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124.不法就労

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「うぅぅ…」

涙が止まらない。おなじ日本人が異世界に召喚されこんな悲惨な目に合っている。私は誘拐や拉致とかあったけど、基本リリスの箱庭の住人に大切にしてもらっている。
それに正清さんは先生だけあって立派だった。自分の身を案ずるなら、マリス王女を娶り気楽な人生が送る事も出来たはずだ。
でも正清さんはマッケン王の残忍さを知り抗った。
バスグル王家には未だマッケン王の様な性質の者が生まれ、バスグルはマッケン王の呪縛から逃れられず、未だ国民の生活は逼迫しているから聖人の魂は癒せないのだろうか…
ヒントが欲しくて再度本を開き正清さんが行った改革を読み直す。

「あ…限界…」

目がチカチカし頭もクラクラしてきた。珍しく頭を使ったから糖が足りなくなった。甘いお茶が飲みたくて部屋の方へ行くと、なぜかシリウスさんが居て驚いた顔をして足早に私の元に来て抱きしめてくる。

「へ?」
「貴女に何があったのですか!こんなに目を腫らして!」

急に抱きしめられた上に殺気立っていて困惑していたら、サリナさんが冷やしたタオルを持って来てくれた。

「多恵様。これで目元を冷やせば腫れが治りますからどうぞ」
「うそ。目腫れてる?」
「はい。ウサギの様です」

目が腫れたのは正清さんの伝記で号泣したからだ。でもまさか部屋に誰か来ているなんて思ってなかったから油断していた。どう誤魔化そうかと糖分不足の頭で必死に考える。

「えっと…小説を読んでいて悲恋だったので、思わず共感して泣いてしまいました。誰かに何か言われたりされた訳では無いので気になさらないで下さい」

これで納得してくれるかなぁ⁈

「いくら小説とは言え貴女が涙する事は許せない」

誤魔化されないシリウスさん。仕方なく話を変えてみる。するとダラス陛下との面会時にグリード殿下が同席を求められ、ダラス陛下は許可をされたが念の為私にも許可を得に来たようだ。

「私の方は問題ありませんから」
「でしたら陛下の元まで一緒に参りましょう」

そう言いシリウスさんが手を差し伸べたらサリナさんが

「シリウス様。お待ちください。多恵様は朝食が遅く昼食を召し上げっておられません。多恵様。昼食は召し上がりますか?」

お昼?そんな時間なの?時計を見たら4刻半を過ぎている。でも全くお腹が空いていない。

「お腹が空いていないので要りません。このままダラス陛下の元に向かいます」

しかし相手が陛下なので着替える様に言われる。

『でもさーこのままでよくない?』

しかし許してくれないサリナさんはシリウスさんにお茶を出し待ってもらうように願った。

「大丈夫だ。いくらでも待とう」

シリウスさんは手を取り微笑み、手の甲にキスした。サリナさんは今日一いい笑顔でお礼を言って私の手を取り衣裳部屋へ歩いていきます。

そして衣装部屋で着替えていたら

「本当に大丈夫ですか⁈ 私が口出しする事では無いのは十分承知しておりますが心配です。不敬承知で申しますが、多恵さんは隠し事が下手です。伴侶候補の方々は勘が鋭いので、事前に仰っていただければお助けできます。勿論内容はお聞きしませんのでお頼り下さい」

心遣いが嬉しくてサリナさんに抱き付き

「ありがとう!暫く内緒事続くと思うわ。もし私が口籠もったら適当に話を逸らして欲しいです」
「お任せ下さい!」

やった!強力な助っ人をゲットです。

そして着替え終わりシリウスさんのエスコートでダラス殿下の元に向かっています。ずっと右上からシリウスさんの視線を感じ、気になって見上げたら微笑まれる。

「あまり見つめないでください」
「何故?」
「恥ずかしいです」
「慣れてくれ。ずっと見ていたいから」

こんなデレる人だと思わなかった。大型犬に懐かれた気分だ。

やっとダラス殿下の部屋に着いた。許可を得て入室すると、既にグリード殿下もいらっしゃった。

「多恵様。ご機嫌麗しく今日愛らしい。急に陛下との面会に同席させていただく事をお許しください」

「殿下、ビビアン王女のお加減はいかがですか?」
「お気遣いありがとうございます。大分落ち着かれてきて、ビルス殿下や私の話を冷静に聞ける様になってきています。あと数日で帰国許可も出そうです」
「よかったです。またお見舞いに伺います」

そしてダラス陛下にご挨拶すると手を取られソファーに座らされた。そして当然の様に陛下の隣に座られる。向かいにはグリード殿下とシリウスさん。シリウスさんの視線が痛い。

「先日は我が国の問題まで話せなかった故時間をいただいた。昨日の今日でお疲れのところ済まぬ」
「いえ。滞在予定もありますから気になさらないで下さい」

侍女さんがお茶を入れてくれた所で陛下が人払をした。何故か陛下が私の手を取りながら話し出す。

「今モーブルが抱えている問題はバスグル人の密入国なのだ」

やっぱりそうか… ビルス殿下も言っていた事だ。
モーブルはリリスの箱庭で一番領土が広く妖精の加護が厚く豊かだ。リリスの箱庭の穀物は殆どがモーブルで作られている。
そして領土が広く人手が必要でバスグル人は欠かせない。しかし一部のバスグル人は密入国しモーブル人と同じように恩恵をうけるが、賃金を得ると納税せずに出国してしまう。

その密入国はモーブル端の小舟しか着けない岬から上陸する。騎士を常駐させるもそのような岬が複数あり手が回らないのが現状だ。

「人でか足りぬからバスグル人の労力は必要だ。しかし国の配給や施しを受けておきながら納税しないのは、バスグル人を我が国が養っている様なもので割りが合わない。バスグルと協議し就労に関する取決めをしたいのだ。そこで多恵殿の知恵をお貸しいただきたい」

他国への出稼ぎについて国家間での取り決めはされていない様だ。だったら…

「両国で条件を決めて就労ビザを出し、決まった条件で就労を認めれば密入国なんて必要なくなります」
「就労ビザとは?」

陛下に簡単に説明をする。

「国が決めた就労期間や条件、またそれを守れる人物かを精査し働く権利を与えるものです。
例えばバスグルで犯罪歴が無く身元が証明出来る人物。モーブルで決まった期間働きモーブルで納税し、モーブルの法を守る事を約束できる事とか…ですかね。大まかに言うと」

すると目を見開いた陛下は初耳だと言い身を乗り出し

「その様な制度は初めて聞いたぞ」
「私の世界では普通にありました。そんな制度があっても、他国へ不法就労する者が絶えず問題になっています。不法就労する者達は自国で生活出来ない為に危険を侵しても国外に渡るのです。そもそも自国で生活出来ればこんな問題は出ない。モーブルだけ対策しても無くならない問題です。やはり国同士で対策せねばならないと思います」

腕組みをして考え込んでいたダラス陛下がグリード殿下に向かって

「グリード。やはり其方の廃嫡は認めん。王弟の立場でバスグルとの交渉をして欲しい。制度が整い軌道にのれば、後にビビアン王女との婚姻も認めよう」
「へ?」

今婚姻と言いました?
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