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102.回想4《ミハイル、アレックスside》

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春香は俺と(仮)婚約をしたまま王城の資料室や図書館で帰り方を探している。次の付き合わせまで約半年、それまでに春香の心を得ないと解消になり、春香は平民の男の元へ嫁いでしまう。必死だった。恐らく殿下もジョシュも。
春香は謙虚で礼儀正しく愛嬌があり全ての人から愛されている。特に屋敷の者は春香が来てからは活気づき雰囲気も明るくなった。春香も不安げな表情が減り笑顔を向けてくれる事が増えた。だから安心し春香の心情を全く察していなかった。春香は我慢していたのだ。殿下の意向で王都の町屋敷で暮らすようになり、平民の春香は令嬢の様に侍女に身の回りの事をさせるのではなく自分で何でもする。自室の掃除に洗濯、湯浴みや着替えまでも。侍女や従僕と楽しそうに話してながら働いているのを見ると心が和む。そんな穏やかな日々が続くと思っていたある日

「ミハイル様!早馬が来て町屋敷で春香様が倒れられ、今領地の屋敷に移されているそうです。直ぐに屋敷にお戻り下さい!」
「何があった⁈」

屋敷に戻ると町屋敷の護衛騎士が無言で手紙を渡してくる。騎士は憤っている様だ。騎士のその態度に一抹の不安を感じ手紙を受取り読むと…

「!!」

アレックスに何か言われて春香は憤慨し帰りたいと叫んで裸足で屋敷から出て行こうとしたと書いてある。

『彼奴か!初対面の時から春香にきつく当たり危惧していたが、殿下の右腕で妃に望む春香に危害はないと思っていたが!』

手紙を読み終わると騎士が辛そうに

「女性のあんな悲痛な叫びは初めて聞きました。春香様は抱き留められても帰りたいと泣き抗いその場で気を失われました。裸足で走ったせいで足は傷だらけで見ておれませんでした。何が春香様をそこまで追いつめてのでしょう…」
「!!」

騎士の言葉に衝撃を受け直ぐに屋敷に戻り、馬車の到着を待つがなかなか時間が進まない!イライラしながら外で馬車を待った。そして日も暮れ遅い時間に春香と母上は帰って来た。
馬車が停まり飛び乗ると春香は母上に抱かれ驚いた表情をしている。

「っつ!」

春香の頬には涙の痕が…
春香は戸惑っていて様子がおかしい。取りあえず春香を父上の執務室へ運びソファーに下すとロックが食事を運び春香はゆっくり食べている。その様子を見ていたらクリス近くに来てが小声で

「春香様は今日の記憶を失くされております。医師の診察があるまでアレックス様との事は触れないで頂きたい」
「分かった…」

記憶を失くすほどの衝撃だったのか!
程なくして来た医師は診察を始め足の包帯を解いて傷の確認する。両足が傷だらけで心が痛み見てられない。春香はこんなにひどい傷を負った事すら覚えていないのだ。
とりあえず春香はこの屋敷で暫く療養する事になった。記憶の無い春香は町屋敷に帰らなくていいのか心配している。どこまでもお人好しな春香。だから色々抱え込むのだろう。

春香を部屋に送り父上の執務室に戻ると、眉を顰めて苦い顔をしたクリスが状況を説明しだした。

「国母だと!彼奴アレックスはそんな事を言ったのか!」
「はい。その直後に町屋敷に来たくなかったと言い、公爵家屋敷に帰れないならこの国から出て行くと言われ素足のまま門まで駆けて行かれました。そして正門で追い着くと、家に帰してと泣き叫ばれ…その直後に気を失われました。そして…」

記憶を失くすほど辛かったのだろう。そうだ春香は初めから家に帰りたいと言っていた。迷い人である春香を欲する余り、春香の気持ちを察せなかったんだ。
春香を追い込んだのは俺達だ。直接の原因かはアレックスだが彼だけを責めれない。春香の本心を知りショックを受ける。俺は愛を送っていればいつか受け入れてくれると安易に考えていた。
父上の執務室で落ち込んでいると、父上が明日陛下に報告しに登城するという。
温厚で冷静な父上が激情しているのを初めてみた。恐らく父上は春香を娘の様に思われているのだろう…


春香が倒れた日の事を話していてアレックスと目が合う。彼はバツが悪そうだ。
当たり前か…アレックスの一言で春香が傷付き、心の底から帰りたいと願いテクルスが応えたのだ。

あの時は殴ってやりたいと思ったが、テクルスの啓示を受け春香の味方になったアレックスは春香を大切にし守って来た。今や春香の心をもらい彼女を守り愛する同士だ。だがあの時の事を思い出すと簡単に割り切れなくて、少し意地の悪い事を言う。

