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3.女神リリス

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落ち着いて色々整理していこう。まず私は多分ではない。鏡が無いから姿を確認出来ないけど違う。は所謂中年体型だ。最近服のサイズは3Lにアップし夫にはゆるキャラ体型とだと揶揄われている。

フェイスラインから首元を触ってみる。…二重顎が無い。次に二の腕…多恵にあった立派な振袖も無い。腹部の…三段腹も無い。脚は…太腿に隙間がある。それに元の髪はショートボフで白髪混じりだけど今はサラサラ黒髪ロング。完全別人だ…
ナイスバディ(古い⁈)は嬉しいけど…って事はやっぱり転生死んでるって事だよね…

恐らく朝出勤する時玄関で倒れたんだ。あの日は皆んな寝坊してバタバタで会話なんてする間も無かった。こんな事ならゆっくり話せば良かった…
最後会話は「遅れる!早よいけ!」だった。

何が泣けて来た。判子の場所さえ知らない亭主関白の夫、今年高校受験の娘。ゴメンね…急に居なくなって

「乙女様!」

急に泣き出した私を見て驚いたメイドさんが馬車から飛び出して行った。馬車の中で一人になり更に涙が溢れてくる。貧乏でもいいから夫と娘の所に帰りたい。涙腺崩壊した私。

「多恵様」

優しい声が耳元でする。そして暖かい何かに包まれる。ほのかに香るシトラス系の爽やかな香り。見上げるとヒューイ様と目が合う。

「貴女が落ち着くまで抱き締める事をお許しください」

そう言いヒューイ様が優しく背中をさすってくれる。

『大丈夫です』と言いたいけど言葉が出てこない。ヒューイ様ごめん。少しの間貴方の腕の中を間借りします。この後ひとしきり泣いて疲れて眠ってしまった。



ふぁぁ…
まだ眠い…半開きの目を擦りながらリビングに下りていく。週末は大抵深夜まで本を読むから朝は遅め。リビングにはTVで撮りためた映画を観ている夫と、タブレットで好きなアイドルのMVを観ている娘。

「朝ごはん!」
『オカン待たずに自分で用意しろ~』
「パパ!タバコ無いでしょ⁈コンビニ買いに行ったら⁉︎ んで、ついでにおにぎり買って来て♪」
『でた~すぐお父さんつかう』
「具は何がいい?1個か?お母さんは菓子パンか?」

娘に甘く妻に気遣い出来る夫と、思春期の割に反抗期無くパパ大好きな娘。

『あ~やっぱりが夢で、が本当やん!よかった…』

安心して2人を見ていたけど…少しおかしい?

「…パパ…お母さんのパンはもう要らないでしょ…」
「…ぶっ仏壇に供るだよ。お母さん菓子パン大好きだったから…」

『えっ!イヤイヤ!私ここに居るし!さっき喋ったじゃない!おーい!朝から放置プレーやめて!』

段々2人の表情がなくなる。

『嘘!だよね!』

思わず叫ぶが2人は無言で画面を観ていて私の声は届かない…

『なんで!』


自分の叫び声で目覚める。
周りは真っ暗。またここ…
足元は羽根の様な物がひきつめられふかふかで暗闇の中だ。

「また戻って来たの…かぁ…」

愕然としてる私の目の前にソフトボール位の光玉が現れ、ふわふわと空中に浮かんでる。思わず手を伸ばすと動いて私の手を避けた。生きてるみたい…

『貴女が多恵ね!』

光玉が喋ったっと思った瞬間、光玉は形を変えて女性の姿になった。脹脛まであるサラサラの銀髪に吸い込まれそうな菫色の瞳。絵本やアニメに出てくる女神様みたい。

『はじめまして多恵。私は第三女神リリス。貴女にお願いがあってお呼びしました』

リリスは穏やかに微笑みを向けてくれる。

「はじまして。川原多恵です。理解不能な事が続いてます。説明していただけますか⁉︎」

彼女が地面に手をかざすとテーブルと椅子が現れた。

『おかけになって。話は長くなりますので…』

勧められて椅子にかけると、彼女が軽くテーブルを叩く。するとティーセットが現れた。

『まずは貴女にお詫びしなければ。急にこちらにお呼びしてごめんなさい。こちらでの生が終われば元の世界にお帰しします。ですから安心して過ごして下さいね。もちろん苦労はさせないわ』
「ですが、戻るって元の世界で私は…戻っても家族のところに帰れない…」

すると微笑んだ女神は

『大丈夫よ。貴女がこちらに来た時間に1秒の差なくお帰します。ここにお呼びした異世界人は必ず元の時間に帰り元どおり生活をしているわ。だから安心して。ここに来て誰かに召喚の説明はされた?』

女神にヒューイ様から聞いた召喚について話し

「私は元の世界でも平凡で、ずば抜けた知識はないです。皆さんの役に立てるとは思えない」

『この箱庭は貴女の世界に比べ文化・知識は劣っています。貴女が常識とする知識はこの箱庭の者には考え付きもしないもの。箱庭の住人は女神の加護がある為、考え生み出すという事をしないのです。
異世界人の影響を受け自分たちで考え創作し問題を解決できるようになって欲しいのです。本来は異世界人が選んだ国だけでは無く、この箱庭全てを救って欲しいの』

「あれ?でもここの人々は異世界人が選んだ国だけが救われると思っていますよ」

私の発言に表情を曇らせた女神は

『私の声は箱庭の住人には届かない。少し長くなるけ今までの召喚の経緯聞いてくれますか⁈』

女神の様子から色々あった事が想像でき、座り直し聞く姿勢をとる。そして女神はゆっくり語り出した。


召喚が初めてされたのが約3000年前。
リリスは異世界と箱庭を神力で繋ぐ事が出来る様になる。女神の加護に依存して欲深くなる人々。
危惧したリリスは異世界から知識を持った人を呼び寄せる。そして箱庭の住人の意識改革を試みる事にした。
リリスは召喚準備が出来ると箱庭の各国代表へ神の啓示をだし、4カ国の国境が接する丘に召還する事を伝えた。
そして召喚の日。各国の代表者が出迎えに集まり、約束の時間に光と共に若い男性が一人降り立ち、集まった箱庭の住人は歓喜した。
何故ならこの時箱庭は争いごとが数十年も続き箱庭の住人は疲弊していた。各国の代表が異世界人に集まり自国へ迎えようと詰め寄る。
どうしていいか分からず戸惑う異世界人。混乱していると無理やり異世界人を連れ去ろうとする輩が出てきて争いが始まった。
この争いから逃げようとした異世界人の男性。
その時ある国の王が

「他国に渡すくらいなら殺せ!」

と兵に命じ、召喚された男性はわずか数十分で命を奪われた。成り行きを見守っていたリリスは、すぐに男性の魂を助け出し、記憶を消して元の世界に帰した。

そこからリリスは試行錯誤を繰り返し、今のように異世界人に向かう国を決めてもらう事にした事で、異世界人の安全は守られる事になった。
選んだ国でこの世界に馴染んでもらってから、救ってもらう様にしたそうだ。
この時代の箱庭の住人は疑心暗鬼で、異世界人を受け入れた国は異世界人の生が終えるまで放さなかった。よってこの時期は召還につき1国しか救えず、混乱解消は時間を要し、続けて召喚したリリスの神力は限界に近かった。
そして徐々にこの箱庭も落ち着きだし箱庭住人は異世界人を頼る様になる。
そして箱庭に受け入れられた異世界人は【女神の乙女(聖人)】と呼ばれるようになった。。
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