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75.デコピン
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「はぁ…ゔっ!」
「申し訳ありません!強かったでしょか?」
「大丈夫です」
今早朝に起こされ未だ寝ぼけているのに浴槽にほり込まれて、湯浴みさせられ今3人がかりでマッサージされている。昨日は1日部屋に籠っていて運動不足のせいか浮腫んでいたようだ。
痛いのを我慢した甲斐があり全身スッキリした。自分の脚を見てこんなにスッキリした脚を見るのは久しぶりの様な気がする。
綺麗なシルクのガウンを着せられやっと食事を取れる。引きこもりでもお腹が空くのだ。しかし出された食事は超軽食!スープとサラダとフルーツだ。
『えー!夕方まで食べれないのにこの量?密かにいじめられてる?』
するとメリージェーンさんは笑いながら
「春香さん。今日のドレスはタイトなデザインな上、馬車移動が多く余り食べられるとお辛いですよ。少し足りない位が丁度いいかと…」
「そんな理由が有ったんですね⁉︎てっきりチョイいじめ入ってるかと思いました」
皆さん微笑ましく笑っている。子供っぽくてごめんなさい。
食事を済ますとドレッサーの前で化粧とヘアセットがなされて別人の出来上がり。凹凸の無い私の顔はいいキャンバスになるようで、女官さん曰く化粧し甲斐があるそうだ。
次にドレスに着替えるのに、やはりコルセットを付けないといけないらしい。今まで苦しいのが嫌でソフトタイプのコルセットを愛用していたが、今回着用するドレスは女神レイラ纏うドレスらしく、バスト下から骨盤にかけてフィットし骨盤の辺からふんわりシフォン生地が広がるドレスだ。故にウエストの誤魔化しが効かない! いくらこちらでは華奢と言われても他の女性とウエストは変わらない。背が低い分太く感じるはずだ。
「このドレス一択ですか?他のドレスでは…」
「このドレスはレイシャルの王族の正装になります。他のドレスはありえません」
「でも私王族でも無いし殿下の婚約者でもないんですよ!」
「殿下から必ずこのドレスを着用するように申し付かっております!」
一歩も引かない侍女さんと女官さん。往生際悪く色々理由付けするが却下され、半ば強引に着替えが進む。最後は半泣きで私が折れこのドレスを着た。
「「「まぁ!よくお似合いですわ」」」
「!!」
コルセットも思ったほど苦しく無いし、ドレスはシンデレラフィットでどこもかしこも違和感ない!それに肌触りがいい!
戸惑っていたら殿下とアレックスさんが部屋にに来た。部屋に入り私を見るなり
「「綺麗だ…」」
殿下とアレックスさんがハモる。
どうやらヴェルディア行が決まった時点で王室お抱えの針子さんが急ピッチで仕立てたそうだ。サイズはアビー母様に連れて行ってもらった洋服店から提供され、肌が弱い私の為に肌に直接触れる箇所にはコットンが使われているそうだ。
姿見に移る私はもう別人だ。コルセットのおかげで胸も大きく盛れウエストは締まりナイスバディになっている。
「もう詐欺レベルだ」
「春香」
振返ると殿下とアレックスさんがいて視線が怖い。
「上に何かを羽織らせた方がいいな!」
「はい、このままでは危険です」
「えっ!そんなにイケてませんか⁈皆さんの努力で詐欺レベルに仕上がっていると思うんですが!」
2人の反応にどんなに手を加えても素材の悪さはどうしようも無いと落ち込む。私が落ち込んだのを見ていたメリージェーンさんが苦笑して
「春香さん!殿下やアレックス様は春香さんがあまりにも美しくなったので、他の殿方の目に触れさしたくなくて隠そうとしているのですよ。悋気ですから気にせず自信を持って下さい。今日も春香さんは可愛らしいですわ。
