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第7章  獄窟

第11話  加算

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 俺から二人にプレゼントを渡す。ダンジョンでの何やかんやは、結局プラス収支だから、それに対する謝辞の代わりだ。

「……指輪っ!」

 エステラが何か呟いたが、気にせずに俺は続ける。

「――卵のお礼です。どうか世界を二人で楽しんで下さい」

 三万五千年も縛られた彼女達だ。これからの永遠を実りあるものにしてほしい。

「すごい! ノア。貴方からはいつも貰ってばかりね。何かお礼出来ればいいのだけれど」

「いえいえ。もう十分頂いていますよ」

 深層の温泉はこの都市で間違いなく断トツの俺のお気にいりだ。おかげで家の風呂を殆ど利用しなかったほどだしね。

「――ノアさん。明日朝にでも今後の打ち合わせをお願いしたいのですが。へ伺わせて頂いても宜しいですか?」

 神武かみたけさんがそう確認した。

「えぇ。構いませんが何時頃」

「宜しければ朝食が終わった時間を頂戴したく存じます」

 これから数日掛けて、ここの遊園地やギャラリーにエステラ達を案内しよう。それから、みんなに挨拶をしたら出発だ。ダンジョンは彼女の希望しだいかな。長くはない残りの日を楽しもう。別れは新たな出会いの始まりでもあるからね。


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 エステラは家に女の子がいたことに驚き戸惑う。僅かばかりの焦燥と胸を刺す甘い痛みに口を結び様子を窺う。だが、その男女にノアが指輪を贈った事でそっと息を吐くと、強張った身体の力を弛めた。

 ウェンから耳打ちされた、隠れたその意味。エーギルとイェルダへ、ノアからかけられた二人を祝福するおまじないだ。

 つまり、そういう事。そして――何もない自分の薬指をそっと撫でた。甘い痛みは、ほどける事なく、いや増すばかりだった。


§


(ノアさんは、あの家の転移門を殆ど利用しない。だから、大丈夫だ)

 神武かみたけは、そう自分に言い聞かせた。友人とも呼べる関係になったノアを彼は警戒する。自身のマスターの為に。かつて、生涯をかけて愛した女性の生まれ変りを案ずるが故に。

 混乱後のヌクレオを調べて分かった新たな事実がある。サイネ支配下のダンジョンに一つの項目が追加されていた。

 代行者領域ダンジョン。管理No.00001と。

 調べるとそれは、上位の権能の管理下にサイネのダンジョンが組み込まれている事を意味した。そのような出鱈目な影響を及ぼす人物を、彼は一人しか思い浮かべられない。

 吉凶すら判断できないその出来事が、彼の対応を慎重にさせた。だが、当の本人はダンジョンに興味すら示さずにそのまま旅立って行った。

 警戒を緩めた彼は感謝を深くする。嬉しそうにゲームに興ずる少女の姿に。そして、訳知り顔で手を引いて街を案内するその笑顔に。

 生き生きと楽しむ姿は彼が心から願ったものだ。その隣に寄り添いたいと望み夢見た情景だった。

 それを叶えた暴風のような青年の旅路と人生に幸運を心より祈った。



 ――――リリン♪

 特定領域ダンジョンから信仰値+を獲得しました。
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