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21.ベッド
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エントランスには怖い顔をしたアレックスさんが仁王立ちしていて逃げたくなる。
クリスさんがアレックスさんの目の前に私を下すと、アレックスさんは一応手を取り手の甲に口付ける格好をし挨拶をしてくれた。
う…ん一応貴族だ。
「春香嬢。お迎えに上がった。殿下も待っておられる直ぐに出発いたします」
「ちょっと待って下さい。公爵様と奥様にご挨拶を」
アレックスさんの目が「さっさとしろ!」言っている。レイモンド様とアビー様にご挨拶をすると抱きしめてくれ、いつでも帰って来なさいと言ってくれた。
「絶対数日後には帰ります!」
と宣言するとアレックスさんの鋭い視線が背中に突き刺さる
アレックスさんが手を出そうとしたら、すかさずミハイルさんが私の腰に腕を回してエスコートする。
『ナイス!ミハイルさん!』
外に出てびっくり王族が乗る超高級馬車が停まっている。え?公爵家のいつもの馬車じゃないの?
思わず逃げ腰な私をミハイルさんは優しくエスコートしてくれる。従者が馬車の扉を開けると騎士さんが中を確認する。そのまま馬車に乗ると思いきやミハイルさんが私をぐっと引き寄せて
「アレックス殿。春香は心根が優しくか弱く傷つきやすい。あまり春香にキツイ物言いはやめて頂きたい。貴殿の物言いはキツイ事が屡々ある」
「春香嬢はローランド殿下が唯一望む女性。殿下の家臣として丁重にお仕えする事を誓いましょう」
『絶対嘘だ!』
不信感満載の視線をアレックスさんに送ると明らかに愛想笑いをされた。やっぱりこの人好きくない!
「ハル。夕食の時間までには町屋敷に行くよ。クリスもいるから何か有ればクリスに言いなさい」
「はい。お待ちしていますね」
ミハイルさんはハグちゅうをし馬車に乗せてくれた。こんな広い車内で一人。長い移動でまた寝るかもしれないなぁ…
って思っていたら『なんで?』アレックスさんが乗って来た。口を開け唖然とする私を後目に馬車の扉を閉めて窓の外の騎士に合図と送ると、ゆっくり馬車が動きだした。この性悪と一緒なんて聞いてないよ!窓の外にレイモンド様、アビー様とミハイルさんが手を振っている。
「心配させないように手ぐらい振ったらどうだ。気が利かん奴だな」
ミハイルさんに丁重に扱うって約束したのに数分でもう暴言!もー嫌だ!
公爵家の皆さんが見えなくなったので、町屋敷まで寝てやり過ごそうと、馬車の端に座り直し目を閉じた。
「バカ!寝ている場合ではない。町屋敷に着くまで屋敷内での警護の説明をする。1回しか説明しないからしっかり聞いておけ」
「そんなの着いてからでいいでしょう⁉︎」
「なんの為に一緒に(馬車に)乗ったと思っている。俺は忙しい!時間短縮の為にこうしてるんだ。勿論公爵様にも了解は得ている。ミハイル殿はお前と2人になるので渋られたが要らん心配だ! 俺がお前に何かする訳ないだろう」
この人何言っても癪に障るわ!
喧嘩する気も起きず静かに性悪の説明を聞く…聞いていた…
学生の頃は午後の授業は猛烈に眠くて睡魔との闘いだった。特に好きじゃない科目の時の睡魔は強敵で負けたる事が多かった気がする。
「おい!いい加減起きろ!俺を枕扱いするな!」
「はへ?」
目の前に綺麗なお顔の男性が私を見下ろいている。えっと…誰だっけ?動かない頭で考えた…
「アレックスさん?」
「他に誰が要るんだ!もうすぐ着くぞ!」
「ん?…ごめんなさい!」
何この状況!アレックスさんに膝枕してもらっている!絶対また”バカ“って言われる!
