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104.テクルスとレイラ

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“カラン”

グラスの氷が溶けて音を鳴らす。スマホの写真を眺めてどの位経っただろう…
砂時計を見ると残り少なくなって来た。
今見ている写真は友人と人気のパイ専門店に行った時の写真だ。ここで食べたアップルパイ絶品だったなぁ…こっちには無いんだよねアップルパイ。親友の鈴香は甘いモノ苦手でミートパイ食べてなぁ… 鈴香は片想いの同期に告白出来たのかなぁ…
元の世界の思い出に浸りすっかりホームシックだ。
次は龍也の写真が出てきた。男性と話すの苦手だけど従兄弟だからか龍也とはなんでも話せた。龍也はは男前なのに気さくで優しい。いつも気遣ってくれ従兄弟じゃなければ惚れてたなぁ…

その龍也も婚約者がいて結婚するんだ。

「婚約者…」

求婚してくれている3人を思い出した。多分?待ってくれているよね⁈
レイシャルの私の部屋に繋がる黒い扉を見る。もしかして扉に触れたらレイシャルの皆んなが見れるのかなぁ⁈
スマホをテーブルに置いて黒い扉に歩いて行き、扉に触れ3人を頭に浮かべる。
見えてきた。私の部屋のソファーに座り話をしている3人。

「私は春香の美しい黒髪が好きだ。ずって触れていたい」
「俺は柔らかい春香の頬が好きだ。あの頬に触れていると心が穏やかになる」
「俺は綺麗な黒い瞳だ。見つめられると心の奥がビリビリ痺れる」

「…何の話をしてるのよ⁉︎恥ずかしい!」

知らない間に3人仲良くなってるし。3人とも同じ歳でアカデミーが一緒だと言っていた。もし私が同じクラスだったら遠巻きに見てるモブだなぁ…
あんなにいっぱいちゅーしてても、未だに向けてくれる好意が信じられない。レイシャルに残るつもりだけど…まだ少し心揺らぐ私がいる。

『春香…』
「へ?誰?」

扉から手を離し振り返ると光る人影が立っている。お化け!

「ひっ!」
『春香。怯えなくていい。私はテクルスだ』
「てくるす?あのゴラスの神様⁈」

どうやらこの空間を作った神様のようだ。何だろ?

『春香。残るか帰るか決まったかい?砂時計は残り少ないよ』
「はい。レイシャルに残ろうと思います」

テクルスの人影は光りを増し心無しか嬉しそうに見える。するとテクルスは手を出してきた。握手かなぁ?と思い手を出すとてが温かくなる。離すと手の甲が光っている。

「へっ⁈」
『残ってくれるお礼に加護を与えた。これがあれば全ての災いから護ってくれる』
「えっと…ありがとうございます?」

ふと砂時計を見ると本当に後少しになって来た。そろそろ扉を開けないと!
思わずテーブルの上のスマホを見る。

“レイシャルに持って行きたいなぁ”
『春香の世界のモノはレイシャルには持っていけない』
「ですよね…」

最後に両親の写真を見て心の中で”さよなら”を告げる。テクルスにお辞儀をして扉に向かうと

『春香。君に謝りたい』
「なに?えっ今?」

振り返るとさっきより小さいテクルス。謝るっていきなりレイシャルに呼んだ事?

『レイラが王子に加護を与えるのは私への当て付けなのだ』
「当て付けって?」
『レイラは私の妻だ』
「はぁ⁈」

なんと!テクルスとレイラは夫婦。テクルスは全能の神で博愛主義。この世界の全ての女神と女性を愛している。レイラは豊穣の女神で愛が深く嫉妬深いそうだ。テクルスは更に小さくなり語り出した。

「あの…砂時計が…」
『大丈夫だ。長くはならない』

語る気満々のテクルス。神がいるから時間超過でここがいきなり無くなるとかないよね⁈ね⁈マジでやめてね!
っつーかもっと早よ来い(怒)
私を無視で話し出すテクルス。仕方なく耳を傾ける。

