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13.住む場所

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翌朝起きて部屋に行くとモリーさんが居た。嬉しくてモリーさんの手を取り合い喜ぶ。ソファーに座り他愛もない話をしてモリーさんとの会話を楽しむ。聞いて驚いたけど図書館でモリーさんはローランド殿下だと気づいたらしい。だからあんなに怯えていたんだ。そんな殿下から求愛されていると聞いたらモリーさんは卒倒してしまうのではと思い言えなかった。

そして朝食の近付き2人に会うのが気まずくて、わざと食事の時間をずらそうと寝室でのんびりしていたらミハイルさんが迎えに来た。ずらす気満々だったからまだ夜着だよ。慌てて寝室に飛び込み必死で着替えた。そして恐る恐る部屋を覗くとソファーに座っていたミハイルさんと目が合う。

「おはよう春香。疲れは残っていないか?」
「大丈夫です」
「では朝食に行こう」
「え…と…はい」

こういう時に断れない日本人。

『ずらすと言った私はどこに行った!』

と心の中で突っ込み、ミハイルさんに手を引かれダイニングルームに連行中。
やっとダイニングルームに着くとレイモンド様とアビー様が既に朝食を食べていて、ジョシュさんはまだ来ていない。ミハイルさんに椅子を引いてもらい着席すると食事が運ばれる。目の前の朝食を見て驚き給仕してくれたロックさんを見た。

「小柄な春香様に合わせて食事を小さくさせていただきました。これなら食べやすいと思います」

そう!量もだけど料理が大きくて一口サイズにカットしている間にお腹がいっぱいになっていた。この小さな配慮に感動してロックさんの手を取りお礼を言う。あれ?ロックさん風邪気味?少し赤いよ⁈
すると急に誰かの手が割り込んできた。見上げるとジョシュさんだ。ロックさんは慌てて給仕に戻って行った。ジョシュさんは跪き私に目線を合わせて溜息を吐いて

「春香ちゃん。俺さ部屋に迎えに行ったんだよ。明日からは俺が迎えに行くから部屋で待っていてね。それから軽々しく他の男に触れない様にね。屋敷の者の安全の為にもね」
「え…と?よく分からないけど、ダイニングルームの順路も覚えたしお迎えは必要ないですよ。ミハイルさんも明日から必要ないですからね」
「はぁ…俺が迎えに行きたいからいいんだよ」
「ジョシュ。必要ない俺が毎日迎えに行くから」

また険悪な雰囲気だ。目の前の皆さんの心遣いの料理が冷める。駄目だ…イラっときた

「お2人共お迎えは必要ありません。喧嘩するなら来ないで下さい。折角料理人さんと給仕さんが用意してくれた朝食が冷めます。用意してくれた方々に失礼です。こんな事が続くなら私は1人食べます」

アビー様は拍手しレイモンド様は2人に食事後に執務室に来るように言っている。あー説教確定だなぁ… 小さい子供じゃないんだからこんな事で喧嘩しないで欲しい。お2人は謝り静かに食事を始めた。やっと美味しい食事ができる!

食後はミハイルさんとジョシュさんはレイモンド様に執務室に連行されていった。
私とアビー様はラウンジでお茶を頂く。唐突にアビー様が

「春香ちゃんダンスは踊れる?」
「私は平民です。ダンスなんて習っていません」
「ならすぐにでも練習を始めないとね」
「あと1か月もしないうちに社交シーズンになるわ。恐らく陛下主催の夜会の参加は絶対だからね。必ずダンスがあるから踊れないと困るわ」
「その日は病気で不参加の予定で…」
「また宮廷医がやって来るし、またあのお薬を飲むの?」
「…」
「大丈夫よ。私が教えるわ。昔から妹の練習相手に男性パートを踊っていたからね」

やっぱりここで生きていくなら平民がいいと改めて思った。

今日はやる事も無く暇なので庭でワンダと戯れる…ワンダの方が体が大きくてワンダに遊ばれた気がするのは気のせいだろうか…
最後の方ワンダの興奮が激しく、付き添い騎士のリースさんが身を呈してワンダを止めてくれた。芝に転がされ洋服が汚れたので部屋に着替えに戻りながら、次から静かにワンダと遊ぼうと思った。ワンダが興奮すると危険と学習する。
部屋に戻るとモリーさんが驚き直ぐに湯浴みの準備をしてくれた。ごめんなさい…

夕方になり夕食前にクロードさんが部屋に来た。どうやらレイモンド様がお呼びのようだ。クロードさんと長い廊下を歩き他愛もない話をしていたら、クロードさんがアラサーで独身である事が分かった。美形で優しいしお仕事出来るのに独身だなんて… 理想が高いのかなぁ?
そんな事を考えていたらレイモンド様の執務室の前でミハイルさんと会う。自然な流れで手を取られて一緒に執務室に入る。
執務室にはアビー様とジョシュさんが居た。ミハイルさんが私の横に座ろうとしたら、喧嘩になるからとアビー様が私の横に座る。
クロードさんが退室したらレイモンド様が手紙をテーブルに置いた。ミハイルさんもジョシュさんも表情が険しい。目線をアビー様に向けると

「春香ちゃんあの手紙はローランド殿下からよ」
『え!マジですか!』

どうりで二人が機嫌悪いはずだ。
レイモンド様この手紙は開封しない方が平和な気がしますよ…あ…やっぱり開封するんですか…

レイモンド様は無表情で手紙を読みアビー様に渡す。

「レイモンドこれ…私は反対よ」

アビー様は封筒に手紙を直してテーブルに手紙を投げ置いた。意味が分からずきょろきょろしていたら

「春香。ローランド殿下が城下に1軒屋敷を用意し春香にそこに住むようにと言ってきている。この屋敷に春香が居ては殿下が会いに来れない。だから城下に春香を囲いたいんだろう」
「それってここを出て知らない屋敷に住めってことですか?」
「そうだ。屋敷の使用人は王宮で手配し警護に騎士をつける」

『うわ!!絶対嫌だ!』貴族でもない一般人が騎士様に守られ、侍女さんに傅かれるなんて居心地いいわけない。

「レイモンド様…拒否は有りですか?」
「本来なら王族に逆らう事は出来ない。…が春香に嫌われること好としない殿下だ。多少の事は聞いて下さるだろう」
「一番の希望はこのままこちらでお世話になりたいです。しかし王都に住まわないといけないなら殿下が用意した屋敷は嫌です。どこか働きながら住めるところを探します」

沈黙が続き…ジョシュさんが

「うちの町屋敷でいいのでは?王都の中心部だし、我々は王都に行く事が多いので、春香ちゃんの様子も分かるし使用人も春香ちゃんと面識がある。後は警護に騎士を増員すれば問題ないでしょう」

「いい考えだが、殿下が何と言うか…」

取りあえずジョシュさんの案が決まり殿下にお伺いを立てる事になった。

「殿下が明日この屋敷にお見えになる。家臣総出で準備をする様に」

気が重い…

レイモンド様がミハイルさんとジョシュさんに退室を促し私は残された。嫌な予感がして来た。
するとレイモンド様は座り直し真っ直ぐに私を見据えて話し出す。怖い何を言われるのだろうか…

「春香の気持ちを確認したい。帰る方法が分かれば帰りたいかい?」
「はい」
「そうか…半年後に帰り方が見つからない時はミハイルと婚約破棄をし、平民として付き合わせに参加すると言うのもか?」
「はい。変わりません」

レイモンド様は胸ポケットから手紙を1通取り出し私の前に置いた。それは開封されている。
差出人は書かれていない…でもこの紋章はローランド殿下の手紙にあった紋章に似ている。

「私が読んでいいんですか?」

頷くレイモンド様。私の頭の中で警報音が鳴っている。読まない方がいい気がしている。
でも読まない選択肢は無い様だ。

恐る恐る封筒から手紙を出す。日本語に変換しながら読むから集中力がいる。先日の城での出来事トラブルの報告書の様だ。

「ぅわぁ!」

思わず手紙を掘り投げてしまった。
何!今怖い事が書いてあった。見間違い…翻訳間違いであって欲しい。

「そう…差出人は陛下だ。陛下は春香とローランド殿下の婚姻を望んでいる。陛下はミハイルの加護持ちも勿論知っていて、ミハイルにも春香が必要なのは理解してらっしゃる。その上での提案だ。ギリギリ法にも教会の禁忌にも触れない。後は春香が受け入れるかだけだ」
「ごめんぬ…殿下もミハイルも春香ちゃんを諦める事は無いわ。出来うる限り春香ちゃんの願いに沿うわ、だから考えてみて…」

恐ろしい4文字は…
』だった。つまりローランド殿下とミハイルさん2人を夫に迎える事を意味する。

“彼氏いない歴=年齢”の私がいきなりハイスペックな彼氏が2人も出来て、更に結婚なんてめちゃくちゃ過ぎて想像も出来ない。
黙り込んだ私をアビー様が隣に座り抱きしめて

「焦らなくていいのよ。ゆっくり考えて無理なら、また別の方法を一緒に考えましょう」


ベッドに入り天井をぼんやり見ている。
レイモンド様の執務室からどうやって帰って来て、どうやってベッドに入ったか覚えていない。
日々こちらの世界に順応するのに必死で、恋愛感情なんて湧いてこない。少しずつ眠たくなって来た。脳が考えるのを拒否しているみたいだ。このまま眠り元の世界に戻れたら異世界モノの様な楽しい夢を見た!って喜ぶのに… こうして現実逃避するかのように眠りに着いた。

そして翌朝。結果から言うと夢見が悪く寝不足で最悪のスタートとなった。
悪夢のせいで朝食の時間に間に合わ無くて、大きなダイニングテーブルに一人座っている。夢の後遺症で食欲が無い…
食事が進まない私を心配してロックさんがフルーツヨーグルトを出してくれた。フルーツを小さくカットしてヨーグルトと和えてくれているから食べ易く食べれた。ロックさんをはじめ皆さんに御礼を言う。

部屋に戻るとモリーさんが綺麗なロングワンピースを用意してくれていて着替える様に促される。
殿下はお昼前に来るらしく部屋で待機中。夢見も良くなかったし殿下は来るし今日は気が重い。

どの位経っただろう…本を読んでいるが、全く内容が頭に入ってこない。こんな時はスマホで面白ろ動画とか見るのが一番暇つぶしるのになぁ…スマホが欲しい…

ノック音がして誰か来た様だ。モリーさんが応対してくれクロードさんだとわかる。
どうやらローランド殿下がお見えになるようで、エントランスに行かなければならない。

「・・・へ?」

エントランスに家臣の皆さんが綺麗に整列している。どうやら私が一番最後の様だ。
目立たな様に一番後ろで止まり、こっそり柄の大きい馬番さんの後ろに潜む!
…が眉間に皺を寄せたクロードさんに引っ張り出され一番前に連れて行かれる。
一番前には当たり前だが当主のレイモンド様とアビー様が立ち後ろにミハイルさんとジョシュさんだ。
私は…まさかのレイモンド様とアビー様の間だ。
何故一番前?

大きな扉が開きローランド殿下が颯爽と入ってきた。みんな訓練したかの様に一斉にお辞儀をする。
もー事前に教えておいて!知らないからワンテンポ遅れたよ…恥ずかしい!

レイモンド様が一歩出てローランド殿下にご挨拶している。特にやることもなくぼんやりしていたら、強烈な視線を感じ視線の先を辿ると殿下の後ろに騎士がいて私を見ている…って言うか睨んでいる。
深緑の長髪に切長の茶色の瞳の美丈夫だ。面識は無いはずなのに睨まれる理由が分からない。
ただただ不快だ。

「春香…」

気がつくと目の前にローランド殿下がいた。目つきの悪い騎士が気になって殿下の事忘れていた。

「えっと…こんにちは」

殿下は手袋を外し私の手を取り嬉しそうに手の甲に口付けを落とす。

「今日は今後の相談と先日のドレスをお持ちしました。早く貴女と語らいたい。公爵案内してくれ⁈」
「御意。ではこちらへどうぞ」

レイモンド様が案内するので下がろうとしたが、殿下が手を離してくれない。それどころか腰に手を回され連行される。
あ…ミハイルさんとジョシュさんの視線が痛い。

来賓室にローランド殿下のエスコートで初めて入る。流石公爵家!煌びやかでソワソワして落ち着かない。入室するとアビー様が笑顔でローランド殿下から私を解放してくれ、1人掛けのソファーに座らせてくれた。
一緒に座る気だった殿下は明らかに不満げな顔をしている。それより殿下の後ろに控えるあの目つきの悪い騎士が視界に入り居心地悪い。
あの目つきの悪い騎士は何で一緒に居るんだろう?

この後、この第1印象最悪の騎士が私の生活に関わってくる何てこの時は思いもしなかった。
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