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121.聖人

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「行くぞ」
「うん。お願いします」

“ぐわぁん”

目の前が歪む。まるで眩暈を起こしたようだ。気持ち悪くて目を閉じた。


「お越しいただき、ありがとうございます」
「へ?」

目を開けると目の前にビルス殿下が胸に手を当て頭を下げている。

「おはようございます。朝早くからすみません」
「何を仰います。私の求めにお応えいただき恐悦至極でございます。朝食をご用意しております故、こちらにどうぞ!」

顔を上げた殿下の姿を見て驚く。
そう!ビルス殿下は作務衣を着ている。口を開けて驚いていると殿下が

「やはり聖人様と多恵様は同郷のようですね!この衣装は聖人様か好んでお召しになった”サムエ”です」

感動した殿下は饒舌になり話が止まらない。するとイラついたフィラが

「ビルス。嬉しいのは分かるが、多恵が腹を空かせているから早く席に案内しろ」

こうしてやっと席に着き朝食を頂きます。そして最後のデザートでビルス殿下が人払をした。

「我がバスグルの黒歴史は聞いておられますか?」
「大まかには…」
「先祖とはいえ悍ましく嫌悪します」

ビルス殿下の話によるとバスグルの王族は一族間の婚姻が続いた時期があり、血の淀みを受け狂気的な性質の者が生まれたそうだ。聖人が召喚された時の王マッケンはまさに血の淀みを受け、頭脳明晰だか惨忍で粛清が繰り返され多くの命が奪われた。聖人はそんな王に助言どころか違を唱え幽閉される事となり、失意の内に地下牢で自ら命を絶った。
アリアは直ぐに聖人の魂を救い魂を浄化して元の世界に帰し、バスグルが反省し改めるまで召喚はしないと宣言した。

バスグルはアリアの怒りをかい妖精の加護を失い衰退していき、王族を見限った一部の貴族がクーデターを起こし独立して今に至る(カナール国とユグラス共和国)

聖人が亡くなった時の妖精王は

『聖人の許しが得れないうちはバスグルに繁栄はない』

と言い残した。王族はマッケン王を聖人を死に追いやった罪により、国の果てにある古城に幽閉し王弟が王位を継ぎ聖人を供養した。
聖人の亡骸が埋葬されたのは妖精王が指定した名も無き大木。実や花をつける事は無く只黄緑の葉が生い茂る木だ。
聖人を埋葬し王族が毎日訪れ跪いて祈りを捧げていたある日。急に大木に青い花が咲いた。そうして数日後には小さな青い実がなった。

当時の王妃は視力が低下し足音が見えておらず大木にぶつかった時、熟れた青い実が王妃に顔の上に落ちて来た。そしてその青い実の汁が王妃の目に入ったのだ。王妃は激痛に悶絶し気絶してしまう。意識を取り戻した王妃は仰天する。数十センチ前しか見えなかった目がはっきり見えている。そう王妃は視力を取り戻したのだ。
後に聖人の木の実は研究され眼病に効果がある事が判明する。
ここから聖人の木は“目薬の木”と呼ばれるようになった。妖精王は

『バスグルの民の目が曇らない様に聖人が齎せてくれたもの。大切にしなさい。その実が白に変わった時やっと聖人の許しを得れるだろう』 

と予言した。それから数百年経ち数年前から聖人の木の実は白に近い青色にまでなっていた。
ビルス殿下は自分の代で償いが終わると喜んだ。

しかし王家の血を継ぐエルバスが貴族内で勢力を強めビビアン王女を操り、またマッケン王の様に力を持ち出した時、聖人の木の実と花は全て落ちてしまった。

もう成す術を失ったバスグル王は最近召喚されたリリスの乙女に縋るしかないと思い接触を試みた。これがスカーフ祭り事件だ。
このスカーフ事件の失敗を逆手にとって行動したのがエルバス。バスグル王もビルス殿下も予想だにしなかった。

「事情はわかりました。バスグルは私に何を求めているのですか?供養の仕方ですか?」

何を求めているのか聞くと、聖人の意図を知りたいが分からないらしく、同郷の私の助言がほしいそうだ。でも聖人の事を詳しく聞かないと、分かるわけない。ひんとぷり~ず!