テクルスとレイラはこの世界の初めての神。私らの世界でいうアダムとイブみないな?
それぞれ隣に大陸を創り命を与えた。始めはゴラスもレイシャルも男女共に存在していた。世界が広がりテクルスが他の女性や新たに生まれた女神と親交を持つうちに、レイラの嫉妬ジェラシーが酷くなっていった。
そしてある日酷い喧嘩をした直後にレイラはレイシャルに女性が生まれない様にした。その後もテクルスに気にかけて欲しいが為にレイラの行動がエスカレートしていった。
そのせいで男性ばかりになっていくレイシャルにテクルスが危惧し、テクルスが創ったゴラスを女性しか生まれなくする。すると自ずと隣の国で同じ境遇なら、婚姻を促していくだろうとテクルスは考えた。テクルスの思惑通り付き合わせが始まり人口減少は解決した。

安堵したのも束の間、また酷い喧嘩をし嫉妬したレイラは自分しか愛せない加護を王族に与えた。頭を抱えたテクルスは加護を受けた王子の為に、この世界の理から外れる異世界の少女を加護持ちの為に呼び寄せた。それが迷い人だ。

「って事は…迷い人と加護持ちは神様夫妻の喧嘩の巻き添いって事ですか!」
『平たく言えばそうなる』
「・・・」

今の一言で帰りたくなってきた。思わず無言で睨むと更に小さくなるテクルス。
テクルスはレイラを愛しているが、レイラの嫉妬は深く小さな事で喧嘩になるそうだ。
悩んだテクルスはレイラが暴走しない様にコールマン領にグリフを監視役に置いている。どうやらコールマン領はレイラの魂に1番近い場所。だからグリフはコールマン領から離れないんだ。
色んなところで繋がっているんだと感心する。

『春香。私とレイラが夫婦なのは人は知らない』
「内緒にしてって事ですよね」
『すまない』

加護を受けるローランド殿下もミハイルさんも夫婦喧嘩の巻き添いなんだ。ため息を吐きテクルスに

「終わった事に文句言っても仕方ないので、もう4人目の加護持ちと迷い人が出ないようにして下さい。神様だからって好き勝手は駄目ですよ!」
『あぁ…誓おう。ありがとう!さぁ!私の力ももうすぐ切れる扉を開けなさい。時間がない』
「時間がなく無くなったの貴方テクルスのせいだからね!もぅ!」

テーブルの砂時計は本当に終わりそうだ。慌てて黒い扉のノブに触れた。


“きぃ…”


扉が開くと自分の部屋に殿下、ミハイルさん、アレックスさん、クリスさんがいる。

「帰って来たよね?」
「「春香!」」「ハル!」

大柄な3人が一斉に立ち向かってくる。余の迫力に思わず扉を閉めてしまった。

『たった半日会ってないだけなのに、猛烈に恥ずかしい!』

気がついたら廊下を走りエントランスに向かっていた。背後で扉が開く音がして皆んなが呼んでいる。でも合わす顔が分からず止まれない。エントランスに出たらレイモンド父様、アビー母様、ケイン父様が居た。

1番に気付いたレイモンド父様が駆け寄り抱きしめてくれる。

「春香!」
「父様!」

レイモンド父様の温もりに泣きそうになり、次に優しい花の香りがして温かさが増す。

「春香ちゃん!いつから母を泣かす悪い子になったの!」
「ごめんなさい…」
「春香。帰って来てくれたんだね」

顔を上げるとケイン父様が涙目で手を差し伸べてくる。手を伸ばすとケイン父様が優しく抱きしめくれる。
『あぁ…帰って来たんだ』

父様と母様の温もりに涙が出てくる。感動の再会に浸って居たら背後から引っ張られた。
顔を上げるとローランド殿下が後ろから抱きつき、私の頬に雫が降ってくる。

「春香!」

『駄目だ!父様と母様は平気だったのに…恥ずかしい』

俯いて思わず声が小さくなり

「ただいま?」

すると私の様子を察したアビー母様が

「も!うちの娘ちゃんはなんて可愛いの!照れて恥ずかしいのね!ほら、殿下やミハイルそれにアレックスは春香ちゃんをずっと待っていたのよ!ちゃんと向き合いなさい。春香ちゃんはできる子だから大丈夫よ」
「いやいい…春香が帰って来てくれただけでいいんだ…」

そう言ったローランド殿下はつむじに口付けて、ミハイルさんと交代した。ミハイルさんに抱きしめられ、ミハイルさんの胸に顔を埋めミハイルさんの香りに包まれる。

「ハル…」
「えっと…お待たせしました?」
「無理しなくていい。これからいくらでも時間はある」
「うん…」

ミハイルさんは腕を緩め私の手を取り、アレックスさんに差し出した。眉間の皺のレベル検知出来ないアレックスさんは抱きしめ頭を撫でて

「春香…言いたい事は沢山あるのに言葉にならない…」
「心配かけてごめんね」
「いい…お前が帰ったなら…」

アレックスさんは頬に口付けをくれた。まだ落ち着かない私を気遣い、皆さん一旦部屋に戻られ休まれる事になった。話を聞くと私は丸1日半行方不明だったらしい。あのテクルスの空間で2時間ほどしか居なかったのに、時の流れが違うようだ。
私はクリスさんに付き添われ部屋に戻る…部屋までの道すがら時空ときの狭間の話をする。

「春香様…叔母様を見る事は出来ましたか⁈」
「うん!心配してたけど元気そうだったし、私の両親の供養もしてくれている様で安心したの。それにね友人が結婚していてビックリしたわ」

私の話を優しい眼差しを向けて聞いてくれるクリスさん。改めてお礼を言うと微笑み

「送り人になれた事は僥倖でした。今後も貴方を見守って参ります」
「ありがとう!よろしくお願いします」

こうして部屋に戻り軽食をいただきこの日は休む事にした。やっぱり自室のベットは落ち着きよく寝れた。

今日から通常運行です。朝起きベッドを整えて湯浴みをします。今日は求婚者に向き合わないといけないから気合を入れる為にミント系のすっきりするハーブを湯船に入れる。すっきり頭も冴え湯浴みから上がり、着替えてカーテンを開けるといつも通り騎士の皆さんが訓練をしている。
丁度いいタイミングだ。まだ皆さん訓練中だから先に朝食を頂き部屋で何を話すかシュミレーションしようと思い部屋を出た…

「あ・・・」

出鼻をくじかれる。部屋の前に既に3人が立っていた。そして満面の微笑みを送られ顔が熱くなるのが分かる。

「「春香」」「ハル」

順番にハグされ頭の中が真っ白だ。

「えっと…おはようございます?あれ?訓練は?」
「ハルが戻って来たのに訓練なんかしてられると思うか⁈」
「いやしましょうよ!」
「春香。お腹が空いているだろう⁈食事に行こう」
「殿下!朝一来たんですか?」
「いや、昨晩はこちらに泊ったよ」
「王子が外泊とか大丈夫なの?」
「春香。俺らは気にするな。好きで勝手に待っていたのだ」
「いや気にしますから!」

こうして予定が全て狂い訳が分からいまま3人に連行され食事に向かった。
食堂に着くと父様、母様もいらっしゃり…

「春香さん!」「うぐっ!」

いきなり抱き付かれ受け止めきれず倒れそうになると、アレックスさんが背中を支えてくれ転倒は免れる。このハーブの匂いは

「マニュラ母様⁈」
「もぅ!母は泣きすぎて痩せてしまったわ!悪い子ね。ほら母に可愛い顔を見せて」
「ご心配おかけしました。そしてただいまです」

もう一人の母に抱きしめられ幸せを感じていたらクリスさんが来て

「皆さま。食事の準備ができております。席にどうぞ」
「はぁ~ぃ…ん?」

皆さんの目が温かい。ケイン父様なんて目頭をハンカチで押さえている。戸惑っているとクリスさんが席に案内してくれ着席し食事を頂く。

『たのしい…』

皆さん和気藹々と食事を楽しみまたフードファイター並みの食事風景を見れた。
食後のデザートになったところでレイモンド父様が

「春香。体調がいいなら昼から登城し陛下にご挨拶に行くよ」
「あっはい。大丈夫です」

こうして陛下に謁見する事になり午前中は登城準備で忙しくなる。

「ハル。我ら求婚者に時間を少し取って欲しい」
「えっと…はい…」

まるで面接の様に順番に一人ずつと話す時間を取った。もぅ自分で予測していたのと違うからどうしていいか分からないよ!
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