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110.小花

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結局答えを出せぬまま自室に戻る事になった。
部屋に戻るとグラント様からグリード殿下の面会の返事があった。ビビアン王女が滞在している貴賓室に先触れを出してくれれば何時でも会ってくれるらしい。もうすぐ4刻半だからお昼は終わっているよね⁈ 私用のフィナンシェを籠に入れてもらい、マリカさんに先触れをお願いし準備する。
お菓子以外に何かないかと考えていたら、フィラからもらった花が目に付いた。そうだ!花を持っていこう。ケイティさんに相談したら貴賓室に向かう途中に中庭があり、今の時期沢山の花が咲いているらしく、庭師に言えば花を分けてもらえるようだ。
準備をしビビアン王女とグリード殿下の元へ向かいます。

中庭に着くと先に来ていたケイティさんと庭師さんが待っていてくれた。庭師さんってイメージ的におじいちゃんだったけど、アルディア城の庭師は髭が渋いダンディなイケおじだった。イケおじこと庭師さんに贈る人の事を聞かれ、華やかな超美人と答えるとなぜか笑われた。
体調を崩している事を付け加えると優しい色合いがいいと言われ、淡い黄色の薔薇に似た花を選んでくれた。花言葉は【前向きに】で病気の見舞いによく贈られる花らしい。
イケおじは慣れた手つきで花束を作ってくれた。お礼を言ったら「乙女様にはこの花が似合う」と耳にオレンジの小花を指してくれた。
ダンディなオヤジはやる事が違う。どきどきしちゃいました。さてお土産も用意できたし貴賓室に向かいます。

貴賓室に続く廊下。てん君が興奮気味に私の周りを走ります。

『てん君!落ち着いて!周り走らないで。目が回るから』
『たえ ながい みち たのしい』

さっき沢山もふったからてん君は柴犬くらいの大きさで力強く走っている。他の人にぶつからないか心配しながらてん君を見守っていた。
すると数メートル前でいきなりてん君が止まり、前をじっと見て警戒している。誰か近づいて来てるのか⁈

「多恵様!」
「シリウスさん?」
「先触れがありましたので、お迎えに参りました」 
「ありがとうございます」
「多恵様。聖獣殿が俺を警戒して近づけません」
「ちょっと待って下さい」

てん君を呼ぶと駆けてきて

『たえ あいつ びみょう』

てん君”微妙”なんて言葉どこで覚えたの?

『お迎えに来てくれただけだよ』
『こいつ だいじょうぶ?』
『悪い人ではないよ』
『てん よく みる』

てん君のチェックは厳しいです。

「シリウスさん。大丈夫ですよ」

シリウスさんは私に手を差し伸べエスコートしてくれる。ふと見上げるとやわらかい表情のシリウスさん。はじめは嫌われていると思ってたし、気難しい人に見えて苦手だったのになぁ…

「綺麗にドレスアップした貴女も美しいが、俺は着飾らない普段の貴女が好きだ。自然で愛らしい」
「ありがとうございます」

デレるタイプだと思わなかったからドキっとした。不意打ちはやめて欲しい。どうしていいか分からなくなる。シリウスさんは急に立ち止まった。不思議に思い見上げたら、私の耳に飾ってオレンジの小花に触れて

