女神の箱庭は私が救う【改編版】

いろは

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82.人たらし

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状況が分からずグリード様の腕の中で固まる。

「ダルク。日が落ちると冷えてきます。お嬢さん方が風邪をひくといけない。早く中に…」

ダルクと呼ばれた私を拐ったゴリマッチョは慌てて入口の鍵を開け、皆んな中に入っていく。室内の手前にソファーが数セットあり奥に階段とカウンターがある。何かのお店だろうか…
グリード様がソファーに座らせてくれた。グリード様は跪き

「多恵様。何処か痛むところはありませんか?ダルクが乱暴な扱いをした様なので」
「えっと…大丈夫ですから、お水を1杯いただきたいです。馬車に酔ってしまいまして…」

ダルクさんが慌ててお水を取り行こうとしたら、女性が持ってきてくれ、その女性を見て驚いた。
スカーフが全く同じで着ているワンピースもデザインは若干違うが遠目に見たら全く同じに見える。
彼女は苦笑しながらお水を渡してくれた。
とりあえず水を飲まなければ、気持ちが悪いのが取れない。水を一気飲みしやっと生き返った。

目の前にダルクさんと彼女が立ち深々と頭を下げて謝罪されます。今回の誘拐?の事の顛末はこうだ。

同じ服装の女性はダルクさんの妹さんでルカさん。
彼女は今日のスカーフ祭に行っていた。帰りの時間になってもルカさんが待ち合わせ場所に来ず、ダルクさんが広場に探しに行った時、広場はアーサー殿下の登場で騒然としていて、中々ルカさんを見つけれず焦っていた。そこにルカさんと同じスカーフをした私を見つけた。 
時間が迫っていて焦るダルクさんは確認もせずに私を馬車に乗せて帰ってきたら、家の前にルカさんがいて間違いに気付く。
ルカさんは混雑した広場からやっとの思いで、馬車の停泊場に行くと走り去るダルクさんの馬車。
置いて行かれたと思ったルカさんが泣いていると、村の自警団の知り合いに会い、家まで送ってもらったそうだ。

家前で会った2人は仰天!荷台に居る子は誰?って事になり誘拐になっている事に気付く。そこで兄妹きょうだい喧嘩か勃発。そこに今日宿泊予定のグリード殿下が到着した訳だ。
ダルクさんは故意では無いとグリード殿下に助けを求めた。グリード殿下は貴族の令嬢なら、アルディアに説明すれば謝罪で済むかもしれないと言い、まずは間違って連れて来た女性を面通ししようと荷台を見たら…

「すみません。私がいました…」

ダルクさんとルカさんはグリード殿下が”様”呼びしている事から、王族の姫だと勘違いして顔色を無くす。

「事情はわかりましたし、謝罪もお受けしました。でも一緒に祭に来ていた殿下や護衛騎士さんがきっと探しに回っています。無事を伝えないと大変な事になってしまいます」

出来ればフィラや妖精に頼りたくない。だって未遂も含めてこれで誘拐3回目だ。きっと次はフィラが妖精城から出してくれないだろう… 暫くの沈黙の後、グリード殿下が

「ルース、シュン。今からアルディア城に向かえ。其方達ならあの森の野犬くらい容易いであろう。書簡をしたためる故アーサー殿下に渡し、今日は王城の宿舎に泊めてもらえ。それも書簡に記載しておく。そして明日朝一に多恵様の着替えを預かり戻ってこい」

「「御意」」

「ご迷惑おかけしてすみません。よろしくお願いします」

騎士のお2人に立ち上がり頭を下げてお願いする。
騎士の2人は驚いた顔をしてこっちを見ている。そして部屋を出て行く騎士さんを見送る為について行こうとしたら、グリード殿下に手を取られた。

「多恵様どちらに行かれるのですか?」
「えっ?騎士さんのお見送りを…ご迷惑をお掛けしてますから。これくらいしかできませんし…」

扉前で固まる騎士さん。グリード殿下が書簡を渡すと慌てて出て行った。
グリード殿下の目線が下にあるのに気付き、つられて下を見た。そこには左脹脛が赤く腫れて擦り傷があった。荷台で転がった時にぶつけたんだ。
恐る恐るグリード殿下を見ると険しい顔をしている。グリード殿下は1人の騎士を呼び何かを受け取った。皮袋を開け小さな瓶と布と包帯らしき物を取り出して、再度私をソファーに座らせた。

「少し滲みますが我慢下さい」

瓶の中は薄ピンクの軟膏らしきものが入っていて、殿下は指で軟膏を取り患部に塗って布と包帯を巻いてくれた

「ありがとうございます。今まで気付かなかった」

グリード様は微笑み薬袋を騎士さんに返し、ダルクさんの元へ行ってしまった。皆んな忙しいそうにしているのに、私だけ座っていていいのだろうか…
ルカさんがお茶を持ってきてくれて、話し相手になってくれ

「多恵さんは何処かのお姫様様ですか?お忍びで祭に参加されていたの?お幾つですか?」
「あ…えっと…」

矢継ぎ早に質問されたじだじになる。

「ルカ、ダルクが食事の準備を手伝って欲しいそうですよ」
「あっはい!」

ルカさんは奥の部屋に駆けて行った。グリード殿下が助け舟を出してくれた様だ。グリード殿下は隣に座り手を握ってくる。
この沈黙が怖い… この空気どうしていいか分からず、何か質問してみる?

「あの…いつもダルクさんの宿にお泊まりになるのですか?」

「ええ…昔ダルクのご両親がこの宿を営まれていた時に、護衛騎士が体調を崩した際に助けてもらったのが縁で、アルディアに行く時はここで1泊しています。アルディアに向かう時に森を抜けますが、そこは夜行性の野犬や狼が生息していて夜に抜けるのは危険なのです」

殿下の説明でダルクさんが帰りを急いでいたのが分かった。そして訓練を受けた騎士の様に剣術に秀でていないと夜間に森を抜けるのは危険らしい。

ふと殿下と目が合うと何故か殿下は口元に手をやり笑っています。今の話に笑うポイントありましたか?

「ルースとシュンの顔を思い出して思わず…あっははは!長い付き合いだか彼らの拍子抜けした顔初めて見ました。貴女は人たらしの才能がある様です」

褒めてないと拗ねると更に笑いながら

「いえ!褒め言葉ですよ。王家の姫君や貴族の令嬢は感謝はすれども、頭を下げたり家臣を心配して見送りなどしません。私の家臣はすっかり貴女に心酔したようです」
「私の世界では普通です」

やっと真面目な顔をした殿下は

「アルディアからベイグリーの件は報告を受けています。助けに向かえず申し訳ありませんでした。
モーブルに居てくだされば、私が貴女をお守りするのに…」
「いえ、急な事でしたから…それにアルディアの皆さんには良くしていただいてます」
「舞踏会の後はモーブルに来ませんか⁈私との逢瀬の時間をいただきたい」

なんだろう⁈このもやもやした感じ… 熱烈な口説き文句だけど中身がない感じ…
グリード殿下は他の伴侶候補方と引けを取らないほど美丈夫で素敵な方だ。でも話していて何か違和感を感じる。でも今は見ない事にした。

そしてこの違和感の原因は後に知る事になる。
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