それから殿下もアレックス様もこういう時はまず褒めるものです。春香さんが自信を無くしてしまったではありませんか!」
メリージェーンさんの指摘で気まずそうな2人。すると殿下が
「やはり他の男にこの綺麗な春香を見せたくない!やはりショールか何か用意してくれ」
「私も殿下に同意見です!そうでなくても春香の噂はヴェルディアに広がり春香に面会したい輩が増えております。少々隠しても春香の魅力は隠せない!」
「・・・」
またアレックスさんは無自覚の激甘セリフを炸裂させ侍女さんと女官さんが顔を赤くし俯いてしまう。結局二人の意向で上から丈の短い薄手のケープを着る事になった。そして時間が来てアルパンという山羊に似た動物の毛を編み込んだフードコート着て手袋を嵌め馬車に移動します。皆さんも防寒はばっちりで急いで馬車まで移動。馬車が停泊する広場に着くと沢山の人が出発準備をしている。私たちが広場に行くと響めきが起こり注目を浴びる。
早速一人の男性が近くと殿下が私を背に庇い私の後ろはメリージェーンさんとジョシュさんが立ち皆さんに囲まれ周りが全く見えない。
「ご無沙汰しております。ローランド殿下。お会いできて光栄でございます。お会いするのはタブグスの戴冠式以来でしょうか⁈」
「こちらこそ。お元気そうで何よりです。奥方が2人目を身ごもられたとか。ご出生の際はお祝いを送らせていただきます」
目の前でラノベで読んだような社交が繰り広げられる
「ありがとうございます。そちらの可憐なご令嬢は噂のお方でしょうか⁈ならば是非ご挨拶させていただければと存じます」
「済まない。彼女は極度の人見知りでね…晩餐会でご紹介する事となるでしょう。彼女が場に慣れるまでご遠慮いただきたい」
「そうですか…残念でございます。では晩餐会でご紹介いただけるのを楽しみにしております」
その男性は殿下に近づき小声で何か言い深々と礼をして踵を返して去って行った。
「殿下。あの方は?」
「一応友好国のペルゼスの王太子だ。野心家故、風向きが変われば身を簡単に翻す奴だ。あまり信用していない」
「ふ…ん」
そうして殿下はアレックスさんに何か耳打ちしたらアレックスの表情が固まる。あまりいい事では無いようだ。何も知らない私は大人しく黙っていた方が様さそうだ。
この後、レイシャルの馬車に着くまで色んな国の方に声をかけられる。その度殿下が背に庇い躱してくれるので安心して殿下の背中に引っ付いてる。
やっと馬車に着くともう手足が冷たい直ぐに馬車に乗ると車内は暖石が早くにセットしていた様で温かい。すぐにコートを脱いで座るとすぐ出発となった。
ヴェルディア城から式典が行われる教会までは1時間走るそうだ。外の騎士さんは大丈夫なの?外はかなり寒いよ!
「殿下!騎士の皆さんと馬はこんなに寒くて大丈夫なんですか⁈」
「騎士や馬には特殊な断熱繊維で作った防寒着があるから大丈夫だ。寒い国はそれなりに防寒対策は進んでいるのさ」
「ジョシュさんやアレックスさんは男性だからいいんですがメリージェーンさんは女性ですよ。やはり馬車に乗ってもらった方が…」
「彼女なら心配ない。その辺の騎士より精神的にも肉体的にも強いよ。メリージェーン嬢の祖母は軍事大臣を務め、女性は皆んな婚姻するまで騎士をしている。彼女なら我が国の騎士団の隊長位の実力はあるよ」
アビー母様が強いのは知っていたが凄い一族だ。
やっぱり鍛えてもらおっかなぁ…
そんな事を考えていたら私をじっと見ていた殿下が
「春香か私の色を纏うのは気分が良いね。まるでずっと春香を抱きしめている様だ」
そう…ドレスは女神レイラ着ているデザインだが色は思いっきり淡い若草色だ。ドレスを見た瞬間アレックスさんがレベル4になったのを見逃さなかったぞ!