「アレックス。春香が記憶を無くしたあの日の話を聞きたい。あと春香の世界をテクルスに見せてもらったのだろう⁈春香の世界も知りたい」

視線を落とした彼は

「あの日の事か…正直辛いなぁ…しかし、今話す機会タイミングなのかもしれんな」


顔を上げると部屋の隅に控えるクリスが視界に入り、彼から冷たい視線を受ける。春香が倒れた日からクリスはあからさまに俺に厳しい。1番近くてあの出来事を見聞きしていたからだろう。
殿下は微妙な表情をして足を組み替え俺の話に耳を傾ける。ミハイル殿に話を振られ、あの日話をする前に春香が初めて登城した日の事を思い出していた。



あの日は急な任務で出ており、夕刻帰って落ち込む殿下から話を聞き春香に怒りむける。
物心ついた頃から共に育ったローランド殿下は親友であり兄弟の様な間柄だった。
加護を受けた殿下は女性に触れられず、母である王妃に抱きしめられたことも無く愛に飢えていた。殿下を抱きしめれるのは迷い人だけ。そして殿下は成長と共に迷い人への憧れが強くなっていった。
殿下が成人を迎えるとお忍びで城下に迷い人を捜しに行き日々が始まる。何年経っただろう…俺が付き添わない日は一人で捜しに行かれる。その日も変わりなくお1人で捜しに行かれた。

いつもの様に見つからないと思っていた俺は帰城し報告を受け思わず城内を走り殿下の元に急いだ。殿下は頬を赤らめ興奮し迷い人の話をする。俺は半信半疑だが涙目で微笑む殿下に泣きそうになる。そして数日後に登城する迷い人に会えるのを楽しみにしていた。
が…また任務が入り会えない。殿下の話では小柄な愛らしい面立ちの乙女らしい。恐らくそのまま王城で暮らす事になり、帰城すれば会えるだろうと安易に考えていた。

「はぁ?拒んだ⁈」
「春香は迷い人では無いと言い、帰り方が分かれば帰ると言ったんだ。更に帰れないなら平民に嫁ぎ王子や貴族は嫌だと言われた」

殿下の話を聞き頭に血が上り震えた。迷い人は加護持ちの為にこの世界に来たんじゃ無いのか!
殿下を拒む迷い人を理解出来ず苛立ちと怒りを覚える。そして数日後殿下と共にシュナイダー公爵家にいる迷い人の元へ行く事になった。殿下は迷い人に会えると機嫌良く贈り物を準備している。俺は日に日に迷い人に苛立ちが増すばかりだ。

やっと迷い人の元へ行く日になった。朝からソワソワした殿下に伴い公爵家に着いた。
そして間抜けな顔をし待ち構えていた迷い人を睨む。

『本当に成人女性なのか?どう見ても13歳位だろう。それに大した容姿でも無い。まぁ美しい髪と瞳はしているが…』

迷い人を睨むと俺の視線に気付いた迷い人は眉尻を下げオドオドしている。殿下は手袋を外し迷い人に触れる。話に聞いてはいたが素手で迷い人に触れている。嬉しそうな殿下に自分の事の様に嬉しい。が…その後迷い人を注視するがなんだ⁉︎あの態度は!殿下に冷たい。それに殿下に秋波を送らない女性を初めて見た。
目に余る対応に苦言を言うと殿下には叱責され、迷い人には嫌そうな顔をされる。何故だ俺が間違っているのか!
納得いかない状況に腹を立てながら会食会場に移動する。迷い人は殿下が贈ったドレスに着替えに行き未だ戻らない。これだからグズでとろい女が好きになれんのだ。あまりにも遅く様子を見に廊下に出ると、何故か一人で歩いてくる迷い人。

『侍女はどうした!』

迷い人の行動が理解できないのと態度に苛立っていた俺は嫌みを言う。
するとあからさまに不機嫌な顔をした迷い人は食事会場に行かず踵か返し何処かに行こうとする。呼び止めようとしたらジョシュが現れジョシュが迷い人を連れて行ってしまった。
また俺が間違っているのか⁈何が正しいか分からなくなって来た。
会食が始まると殿下が楽しいそうに迷い人に話しかけるが、眉尻を下げ食事をする迷い人。見ていると食が細い様だ。だが必死に食べる姿が小動物の様で少し微笑ましく感じ見ていると、皆が同じ様に迷い人を口元を緩ませ見ている。異世界人はの気を引くのが上手いらしい。

食後は庭園に散策する為移動すると黒い大きな犬が凄いスピードで向かってくる。咄嗟に殿下と迷い人を背に庇い抜刀しよう剣に手をかけると。迷い人が俺の右腕に飛び付き抜刀を阻止した。

『なっ!!』

背の低い迷い人は俺の腕にぶら下がっている。

『こいつちゃんと食べているのか⁈軽すぎる!それに…』

右腕に感じる柔らかい手の感覚とほのかに香る花の香りに経験した事のない感覚に戸惑う。

『なんだこれは!胸の奥が疼く。異世界人特有だろうか…』
「お前いつまでぶら下がっている気だ」

我に返りそう告げるとミハイル殿が迷い人を抱え込んだ。右手から温もりが消え喪失感に襲われる。
今日の俺は不調だ。この異世界人に会ってから調子が狂う。感じたことも無い感覚に戸惑うばかりだった。
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