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64.契り

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気がつくと部屋が明るく光の玉妖精が飛び回っていた。

「分かったから少し待て!」
「何?」

フィラが鬱陶しそうに妖精達を払っている。そして私を見据えて

「今契りを交わしたから妖精が見えるはずだ。心で妖精を求めてみろ。姿や声が聞こえるはず」

“心で求める”って具体的に教えてよ!分からないよ… 取りあえず『妖精さんに会いたい』っと念じてみた。

そうすると光の玉が妖精になってはっきり見える。色んな妖精が飛んでいて1匹が近づき

『はじめまして たえ わが おうの つがい』
『おうと ちぎり した わたしたちの こえ とどく うれしい』
「あ…多恵です。よろしくね」

“契り”ってキスの事?てっきり・・・の事と思っていた…

妖精たちは『遊ぼう』と私の髪や服を引っ張り誘ってくる。

「多恵。妖精たち遊び好きだ。相手していたらキリが無いぞ。無理な時は心を閉じろ。また見えなくなる」
「え!拒否していいの?」
「構わん」

心で”ごめん”って思ってみたら妖精たちは消えた。

「おー!凄い。でも折角見える様になったのに可哀そうな事したかなぁ…」
「これから嫌でも会う事が増えるから心配ない」

それからフィラはふとした時に軽く口づけをしてくる。恥ずかしいからやめて欲しいけど口付ける度に嬉しそうな表情をするから“嫌”って言えない。暫くしたら慣れて落ち着くだろうから、それまでは目をつぶってあげよう。

しかしこの口付け習慣はずっと続くなんてこの時は知らなかった…

フィラはロイドとカクリー家に連絡を入れてくれる。まだ帰りたくなさそうだが、私も針子デビューがあるから早く寝たいのでお帰りいただいた。

フィラが帰ったのが7刻半頃で暫くするとサリナさんとミリアさんが部屋にやって来た。
入室してもらって話を聞きます。
明日朝一にレオン皇太子が妖精国に向かったのを確認し、針子の作業場に向かいます。お勤め人なので護衛が付けないのでミリアさんが針子さんに扮し一緒に作業場に行ってくれ、作業時間は3刻から5刻まで。針子さんには事情があり3日間だけ新人針子として勤める事を伝え緘口令がしかれた。名前はアンで17歳とし1か月前から働いているシナリオだ

サリナさんとミリアさんは退室したので夜着に着替え寝む事にした。

「あっ!カーテンを閉めていない」

私は真っ暗で無いと寝れなくて月明かりだけでもダメ。真っ暗にできない時はいつもタオルを目元において寝ていた。
窓に近づき何気なく中庭に目をやると人影が見えた。あーまた護衛騎士さんが巡回してくれているのだと思い目を凝らして誰か確認する
…誰だろう⁈

「〇△×□!!」

その場にしゃがんで隠れる。
またケニー様だ。またこちらを見上げている。
怖い!ホラー映画だ。体がガタガタ震え止まらない。両隣に騎士さんがいてくれるの分かっているし、緊急用の笛もある。でも怖い!
まだ居るの?見たいけどまだ居たら私絶対叫んでしまう

四つん這いになり扉に近づきゆっくりドアを開け、
廊下に居たカリナさんが私に気付いて駆け寄ってくれる。怖くカリナさんにしがみついた。
物音に気付いたミリアさんローラさんとサリナさんが廊下に出てきた。震える私をサリナさんが抱きしめて隣の部屋に入る。

『どうしよう。フィラにはケニー様がおかしいと話したけど、まだ殿下やグラント様には話していない。ケニー様は重要ポストにいらっしゃる方だから、話していいか分からないけどホラー並みに怖い。こんなのが続くと私が精神病んでしまうよ』

取りあえず騎士さんに外で待機してもらい、サリナさんだけに事情を話すと、サリナさんはすぐに手紙を書きローラさんがグラント様に届けてくれた。ミリアさんに隣の部屋の窓から外を確認してもらったらケニー様はもう居なかった。

8刻の鐘の音が聞こえて今女子寮の横にある倉庫にサリナさんといます。この倉庫は女中のお仕事着を保管庫で人気はありません。って言うか深夜だから辺りに誰も居ません。

着替える間なく夜着の上にガウンを羽織っている。寒くはないのに震えが止まらない。サリナさんが手を握り背中をさすってくれていますが、一向に震えが止まらない。

すると小さなノックの後に扉が開いた。

入って来たのはグラント様と見覚えのある騎士さん。誰だっけ?…
あー召喚の日にいた第2騎士団の…ん…
ここまで出てる…

「副団長のクレイブ様だ!」

グラント様は眉を顰めクレイブ様は驚きながら挨拶さる。思いの外大きい声に自分で驚き、皆さんに謝る。そして早速本題に入る。

本来人目があるから皇太子がいる間は会わない予定だったが、ケニー様の不可解な行動に私が怖がり、この深夜に人気の無いこの場所で会う事。

グラント様は私の元に足早に来て私の頬に手をあて視線を合わせます。グラント様の澄んだ菫色の瞳を見ていたら安心して震えも治まってきた。
落ち着いたのを確認したグラント様は、そっと抱き寄せてつむじ口付けを落とした。