「それはさておき大事な話をするからしっかり聞いて欲しい」
「はい。ちょっと怖いです」
殿下の話は晩餐会での立ち振舞いについてだ。先程も色んな方に声をかけられたが、殿下が晩餐会で挨拶すると躱してくれている。とどのつまり晩餐会では挨拶を受けなければならない。
「受けない選択肢は…」
「無い!受けなければ前のジャン王太子の様に無理矢理レイシャルに来るだろう。来てしまったらレイシャルとしては国賓扱いしなければならない。ヴェルディアは偶々春香の機転によりレイシャルにとって福始を齎したが必ずそうなるとは限らない。正直ヴェルディアは悪しき事例となったよ。よって必ず晩餐会で顔合わせし無難に終えなければならない」
「責任重大じゃーないですか!」
「春香に難しい事はさせないから安心して!微笑んで名乗り”お見知りおき下さいませ”とたげ言ってくれればいい。後は私が上手く躱すから大丈夫だ」
殿下を信頼しているが人見知りにはかなり辛い状況だ。人と接するのが苦手だから仕事も事務職にしたのに…
「はぁ…」遠い目をしていた私を殿下は抱きしめて甘い言葉をくれるけど、ごめんぬ…今はあまりトキメキません。
そうしているうちに教会に着いた。アレックスさんの手を借り馬車を降りると目の前に石造りの威圧感のある教会がある。悪いけど夜で人気が無ければゾンビが出てきそうだ。
大きな教会を見上げていたら口が開いていた様でアレックスさんに耳元で囁かれる
「春香。可愛い唇は閉じておいてくれ。口付けたくなるから…それに周りは獲物を狙う猛獣だらけだ。隙をつくるな」
「ごめんなさい。あれ殿下は?」
「今、教会の代表から挨拶を受けているよ。大丈夫俺が側にいるから」
そう言われて前を見ると牧師さん?らしい恰好をした老人が殿下と話している。そして気が付けば私の周りにはレイシャルから来た騎士さんが周りを取り囲みまるでハリウッドスター並だ。すると前から見覚えのある妖艶な美女が歩いてくる。
「春香様!」
「リリアン様!」
そう!あのポロリ警報のリリアン様だ。リリアン様は流石にこの気候だからマントに身を包み麗しい令嬢だ。
「ご無沙汰しております。この度は陛下の戴冠式にご参列いただき家臣としてお礼申し上げます。レイシャルに比べて寒くてびっくりされたのではありませんか?」
「はい。でも私の世界でも寒い地域はあり、旅行で訪れた事があるので大方予想していたので大丈夫です。リリアン様は少しお痩せになりましたか?」
「あら嬉しい。レイシャルを訪れた時は食べ物が美味しくて少し太ってしまったので…」
「まだまだお忙しいと思いますがお体に気を付けて下さいね」
「ありがとうございます。私はこちらで失礼いたしますわ」
凄く幸せそうな微笑みのリリアン様を見て安心して見送っていたら、リリアン様はその後いろんな方から声をかけられている。
『流石美女は違うな…こんな大切な式典前にナンパですか⁈』
と見ていたらアレックスさんが
「早速、春香と縁のある者に声をかけきっかけをつくろうとしているな…浅ましい者どもだ」
「あれ?ナンパじゃないの?」
「ナンパとはなんだ⁈」
アレックスさんにナンパの意味を説明すると
『そんな破廉恥な事はこの世界の男はしないぞ』
と怒られた。どうやら男性が女性に声をかけていい場所は決められているらしく、それ以外は手紙で想いを告げるのがルールらしい。
「だから昨日春香にいっぱい手紙が来ていただろう⁈」
「ん?」
「あれ面会の申込じゃないんですか?」
「昨晩殿下が殺気立ちながら手紙を確認していたよ。確かに面会の申込だが大半は恋文に近かったらしく怖い顔をしていたぞ」
「会った事も無い人に恋文って…私の世界ではありえないですが」
「この世界ではありふれた事だ。婚姻式前日に初めて会うなんて事もあるそうだ。俺もそんな婚姻嫌だがな」
アレックスさんとこの世界の結婚事情を話していたら殿下が戻ってきて教会に入る事になった。
案内され教会の中を歩いて行くとどんどん前に進み最前列に案内された。案内してくれた人に何度も間違ってないか聞いたが合っているそうだ。
「ジャン陛下の春香への感謝の気持ちが良くわかるよ」
「感謝のお気持ちだけで十分なのでそっとして欲しいです」
殿下は小さく笑い私の手を取り席に座らせてくれた。殿下が座り会場が急に静かになりパイプオルガン?の様な楽器が奏でられ、ジャン陛下がご入場される。厳かな雰囲気で戴冠式は進みジャン陛下は王冠受けて正式にヴェルディア王となった。戴冠式を終えたジャン陛下の表情は晴れ晴れ? いや安堵した表情をしている。恐らくレイシャルから戻り怒涛の日々だったのだろう。暫く大変だろうが国の為、そしてご自身の信念の為に頑張って欲しい。
戴冠式はスムーズに終わり思っていたより早く終わった。殿下にエスコートされ教会の出口に向かうとジャン陛下に呼び止められた。
相変わらず大きい陛下を見上げそうまずご挨拶しないと
「この度はおめでとうございます。お疲れの事と思います。お体を大切になさって下さい。ヴェルディアの繁栄をお祈りいたします」
「春香嬢に返せない程の恩がある。困った時はヴェルディアが助けとなろう。もしレイシャルの男どもに愛想が尽きたらいつでもヴェルディアに来るといい。バルカンを筆頭に貴女を慕うものが多いので選び放題だ」
「陛下。春香に変な話をしないでいただきたい」
あからさまにローランド殿下は不機嫌だ。機嫌取りをするの大変なんだから変な事を言わないで欲しい。ふと視線を感じその先を辿るとレベルMAXのアレックスさんが!もう!2人も機嫌悪くなったら後が大変なんだからね!実際は出来ないから頭の中でジャン陛下の額にデコピンしてやった!
「申し訳ありません!強かったでしょか?」
「大丈夫です」
今早朝に起こされ未だ寝ぼけているのに浴槽にほり込まれて、湯浴みさせられ今3人がかりでマッサージされている。昨日は1日部屋に籠っていて運動不足のせいか浮腫んでいたようだ。
痛いのを我慢した甲斐があり全身スッキリした。自分の脚を見てこんなにスッキリした脚を見るのは久しぶりの様な気がする。
綺麗なシルクのガウンを着せられやっと食事を取れる。引きこもりでもお腹が空くのだ。しかし出された食事は超軽食!スープとサラダとフルーツだ。
『えー!夕方まで食べれないのにこの量?密かにいじめられてる?』
するとメリージェーンさんは笑いながら
「春香さん。今日のドレスはタイトなデザインな上、馬車移動が多く余り食べられるとお辛いですよ。少し足りない位が丁度いいかと…」
「そんな理由が有ったんですね⁉︎てっきりチョイいじめ入ってるかと思いました」
皆さん微笑ましく笑っている。子供っぽくてごめんなさい。
食事を済ますとドレッサーの前で化粧とヘアセットがなされて別人の出来上がり。凹凸の無い私の顔はいいキャンバスになるようで、女官さん曰く化粧し甲斐があるそうだ。
次にドレスに着替えるのに、やはりコルセットを付けないといけないらしい。今まで苦しいのが嫌でソフトタイプのコルセットを愛用していたが、今回着用するドレスは女神レイラ纏うドレスらしく、バスト下から骨盤にかけてフィットし骨盤の辺からふんわりシフォン生地が広がるドレスだ。故にウエストの誤魔化しが効かない! いくらこちらでは華奢と言われても他の女性とウエストは変わらない。背が低い分太く感じるはずだ。
「このドレス一択ですか?他のドレスでは…」
「このドレスはレイシャルの王族の正装になります。他のドレスはありえません」
「でも私王族でも無いし殿下の婚約者でもないんですよ!」
「殿下から必ずこのドレスを着用するように申し付かっております!」
一歩も引かない侍女さんと女官さん。往生際悪く色々理由付けするが却下され、半ば強引に着替えが進む。最後は半泣きで私が折れこのドレスを着た。
「「「まぁ!よくお似合いですわ」」」
「!!」
コルセットも思ったほど苦しく無いし、ドレスはシンデレラフィットでどこもかしこも違和感ない!それに肌触りがいい!
