316 / 403
第6章 罪咎
第56話 殺気
しおりを挟む
ゴムリンの村を束ねる長は、用心の為に遠回りをして人間同士の戦場を迂回してきた。
(危険だが。安全を確認する為には、あの場所まで行かなければ判断出来ない)
長は闘鬼を纏い集落から外縁へと通じる路を戻る。
~~~
気配を探りながら慎重に歩みを進める。その場所に近づくと増えてゆく薙ぎ払われた巨木。甚大に広がるいくつもの焼け跡。昨日までの森と同じ場所とは思えない程の変わりようだ。
そして森を貫き地面を削った終わりの見えない真っ直ぐな破壊跡。
(一体何が起きたのだ……)
その直線の終わりは焼け焦げて不自然に開けた大地。――そして。
◇
俺は人の気配を感じ目が覚める。どうやら。またいつの間にか飛んでいたようだ。樹を背もたれに休んでいたが、寝たというより意識を失った感が強い。
俺が感じた気配の正体はホブゴブリン。俺の感知魔法の感触では、ジョシュアさんとの戦闘で最後まで近くにいた個体だ。
『妖精さん』の攻撃で生まれた直線から、『集束くん』の連発で開けたこの場所へと出てきた。
ゴブリンと人間は争う事が多い。穏便に済めばいいんだが。闘鬼を纏って緊張感はビンビンだ。
俺は敢えて立ち上がらずにその場で手を振って存在を知らせる。座ったままなのは失礼かもしれないが、普通は座った状態から攻撃は出来ない。害意が無い事を先に示す為だ。
まぁ。俺の場合やりようはあるが。
ホブゴブリンが張らなくても声が届くギリギリまでやって来る。
「座ったまま失礼します。害意が無い事を示す為にこうしています。不快に思われたなら謝罪を。――手紙は受け取って貰えましたか?」
モルト。お前の仕事が完璧なのは知っている。悲しい顔をするな。疑った訳じゃ無い。言葉の綾だ。
「あの文はお前からか。事態が収束したと書かれていたが、どう収まったのか確認したい」
帝国って言って伝わるのかな? 寧ろ人間からの攻撃行動と受け取られかねないから悪手か。国によってというよりも、種族からと見られるからな。
「何かの原因で黒狼が混乱暴走しました。それをジョシュアさんが倒して収めましたが、その混乱の原因は倒した者に乗り移る特性があり、今度はジョシュアさんが混乱暴走状態となりました。そして、ジョシュアさんが亡くなり。……俺が殺して混乱は収まりました」
「……殺した。我らの友人を?」
ホブゴブリンから殺気が立ち昇る。これも俺が請け負う責任の一部だ。そしてジョジュアさんの人徳が成した結果だ。誹謗中傷大いに結構。それだけの事をしたのだから。
「はい。私が彼を殺しました」
(危険だが。安全を確認する為には、あの場所まで行かなければ判断出来ない)
長は闘鬼を纏い集落から外縁へと通じる路を戻る。
~~~
気配を探りながら慎重に歩みを進める。その場所に近づくと増えてゆく薙ぎ払われた巨木。甚大に広がるいくつもの焼け跡。昨日までの森と同じ場所とは思えない程の変わりようだ。
そして森を貫き地面を削った終わりの見えない真っ直ぐな破壊跡。
(一体何が起きたのだ……)
その直線の終わりは焼け焦げて不自然に開けた大地。――そして。
◇
俺は人の気配を感じ目が覚める。どうやら。またいつの間にか飛んでいたようだ。樹を背もたれに休んでいたが、寝たというより意識を失った感が強い。
俺が感じた気配の正体はホブゴブリン。俺の感知魔法の感触では、ジョシュアさんとの戦闘で最後まで近くにいた個体だ。
『妖精さん』の攻撃で生まれた直線から、『集束くん』の連発で開けたこの場所へと出てきた。
ゴブリンと人間は争う事が多い。穏便に済めばいいんだが。闘鬼を纏って緊張感はビンビンだ。
俺は敢えて立ち上がらずにその場で手を振って存在を知らせる。座ったままなのは失礼かもしれないが、普通は座った状態から攻撃は出来ない。害意が無い事を先に示す為だ。
まぁ。俺の場合やりようはあるが。
ホブゴブリンが張らなくても声が届くギリギリまでやって来る。
「座ったまま失礼します。害意が無い事を示す為にこうしています。不快に思われたなら謝罪を。――手紙は受け取って貰えましたか?」
モルト。お前の仕事が完璧なのは知っている。悲しい顔をするな。疑った訳じゃ無い。言葉の綾だ。
「あの文はお前からか。事態が収束したと書かれていたが、どう収まったのか確認したい」
帝国って言って伝わるのかな? 寧ろ人間からの攻撃行動と受け取られかねないから悪手か。国によってというよりも、種族からと見られるからな。
「何かの原因で黒狼が混乱暴走しました。それをジョシュアさんが倒して収めましたが、その混乱の原因は倒した者に乗り移る特性があり、今度はジョシュアさんが混乱暴走状態となりました。そして、ジョシュアさんが亡くなり。……俺が殺して混乱は収まりました」
「……殺した。我らの友人を?」
ホブゴブリンから殺気が立ち昇る。これも俺が請け負う責任の一部だ。そしてジョジュアさんの人徳が成した結果だ。誹謗中傷大いに結構。それだけの事をしたのだから。
「はい。私が彼を殺しました」
0
お気に入りに追加
1,584
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ちょっとエッチな執事の体調管理
mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。
住んでいるのはそこらへんのマンション。
変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。
「はぁ…疲れた」
連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。
(エレベーターのあるマンションに引っ越したい)
そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。
「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」
「はい?どちら様で…?」
「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」
(あぁ…!)
今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。
「え、私当たったの?この私が?」
「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」
尿・便表現あり
アダルトな表現あり
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
黒髪の聖女は薬師を装う
暇野無学
ファンタジー
天下無敵の聖女様(多分)でも治癒魔法は極力使いません。知られたら面倒なので隠して薬師になったのに、ポーションの効き目が有りすぎていきなり大騒ぎになっちまった。予定外の事ばかりで異世界転移は波瀾万丈の予感。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
アヂア!!
エーアデ
ファンタジー
平凡な高校生のはずだった…
高校生の相生葵は特別な存在?
家に来た男にいきなり特別だと言われ!?
その日から彼女の歯車は狂いはじめる。
異世界が絡むドタバタコメディ?
アヂア!!連載中!
気まぐれ投稿
近況報告をこちらでします
@hiro_hiro12_26
時々短編恋愛小説集を書いています
そちらの方も見ていってください
短編恋愛小説集で、検索!
おばあちゃん(28)は自由ですヨ
七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。
その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。
どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。
その途端、響く悲鳴。
突然、年寄りになった王子らしき人。
そして気付く。
あれ、あたし……おばあちゃんになってない!?
ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!?
魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。
召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。
普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。
自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く)
元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。
外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。
※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。
※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要)
※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。
※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる