49 / 189
49.壊れた蛇口
しおりを挟む
「多恵様。そろそろお時間です」
「はぁ~い」
リックさんに呼ばれて返事すると、リックさんが本棚から顔を出して帰りを促す。リックさんは気を効かせて距離を取ってくれていたようだ。リックさんはケニー様を見て眉を顰めて
「ケニー殿。今日は非番か? この様な所で何をしている⁉︎」
「貴殿には関係の無い。ご自分の職務に専念されよ。
多恵様、またお時間いただき流行病の予防のお話をお聞かせいただきたい。では失礼いたします」
ケニー様は騎士の礼をし去っていった。
去るケニー様の背を見るリックさんの表情は嫌悪感に満ちている。
「リックさん?」
振り向いたリックさんはいつもの調子を取り戻し穏やかに微笑んでくれる。
疑問を抱きつつリックさんのエスコートで、針子さんの作業場に向かう。
作業場は城内の一番奥に位置しているらしく遠い。かれこれ30分近く歩いている。
作業場は見学する理由をダグラスさんに聞かれて、流行病の予防のためと答えると、またリックさんの表情が険しくなる。
凄く気になる。流行病がキーワードみたいで、リックさんに顔を寄せて聞いてみた。
「リックさん無理に答えなくていいです。流行病に何が嫌な思いでもありますか?」
「実は私の母はケニー殿の母上と従姉妹にあたります。つまりカクリー侯爵家と遠縁にあたります。
カクリー侯爵家はアルディアでは有名な医療系の一族で爵位はそんなに高くありませんが、磐石の地位を持っています。その中でもケニー殿は頭脳明晰で、将来を有望視されています。
しかし彼は己の欲の為に、実妹を第2女神の箱庭のベイグリー公国へ売ったのです。
私は彼が多恵様の伴侶候補など認められない。明るい表の顔を信用しないで下さい。彼奴は多恵様も利用するつもりだ」
すると後ろを歩いていたダグラスさんが声を荒げ
「リック!多恵様にお耳に入れるべき話では無い。私情を職務に入れるな! 多恵様。ここでの話はお忘れ下さい。リックは疲れている様です」
ダグラスさんに叱責されてリックさんは謝罪される。
「私が悪いんです。謝らないで下さい!今の事は水に流して下さい!」
慌てて謝罪していると作業部屋に着いた。気まずい雰囲気から逃げたくて作業場に駆け込んだ。
そして針子さんの責任者の案内で見学させてもらい、次に作成をお願いするマスクの説明をするとびっくりされた。さすが針子さんで作るのに問題はなさそうだ。作成協力をお願いして作業場を後にした。作業場を出るとダグラスさんとポールさん?
あれリックさんが居ない⁈何で!
「リックは頭を冷やさせる為に下げました。ポールが務めますので多恵殿はお気になさらず」
「いや!気になりますよ!私が話を振ったから」
テンパっていると
「多恵様はお優しい。殿下からの命でございます」
「分かりました。すみません」
お辞儀し詫びた。
『浅はかだった…』
皆さんより(中身は)人生経験豊富なはずなのに…
ケイト先生がマナーレッスンで貴族の会話は難しく、どの家も色んな問題を持っていて、踏み込んではいけない領域がある。腹芸が出来ない私は特に気を付けるように言われていた。
私の方が立場が上になるから聞かれは者は拒否できず、家の醜聞を話さないといけなくなり後に反感を買う事になるって…
まさにケイト先生が言っていた通りになってしまった。親切で仲良くなった護衛騎士さんだから距離を間違えた。
私の方が立場が上になるから、気に留めておかないといけないのに…
あー落ち込んできた。
今誰とも会いたく無い。多分半べそかいてる私。
でもこういう時に限って昔から回避した人は必ず遭遇するんだよね…
『はぁ…』
心の中でため息を吐いていると…
「多恵様!」
誰か私の名を呼び駆け寄ってくる。誰?
正面からグラント様が駆け寄って来る。ヤバい!何故かそう思い隠れ場所を探すが無い!
『あれ?昨日も同じ事してない?わたし…』
とりあえずまたダグラスさんとポールさんの後ろに隠れる。
「多恵様…」
グラント様の声音は優しく泣きそうなる。顔を見られたく無いから俯いて
「グラント様。お疲れ様です。今から部屋に戻りますので、失礼します。ダグラスさん、ポールさんいきましょう」
騎士さん2人を後ろから押して歩き出す。戸惑いながらも2人は歩き出しグラント様の横を通り過ぎようとした時、腕を掴まれ引き寄せられた。
グラント様は優しく私の顎に手をあて顔を上げた。
『あー駄目だ半泣きバレた…』
「…」
グラント様は両手で私の頬を包み指で目元の涙を拭って
「私は貴女の伴侶候補だ。まだお心を許していただいていないのは理解しておりますが、辛い時は頼って欲しい」
私が泣いているのがバレて騎士さん達は慌て出す。バレちゃったらもう止めれない。壊れた蛇口のように只管涙がでる。
「失礼」
“ふわっ”と体が浮いた。グラント様が抱き上げている。
「閣下!お止め下さい。我々がお部屋までお連れ致します」
「グラント様!自分で帰れますから下ろしてください」
グラント様は騎士さん2人が止めても無言でずんずん歩いて行く。私は恥ずかしくて両手で顔を隠すのが精一杯だ。するとダグラスさんが剣に手をかけグラント様の前に立ち
「閣下!多恵様を下ろしてください!」
グラント様はダグラスさんを見据えて
「ダグラス殿。其方は婚約者がいたな。もし其方の婚約者が涙している時に、他の男が慰めることを良しとするのか?
否!私の気持ち其方は分かるであろう。殿下には私が説明する」
「くっ!」
ダグラスさんは手を下ろしグラント様に道をあける。私のせいでまた揉めたんだと思うと、また涙が出てくる。
「貴女は悪くない」
耳元で囁かれ”ビクッ”となり、身を縮こませるとグラント様が小さく笑う。
暫くすると扉が開く音がして誰かが私を呼んでいる。顔を上げるとケイティさんが駆け寄って来た。気付いたら部屋に着いていた…
「はぁ~い」
リックさんに呼ばれて返事すると、リックさんが本棚から顔を出して帰りを促す。リックさんは気を効かせて距離を取ってくれていたようだ。リックさんはケニー様を見て眉を顰めて
「ケニー殿。今日は非番か? この様な所で何をしている⁉︎」
「貴殿には関係の無い。ご自分の職務に専念されよ。
多恵様、またお時間いただき流行病の予防のお話をお聞かせいただきたい。では失礼いたします」
ケニー様は騎士の礼をし去っていった。
去るケニー様の背を見るリックさんの表情は嫌悪感に満ちている。
「リックさん?」
振り向いたリックさんはいつもの調子を取り戻し穏やかに微笑んでくれる。
疑問を抱きつつリックさんのエスコートで、針子さんの作業場に向かう。
作業場は城内の一番奥に位置しているらしく遠い。かれこれ30分近く歩いている。
作業場は見学する理由をダグラスさんに聞かれて、流行病の予防のためと答えると、またリックさんの表情が険しくなる。
凄く気になる。流行病がキーワードみたいで、リックさんに顔を寄せて聞いてみた。
「リックさん無理に答えなくていいです。流行病に何が嫌な思いでもありますか?」
「実は私の母はケニー殿の母上と従姉妹にあたります。つまりカクリー侯爵家と遠縁にあたります。
カクリー侯爵家はアルディアでは有名な医療系の一族で爵位はそんなに高くありませんが、磐石の地位を持っています。その中でもケニー殿は頭脳明晰で、将来を有望視されています。
しかし彼は己の欲の為に、実妹を第2女神の箱庭のベイグリー公国へ売ったのです。
私は彼が多恵様の伴侶候補など認められない。明るい表の顔を信用しないで下さい。彼奴は多恵様も利用するつもりだ」
すると後ろを歩いていたダグラスさんが声を荒げ
「リック!多恵様にお耳に入れるべき話では無い。私情を職務に入れるな! 多恵様。ここでの話はお忘れ下さい。リックは疲れている様です」
ダグラスさんに叱責されてリックさんは謝罪される。
「私が悪いんです。謝らないで下さい!今の事は水に流して下さい!」
慌てて謝罪していると作業部屋に着いた。気まずい雰囲気から逃げたくて作業場に駆け込んだ。
そして針子さんの責任者の案内で見学させてもらい、次に作成をお願いするマスクの説明をするとびっくりされた。さすが針子さんで作るのに問題はなさそうだ。作成協力をお願いして作業場を後にした。作業場を出るとダグラスさんとポールさん?
あれリックさんが居ない⁈何で!
「リックは頭を冷やさせる為に下げました。ポールが務めますので多恵殿はお気になさらず」
「いや!気になりますよ!私が話を振ったから」
テンパっていると
「多恵様はお優しい。殿下からの命でございます」
「分かりました。すみません」
お辞儀し詫びた。
『浅はかだった…』
皆さんより(中身は)人生経験豊富なはずなのに…
ケイト先生がマナーレッスンで貴族の会話は難しく、どの家も色んな問題を持っていて、踏み込んではいけない領域がある。腹芸が出来ない私は特に気を付けるように言われていた。
私の方が立場が上になるから聞かれは者は拒否できず、家の醜聞を話さないといけなくなり後に反感を買う事になるって…
まさにケイト先生が言っていた通りになってしまった。親切で仲良くなった護衛騎士さんだから距離を間違えた。
私の方が立場が上になるから、気に留めておかないといけないのに…
あー落ち込んできた。
今誰とも会いたく無い。多分半べそかいてる私。
でもこういう時に限って昔から回避した人は必ず遭遇するんだよね…
『はぁ…』
心の中でため息を吐いていると…
「多恵様!」
誰か私の名を呼び駆け寄ってくる。誰?
