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120.忠告

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「…」
 
馬車の中は気不味くアレックスのレベルは5のままだ。バーミリオン侯爵が言うことも一理あり仕方ない。それに伯爵に成り立てのアレックスが侯爵に張り合える訳も無い。例え王太子と同じ妻を娶っていたとしても、アレックスはあくまで伯爵位でしかないのだ。それはどうする事も出来ずアレックスは腹立たしくもどかしいのだろう。これがローランドなら話は別だったかもしれない。まだ気持ちの折り合いが付かないアレックスの手を握り視線を合わせて

「侯爵の屋敷では必ず傍に居てね。部屋も一緒じゃないと私眠れないよ」
「春香…」

アレックスは私を引き寄せ強く抱きしめた。アレックスは真面目で愛情深く私の事をよく見ていてくれる。ちょっと心配性だけどね。アレックスがどんな身分や立場でも好きになっていたと思う。

『それを伝えたいけど今は多分慰めにしかならない。アレックス自信が気持ちの整理を付けないと意味がないよね…』

そう思い口を噤んだ。そして程なくしてバーミリオン侯爵邸の敷地に入り馬車は静かに停まった。
騎士さんが声をかけてくれ扉が開くと、先に着いていた侯爵様と相変わらず妖艶で美しい侯爵夫人が出迎えてくれた。
泊めていただく事にお礼を述べると直ぐに部屋に案内される。てっきり従僕や侍女が案内してくれるのだと思っていたら、夫人自ら案内を始め驚いていると

「ご夫婦同室をご希望との事。部屋は他の部屋と離れ防音が施された部屋ですのでご安心くださいませ」
「はぁ⁈」

あからさまな閨事の話題にアレックスが顔を歪め、相変わらず人の話を聞かない夫人は続けて

「私達の寝室も同様に防音にしておりますが、側に迷惑をかけた事がないのでご心配は要りませんわ。なんせ新婚様ですしね~」

そう言い楽しそうに笑った。苦笑いする私の横で視線だけで相手をなアレックスにヒヤヒヤする。
やっと部屋に入り夫人が退室するとまた不機嫌なアレックス。真面目な彼は下ネタが大嫌いなのだ。でも私と2人の時は際どい事も言うくせにね…
部屋でアレックスに抱っこされ機嫌取りをしていたら、侍女が夕食の準備ができたと呼びに来た。
気分を切り替えアレックスにエスコートされダイニングに着くと、晩餐会かと思うほど豪華な料理がならび、見ただけで胸焼けしてきた。
着席し乾杯すると夫人のトークが炸裂し、アレックスは最低限の相槌だけし、後は完全に無視し黙々と食べている。そして私は…

「春香妃殿下はもう夫は迎えられないのですか?」
「はい。素敵な夫が3人もいますから」
「勿体無いですな~。貴女なら世界中の男が手に入るのに」
「いや…無い無い」『そんな事したら早死にします』

こんな調子でずっと侯爵に話しかけられ食べれない。時折りアレックスが私の世話をするが、食欲もなくまだ前菜から抜け出せない。
いつもは沢山食べるアレックスもあまり食べておらず、後で聞いたら

『あの夫妻と付き合うと痩せそうだな』

と嫌な顔をしていた。そしてやっと食事が終わると、侯爵が私の横に来て手を差し出し

「春香妃殿下のお耳に入れたき事がございます。お時間をいただきたい」
「えっと…夫も一緒でしたら」

ツーショットなんてヤバいに決まっているじゃん!無理だよ。しかし侯爵は

「申し訳ないが夫君はご遠慮いただきたい」
「なんだと!」

アレックスが立ち上がり怒りを露わにする。でもいつも飄々としている侯爵の表情が真剣なのが気になり

「分かりました。しかし条件が2つ」
「お聞きしましょう」
「半時間のみとし、うちの侍女を同席させる事です」

少し考えた侯爵は了承し私の手を引き上げ腰に手を当てた。それを見たアレックスは怒り止めに入ろうとしたが

「アレク。ちゃんと後で話すから今は私を信じて」
「春香!」

捨てられた子犬のように悲しい目をするアレックスに心で謝り、侯爵のエスコートでラウンジに向かう。女慣れしている侯爵のエスコートはスマートだが、必要以上に近く腰に当てる手が少し下なのが気になる。まるで満員電車でお尻付近に手が当てっているが、痴漢なのか偶々なのか判断つかないみたいな?
私は逃げ腰になりながらやっとラウンジに着くと、侯爵はソファーに私を座らせ向かいに座る。
そして侯爵はブランデーを私にはハーブティーが出された。侍女が席を外すと

「やっぱり愛らしい貴女を諦めるには早過ぎかもしれませんな」
「あのお世辞はいいのでお話とは?」
「つれないなぁ…」

そう言い楽しそうに笑う。そしてブランデーを一口飲んだ侯爵は表情を引き締め、前屈みになり

「私からの忠告です」

いきなり物騒な事を言い出して顔が引き攣る。すると私の手を取り

「貴女には私はナンパな者に見えるでしょうが、誰よりもこのレイシャル愛し、王家に忠誠を誓っております」
「あ…はい…」
「貴女様が向かおうとしているイーダン領はご存知の通りインクの名産地。我がレイシャルをはじめゴラスや他国にも輸出し国益に貢献している領地でございます」