「この小花…よく似合っている。次は俺の色を飾って欲しい」

私の耳に触れ熱を持った視線を送ってくる。あの耳こそばいです…

「「ん?」」

足元に何か来た。下を見たら私とシリウスさんの間にてん君が入って来た。
ジトっとした目でシリウスさんを直視しています。

『たえ こいつ びみょう』

「多恵様。俺は聖獣殿に嫌われているんだろうか」
「私を守る役目があるので、厳しめだと思います」

シリウスさんは跪きてん君に

「多恵様に俺の心を捧げている。多恵様の守りである聖獣殿に認めてもらう様に精進しよう」

じーとシリウスさんを見てくんくん嗅いで

『たえ こいつ うそ ない でも みる』

その様子を微笑ましく見ていたら不意にシリウスさんが抱き寄せた。驚いているとシリウスさんが下を見たのでつられて見ると、てん君がシリウスさんの脚を前足で叩いている。

『まだ だめ』
「聖獣殿は厳しいなぁ…」

顔を見合わせ笑っているとケイティさんに声をかけられ、再度シリウスさんのエスコートを受けて貴賓室を目指します。

貴賓室の前で緊張しながらノックし、入室の許可を得て扉をあけると、グリード殿下が扉まで来て下さり挨拶を受ける。

「多恵様、ご機嫌麗しゅうございます。お越しいただきありがとうございます。本来私が伺うべきですが、まだビビアン王女の容態が安定しないので…」

王女の体調を窺うと落ち着いて話せるときもあれば、“エルバスを呼んで”と混乱する事もしばしばあり、まだまだ目が離せない様だ。
医師の話では薬の成分が分からないと診断が難しく、分析中で暫くかかり今はフィラが用意してくれた薬を飲み落ち着いて眠っているそうだ。

「殿下はちゃんとお休みになりましたか?」
「はい。シリウスと交代で休んでいるので大丈夫です」

疲れは見えるけど殿下はとても穏やかな表情をしているのをみて少し安心する。
殿下にフィナンシェとお花を渡すと、フィナンシェはビビアン王女の好物らしく喜ばれる。好物が同じで王女に親近感を感じる。
挨拶も終わり侍女さんがお茶を用意してくれ、殿下とシリウスさんと他愛もない会話を楽しむ。ふと思いだして

「殿下に贈って頂いたドレスが好評でフィラは殿下のセンスに嫉妬していましたよ。正直あの色は自分で選ぶ事がないので似合うか自信が無かったのですが、皆さんに褒めてもらって嬉しかったです」
「喜んでいただけたのなら私も嬉しいです。本当によくお似合いでした。綺麗に着飾った貴女と1曲踊りたかった…」
「また機会がありましたら、お願いします」
「・・・恐らくないですね」

殿下は寂し気にほほえんだ。なんかまた知らない間にまた何か起こっていそうで怖いなぁ…

「ビーの意識がはっきりしたらになりますが、私はバスグルに渡りビーを支えようと思っています」
「へ?」

殿下はビビアン王女の気持ちを知りながらあやふやにして来た事が、今回の騒動の発端になり責任を感じているようだ。
殿下の想い人は誰か分からないが、決して想いが叶う人ではないらしい。殿下にとってビビアン王女は妹の様な存在で、今後見守って行きたいそうだ。
殿下曰くモーブルの第1王子の病も完治し、第2王子も生まれモーブル王国に憂いは無く、自分の役目は終えたと話す。
廃嫡しバスグルでビビアン王女の側近としてバスグルの力になりたいという事だ。

「今回の事があっても恐らくバスグル王はビーを王にするだろう。第1王子は国政に全く関心がない。どちらかと言うと芸術肌で王に向いておらず、本人も望んでいないそうです。それに国王は王家の血筋を重んじているお方ですから」

殿下は立ち上がり私の前に跪いて頭を深く下げて

「多恵様には騒動に巻き込んだ上に助けて頂いたのに、貴女の伴侶候補を辞退する事になり大変申し訳ございません」
「殿下。お顔を上げて下さい。元々伴侶候補はお王族で無くていいと言っていたし、もしかしたら選ばないかもしれないって言いましたよ私」
「多恵様の慈悲に感謝いたします」

殿下は私の手を取り手の甲に口付けを落とし柔らかく微笑む。

「シリウスはまだ貴女の候補ですし、望まれるなら年下になりますが私の甥でも構いませんよ」
「甥っ子さんってお幾つなんですか?」
「8歳です」
「すみません無いです。犯罪になるし」

室内に笑い声に包まれ和んだ。一息おいて殿下が明日モーブル国王が入国するので会って欲しいと言い、その際にモーブル王国が抱えている問題を話すと。殿下は恐らく同席は叶わないので助けて欲しいとお願いされた。明日はまた大変な事になるのが決まり、遠い目をして現実逃避してしまうのだった。
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