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第6章  罪咎

第28話  元聖

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 黒狼自体が初見だったから、その『暴走くん』状態の異常に気づけなかったのも痛手だ。

 最悪。敵対しても闘って消耗しているところを狙えば何とかなると思っていた。――お前がそんなたいした奴じゃない事は自分が一番知っているだろう? くそったれがっ!

 ――だが、神武かみたけさんはあの気色悪い蝶から回復が出来た。なら、楽観的過ぎるが希望はある筈だ。

 笑え。――絶望の中でこそ笑え。そう決めただろう。俺は無理やり頬を上げる。

 俺がパオラさんに連れられて探知魔法を覚えたときに受けた説明だ。その探知範囲は人間の極致である剣聖や聖騎士クラスになると100mを超えると。

 それで思い出したのはジョシュアさんとのギリギリの邂逅だ。あの時ジョシュアさんは100m以上離れた暗闇の俺を感知した。


 つまり――そういう事だ。

 その説明を受けた時に俺はジョシュアさんの実力に気付いたんだ。剣聖。聖騎士。或いはそれに準ずる上位職クラスだろうと。

 そして、さっき目にした埒外の闘い。

 ――黒い蝶は倒さないと出てこない。少なくとも気絶以上が絶対条件だろう。

 これこそが絶望の理由。だが、そうしなければ救えないなら覚悟を決めろ!

 始めから全力を出すぞ。絶望に抗え。――それを笑い飛ばせ。弱音を吐くな。

 ――やれ!! 為せ!! 遂げろ!! ――器用貧モブ乏のボンクラ!!


§


 今はシェリルを名乗る元聖女は心の騒めきを感じて森の方向を見た。

 そして、聖騎士ジョルジアの事を思う。もう、ジョシュアの方が口馴染みの良い名となったが。

 死の草原でたまたま出会った少年に伝えるべく付けた偽名は、その思い出もありそのまま定着した。

 光しか感じられない程落ちてしまった視力で、瞳を青く光らせて、チェストの上に鎮座する聖鏡せいきょうを見つめた。

 だが、加護の無くなったそれが、神託を彼女に伝える事は無い。自身ものろいで力を失って久しい。

 ――のろい。その悪意を受けたのは魔人の王との闘いの直後だった。

 第三王子がその王を討ちとった瞬間。王の胸元で悪意が瞬いた。

 王子はそれを受けて絶命し、聖騎士ジョルジアは楯の無い半身に呪いを受けた。そして、彼女は神託の拠り所の眼から力を失った。

 それまで帝国で敬われていた彼女は、その敬意が砂上の城だったと知る。

 力を失った彼女に待っていたのは、幽閉と元聖女の優秀な血を増やすべく科せられる苗床の運命だった。

 絶望の塔に閉じ込められる間際に、自分を助けに現れたのは帝国から蔑まれ、自身も優秀な護衛程度にしか思っていなかったジョルジアだけだ。
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