「お前…普段からちゃんと睡眠はとれているのか? 気絶したのかと思ぐらい急に眠ったので驚いた。
睡眠は大切だ。町屋敷に暫く慣れないだろうが眠れるときにしっかり眠れ!分かったか?」
「はい。すみません」
「謝って欲しい訳では無い」
「ありがとうございます」
「分かればいい…」
アレックスさんに支えられ座り直した。思いのほかアレックスさんの手は温かく優しい。普段意地悪な人が優しいといい人に見える事がある。まさにその状態だ。
アレックスさんが窓のカーテンを開けた。町屋敷の塀が見えて来た。少しすると馬車は停まり扉が開いて誰かがいきなり入ってきてアレックスさんが警戒する
「春香~!」
満面の笑みのローランド殿下だった。
「うげっ!」
殿下が絞め上げて…もとい抱きしめてくる。苦しい!殿下の背中を叩いて苦しさをアピると、力を緩め腕を解いてくれた
「春香!慣れない生活で疲れが出たんだね。宮廷医が休養すればよくなる言っていたが、中々町屋敷に来ないから心配で何度公爵家に行こうかと思ったよ!」
そっか病気設定でした。ちなみに宮廷医のおじいちゃんは来てません。殿下の脱走未遂のせいでアレックスさんが迎えに来たんだからね!
「ご心配をおかけしました。まだ不安定な時もあるので、暫くは町屋敷と公爵家を行き来す…」
そう言うとアレックスさんめっちゃ睨んで来る『要らん事言うな』って言ってるみたいだ
「いいよ!公爵家に行く事で春香が元気になるなら」
「ありがとうございます」
アレックスさんが殿下に耳打ちをし下車を促す。
殿下のエスコートで下りたら…
「!」
騎士が30人近く目の前に控えている!ビックリして思わず後退りしたら、後ろに控えていたアレックスさんにぶつかる。見上げたアレックスさんの視線は冷ややかだ。コイツ!何やっても腹立つ!
「春香、今日からこの屋敷を警護する騎士達だ。実力も忠誠心も強い者達を選んだ。安心して過ごしてほしい。そうそう皆んな既婚者だから安心するといい」
一番前に居る最年長者らしきアラフォー位の騎士さんが一歩前に出て、右手を胸に当て頭を下げてご挨拶される。小娘にこんな精鋭騎士が就くなんてあり得ない。
「すみません。私若きにこんな立派な騎士様が護衛いただけるなんて申し訳なくて…。出来るだけご迷惑お掛けしない様に、大人しくしていますので何か無作法があったら教えて下さい」
お辞儀しご挨拶する。
『ん?何か騒ついている。私変な事いった?』
顔を上げると皆さん驚いた顔をし何やらヒソヒソ話している。わーぜんとたなん…
「春香!貴女は私の大切な女性だから守られて当然なんだ。もっと自分本位でいいんだよ! 何かあればアレックスになんでも言えばいい。例えば急に僕に会いたいとかね!」
「あ…はぃ…」
ごめん殿下多分それは無い。それよりアレックスさんと接点持ちたく無いから、何かあったらクリスさんに頼みます。殿下の後ろに控える皆んなとマントの色が違う騎士さんが殿下に耳打ちをしている。
「春香。残念だが公務の時間が迫っているから、私は城に戻る。城に来たくなったらアレックス言ってくれ」
「はい。帰りお気を付けて…」
今度は反対に殿下を見送る。今日の当番以外の騎士さんは騎乗し城に帰っていった。
もう既に疲労困憊です。アレックスさんは騎士さんに指示している。屋敷から出てきたクリスさんがお茶の準備が出来たと呼びに来た。
一応町屋敷まで護衛してくれたし声くらいかけた方がいいのか悩んでいると、クリスさんがアレックスさんの元に行き何か話している。
すると2人して振り返りこっちに歩いてくる。
「行くぞ」
「へ?」
「グズグズするのがお前の特技か?お茶が冷めるだろう」
いきなりアレックスさんに手を取られ引っ張られて行きます。全く状況が読めない私は“なすがままされるがまま”です。
応接室に入りソファーに座らされ、給仕を終えてクリスさんが入口を少し開けて出て行ってしまった。
目の前に眉間に皺を寄せたアレックスさんが優雅にお茶を飲んでいます。所作を見ているとやっぱり貴族なんだと実感する。ぼーっと見ていたら
「護衛騎士は素行が良く実力のある者達だ。しかし既婚者とはいえ男女は何があるか分からない。変な噂が立たない様に気を付けろ。殿下に取り入りたい貴族はちょっとの隙でも突いてくるものだ。お前は平和な環境で育った様で人を疑う事をしない。見ている傍がハラハラさせたれる。殿下の“迷い人”である自覚をもて」
休息のお茶なのに説教されているし…この人の立ち位置はどこなの?