サリナさんが椅子を2脚を向かい合わせ用意し部屋の隅に控えてくれ、クレイブさんは入口前で外を警戒。

グラント様は私を椅子に座らせ向かいに座ります。
グラント様は手を取り優しく微笑んでくれる。繋いだ手は大きくて温かく強張った体か解れていく気がした。

「サリナ嬢からの文を読みました。トーイ殿下に確認した所、ケニー殿には多恵様の居場所は伝えてい無いとの事。最近あまりいい話を聞かないケニー殿に不審を抱かれたヒューイ殿下が、内密にケニー殿に監視を付けていますが、レオン皇太子が入港してからは、何度か監視を撒き姿を消しています。多恵様が目撃された時間は丁度監視を撒いた時間と同じです」
「フィラがレオン皇太子とケニー様が密会しているって言っていました。ご存知ですか?」

そう言うと眉間の皺を深め

「はい。しかしそれは陛下や殿下からの指示で秘密裏に皇太子の思惑を探る為です。しかし不可解な行動が多く我々も理解に苦しんでいます」
「グレーですか?」
「はい。忠誠心と愛国心の厚い男ゆえ信じたい」

落ち着いた事で色々疑問が出てきたので、グラント様に質問する事にした。

「そもそもなぜ薬草を輸入に頼っているのですか?リリスの箱庭に薬草は自生していないのですか⁈」
妖精王フィラから何もお聞きしていませんか⁈」

なんか雲行きが怪しくなってきた。

「確か“薬草の件は自分にも責任があるとは言っていましたが、内容までは詳しく聞いていません」

すると溜息を吐いたグラント様は

「お聞きでなら私からお話出来ませんので、妖精王にお聞きください。元々はこの箱庭にも薬草は自生していて自給自足出来ていました。薬草はレックロッドに多く自生しています。しかし我が領地で発生した流行病で多く解熱作用のある薬草が必要になり不足する事に…。困ったアルディア王は一番近い第2女神のイリアの箱庭のベイグリー公国に商談持ちかけたのです。その際に交渉役をカクリー侯爵家が担いました。強欲なレオン皇太子相手に交渉は難航し補佐を務める為に薬師の知識があるエリザベス嬢がベイグリー公国に向かったのです。
そこで妖精王ロイドに見初められ、妖精王の番になることを条件に薬草の輸入が叶いました。レックロッドの薬草がこのままだと我が王国はベイグリー公国の属国に成り下がる。レックロッド帝国と妖精王フィラとの関係回復を箱庭の住人は望んでいる。レックロッド帝国に妖精の加護が再度あればベイグリーなどに頼る必要はないのですから」

「・・・」

色んな所でつながっているんだ・・・まずフィラにレックロッドとの事を聞かないといけない。
リックさんはケニー様がリズさんを売ったって言っているけど苦肉の策だったのだろう。ケニー様の明るい笑顔が痛々しく思う。

いつも隠さず冷静に話してくれるグラント様に感謝。彼は信頼できる人だ。

「落ち着きましたか?」
「ありがとうございます。ちゃんと眠れそうです」
「残念だ…眠れないのなら一晩中貴女の傍にいれたのに…」

グラント様は繋いだ手を強く握ってくる。ふとグラント様を見ると疲れた顔をされています。疲れているのに私の為に人目を避けて会いに来てくれたんだ。なんだろうこの感じ…感謝?感動?

立ち上がり徐にグラント様の頬にキスをした。

「へ?…ごめんなさい!何か頑張って下さっているグラント様を見ていたら私に何か出来るかなぁ…って思ったら無意識に…キス…しちゃって…ごめんなさい。私ったら何してんだろう!」

恥ずかしくて繋いだ手を解こうとしたら、立ち上がったグラント様に抱き寄せられた。びっくりしてじたばた藻掻いてると

「嬉しくて…すみません。暫くこのままで…」

艶のある声が耳元でして赤面する。

「閣下…多恵様をお離し・・・くっ」

止めようとしたサリナさんをクレイブさんが手で制した。思わす私もじっとしてグラント様が納得するまで大人しく彼の腕の中にいます。
フィラもそうだけど男性の体温は高いから抱きしめられると心地いい…暫くするとグラント様の腕が緩んで解放してもらいました。

「ありがとうございます。疲れが一気に無くなり後3日は徹夜できそうです」
「やっやめて下さい。ちゃんと寝て食事取って下さい」

グラント様の頬をさすりながら

「少しお痩せになりましたか⁈倒れないで下さいね。皆も…私も困りますからね」

彼は私の手の上に自分の手を重ね頷いた。

すると扉がノックされミリアさんが入ってきた。
倉庫の周りの安全を確認できたので部屋に戻ることになりました。この倉庫でグラント様とお別れをして部屋に戻ります。
部屋は念の為、当初の真ん中部屋から一番奥の部屋に移動しそちらで寝る事になりました。
グラント様と話しをして落ち着いたから、意外に直ぐに寝付け朝まで熟睡です。
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