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7.黒歴史

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入りくんだ廊下を歩く。昨日も思ったけど城内はとても広い。多分一人で移動は無理だろう。迷子になる自信あり!
私の短いコンパスにリックさんとマーカスさんが合わせて歩いてくれてる。
中々着かないなぁ~って思っていたら、前からトーイ殿下が歩いてくる。

「多恵殿。おはようございます。今から陛下のところですか?」
「トーイ殿下。おはようございます。はい。今から伺うところです。ちなみに陛下の執務室って遠いですか?歩いても一向に着かないですけど…」

と言うと、トーイ殿下は明らかに笑ってる。

「いえ。すぐ近くですが防犯上毎回順路を変えるので遠回りになるのです。この先を曲がれば直ぐですよ」
「騎士様を疑う訳ではありませんが、結構歩いたのに着かないから永遠に着かない様な気がしてたんです」

と言うとトーイ殿下は声を出して笑う。そしてリックさんとマーカスさんが防犯上遠回りしている説明をしていなかったと謝ってくれた。
一頻り笑ったトーイ殿下は 

「では後ほど昼食で!」

と颯爽と歩いて行った。その後ろ姿を見ながらトーイ殿下は爽やかさんに認定した。
この後リックさんとマーカスさんに2人は悪くないと謝り、やっと陛下の執務室に着いた。マーカスさんが来室を告げ入室の許可を仰ぐ。
入室してご挨拶をし陛下に促されてソファーに座る。お茶が用意されると陛下の指示で他の皆は退室した。

「昨日はゆっくり休めたか?」
「ありがとうございます。城内の皆さんに良くしていただいております」

ぺこっとお辞儀をする。陛下は3枚の手紙をテーブルに置いた。

「昨晩約束した他国の王宛の書簡だ。内容を確認願いたい」

箱庭の文字が読めるか不安に思いながら手に取る。
なんかミミズがいっぱい書いてある。でもその上に日本語が表示されてた。よかった読めるよ!
これでこっちでも本が読める。

「多恵殿。こちらの文字は大丈夫か?」
「はい。リリスの加護がある様で問題なく読めます。確認しましたがリリスが望んだ事が記述されており、問題ないと思います」

そう答えると、陛下は従僕を呼び書簡を宰相に持っていくように指示する。従僕は礼をするとすぐ執務室を後にした。また部屋は陛下と2人になる。まだ陛下は慣れないなぁ…

「多恵殿はリリスからどこまで聞いている⁈」

おもむろに陛下が聞く。

「召喚を始めた理由から召喚時にあった事一通りです」
「と言う事は”ロナウドのリーフ”もか?」

頷くと、陛下は何ともいえない表情をして

「儂も王位を継いだ時に初めて聞いた。この王国の民を導いて来た尊き血筋だと信じておったからショックだった」

そう言い項垂れた陛下は黙り込んでしまい、重い空気に包まれ気まずくなる。そしてゆっくり顔を上げた陛下は


「昔、自信家のマセた子がいてな…」

いきなり陛下は昔話を始めた。多分このパターン自分の事だ。期待しつつ耳を傾ける。

「家庭教師からソードリーフを習い、その子は何でも切ってしまうそのソードリーフに興味を持った。古来より唯一ソードリーフが切れない物はテンギという大トカゲ(妖精の国に生息する大トカゲ)の皮だけ。その少年は好奇心から実験する事にした。
ライジヤという皮の硬い蛇の皮を3重にして外側に鉄板を付けたブーツを作らせ、従者を連れてソードリーフに挑んだのだ」

陛下…無謀です。

「どうなったのですか?」

と聞くと苦笑し

「1メートル程進めて、行けると思った瞬間激痛が走った。足元を見ると脹脛を切っておった。同行した騎士が怪我を負いながら助け出してくれたのだ」
『何やってんですか 幼き頃の陛下…』

突然陛下の黒歴史を聞かされる。

「帰城すると父上(当時の王)が烈火の如く怒っておって幼いながらに驚いた記憶がある。
王は温厚な方で無鉄砲な儂が何をしても、ここまで怒る事は無かったのだ。王位を継承してソードリーフの由来を聞かされた時、父上の怒りの理由がよく分かった。父上はロナウド殿を侮辱した様に感じたのであろう。今、王子達が同じ事をすれば儂も同く怒るだろう」