「お言葉を返す様ですが私“迷い人”だと認めていませんよ。それに貴方に心配いただく道理がありません」
「阿保かお前は。お前が何事もなく過ごす事が殿下の平穏につながる。だが陛下も殿下もこの屋敷にお前を閉じ込めようなんて思っていない。
ただ普通に平穏に日常を過ごせばいい。日は浅いがお前を見ているとゴラスから来た他の女性に比べ謙虚で真面目で貞操観念もしっかりしていそうだ。
…だから余計に厄介事に巻き込まれないか心配で見てられない」
あれ?心配してくれているの?それとも貶されているの?どっち?
「バーミリオン侯爵は表立っては動かないが、彼奴は水面下で画策するのが得意だ。ライバル視している公爵が溺愛し、殿下の相手候補ともなれば隙あらば手を出して来るだろう。ちょっとした身の回りの変化があれば俺に言え対処する」
「はい。よろしくお願いします」
アレックスさんは残りお茶を一気飲みし立ちあがった。つられて立つと手で制し
「俺は一旦城に戻る。騎士は配置済だ。日没までにミハイル殿も到着するだろう。あの方はその辺の騎士より強いから安心し身を任せるといい」
アレックスさんは足早に部屋を出て行った。
何かアレックスさんの行動が早く私の頭はついていかない。相変わらず口は悪いけど悪い人ではなさそうだ。
応接室に一人残されお茶を頂きながら茶菓子を頂く。少しするとクリスさんが来て屋敷の皆さんを紹介してくれるらしく、クリスさんとゆっくり屋敷内を周る。一通り挨拶を終え夕食まで自分の部屋で過ごす。前に来た時は何も無かった居間がウッディ調の家具が配置され落ち着いた部屋になっている。
次に寝室に入ると…
私の希望のダブルベッドはクリーム色の寝具がセットされいい感じ。…で
「これ誰がしたの?」
前にミハイルさんとジョシュさんと下見に来た時に、散々二人にベッドが小さいから替えろと言われたが断固拒否した。しかし私のダブルベッドは替えられていないが、その横に公爵家で使っていたベッドと同じくらいのベッドがある。そう!ベッドが2台並べて設置されている…
何で?この追加ベッドのせいで寝室が狭くなっているし。それもこの巨大ベッドは白のシルク地に金糸が施された雅な寝具がセットされていて新婚さんが使いそうなラブリーな雰囲気を醸し出している。誰か知らないけど私の寝室で寝るつもりの奴がいる。
「あり得ない…」
呆然としていて嫌な予感が走った。衣服も全部用意されている筈。急いで衣裳部屋に行くと…
衣裳部屋ぱんぱんに服が並んでいる。
「これ何人分よ…」
一応服は私好みで飾りが少ない物が並んでいてほっとする。強大なチェストの引き出しを開け中を確認するとシルクのフリフリやレースだらけの下着が収納されている。こんなゴテゴテの下着痒くなるじゃん!綿で肌触りがいいのがほしい!これはアビー様に要相談だ!
全部の服に袖を通すのは月単になりそうだ。全てにおいて大貴族様の感覚についていけないと思った。
衣裳部屋で洋服をチェックしていたら誰かが呼んでいる。居間の方に行くと同じ年位のお仕事着を着た女性がいた。確か1階の従業員控え室に挨拶に行ったときにいた女性だ。
「私エリスと申します。この度春香様付の侍女を務める事になりました。よろしくお願いいたします」
「えっと…基本私は自分の事は自分でします。一人で着れないドレスの時とかはお手伝い頂きたいですが…」
「はい、奥様から伺っています。暫くの間はお仕えし、春香様のペースに合わせますのでご自由になさって下さいませ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「昼食の準備が出来ております。食堂へどうぞ」
「はい」
町屋敷の料理も口に合いとても美味しかった。ロックさんの申送りのお陰で食べやすいサイズで困る事はなさそうだ。
そしてミハイルさん来るまで部屋でのんびり過ごします。ミハイルさんが来たら聞きたいことがたくさんある。初めにちゃんと解決しとかないと後でなおらない事も多い。本を読んで時間を過ごしていたらミハイルさんが着いたみたい。身なりを整えてエントランスに向かう。
エントランスで外套をクリスさんに預け話しているミハイルさんを見てなぜか安心する。町屋敷の人はまだ面識が薄く人見知りするから…
やっぱりミハイルさんは初めてこの世界であった人だからか、安心感が他の人と違う。
「ミハイルさん。お疲れ様です」
「ハル。問題はないかい?」
優しくハグちゅうしてくれる。この習慣もすっかり慣れてきて無いと物足りなく思う様になった。慣れって怖いですね
「着替えてくるよ。夕食までの時間ラウンジでお茶をしよう」
「はい。ラウンジで待っていますね」
「私の部屋に来てもいいんだよ」
「ご遠慮します」
ミハイルさんは楽しそうに笑う。この他愛ないやり取りが最近好き。
エリスさんと一緒にラウンジに向かう。ラウンジは臙脂色を主体にした落ち着いた感じになっている。ベルベット調のソファーが何処かの電車のシートみたいで一人で笑った。少しするとミハイルさんがラフな部屋着で着た。
お茶を頂きながらまずはあれについて質問する。
「ミハイルさん…どうして私の寝室にベッドが増えているんですか?」
「あれは全員一致で決めたことで…」
「全員って誰?!」
「俺とジョシュと殿下と…」
「殿下が寝室を見たんですか⁈」
「ハルの生活する場所が安全か確認する義務があると仰って…」
「いや!そんな義務ないでしょう!保護者のレイモンド様やアビー様ならまだしも!まさか部屋の物って?」
「全部殿下がお決めになった」
「・・・」
開いた口が塞がらないとはこのな時に使うんだ。引くわ…何あのベッドまるでラブホみたいじゃん!って実際行った事無いから想像だけど
「別の部屋の移動してください。狭いです」
「殿下の許可を得ないと…」
「なら、私が許可を貰います。ならいいですよね!!」
「ジョシュとも相談しよう」
なんなの!男どもの団結は!私が寝室に呼ぶとでも思っているの?無いわ・・・
クリスさんがアレックスさんの目の前に私を下すと、アレックスさんは一応手を取り手の甲に口付ける格好をし挨拶をしてくれた。
う…ん一応貴族だ。
「春香嬢。お迎えに上がった。殿下も待っておられる直ぐに出発いたします」
「ちょっと待って下さい。公爵様と奥様にご挨拶を」
アレックスさんの目が「さっさとしろ!」言っている。レイモンド様とアビー様にご挨拶をすると抱きしめてくれ、いつでも帰って来なさいと言ってくれた。
「絶対数日後には帰ります!」
と宣言するとアレックスさんの鋭い視線が背中に突き刺さる
アレックスさんが手を出そうとしたら、すかさずミハイルさんが私の腰に腕を回してエスコートする。
『ナイス!ミハイルさん!』
外に出てびっくり王族が乗る超高級馬車が停まっている。え?公爵家のいつもの馬車じゃないの?
思わず逃げ腰な私をミハイルさんは優しくエスコートしてくれる。従者が馬車の扉を開けると騎士さんが中を確認する。そのまま馬車に乗ると思いきやミハイルさんが私をぐっと引き寄せて
「アレックス殿。春香は心根が優しくか弱く傷つきやすい。あまり春香にキツイ物言いはやめて頂きたい。貴殿の物言いはキツイ事が屡々ある」
「春香嬢はローランド殿下が唯一望む女性。殿下の家臣として丁重にお仕えする事を誓いましょう」
『絶対嘘だ!』
不信感満載の視線をアレックスさんに送ると明らかに愛想笑いをされた。やっぱりこの人好きくない!
「ハル。夕食の時間までには町屋敷に行くよ。クリスもいるから何か有ればクリスに言いなさい」
「はい。お待ちしていますね」
ミハイルさんはハグちゅうをし馬車に乗せてくれた。こんな広い車内で一人。長い移動でまた寝るかもしれないなぁ…
って思っていたら『なんで?』アレックスさんが乗って来た。口を開け唖然とする私を後目に馬車の扉を閉めて窓の外の騎士に合図と送ると、ゆっくり馬車が動きだした。この性悪と一緒なんて聞いてないよ!窓の外にレイモンド様、アビー様とミハイルさんが手を振っている。
「心配させないように手ぐらい振ったらどうだ。気が利かん奴だな」
ミハイルさんに丁重に扱うって約束したのに数分でもう暴言!もー嫌だ!
公爵家の皆さんが見えなくなったので、町屋敷まで寝てやり過ごそうと、馬車の端に座り直し目を閉じた。
「バカ!寝ている場合ではない。町屋敷に着くまで屋敷内での警護の説明をする。1回しか説明しないからしっかり聞いておけ」
「そんなの着いてからでいいでしょう⁉︎」
「なんの為に一緒に(馬車に)乗ったと思っている。俺は忙しい!時間短縮の為にこうしてるんだ。勿論公爵様にも了解は得ている。ミハイル殿はお前と2人になるので渋られたが要らん心配だ! 俺がお前に何かする訳ないだろう」
この人何言っても癪に障るわ!
喧嘩する気も起きず静かに性悪の説明を聞く…聞いていた…
学生の頃は午後の授業は猛烈に眠くて睡魔との闘いだった。特に好きじゃない科目の時の睡魔は強敵で負けたる事が多かった気がする。
「おい!いい加減起きろ!俺を枕扱いするな!」
「はへ?」
目の前に綺麗なお顔の男性が私を見下ろいている。えっと…誰だっけ?動かない頭で考えた…
「アレックスさん?」
「他に誰が要るんだ!もうすぐ着くぞ!」
「ん?…ごめんなさい!」
何この状況!アレックスさんに膝枕してもらっている!絶対また”バカ“って言われる!
「お前…普段からちゃんと睡眠はとれているのか? 気絶したのかと思ぐらい急に眠ったので驚いた。
睡眠は大切だ。町屋敷に暫く慣れないだろうが眠れるときにしっかり眠れ!分かったか?」
「はい。すみません」
「謝って欲しい訳では無い」
「ありがとうございます」
「分かればいい…」
アレックスさんに支えられ座り直した。思いのほかアレックスさんの手は温かく優しい。普段意地悪な人が優しいといい人に見える事がある。まさにその状態だ。
アレックスさんが窓のカーテンを開けた。町屋敷の塀が見えて来た。少しすると馬車は停まり扉が開いて誰かがいきなり入ってきてアレックスさんが警戒する
「春香~!」
満面の笑みのローランド殿下だった。
「うげっ!」
殿下が絞め上げて…もとい抱きしめてくる。苦しい!殿下の背中を叩いて苦しさをアピると、力を緩め腕を解いてくれた
「春香!慣れない生活で疲れが出たんだね。宮廷医が休養すればよくなる言っていたが、中々町屋敷に来ないから心配で何度公爵家に行こうかと思ったよ!」
そっか病気設定でした。ちなみに宮廷医のおじいちゃんは来てません。殿下の脱走未遂のせいでアレックスさんが迎えに来たんだからね!
「ご心配をおかけしました。まだ不安定な時もあるので、暫くは町屋敷と公爵家を行き来す…」
そう言うとアレックスさんめっちゃ睨んで来る『要らん事言うな』って言ってるみたいだ
「いいよ!公爵家に行く事で春香が元気になるなら」
「ありがとうございます」
アレックスさんが殿下に耳打ちをし下車を促す。
殿下のエスコートで下りたら…
「!」
騎士が30人近く目の前に控えている!ビックリして思わず後退りしたら、後ろに控えていたアレックスさんにぶつかる。見上げたアレックスさんの視線は冷ややかだ。コイツ!何やっても腹立つ!
「春香、今日からこの屋敷を警護する騎士達だ。実力も忠誠心も強い者達を選んだ。安心して過ごしてほしい。そうそう皆んな既婚者だから安心するといい」
一番前に居る最年長者らしきアラフォー位の騎士さんが一歩前に出て、右手を胸に当て頭を下げてご挨拶される。小娘にこんな精鋭騎士が就くなんてあり得ない。
「すみません。私若きにこんな立派な騎士様が護衛いただけるなんて申し訳なくて…。出来るだけご迷惑お掛けしない様に、大人しくしていますので何か無作法があったら教えて下さい」
お辞儀しご挨拶する。
『ん?何か騒ついている。私変な事いった?』
顔を上げると皆さん驚いた顔をし何やらヒソヒソ話している。わーぜんとたなん…
「春香!貴女は私の大切な女性だから守られて当然なんだ。もっと自分本位でいいんだよ! 何かあればアレックスになんでも言えばいい。例えば急に僕に会いたいとかね!」
「あ…はぃ…」
ごめん殿下多分それは無い。それよりアレックスさんと接点持ちたく無いから、何かあったらクリスさんに頼みます。殿下の後ろに控える皆んなとマントの色が違う騎士さんが殿下に耳打ちをしている。
「春香。残念だが公務の時間が迫っているから、私は城に戻る。城に来たくなったらアレックス言ってくれ」
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今度は反対に殿下を見送る。今日の当番以外の騎士さんは騎乗し城に帰っていった。
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一応町屋敷まで護衛してくれたし声くらいかけた方がいいのか悩んでいると、クリスさんがアレックスさんの元に行き何か話している。
すると2人して振り返りこっちに歩いてくる。
「行くぞ」
「へ?」
「グズグズするのがお前の特技か?お茶が冷めるだろう」
いきなりアレックスさんに手を取られ引っ張られて行きます。全く状況が読めない私は“なすがままされるがまま”です。
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「護衛騎士は素行が良く実力のある者達だ。しかし既婚者とはいえ男女は何があるか分からない。変な噂が立たない様に気を付けろ。殿下に取り入りたい貴族はちょっとの隙でも突いてくるものだ。お前は平和な環境で育った様で人を疑う事をしない。見ている傍がハラハラさせたれる。殿下の“迷い人”である自覚をもて」
休息のお茶なのに説教されているし…この人の立ち位置はどこなの?
「お言葉を返す様ですが私“迷い人”だと認めていませんよ。それに貴方に心配いただく道理がありません」
「阿保かお前は。お前が何事もなく過ごす事が殿下の平穏につながる。だが陛下も殿下もこの屋敷にお前を閉じ込めようなんて思っていない。
ただ普通に平穏に日常を過ごせばいい。日は浅いがお前を見ているとゴラスから来た他の女性に比べ謙虚で真面目で貞操観念もしっかりしていそうだ。
…だから余計に厄介事に巻き込まれないか心配で見てられない」
あれ?心配してくれているの?それとも貶されているの?どっち?
「バーミリオン侯爵は表立っては動かないが、彼奴は水面下で画策するのが得意だ。ライバル視している公爵が溺愛し、殿下の相手候補ともなれば隙あらば手を出して来るだろう。ちょっとした身の回りの変化があれば俺に言え対処する」
「はい。よろしくお願いします」
アレックスさんは残りお茶を一気飲みし立ちあがった。つられて立つと手で制し
「俺は一旦城に戻る。騎士は配置済だ。日没までにミハイル殿も到着するだろう。あの方はその辺の騎士より強いから安心し身を任せるといい」
アレックスさんは足早に部屋を出て行った。
何かアレックスさんの行動が早く私の頭はついていかない。相変わらず口は悪いけど悪い人ではなさそうだ。
応接室に一人残されお茶を頂きながら茶菓子を頂く。少しするとクリスさんが来て屋敷の皆さんを紹介してくれるらしく、クリスさんとゆっくり屋敷内を周る。一通り挨拶を終え夕食まで自分の部屋で過ごす。前に来た時は何も無かった居間がウッディ調の家具が配置され落ち着いた部屋になっている。
次に寝室に入ると…
私の希望のダブルベッドはクリーム色の寝具がセットされいい感じ。…で
「これ誰がしたの?」
前にミハイルさんとジョシュさんと下見に来た時に、散々二人にベッドが小さいから替えろと言われたが断固拒否した。しかし私のダブルベッドは替えられていないが、その横に公爵家で使っていたベッドと同じくらいのベッドがある。そう!ベッドが2台並べて設置されている…
何で?この追加ベッドのせいで寝室が狭くなっているし。それもこの巨大ベッドは白のシルク地に金糸が施された雅な寝具がセットされていて新婚さんが使いそうなラブリーな雰囲気を醸し出している。誰か知らないけど私の寝室で寝るつもりの奴がいる。
「あり得ない…」
呆然としていて嫌な予感が走った。衣服も全部用意されている筈。急いで衣裳部屋に行くと…
衣裳部屋ぱんぱんに服が並んでいる。
「これ何人分よ…」
一応服は私好みで飾りが少ない物が並んでいてほっとする。強大なチェストの引き出しを開け中を確認するとシルクのフリフリやレースだらけの下着が収納されている。こんなゴテゴテの下着痒くなるじゃん!綿で肌触りがいいのがほしい!これはアビー様に要相談だ!
全部の服に袖を通すのは月単になりそうだ。全てにおいて大貴族様の感覚についていけないと思った。
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「私エリスと申します。この度春香様付の侍女を務める事になりました。よろしくお願いいたします」
「えっと…基本私は自分の事は自分でします。一人で着れないドレスの時とかはお手伝い頂きたいですが…」
「はい、奥様から伺っています。暫くの間はお仕えし、春香様のペースに合わせますのでご自由になさって下さいませ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「昼食の準備が出来ております。食堂へどうぞ」
「はい」
町屋敷の料理も口に合いとても美味しかった。ロックさんの申送りのお陰で食べやすいサイズで困る事はなさそうだ。
そしてミハイルさん来るまで部屋でのんびり過ごします。ミハイルさんが来たら聞きたいことがたくさんある。初めにちゃんと解決しとかないと後でなおらない事も多い。本を読んで時間を過ごしていたらミハイルさんが着いたみたい。身なりを整えてエントランスに向かう。
エントランスで外套をクリスさんに預け話しているミハイルさんを見てなぜか安心する。町屋敷の人はまだ面識が薄く人見知りするから…
やっぱりミハイルさんは初めてこの世界であった人だからか、安心感が他の人と違う。
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「ハル。問題はないかい?」
優しくハグちゅうしてくれる。この習慣もすっかり慣れてきて無いと物足りなく思う様になった。慣れって怖いですね
「着替えてくるよ。夕食までの時間ラウンジでお茶をしよう」
「はい。ラウンジで待っていますね」
「私の部屋に来てもいいんだよ」
「ご遠慮します」
ミハイルさんは楽しそうに笑う。この他愛ないやり取りが最近好き。
エリスさんと一緒にラウンジに向かう。ラウンジは臙脂色を主体にした落ち着いた感じになっている。ベルベット調のソファーが何処かの電車のシートみたいで一人で笑った。少しするとミハイルさんがラフな部屋着で着た。
お茶を頂きながらまずはあれについて質問する。
「ミハイルさん…どうして私の寝室にベッドが増えているんですか?」
「あれは全員一致で決めたことで…」
「全員って誰?!」
「俺とジョシュと殿下と…」
「殿下が寝室を見たんですか⁈」
「ハルの生活する場所が安全か確認する義務があると仰って…」
「いや!そんな義務ないでしょう!保護者のレイモンド様やアビー様ならまだしも!まさか部屋の物って?」
「全部殿下がお決めになった」
「・・・」
開いた口が塞がらないとはこのな時に使うんだ。引くわ…何あのベッドまるでラブホみたいじゃん!って実際行った事無いから想像だけど
「別の部屋の移動してください。狭いです」
「殿下の許可を得ないと…」
「なら、私が許可を貰います。ならいいですよね!!」
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※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
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