そうイーダンのインクは持ちがいいのが有名で、特別な製法で作られたインクは永遠に消える事がなく、王家の書類はイーダン産のインクが使われる。
そんな産地を持つイーダン領の行末をレイシャルの貴族達は注目していたそうだ。

「イーダン子爵殿にはかなり前から貴族が接触し、養子縁組を持ち掛け水面下で争われていた事はご存知ですか?」
「イーダン子爵様が養子縁組を考えておられたのは知っていましたが、そんな事になっていたなんて知りませんでした」

今侯爵が私に話をしたかった内容がなんとなく理解したら、真面目な顔をしていた侯爵は表情を緩め

「やはり貴女は聡明で頭がいい様だ。やはり私の手元に置きたいな…」
「その手の話をされるなら部屋に戻りますよ」
「いやー思わず本音を口にしてしまいました。ご勘弁を」

そう言うとまた一口ブランデーを飲み、妖艶な微笑みを向けてくる。この後は他愛もない話を振ってきた侯爵。
恐らく侯爵はイーダン領は他の貴族も狙っていた領地だから、注意喚起してくれたのだろう。ジャン陛下の凸も知らせてくれたし、この人は悪い人ではないのかも知れない。そんな事を考えながら話を聞いていたら

「私が20若くだったら、決闘してでも貴女を娶りたい」
「物騒な事言わないで下さいよ」

そして急に立ち上がり私の隣に座り抱き寄せ耳元で

「イーダン子領の職人がとある貴族と繋がりを持っていて、奥方を亡くした子爵につけ入りインクの利権を影で操っております。今回の領主交代で利権が無くなる事を危惧し、今必死に手を回している様です。失礼だがアレックス殿は若く経験が浅い。聡い貴女が真意をその曇りのない眼で見聞きし、彼をサポートして欲しい」

私の手を握る侯爵の手つきはエロいが、真剣に私に助言してくれているのが分かる。見上げて侯爵の目をじっくり見たら、侯爵様は少したじろぎ

「貴女の真っ直ぐな瞳にはいつもの建前は通用しない様だ」
「建前?」

そう言うと目尻を下げ優しい眼差しを向けて

「私は表向きは王族の血筋のシュナイダー公爵家をライバル視するバーミリオン侯爵家の当主です。ですが我が侯爵家は王家を水面下ので支える役目を持つ家門で、シュナイダー公爵家が表に立ち王家を守る家門で謂わば光。それに対し我がバーミリオン侯爵家は水面下で王家に対する悪意を探る役目を担う闇なのです。どちらも王家の忠実な家臣です」

そんな話はローランドにもミハイルにも聞いた事がない。でも侯爵は嘘を言っている様には見えない。
目の前の侯爵はエロさは無く、ちゃんと紳士に見えて来た。本来の侯爵は忠誠心と愛国心を持つ紳士なのかも…

「では世間を欺く為にワザと女好きの優男を演じているんですね!」

侯爵の本当の顔を知り王家の為に道化を演じたいたのだと感心していたら、解いた片手で私の顎を持ち上げ綺麗な顔が近づき慌ててると、頬に口付け笑いながら

「女性好きは演技では無く、本質的に私は女性が大好きなのですよ。可能ならこの世の全ての女性と関係を持ちたいですね」
「・・・」

演技では無かったようで只のエロおやじでした。真のエロおやじなら、そろそろ逃げた方がよさそうだ。すると侯爵が視線を私の後ろに送り、つられて私も振り返るとのアレックスが立っていた。どうやら約束の時間になり迎え来てくれた様だ。
するとアレックスは侯爵に密着されている私を見て、眉間の皺を寄せる。

「おやおやもう時間ですか?これからいい所でしたのに、ねぇ春香妃殿下」
「また誤解させるような事言う。離して下さい」

こうしてやっと侯爵から解放されると、直ぐにアレックスが私を抱え込む。そして侯爵は私の手を取り口付けて

「お時間ありがとうございました。ゆっくりお休みください。あと、アレックス殿。男の悋気ジェラシーはみっともないですぞ。愛する妻を信じ、己の腕に帰って来るまで待つものだ」
「・・・」
「侯爵!」
「これ以上アレックス殿をいじめると春香妃殿下に嫌われてしまうので、私はここで失礼致します。良い夜を」

侯爵はそう言いラウンジを出て行った。取り残された私とアレックス。見上げて目が合うと微笑んでくれたので少し安心すると、少し屈んだアレックスは私を抱き上げて私の首元を嗅いで

「あの男の匂いがする。これは一緒に湯に入り綺麗にしなければ」
「いや、自分で…」
「いや。あの男の元へ一人で行かせた俺の責任だから気にするな」
「えっ!あ…」

このまま部屋に直行しアレックスに湯に入れられた。勿論他人様の家で致しませんよ。でもいっぱい口付けを受けヘロヘロにされベッドでぐったりしていた。
侯爵から聞いた話をしたいのに体力が無い。結局何も話せず、アレックスの抱き枕になり翌朝を迎えたのでした。
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