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134.あーん

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『あ…めっちゃ痩せちゃってる!』 

目の前のグラント様は明らかに憔悴し痩せこけている。解消後初めて会うから緊張しちゃう。グラント様は胸に手を当て項垂れ

「急に訪問申し訳ございません。お時間はお取りませんので私の話を聞いて頂きたい」

準備がありあまり時間がない事を告げソファーに座ると、お茶が運ばれてマリカさんとケイティさんが退室していった

「グラント様。体調が悪いんですか? お痩せになっているし…また徹夜とかしていませんか?」
「…心配して下さるのですか⁈」

あまりの弱り具合に罪悪感がます。心配で食事を摂っているか聞くと、今朝から何も食べていないと答えるグラント様。

「ケイティさーん!」

ケイティさんを呼んで直ぐ用意できる軽食を頼んだ。食事を運び終わるとケイティさんはまた席を外す。

「食べれるだけでいいですよ。このキッシュはお昼に食べたけど美味しかったし、生ハムのサラダもイケてました」

少しでも食べて欲しくて勧めるが、グラント様は無言で見つめてくる。グラント様はなかなか食事に手をつけず、心配で思わずお節介をしてしまう。
グラント様の隣に移動しグラント様からフォークを奪い、キッシュを一口にカットしてグラント様に口元に持っていって

「はい!グラント様“あーん”して!」

呆然としながら口を開けたグラント様の口にキッシュを入れた。びっくりしながら租借し食べてくれた。次はロールパンを一口に千切りまた口元へ。これを繰り返し食事は半分くらいは食べてくれた。食べてくれて安心しフォークを置いた。そしてグラント様と視線を合わせ

「今日は仕事を切り上げて早く寝てくださいね。グラント様が倒れると皆困りますからね!」

頷いてくれるけど声は発しない。気まずくて席を立ち移動しようとしたら手を取られた。

「…ですか?」

声が小さく聞き取れず聞き返すと

「子爵領にいってもう帰って来ないのですか?」
「はぁ?そんな訳ないでしょう。サリナさんの休暇中に平民の暮らしを体験してくるだけですよ。サリナさんが帰る時に一緒に帰ってきますから」

掴まれた手を引っ張られてグラント様の腕の中に収まってしまった。すごい久しぶりな気がする。マリン系のグラント様の香りと温かい体温…やっぱりグラント様の腕の中は好きだ。

「あの…」
「すみません。少しこのままで…」

グラント様はそう言い強く抱きしめた。距離を置く事を納得して欲しくて、諭すように落ち着いた声色で

「リリスに召喚されて箱庭の為に頑張ってきたつもりだし、これからもリリスの助けになりたい。でも今はチョット息抜きしたいんです。
皆さんの気持ちは嬉しいけど今は応えれない。私の事思ってくださるなら、今はそっとして置いてほしい」

そう言うとグラント様は変な噂を聞き、不安と焦りから会い来たのだという。

「ずっと想って下さると言って下さったの覚えてますか? 私あの言葉で安心してリリスお手伝い出来ると嬉しかったんだですよ。私は候補者の皆さんが嫌になった訳では無いんです。お互いしっかり考える時間がほしくて解消したんですよ。
それに皆さん真剣だからちゃんと向き合いたい」

「多恵様…」
「それに窶れたグラント様は好きくありません。優しくて凛々しいグラント様がいい。だからちゃんと食べてちゃんと寝て下さい! 今のグラント様は頼りなくて抱っこもお願いできません。今倒れたら騎士さんにお願いしちゃいますよ」

そう告げると焦ったグラント様は

「それは嫌だ。不甲斐ない姿を見せてしまいました。貴女が帰って来る時には頼られる男になっていますから」
「不甲斐無いなんて思って無い。人は神じゃ無いから弱くて当たり前です。寧ろいつも完璧なグラント様が弱い所を見せてくれて役得です」

そう言うとグラント様大きな溜息を吐いて、私の肩に顔を埋めて

「今私は貴女に口付けたいのを限界まで我慢しているんです。だから煽らないで下さい!」

何処に煽る要素が有るのかが分からない。でも来た時より顔色が良くなり元気になったみたいだ。私も気になっていたから、会えて抱擁してもらい嬉しい。やっぱりグラント様の抱擁は好きだ。

「口付けても?」

返事の代わりに私からグラント様の頬にキスした。
驚くグラント様。照れ笑いする私。
グラント様が優しく頬に口付けてくれる。

「子爵領は綿花栽培や織物が有名みたいで、機織りとかできれば嬉しいなぁ。あっ!何かお土産買ってきますね」
「貴女の無事に帰るのが土産ですよ。1つお願できるなら子爵領で虫をつけて来ないで下さいね」

そんなことあるわけ無いと笑うと、急に不機嫌になったグラント様は

「貴女はご自分の魅力を分かっていない」

と言い同行したいと言い出した。それは遠慮して欲しいから、虫除けを付けていくと言うと

「それはいいアイデアだ!明日の出発までに虫除けを届けるのでお持ち下さい」
「高価な物や宝飾品は要らないですよ!」
「えぇ…分かっています」

急に機嫌がよくなったグラント様に一抹の不安を感じながら面会を終えた。
グラント様は帰り際に凄くキスしたそうだったけど、解消中だからそれはしない。そこをあやふやにしてしまうとなし崩しになってしまう。
グラント様の熱い視線を受け流し、なっが~~いハグ後に別れた。

部屋に戻ってきたケイティさんは安堵の表情をしている。そんなにグラント様は要注意なのだろうか⁉︎
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