正面からグラント様が駆け寄って来る。ヤバい!何故かそう思い隠れ場所を探すが無い!
『あれ?昨日も同じ事してない?わたし…』
とりあえずまたダグラスさんとポールさんの後ろに隠れる。
「多恵様…」
グラント様の声音は優しく泣きそうなる。顔を見られたく無いから俯いて
「グラント様。お疲れ様です。今から部屋に戻りますので、失礼します。ダグラスさん、ポールさんいきましょう」
騎士さん2人を後ろから押して歩き出す。戸惑いながらも2人は歩き出しグラント様の横を通り過ぎようとした時、腕を掴まれ引き寄せられた。
グラント様は優しく私の顎に手をあて顔を上げた。
『あー駄目だ半泣きバレた…』
「…」
グラント様は両手で私の頬を包み指で目元の涙を拭って
「私は貴女の伴侶候補だ。まだお心を許していただいていないのは理解しておりますが、辛い時は頼って欲しい」
私が泣いているのがバレて騎士さん達は慌て出す。バレちゃったらもう止めれない。壊れた蛇口のように只管涙がでる。
「失礼」
“ふわっ”と体が浮いた。グラント様が抱き上げている。
「閣下!お止め下さい。我々がお部屋までお連れ致します」
「グラント様!自分で帰れますから下ろしてください」
グラント様は騎士さん2人が止めても無言でずんずん歩いて行く。私は恥ずかしくて両手で顔を隠すのが精一杯だ。するとダグラスさんが剣に手をかけグラント様の前に立ち
「閣下!多恵様を下ろしてください!」
グラント様はダグラスさんを見据えて
「ダグラス殿。其方は婚約者がいたな。もし其方の婚約者が涙している時に、他の男が慰めることを良しとするのか?
否!私の気持ち其方は分かるであろう。殿下には私が説明する」
「くっ!」
ダグラスさんは手を下ろしグラント様に道をあける。私のせいでまた揉めたんだと思うと、また涙が出てくる。
「貴女は悪くない」
耳元で囁かれ”ビクッ”となり、身を縮こませるとグラント様が小さく笑う。
暫くすると扉が開く音がして誰かが私を呼んでいる。顔を上げるとケイティさんが駆け寄って来た。気付いたら部屋に着いていた…
11
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
【※R-18】私のイケメン夫たちが、毎晩寝かせてくれません。
aika
恋愛
人類のほとんどが死滅し、女が数人しか生き残っていない世界。
生き残った繭(まゆ)は政府が運営する特別施設に迎えられ、たくさんの男性たちとひとつ屋根の下で暮らすことになる。
優秀な男性たちを集めて集団生活をさせているその施設では、一妻多夫制が取られ子孫を残すための営みが日々繰り広げられていた。
男性と比較して女性の数が圧倒的に少ないこの世界では、男性が妊娠できるように特殊な研究がなされ、彼らとの交わりで繭は多くの子を成すことになるらしい。
自分が担当する屋敷に案内された繭は、遺伝子的に優秀だと選ばれたイケメンたち数十人と共同生活を送ることになる。
【閲覧注意】※男性妊娠、悪阻などによる体調不良、治療シーン、出産シーン、複数プレイ、などマニアックな(あまりグロくはないと思いますが)描写が出てくる可能性があります。
たくさんのイケメン夫に囲まれて、逆ハーレムな生活を送りたいという女性の願望を描いています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
6年間姿を消していたら、ヤンデレ幼馴染達からの愛情が限界突破していたようです~聖女は監禁・心中ルートを回避したい~
皇 翼
恋愛
グレシュタット王国の第一王女にして、この世界の聖女に選定されたロザリア=テンペラスト。昔から魔法とも魔術とも異なる不思議な力を持っていた彼女は初潮を迎えた12歳のある日、とある未来を視る。
それは、彼女の18歳の誕生日を祝う夜会にて。襲撃を受け、そのまま死亡する。そしてその『死』が原因でグレシュタットとガリレアン、コルレア3国間で争いの火種が生まれ、戦争に発展する――という恐ろしいものだった。
それらを視たロザリアは幼い身で決意することになる。自分の未来の死を回避するため、そしてついでに3国で勃発する戦争を阻止するため、行動することを。
「お父様、私は明日死にます!」
「ロザリア!!?」
しかしその選択は別の意味で地獄を産み出していた。ヤンデレ地獄を作り出していたのだ。後々後悔するとも知らず、彼女は自分の道を歩み続ける。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる