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86.ちゅー
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無事終わったのに陛下何言い出すんですか⁉︎ 機嫌が急降下のローランド殿下とアレックスさん。そして慌てているバルカンさん。この後は夜まで予定は無いけど、バルカンさんは陛下の護衛はいいのだろうか⁈
「私はこの後予定が無いので大丈夫ですが、陛下の護衛は大丈夫なんですか⁈」
「騎士はバルカンだけでは無く問題ない」
「陛下!」
「これは君主としてでは無く親友として言う。バルカン!ちゃんと春香殿に伝えねば後悔するぞ!」
「ジャン…お前は頑固者で言い出したら折れない奴だったなぁ…」
2人のやり取りを見ていてローランド殿下とアレックスさんみたいだと思った。いい関係だなぁ…
「バルカンさん。メリージェーンさんが同席してもいいならお受けします」
「「・・・」」
不機嫌な殿下とアレックスさんだけど駄目とは言わない。基本危険がない限り私の意思を尊重してくれる。それは信用されている様に感じるから嬉しい。
殿下とアレックスさんの元に行き手招きして、屈んでくれた2人の頬にキスをし
「信頼して許してくれてありがとう。次の公務頑張って下さいね」
「「春香!」」
2人に抱きつかれた。筋肉布団は暖かい…
「隣に部屋を用意しさせた。ありがとう春香殿。バルカンしっかり想いを告げて来い」
「陛下と春香様に感謝致します」
殿下とアレックスさんそれとジャン陛下を見送り、バルカンさんのエスコートで隣の部屋に移動する。
こじんまりした部屋にソファーセットがあり、私を座らせ向かいに座るバルカンさん。ジョシュさんは扉外に控えてくれ、メリージェーンさんは部屋の端に控える。
直ぐに女官さんがお茶と入れてくれた。明らかに緊張しているバルカンさん。向かい合い改めて見るとバルカンさんも美形な上に服の上からも凄い筋肉なのが分かる。さすが陛下の護衛騎士だ。
話すきっかけが無くて話題を捜していたらバルカンさんが
「春香様はローランド殿下とアレックス殿と婚姻をお決めになったのでしょうか⁈」
「いえ、恋人以上婚約者未満と言ったところでしょうか…」
「??」
この世界では“両想い=婚約・婚姻”になるようで、恋人期間がほぼない。日本人の私はやっぱり恋人期間は相手との将来を見極めるのに大切だと思っている。
「恐らく私がいた世界と違い理解しずらいと思います。それに元の世界では成人は20歳ですし、10代での婚姻は少なく、私の友人や身近な人でもいなかったんです。ですから婚姻って言われてもイメージできなくて… 殿下やアレックスさんに待ってもらう事になりました。それに私の立場は特殊で一妻多夫を認められています。だからと言って逆ハーレムとか望んでなくてですね…」
「逆ハーレム?」
そっかそんな認識何てこっちには無いんだ。意味を軽く説明したら理解していただいたようだ。
「では、お2人を夫に迎え他との縁は…」
「シュナイダー公爵家ミハイルさんから求婚を受けています。帰国後にお返事する約束をしています」
「その感じではお受けになるのですね…」
頷くとバルカンさんはミハイルさんの話をし出した。前回のレイシャル訪問時に初めて会い物静かな男性としか認識していなかったらしい。急に黙りそして少しの沈黙の後、意を決した様にバルカンさんが聞いてくる
「恐れくお答えいただけないと思うのですが、ミハイル殿は只者ではありませんね」
「なっなぜそう思ったんですか⁈」
あっぶない!声が上ずった。嘘がつけないのよね私…。バルカンさんが言うには騎士で無い貴族男性の剣裁きではないと言う。
「怪力のジャン陛下がミハイル殿の剣を両手受け止めてもギリギリで、あと少しあの状態が続けはきっと陛下はミハイル殿に切られていた。力もさることながら動きに全く無駄がなく、女神の加護を受けられているローランド殿下の様だった」
昔にジャン陛下とローランド殿下が手合わせをした事があり、バルカンさんはその場にいたのでローランド殿下の太刀筋は知っているようだ。
「私は詳しいことは知りませんが、ミハイルさんのお母様が元ゴラスの騎士で、幼い頃から鍛えられていたと聞いていますが」
これで誤魔化せるといいけど…
「貴女を恋う者達は強者ばかりで正直勝てる気がしません。しかしお恥ずかしながら春香様は私が初めて愛おしと想えた女性なのです」
「いや!ヴェルディアには素敵な女性が沢山いるではありませんか⁉︎ 私みたいな幼いちんちくりんなんか…」
「はぁ…貴方はご自分の魅力をご存じない。こんなに愛らしく庇護欲を掻き立てるかと思えば、確固たる意志をもち自立している。本当に素晴らしい女性だ。こんな素晴らしい女性は金輪際で会えない!」
「いや!普通に出会えますから。皆さん。私に対する評価が激甘です」
褒めたたえられ恥ずか死ぬよ!褒め褒め攻撃にタジタジの私を見てメリージェーンさんが隅で笑っている。
視線をバルカンさんに戻すと優し眼差しで見つめられ逃げ出したくなる。あまり交流が無いがいい人なのは分かる。でも…今でも3人から求婚されいて、やって行けるか不安しかないのに… ましてバルカンさんはヴェルディア在住だ。行き来するのに船で2日もかかる。ジャン陛下の片腕のバルカンさんが私と婚姻する為にレイシャルに来るなんて事は無いだろうし…だから現実問題無理である。
もし求婚されたらどうやって断ろうか考えていたら、バルカンさんが手て口元を隠し小刻みに震えている。
「?」
「失礼。春香様は本心を隠せないようですね。私に求婚されたらどうやって断ろうか考えていたでしょう?」
「はい!バルカンさん人の心が読めるんですか⁈」
「いえ、貴女の表情がそう言っているんです。やはり困らせてしまいましたね」
無口なイメージがあったが話し出すと結構饒舌なバルカンさん。バルカンさんはテクルスの啓示を受ける前のアレックスさんに似ている。ジャン王太子が王になる為に尽力し、己の幸せよりジャン王太子を優先してきた。男性の適齢期を過ぎてもジャン王太子の即位まで縁談も女性の告白も全て断って来たそうだ。そこに“珍獣”と遭遇し興味を持ったのだろう。
「ですから、春香様は気にしないで下さい。レイシャルにいらっしゃる貴女との縁は難しいのは私が良く分かっています。貴女を妻にと思う気持ちもありますが、即位した陛下を残してレイシャルに行く事は私には出来ない。貴女も他の求婚者と別れてヴェルディアに来る選択はされないでしょ。貴女がレイシャルではなくヴェルディアに渡ってくれていたら、私は誰にも貴女を渡さない。しかしこれはテクルスがお決めになった事。どれだけかかるか分かりませんが、貴女への想いは思い出になる日は来るでしょ」
「バルカンさん。…水を差す様ですが、もし私が異世界からヴェルディアに来たら多分数分で凍死してしまい、バルカンさんに会うのは難しいかと…」
「ぷっ!」
部屋の隅のメリージェーンさんが下を向いて小刻み震え明らかに笑っている。目の前のバルカンさんはキョトンだ。だって私がこっちに来た時薄いワンピースに裸足だよ。こんな真冬の北海道みたいなヴェルディアに来たら間違いなく凍死っしょ!