すると殿下は聖人様の伝記を持ってきだと言い、その本を貸してくれた。この本は聖人の残した言葉や功績が事細かに書かれているそうだ。
本をパラパラ見ながら

「聖人の木の実が落ちた時、何か大きな出来事は有りませんでしたか?」

そう聞くと少し考えた殿下は

「陛下がバスグル国外への出稼ぎを禁止する法を立案したぐらいでしょうか…ここ数年平民の暮らしは厳しく、比較的近いモーブルに密入国する者が増え、モーブルにも迷惑をかけているのです」 

恐らくモーブルの問題はバスグル人の密入国によるものだ。ここで繋がった!やはりモーブルだけ手助けするだけでは終わらない。バスグル国内の問題を解決しないとモーブルの問題も解決しない。
大事になってきた。

「ビルス殿下はアルディアにいつまで滞在されるのですか?」
「ビビアンが落ち着いたら一緒に帰ろうと思っています。アルディア側が許していただけるのならあと1週間ほど滞在したい」

殿下が帰るまでに本を読み考えてみると告げた。すると駆け寄り手を握ってきた殿下は

「あぁ…やはり貴女に話してよかった。さすが女神の乙女だ。聡明で思慮深い」

するとずっと見守っていたフィラが

「当たり前だ俺の番だからな!」

何故がフィラがドヤ顔で笑えた。
今日は時間も無いでここまで。後日、本を読み終わったらまた会う約束をし、ビルス殿下の部屋を後にします。フィラにお願いし自室に戻るとてん君が尻尾を振ってよって来て

『いっぱい ひときた』
『誰が来たの?』
『サリナ グラント キース アーサー みんな たえ しんぱい』
『ごめんね。ありがとう!お疲れ様』

ベッドを整えてまた夜着に着替えるけどフィラの目線が熱い…

「着替えを手伝おう。一人では無理だろう」
「うっうん。変な事しないでよね」
「約束の褒美をもらうだけだ」

フィラに背を向けるとドレスの背中のボタンとリボンを解いて行く。フィラの熱い手が触れる度に変な気分になる。だってフィラの手つきがなまめかしいんだもん。解きながらちょいちょい首筋や背中にキスをしてくる。こそばいし恥ずかしい。ドレスの背中が全て解けたらフィラがいきなり屈んだ。そして腰の括れに唇を押し当てる。

「んっ!」小さな痛み。もしかしてこれ…

「ここは見えないからいいんだろ!多恵に俺の印があるのはいいものだ。出来るなら見えるところにつけて、皆に俺の物だと知らしめたい」
「ダメだよ。見えない所って約束だからね!」

扉を控えめに誰かがノックする。

「フィラありがとう。また何かあったらよろしくね」
「次はもっといい褒美をくれるなら手伝うぞ」
「…考えておく」

フィラに後ろを向いてもらいてん君に見張りを頼んでドレスを脱いで夜着に着替えた。フィラはドレスを持って満足気に帰って行った。
直ぐにベッドの潜り今起きた雰囲気を出します。
てん君が扉を足で叩くとサリナさんが入室してきた。すごく心配している。

「ごめんね。昨日疲れたみたいで起きれなかったよ」
「あぁ…よかった。中々起きられないので何処かお悪いのかと思いましたわ」

そう言い表情を緩めるサリナさん。どうやらてん君が唸り誰も部屋に入れなかったようだ。バレなくてホッとするとサリナさんが

「殿下をはじめ伴侶候補の方々がお見えですが如何されますか?」
「大丈夫だと伝えて下さい。身支度出来たら居間の方へ行くので洋服だけ適当にお願いします」

サリナさんが持って来てくれたシンプルなワンピースに着替えて居間に行くと、顔面偏差値が高い皆様が待っていた。朝からフィラにキスマークをつけられ難しい話をし疲れているのに、この面子を相手にするのは正直辛い。皆んなお断りしてベッドに潜り込んで寝たいよ…
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