戸惑っていたら殿下とアレックスさんが部屋にに来た。部屋に入り私を見るなり
「「綺麗だ…」」
殿下とアレックスさんがハモる。
どうやらヴェルディア行が決まった時点で王室お抱えの針子さんが急ピッチで仕立てたそうだ。サイズはアビー母様に連れて行ってもらった洋服店から提供され、肌が弱い私の為に肌に直接触れる箇所にはコットンが使われているそうだ。
姿見に移る私はもう別人だ。コルセットのおかげで胸も大きく盛れウエストは締まりナイスバディになっている。
「もう詐欺レベルだ」
「春香」
振返ると殿下とアレックスさんがいて視線が怖い。
「上に何かを羽織らせた方がいいな!」
「はい、このままでは危険です」
「えっ!そんなにイケてませんか⁈皆さんの努力で詐欺レベルに仕上がっていると思うんですが!」
2人の反応にどんなに手を加えても素材の悪さはどうしようも無いと落ち込む。私が落ち込んだのを見ていたメリージェーンさんが苦笑して
「春香さん!殿下やアレックス様は春香さんがあまりにも美しくなったので、他の殿方の目に触れさしたくなくて隠そうとしているのですよ。悋気ですから気にせず自信を持って下さい。今日も春香さんは可愛らしいですわ。
それから殿下もアレックス様もこういう時はまず褒めるものです。春香さんが自信を無くしてしまったではありませんか!」
メリージェーンさんの指摘で気まずそうな2人。すると殿下が
「やはり他の男にこの綺麗な春香を見せたくない!やはりショールか何か用意してくれ」
「私も殿下に同意見です!そうでなくても春香の噂はヴェルディアに広がり春香に面会したい輩が増えております。少々隠しても春香の魅力は隠せない!」
「・・・」
またアレックスさんは無自覚の激甘セリフを炸裂させ侍女さんと女官さんが顔を赤くし俯いてしまう。結局二人の意向で上から丈の短い薄手のケープを着る事になった。そして時間が来てアルパンという山羊に似た動物の毛を編み込んだフードコート着て手袋を嵌め馬車に移動します。皆さんも防寒はばっちりで急いで馬車まで移動。馬車が停泊する広場に着くと沢山の人が出発準備をしている。私たちが広場に行くと響めきが起こり注目を浴びる。
早速一人の男性が近くと殿下が私を背に庇い私の後ろはメリージェーンさんとジョシュさんが立ち皆さんに囲まれ周りが全く見えない。
「ご無沙汰しております。ローランド殿下。お会いできて光栄でございます。お会いするのはタブグスの戴冠式以来でしょうか⁈」
「こちらこそ。お元気そうで何よりです。奥方が2人目を身ごもられたとか。ご出生の際はお祝いを送らせていただきます」
目の前でラノベで読んだような社交が繰り広げられる
「ありがとうございます。そちらの可憐なご令嬢は噂のお方でしょうか⁈ならば是非ご挨拶させていただければと存じます」
「済まない。彼女は極度の人見知りでね…晩餐会でご紹介する事となるでしょう。彼女が場に慣れるまでご遠慮いただきたい」
「そうですか…残念でございます。では晩餐会でご紹介いただけるのを楽しみにしております」
その男性は殿下に近づき小声で何か言い深々と礼をして踵を返して去って行った。
「殿下。あの方は?」
「一応友好国のペルゼスの王太子だ。野心家故、風向きが変われば身を簡単に翻す奴だ。あまり信用していない」
「ふ…ん」
そうして殿下はアレックスさんに何か耳打ちしたらアレックスの表情が固まる。あまりいい事では無いようだ。何も知らない私は大人しく黙っていた方が様さそうだ。
この後、レイシャルの馬車に着くまで色んな国の方に声をかけられる。その度殿下が背に庇い躱してくれるので安心して殿下の背中に引っ付いてる。
やっと馬車に着くともう手足が冷たい直ぐに馬車に乗ると車内は暖石が早くにセットしていた様で温かい。すぐにコートを脱いで座るとすぐ出発となった。
ヴェルディア城から式典が行われる教会までは1時間走るそうだ。外の騎士さんは大丈夫なの?外はかなり寒いよ!
