆さんの好意が重くて解消したけど、色んな人に影響を及ぼしていたんだ。
どうしよう…どうしていいか分からなくなって来た。ただ凄まじい罪悪感に襲われている。
「多恵殿?」
食事が完全に止まった私を気遣う殿下。その優しさが余計に心苦しくさせる。いっそボリスが言った様に誰からも心を貰わず、リリスの箱庭を救ったらすぐに元の世界に帰った方がいいのかもしれない…。皆んなの気持ちに応えれず振りまわすだけだ。どんどん苦しくなって俯いてしまった。
『ヤバい泣きそう…』
「多恵殿。顔を上げて…」
顔を上げると殿下は私の横にいて、私の手を取り立ち上がらせてそのまま抱き上げソファーに移動した。殿下は優しく私を抱きしめ
「優しいあなたの事だから自分のせいだと思っているのでしょう。そして責任を感じ“誰からも心を受けない”とか思っていませんか?」
「殿下は心が読めるんですか!」
殿下は少し困った顔をして微笑み
「私は貴女には幸せになって欲しい。例え私以外の男を選んだとしても。貴女に選んでもらえなくても貴女に出会えてよかったと思っているし、貴女と過ごした日々は幸せに満ちている。別の女性を妃に迎えても貴女に対する気持ちは変わらない」
殿下の優しさに本当に涙が出て来た。殿下は涙を拭い優しい口付けを頬にくれた。
「時間が無いでしょうが、半日でいい私に時間を下さい。二人だけで出かけよう。勿論護衛は付くだろうが…出来るだけ離れて付ける。そこで私をしっかりみて決断して欲しい。そして貴女が出した決断を受け入れるよ。出来れば伴侶として受け入れて欲しい…」
殿下は次期王だけあって今後のアルディアの為にご自分の気持を抑えて結論を出そうとしている。『王族は時に自分の望みを捨てなければならない』と以前殿下が言っていたのを思い出した。
「この後、ビルス殿下とビビアン王女と面会するのだろう⁈そんな目をしていたら心配させる、私はここで退室するからしっかり休んで…」
そう言い殿下はまた頬に口付けケイティさんに何かを指示して退室して行った。
殿下が退室するとケイティさんが慌てて冷えたタオルと持ってきてくれた。この後、ケイティさんに抱き付き一頻泣いた。
冷やしタオルのお陰で目元は腫れずに済んだが、泣いたせいでぐったりしている。食事も半分以上残したのでケイティさんが心配し、甘い菓子とお茶を入れてくれた。
「少しでも召し上がって下さい。倒れますよ」
「う…ん。少しでいい?」
大好きなフィナンシェも美味しく感じない。只今絶賛自己嫌悪中。5刻からのバスクルとの面会は大丈夫だろうか…
面会までに半刻ほどあり寝室に籠り気持ちを切り替えようとベッドに寝転がりぼんやりする。
「はぁ…」
『たえ つらい?』
『正直、今回は結構辛いかなぁ…』
『フィラ よぶ?』
『いいよ…心配かけるし、これは自分で決めないといけない問題だから』
『つらい てん ボリス いる』
『ありがとうね』
また扉の外が騒がしくなって来た。もう時間まで絶対出ない。今は誰かのお相手できる精神状態でないから許してほしい…
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