「春香様…貴女と言う人は…」
「ジャン陛下が縁談の話をされていましたが」
「はい。リリアン嬢に1つ上の姉上がおられその方から縁談を申し込まれております」
「もしかしてエミリア様?」
「はい。ご存じですか?」
「いえ、お名前だけ」
話を聞くと数年前に家同士で縁談話が出たが、バルカンさんはジャン王太子が王に即位するまで婚姻しないと宣言しお断りしたそうだ。
エミリア様はそれまで待つので婚約だけでもと縁を望んだそうだが、バルカンさんはそれも断りジャン王太子に家臣となった。
どうやらその後エミリア嬢は他の縁談を全て断り、女性の適齢期を超えてもバルカンさんを待っていたそうだ。
「凄い!一途な片思い!」
「私は覚えていないのですが、どうやら彼女がデビュタントの時にしつこく言い寄る男から助けたらしいのです。それからずっと慕ってくれていた様でして…」
「素敵!ラノベの出会いあるあるじゃないですか!」
胸ドキしてきた。もうこれは運命だよ。私なんかによそ見していないでエミリアさんとお見合いしてください。…また卑下するとアレックスさんに叱られるから内緒にしておこう。
「えっと…バルカンさんのお気持ちは嬉しいのですがお応えできません。慕ってくれる女性もいらっしゃるし、貴方のご活躍と幸せをお祈りいたします」
「自分でも納得したつもりですが、正直ショックですね初恋と失恋を同時に経験しました」
「大丈夫です。真面目に生きている人は必ずいい事が起きますから」
「思い出に抱きしめて頬に口付けていいですか…」
「はい。喜んで」
するとバルカンさんは目の前に来て手を差し伸べ、手を重ねると引き上げて優しく抱きしめた。この世界の男性は皆さん鍛えていて胸板が厚くそして温かい。香水を付けているのかいい匂いがして男臭い人がいない。いつもの香りでは無いから少し恥ずかしい。バルカンさんは大きなごつごつした手を頬に当てて頬に口付けた。間近で目が合うと何故か嫌な予感がする。近くない?バルカンさんの瞳はキスする時の殿下やアレックスさんの瞳と同じに感じ思わず仰反る。すると背後から
「バルカン殿!それ以上は私が抜刀する事になりますのでお控え下さい」
メリージェーンさんが来てくれていた。やっぱりピンチだった?
バルカンさんは慌てて謝罪されそれをお受けした。こうして少し後味が悪くなったがバルカンさんとの面会を終えて部屋にもどる。
退室の挨拶をして部屋を出るとジョシュさんが待っている。やっと皆んなで部屋に帰ります。ジョシュさんはニヤニヤしながら見てきます。どんな話をしたのか興味津々みたい。誰か聞いているか分からないから
「部屋でしか話さないよ!」
「ならば早く戻ろう!春香ちゃん抱いて歩こうか⁈」
「!」
メリージェーンさんの表情から私が何かしたと思っているジョシュさんは楽しげだ。昨晩ハンナ王女との事を揶揄い過ぎたかなぁ…仕返しされてる感が!
やっと部屋に戻り楽な服に着替えます。着替えが終わり部屋に行くとニヤニヤ顔のジョシュさんと険しい顔のメリージェーンさんが待ち構えている。こっここは説教部屋⁈
ソファーに座り一息吐くとやっぱりメリージェーンさんから注意を受ける。
「以前から感じていましたが、春香さんは警戒心が無さ過ぎます。譲歩してバルカン殿との最後の抱擁は許されても、頬への口付けはお断りすべきです!」
「頬の”ちゅー” は挨拶じゃないの⁈」
「それは親しい間柄のみで、好意のある者にすれば誤解を与えますわ!」
そうなんだ。皆さん頬にちゅーしてくれるから、てっきり挨拶なんだと思っていた。
「春香ちゃん!”ちゅー”とは口付けの事?」
「はい。私の世界では若い人が軽くする口付けを”ちゅー”と言います。”ちゅー”の次は”キス”かなぁ」