「殿下!騎士の皆さんと馬はこんなに寒くて大丈夫なんですか⁈」
「騎士や馬には特殊な断熱繊維で作った防寒着があるから大丈夫だ。寒い国はそれなりに防寒対策は進んでいるのさ」
「ジョシュさんやアレックスさんは男性だからいいんですがメリージェーンさんは女性ですよ。やはり馬車に乗ってもらった方が…」
「彼女なら心配ない。その辺の騎士より精神的にも肉体的にも強いよ。メリージェーン嬢の祖母は軍事大臣を務め、女性は皆んな婚姻するまで騎士をしている。彼女なら我が国の騎士団の隊長位の実力はあるよ」
アビー母様が強いのは知っていたが凄い一族だ。
やっぱり鍛えてもらおっかなぁ…
そんな事を考えていたら私をじっと見ていた殿下が
「春香か私の色を纏うのは気分が良いね。まるでずっと春香を抱きしめている様だ」
そう…ドレスは女神レイラ着ているデザインだが色は思いっきり淡い若草色だ。ドレスを見た瞬間アレックスさんがレベル4になったのを見逃さなかったぞ!
「それはさておき大事な話をするからしっかり聞いて欲しい」
「はい。ちょっと怖いです」
殿下の話は晩餐会での立ち振舞いについてだ。先程も色んな方に声をかけられたが、殿下が晩餐会で挨拶すると躱してくれている。とどのつまり晩餐会では挨拶を受けなければならない。
「受けない選択肢は…」
「無い!受けなければ前のジャン王太子の様に無理矢理レイシャルに来るだろう。来てしまったらレイシャルとしては国賓扱いしなければならない。ヴェルディアは偶々春香の機転によりレイシャルにとって福始を齎したが必ずそうなるとは限らない。正直ヴェルディアは悪しき事例となったよ。よって必ず晩餐会で顔合わせし無難に終えなければならない」
「責任重大じゃーないですか!」
「春香に難しい事はさせないから安心して!微笑んで名乗り”お見知りおき下さいませ”とたげ言ってくれればいい。後は私が上手く躱すから大丈夫だ」
殿下を信頼しているが人見知りにはかなり辛い状況だ。人と接するのが苦手だから仕事も事務職にしたのに…
「はぁ…」遠い目をしていた私を殿下は抱きしめて甘い言葉をくれるけど、ごめんぬ…今はあまりトキメキません。
そうしているうちに教会に着いた。アレックスさんの手を借り馬車を降りると目の前に石造りの威圧感のある教会がある。悪いけど夜で人気が無ければゾンビが出てきそうだ。
大きな教会を見上げていたら口が開いていた様でアレックスさんに耳元で囁かれる
「春香。可愛い唇は閉じておいてくれ。口付けたくなるから…それに周りは獲物を狙う猛獣だらけだ。隙をつくるな」
「ごめんなさい。あれ殿下は?」
「今、教会の代表から挨拶を受けているよ。大丈夫俺が側にいるから」
そう言われて前を見ると牧師さん?らしい恰好をした老人が殿下と話している。そして気が付けば私の周りにはレイシャルから来た騎士さんが周りを取り囲みまるでハリウッドスター並だ。すると前から見覚えのある妖艶な美女が歩いてくる。
「春香様!」
「リリアン様!」
そう!あのポロリ警報のリリアン様だ。リリアン様は流石にこの気候だからマントに身を包み麗しい令嬢だ。
「ご無沙汰しております。この度は陛下の戴冠式にご参列いただき家臣としてお礼申し上げます。レイシャルに比べて寒くてびっくりされたのではありませんか?」
「はい。でも私の世界でも寒い地域はあり、旅行で訪れた事があるので大方予想していたので大丈夫です。リリアン様は少しお痩せになりましたか?」
「あら嬉しい。レイシャルを訪れた時は食べ物が美味しくて少し太ってしまったので…」
