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76.追伸

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ゆっくり目を開けたら知っている天井で知っているお布団の匂いだ。
ここは自分の寝室だ。レオン皇太子の捕縛の後に確かそのまま寝落ちした…と思う。
私いつも寝落ちしている気がするのは気のせいでは無い!起き上がるといつものシンプルなコットンの夜着を着ている。
いつもいつも着替えさせて侍女の皆さんごめんなさい。寝ている人の着替えさぞ大変でしょ…私なら寝てても「着替!」って叩き起こしそうだ。
“く~”お腹が空いた。どのくらい寝ていたんだろう…この前は2日だったから…3日位?
室内履きを履いて居間の扉を開けた。
『へ?』何このメンツ!!

「多恵様その様なお姿で!」

ケイティさんがショールを持って走って来て、私をショールでぐるぐるに巻き付けて寝室に押し込んだ。デジャブ?前にもこんな事あって様な気がする。

寝室に入るとケイティさんは涙ぐみ抱き付いてきた。

「お体に痛みや辛い所はありませんか?」
「うん。しっかり寝たからいつも以上に元気」
「まずはしっかり湯浴みをしてお食事をいたしましょう」

状況を知りたくてケイティさんに

「えっと…私どのくらい寝ていたの?」
「…ほど…」

聞き返すと苦笑いしながら

「5日ほどです。流石に3日目には病気を疑い医師の診察も受けましたが原因が分からず、フィラ陛下が回復のための睡眠だからもうしばらく様子を見る様に仰り、交代でお世をさせて頂きました」
「5日?!」

最長だ…よく死ななかったな…飲まず食わずだったのに。
5日も湯浴みしていないからやっぱり一番に体を洗いたい。浴室に行くとケイティさんが付いて来たので、一人で大丈夫と言うと”今日だけはお世話させて下さい”と譲らなかったのでお願いした。

身支度が整い居間に行くとサリナさんとエレナさんが食事の準備をしてくれていた。
2人とも涙目。ごめんなさい…心配ばかりかけて…
食事は野菜をくたくたに煮込んで作ってポタージュ。5日ぶりの食事で胃に優しいメニューにしてくれたようだ。一口ポタージュを口にはこぶ。
「美味しい…」思わず呟くと皆の表情が明るくなる。少し残したけど大半を食べる事が出来た。

食後のお茶を飲んで思い出した。5日ぶりに起きて居間に行った時のメンツを…

「ケイティさん!起きて来た時とんでもないメンバーが居たように思ったのですが、私寝ぼけていたんですかね⁈」

「いえ。ご覧になったままだと思います。陛下が多恵様の目覚めを待っておいででした」

陛下の行動が理解できず固まっていると

「眠りに付かれてから毎日必ず一度はこちらにお見えになり、暫くいらっしゃりお帰りになられておりました。陛下は多恵様を娘の様の思われているのではないかと思います」

『… 娘?実年齢は姉になるんですがね…』でも心配してくれて有難いです。

「昨日はいっそ多恵様が起きられたら直ぐわかるように、ここを執務室にすると言われだし殿下達に止められておりました」

何やってんですか陛下…
少しするとアーサー殿下がお見えになりました。

「多恵殿!」両手を広げて近づいてきます。逃げたいと本能的に思っていたら風が吹いて私の前が緑に染まる。

「フィラ!」

フィラが現れ殿下は慌ててフィラに改まって挨拶されてます。挨拶を受けたフィラは振返り私を抱え込みます。『温かい…新緑の香り』癒しの香りに包まれまったりしていたら、影が落ちて来てフィラの綺麗な顔が近づく…
「ダメ!」手のひらでフィラの口付けを塞ぐ。

「5日ぶりにお前に会えたのだから口付くらい与えてくれてもいいだろう…」

空気を読まないフィラに慌てて小声で

「人前は嫌だって言ったでしょう!」
「他の者が居なければいいのか⁈」

するとフィラは振返り

「アーサー帰れ」

と言い放ち殿下は超不機嫌な顔しています。
怖い怖い何てこと言ってるの!
誰か助けてください!
アーサー殿下とフィラの睨み合いに困り果てていたら、ヒューイ殿下とトーイ殿下がお見えになり部屋に入るなり苦笑しています。

「ヒューイ殿下!トーイ殿下!笑ってないで助けて下さい!」
「多恵殿は愛されていますね。トーイお助けしなさい」

トーイ殿下は二人の間に入り、フィラの腕から私を開放してくれた。
解放後はすぐにサリナさんとエレナさんの後ろに隠れる。ヒューイ殿下は場を仕切り皆に着席を促した。

私の隣争いが起きないようにケイティさんが一人掛けのソファーに座らせてくれた。その様子にフィラもアーサー殿下も不機嫌になる。そして少し遅れて陛下がお見えになった。陛下は私を見て破顔し、手を取り陛下に横に座らされる。とっても居心地が悪い…
イザーク様が最後にお見えになり今回のレオン元皇太子の事件の顛末が説明された。

『レオン元皇太子?元?え!やっぱり廃嫡なの⁈』

のっけからすごい事になっている。

事件の成り行きはおよそボリスから聞いた話と同じだった。事件翌日にベイグリー公国からレオン皇太子と協力したチャイラ人を護送するために第二王子のサイラス殿下が入国した。
サイラス殿下は国王を代理としてレオン皇太子の廃嫡を宣言。ただの罪人として自国に連れ帰られたそうだ。連行され時も一悶着あり、レオン元皇太子が暴れたらしい。陛下が「同じ王族として恥ずかしいわ」と頭を抱えていた。
今知ったが何代か前の王妃がベイグリー公国の王女で遠縁にあたるらしい。それは頭をかかえるよね…

サイラス殿下も宰相様も私との謁見を願われていたが、私の冬眠が長く叶わなかった。
イザーク様がお二人からお手紙を預かったらしく渡された。

陛下に促され読んでみた。サイラス殿下からは丁寧な謝罪と今後も変わらぬ友好を約束する旨が書かれていた。

『ん?最後の一文が意味不明?』

固まっていると、読め無いと思った陛下が

「何処か読めぬ所があるのか?」

と聞いてくれたので、最後の追伸を指差して

「読めますが意味が分かりません」

陛下は手紙を覗き込み苦い顔をして立ち上がり、アーサー殿下の腕を引っ張り壁際に連れて行った。
私をはじめ皆んなキョトンとしている。

『あっ!』

見ていると殿下が陛下に拳骨貰っている。
益々追伸の意味は知らない方が平和だと思った。
この後、誰もこの追伸には触れる事はなかった。
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