話を聞いていて疑問が

「でもリリスから王が命じたと聞いてますが、アルディアの王様だったのですか?」
「分からんのだ。王とは言われておるがどの国かは伝えられておらん。しかし、リリスが召喚なさったロナウド殿を己の欲で死に追いやった。我が先祖で無かったとしても同罪だ。ロナウド殿はどんな想いだったか…さぞ無念だったであろう」

心を痛めているのを知り、陛下の為人を分かった気がした。

「リリス曰く、殺害されて直ぐにロナウドの魂はリリスが助け出し、辛い記憶を消して元の世界に帰したそうです。だから戻ったロナウドに辛い記憶は無いと思いますよ」
「そうか…ありがとう。事実を聞けて少し楽になった。多恵殿よ儂を含め先代の王は、ロナウド殿の事を忘れた事はない。常に謝罪の念を持ち二度と人が人を殺める事なき様に勤めてきた。女神の丘のソードリーフは人の愚かさの象徴なのだ」
「リリスも人々が愚行を忘れない様に作ったといってました。よかったです。リリスの想いはちゃんと皆さんに伝わってるんですね」

心なしか陛下の表情が柔らかくなった気がする。

「多恵殿の世界では争いは無いのか?」

唐突に質問される。
 
「いえ…ありましたし今もあります」
 「進んだ文明や知識があってもか?!」

意外そうに陛下は聞いてくる。
 
「はい。箱庭の住人も私の世界の人ですが人間は欲を持っています。より好くなりたいと思うと欲し求めるようになります。初めは小さな口論から最後は殺し合いまで。私の世界では数百国存在し人種・宗教・文化がみんな違うので考え方も多種多様です。その分意見の相違が起こり易く歴史をみても戦無しで歴史は語れません。
しかし、歴史を学び理解し合う事で争いでの武力は減ってきています。
今だ争いが続いている国や地域もまだありますが、有識者が解決するべく尽力されています。私がいた国は過去に大きな戦があり国民も国も大きな傷を負いました。しかしその事を教訓に今は争いのない平和な国になっています。
リリスに聞いたところロナウドの召喚の時以降は大きな争うは無いと聞いています。各国の王達がロナウドの件を教訓に尽力されてきたのでしょう」

私の話が意外だった様で動揺が見てとれる陛下。意志を確認するかの様に
 
「そのとおり。他国の王の気持ちは分からぬが歴代のアルディアの王は自国と民を愛し、リリスの箱庭の安寧を願って国を治めておる」
 「ご立派です」

この国の人は穏やかな人が多いなぁ…
 真面目な話をしばらくしていて、ふいに陛下が聞いてくる。
 
「女性にお聞きするのは失礼な事とは重々分かっておるが、多恵殿はお幾つなのだ?」

おお・・・歳ですか?!一応リリスの設定どおり。。。
 
「17歳だと思います」
 「自分の年齢になぜ疑問文なのだ?」

あっやっぱり突っ込まれた。
 
「あまり年齢を気にした事無いので・・・」

曖昧にごまかす。
 
「いや…そなたと話していると儂と同じくらいに感じる。そなたの世界の人はみな若い頃からそんなに落ち着いておるのか?!」 

『陛下!正解!』 

ご察しのとおり陛下とほぼ変わりませんよ私。って言うか多分私の方が年上です。
 
「私の国にでは義務教育という制度があり、生まれや育ちに関係なく7歳から15歳まで国の定めた基準の教育を受けています。それが影響しているのでは? 自分自身はまだまだ未熟と感じていますが」

少し謙遜しておこう。
 
「平民でも教育を受けるか?」
 「私の国に身分はありません。法の下みんな平等です。だから裕福な人も貧困層も平等に学べるのです。故に世界の中でも高い識字率をもっています」
 「それはすごい。また後日話を聞かせてくれぬか?!」

陛下すごいキラキラした表情しています。なんか可愛い!陛下はやんちゃさん決定です!
 はじめは苦手意識があったけど、案外話が盛り上ってます。やっぱり歳が近いからでしょうか…内緒ですけどね~
 
その後も陛下に色々質問を受けていると、ヒューイ殿下来室の知らせが入る。陛下が入室許可を出すとヒューイ殿下が入室される。今日もキラキラ王子です。
 
「陛下、多恵殿そろそろ4刻になります。お部屋の移動を…」

あ~お昼だ!どんな料理がでるのかぁ⁈ 朝食の感じだと食文化はあまり元の世界と変わりなさそうだ。

『期待大!!』
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