「まだまだお忙しいと思いますがお体に気を付けて下さいね」
「ありがとうございます。私はこちらで失礼いたしますわ」
凄く幸せそうな微笑みのリリアン様を見て安心して見送っていたら、リリアン様はその後いろんな方から声をかけられている。
『流石美女は違うな…こんな大切な式典前にナンパですか⁈』
と見ていたらアレックスさんが
「早速、春香と縁のある者に声をかけきっかけをつくろうとしているな…浅ましい者どもだ」
「あれ?ナンパじゃないの?」
「ナンパとはなんだ⁈」
アレックスさんにナンパの意味を説明すると
『そんな破廉恥な事はこの世界の男はしないぞ』
と怒られた。どうやら男性が女性に声をかけていい場所は決められているらしく、それ以外は手紙で想いを告げるのがルールらしい。
「だから昨日春香にいっぱい手紙が来ていただろう⁈」
「ん?」
「あれ面会の申込じゃないんですか?」
「昨晩殿下が殺気立ちながら手紙を確認していたよ。確かに面会の申込だが大半は恋文に近かったらしく怖い顔をしていたぞ」
「会った事も無い人に恋文って…私の世界ではありえないですが」
「この世界ではありふれた事だ。婚姻式前日に初めて会うなんて事もあるそうだ。俺もそんな婚姻嫌だがな」
アレックスさんとこの世界の結婚事情を話していたら殿下が戻ってきて教会に入る事になった。
案内され教会の中を歩いて行くとどんどん前に進み最前列に案内された。案内してくれた人に何度も間違ってないか聞いたが合っているそうだ。
「ジャン陛下の春香への感謝の気持ちが良くわかるよ」
「感謝のお気持ちだけで十分なのでそっとして欲しいです」
殿下は小さく笑い私の手を取り席に座らせてくれた。殿下が座り会場が急に静かになりパイプオルガン?の様な楽器が奏でられ、ジャン陛下がご入場される。厳かな雰囲気で戴冠式は進みジャン陛下は王冠受けて正式にヴェルディア王となった。戴冠式を終えたジャン陛下の表情は晴れ晴れ? いや安堵した表情をしている。恐らくレイシャルから戻り怒涛の日々だったのだろう。暫く大変だろうが国の為、そしてご自身の信念の為に頑張って欲しい。
戴冠式はスムーズに終わり思っていたより早く終わった。殿下にエスコートされ教会の出口に向かうとジャン陛下に呼び止められた。
相変わらず大きい陛下を見上げそうまずご挨拶しないと
「この度はおめでとうございます。お疲れの事と思います。お体を大切になさって下さい。ヴェルディアの繁栄をお祈りいたします」
「春香嬢に返せない程の恩がある。困った時はヴェルディアが助けとなろう。もしレイシャルの男どもに愛想が尽きたらいつでもヴェルディアに来るといい。バルカンを筆頭に貴女を慕うものが多いので選び放題だ」
「陛下。春香に変な話をしないでいただきたい」
あからさまにローランド殿下は不機嫌だ。機嫌取りをするの大変なんだから変な事を言わないで欲しい。ふと視線を感じその先を辿るとレベルMAXのアレックスさんが!もう!2人も機嫌悪くなったら後が大変なんだからね!実際は出来ないから頭の中でジャン陛下の額にデコピンしてやった!
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生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
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