“ちゅー”と言う言い方が気に入ったのか、更に質問してくるジョシュさん。
「じゃージョシュさん。好きな人に”口付けを下さい”と言われるのと、”ちゅーして”とどちらが可愛い?」
「”ちゅー”て響きは愛らしく感じ、いやらしく聞こえないね。俺は好きだなぁ…」
ジョシュさんは誰を想像しているのかなぁ⁈分かってるけど!ふとメリージェーンさんが視界に入ると、両手で頬を押さえて真っ赤な顔をしている。
「メリージェーンさん?」
「そんな表現があるなんて知らなかったですわ!彼に言ったら何と言うでしょうか⁈」
「可愛いって言うと思うよ」
「まぁ!どうしましょう!」
護衛の2人は”ちゅー”に翻弄されている。このままバルカンさんにキスされそうになった事を忘れて欲しい。だって殿下とアレックスさんにバレたら説教で多分済まない。この調子で”ちゅー”談義でバルカンさんのキス未遂を忘れてもらえたと安心していた。しかし後に殿下とアレックスさんにバルカンさんとの事を暴露される事になった。
「私はこの後予定が無いので大丈夫ですが、陛下の護衛は大丈夫なんですか⁈」
「騎士はバルカンだけでは無く問題ない」
「陛下!」
「これは君主としてでは無く親友として言う。バルカン!ちゃんと春香殿に伝えねば後悔するぞ!」
「ジャン…お前は頑固者で言い出したら折れない奴だったなぁ…」
2人のやり取りを見ていてローランド殿下とアレックスさんみたいだと思った。いい関係だなぁ…
「バルカンさん。メリージェーンさんが同席してもいいならお受けします」
「「・・・」」
不機嫌な殿下とアレックスさんだけど駄目とは言わない。基本危険がない限り私の意思を尊重してくれる。それは信用されている様に感じるから嬉しい。
殿下とアレックスさんの元に行き手招きして、屈んでくれた2人の頬にキスをし
「信頼して許してくれてありがとう。次の公務頑張って下さいね」
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殿下とアレックスさんそれとジャン陛下を見送り、バルカンさんのエスコートで隣の部屋に移動する。
こじんまりした部屋にソファーセットがあり、私を座らせ向かいに座るバルカンさん。ジョシュさんは扉外に控えてくれ、メリージェーンさんは部屋の端に控える。
直ぐに女官さんがお茶と入れてくれた。明らかに緊張しているバルカンさん。向かい合い改めて見るとバルカンさんも美形な上に服の上からも凄い筋肉なのが分かる。さすが陛下の護衛騎士だ。
話すきっかけが無くて話題を捜していたらバルカンさんが
「春香様はローランド殿下とアレックス殿と婚姻をお決めになったのでしょうか⁈」
「いえ、恋人以上婚約者未満と言ったところでしょうか…」
「??」
この世界では“両想い=婚約・婚姻”になるようで、恋人期間がほぼない。日本人の私はやっぱり恋人期間は相手との将来を見極めるのに大切だと思っている。
「恐らく私がいた世界と違い理解しずらいと思います。それに元の世界では成人は20歳ですし、10代での婚姻は少なく、私の友人や身近な人でもいなかったんです。ですから婚姻って言われてもイメージできなくて… 殿下やアレックスさんに待ってもらう事になりました。それに私の立場は特殊で一妻多夫を認められています。だからと言って逆ハーレムとか望んでなくてですね…」
「逆ハーレム?」
そっかそんな認識何てこっちには無いんだ。意味を軽く説明したら理解していただいたようだ。
「では、お2人を夫に迎え他との縁は…」
「シュナイダー公爵家ミハイルさんから求婚を受けています。帰国後にお返事する約束をしています」
「その感じではお受けになるのですね…」
頷くとバルカンさんはミハイルさんの話をし出した。前回のレイシャル訪問時に初めて会い物静かな男性としか認識していなかったらしい。急に黙りそして少しの沈黙の後、意を決した様にバルカンさんが聞いてくる
「恐れくお答えいただけないと思うのですが、ミハイル殿は只者ではありませんね」
「なっなぜそう思ったんですか⁈」
あっぶない!声が上ずった。嘘がつけないのよね私…。バルカンさんが言うには騎士で無い貴族男性の剣裁きではないと言う。
「怪力のジャン陛下がミハイル殿の剣を両手受け止めてもギリギリで、あと少しあの状態が続けはきっと陛下はミハイル殿に切られていた。力もさることながら動きに全く無駄がなく、女神の加護を受けられているローランド殿下の様だった」
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「いや!ヴェルディアには素敵な女性が沢山いるではありませんか⁉︎ 私みたいな幼いちんちくりんなんか…」
「はぁ…貴方はご自分の魅力をご存じない。こんなに愛らしく庇護欲を掻き立てるかと思えば、確固たる意志をもち自立している。本当に素晴らしい女性だ。こんな素晴らしい女性は金輪際で会えない!」
「いや!普通に出会えますから。皆さん。私に対する評価が激甘です」
褒めたたえられ恥ずか死ぬよ!褒め褒め攻撃にタジタジの私を見てメリージェーンさんが隅で笑っている。
視線をバルカンさんに戻すと優し眼差しで見つめられ逃げ出したくなる。あまり交流が無いがいい人なのは分かる。でも…今でも3人から求婚されいて、やって行けるか不安しかないのに… ましてバルカンさんはヴェルディア在住だ。行き来するのに船で2日もかかる。ジャン陛下の片腕のバルカンさんが私と婚姻する為にレイシャルに来るなんて事は無いだろうし…だから現実問題無理である。
もし求婚されたらどうやって断ろうか考えていたら、バルカンさんが手て口元を隠し小刻みに震えている。
「?」
「失礼。春香様は本心を隠せないようですね。私に求婚されたらどうやって断ろうか考えていたでしょう?」
「はい!バルカンさん人の心が読めるんですか⁈」
「いえ、貴女の表情がそう言っているんです。やはり困らせてしまいましたね」
無口なイメージがあったが話し出すと結構饒舌なバルカンさん。バルカンさんはテクルスの啓示を受ける前のアレックスさんに似ている。ジャン王太子が王になる為に尽力し、己の幸せよりジャン王太子を優先してきた。男性の適齢期を過ぎてもジャン王太子の即位まで縁談も女性の告白も全て断って来たそうだ。そこに“珍獣”と遭遇し興味を持ったのだろう。
「ですから、春香様は気にしないで下さい。レイシャルにいらっしゃる貴女との縁は難しいのは私が良く分かっています。貴女を妻にと思う気持ちもありますが、即位した陛下を残してレイシャルに行く事は私には出来ない。貴女も他の求婚者と別れてヴェルディアに来る選択はされないでしょ。貴女がレイシャルではなくヴェルディアに渡ってくれていたら、私は誰にも貴女を渡さない。しかしこれはテクルスがお決めになった事。どれだけかかるか分かりませんが、貴女への想いは思い出になる日は来るでしょ」
「バルカンさん。…水を差す様ですが、もし私が異世界からヴェルディアに来たら多分数分で凍死してしまい、バルカンさんに会うのは難しいかと…」
「ぷっ!」
部屋の隅のメリージェーンさんが下を向いて小刻み震え明らかに笑っている。目の前のバルカンさんはキョトンだ。だって私がこっちに来た時薄いワンピースに裸足だよ。こんな真冬の北海道みたいなヴェルディアに来たら間違いなく凍死っしょ!
「春香様…貴女と言う人は…」
「ジャン陛下が縁談の話をされていましたが」
「はい。リリアン嬢に1つ上の姉上がおられその方から縁談を申し込まれております」
「もしかしてエミリア様?」
「はい。ご存じですか?」
「いえ、お名前だけ」
話を聞くと数年前に家同士で縁談話が出たが、バルカンさんはジャン王太子が王に即位するまで婚姻しないと宣言しお断りしたそうだ。
エミリア様はそれまで待つので婚約だけでもと縁を望んだそうだが、バルカンさんはそれも断りジャン王太子に家臣となった。
どうやらその後エミリア嬢は他の縁談を全て断り、女性の適齢期を超えてもバルカンさんを待っていたそうだ。
「凄い!一途な片思い!」
「私は覚えていないのですが、どうやら彼女がデビュタントの時にしつこく言い寄る男から助けたらしいのです。それからずっと慕ってくれていた様でして…」
「素敵!ラノベの出会いあるあるじゃないですか!」
胸ドキしてきた。もうこれは運命だよ。私なんかによそ見していないでエミリアさんとお見合いしてください。…また卑下するとアレックスさんに叱られるから内緒にしておこう。
「えっと…バルカンさんのお気持ちは嬉しいのですがお応えできません。慕ってくれる女性もいらっしゃるし、貴方のご活躍と幸せをお祈りいたします」
「自分でも納得したつもりですが、正直ショックですね初恋と失恋を同時に経験しました」
「大丈夫です。真面目に生きている人は必ずいい事が起きますから」
「思い出に抱きしめて頬に口付けていいですか…」
「はい。喜んで」
するとバルカンさんは目の前に来て手を差し伸べ、手を重ねると引き上げて優しく抱きしめた。この世界の男性は皆さん鍛えていて胸板が厚くそして温かい。香水を付けているのかいい匂いがして男臭い人がいない。いつもの香りでは無いから少し恥ずかしい。バルカンさんは大きなごつごつした手を頬に当てて頬に口付けた。間近で目が合うと何故か嫌な予感がする。近くない?バルカンさんの瞳はキスする時の殿下やアレックスさんの瞳と同じに感じ思わず仰反る。すると背後から
「バルカン殿!それ以上は私が抜刀する事になりますのでお控え下さい」
メリージェーンさんが来てくれていた。やっぱりピンチだった?
バルカンさんは慌てて謝罪されそれをお受けした。こうして少し後味が悪くなったがバルカンさんとの面会を終えて部屋にもどる。
退室の挨拶をして部屋を出るとジョシュさんが待っている。やっと皆んなで部屋に帰ります。ジョシュさんはニヤニヤしながら見てきます。どんな話をしたのか興味津々みたい。誰か聞いているか分からないから
「部屋でしか話さないよ!」
「ならば早く戻ろう!春香ちゃん抱いて歩こうか⁈」
「!」
メリージェーンさんの表情から私が何かしたと思っているジョシュさんは楽しげだ。昨晩ハンナ王女との事を揶揄い過ぎたかなぁ…仕返しされてる感が!
やっと部屋に戻り楽な服に着替えます。着替えが終わり部屋に行くとニヤニヤ顔のジョシュさんと険しい顔のメリージェーンさんが待ち構えている。こっここは説教部屋⁈
ソファーに座り一息吐くとやっぱりメリージェーンさんから注意を受ける。
「以前から感じていましたが、春香さんは警戒心が無さ過ぎます。譲歩してバルカン殿との最後の抱擁は許されても、頬への口付けはお断りすべきです!」
「頬の”ちゅー” は挨拶じゃないの⁈」
「それは親しい間柄のみで、好意のある者にすれば誤解を与えますわ!」
そうなんだ。皆さん頬にちゅーしてくれるから、てっきり挨拶なんだと思っていた。
「春香ちゃん!”ちゅー”とは口付けの事?」
「はい。私の世界では若い人が軽くする口付けを”ちゅー”と言います。”ちゅー”の次は”キス”かなぁ」
“ちゅー”と言う言い方が気に入ったのか、更に質問してくるジョシュさん。
「じゃージョシュさん。好きな人に”口付けを下さい”と言われるのと、”ちゅーして”とどちらが可愛い?」
「”ちゅー”て響きは愛らしく感じ、いやらしく聞こえないね。俺は好きだなぁ…」
ジョシュさんは誰を想像しているのかなぁ⁈分かってるけど!ふとメリージェーンさんが視界に入ると、両手で頬を押さえて真っ赤な顔をしている。
「メリージェーンさん?」
「そんな表現があるなんて知らなかったですわ!彼に言ったら何と言うでしょうか⁈」
「可愛いって言うと思うよ」
「まぁ!どうしましょう!」
護衛の2人は”ちゅー”に翻弄されている。このままバルカンさんにキスされそうになった事を忘れて欲しい。だって殿下とアレックスさんにバレたら説教で多分済まない。この調子で”ちゅー”談義でバルカンさんのキス未遂を忘れてもらえたと安心していた。しかし後に殿下とアレックスさんにバルカンさんとの事を暴露される事になった。
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