280 / 403
第6章 罪咎
第20話 聖獣
しおりを挟む
レオカディオは報告に耳を澄まし、内容を熟考した。
「希望的な推測だが、もし、帝国で不遇を囲っているのなら、亡命提案の計画もあり得るな。いずれにしろ、聖騎士が動かせないのなら王国には有利に働く筈だ。バルデラスも含め帝国内の情報を今後も頼む。――」
「――それと。例のあの人物に対しての情報は?」
「それが、あれ以降全く姿を現しません。クロヴィスという名とアルマコルタールという単語以外何も入手できていません。不甲斐なく」
そう言って男は頭を垂れる。
「前回の不穏な戦争の鍵となる人物だ。辺境伯の仇でもある。頼むぞ」
「はっ。全精力をもってお応えします」
配下の男はそう言って報告を終えた。
レオカディオをリンクして王国は進む。
§
――――東の果て
ここは聖獣の森と呼ばれている。広く豊かな場所だ。
食物の連鎖が連綿と流れ、厳しくも根源的な営みが整然と行われる。
この土地を守る主がいる。森の最奥に悠然と住まうものだ。
その身体は雄々しく。漆黒に覆われた狼だ。そして、身体をシルバーに輝く虎柄が覆う。
――陸の覇者虎狼。人はそう呼ぶ。
そのものは、洞窟の中で丸くなり生まれたばかりの子に乳を与えていた。
そこに不穏の影が忍び寄る。
――同族の若い個体だ。
群れを成さぬ虎狼は、下位の個体が上位へ近づく事は無い。だが、その個体は眼を血走らせ、涎を垂れ流し唸りながら近づいて来る。
主はそれに気づき近づくなと一鳴きした。だが、そのものの歩みは止まらない。
主はスヤスヤ眠る我が子を巣に残し洞窟から出て行く。
虎狼は順位付けで闘う事もあるが、長らく頂点に君臨する主に挑戦するものはいなかった。
最後の警告に去れと鳴く。上位者からの恫喝だったが、それを受けてもその個体は臆せず姿を表し唸り声を上げる。
主は悠然と構え唸り声さえ上げない。そして、おかしな個体へと注意を注いだ。
勝負は一瞬で決着する。
口を開けて挑みかかる個体をいなし、首へと噛みつき組み伏せた。
そこで、屈服の姿勢を見せる筈の個体は、抵抗し激しく暴れ回る。
主は更に噛みを強くして屈服を促すが、それでも個体は収まらない。
これ以上は命のやり取りとなる。種族のしきたりに則り首を噛みちぎった。
そして、その肉を吐き出す。
――と
倒した個体の頭部から、しみ出すように悪意の黒蝶が無数に現れた。
不穏な様子に飛退る主を取り囲む黒蝶はひらゆらと舞い飛び近づく。
主は土魔法で槍を生み出しそれらを攻撃するが、その岩を通り抜け身体に張り付かれた。
そして、表面を滑るように頭部へと移動する。
ガッ! ガルッゥー! 苦しむように唸り声を上げた。
「希望的な推測だが、もし、帝国で不遇を囲っているのなら、亡命提案の計画もあり得るな。いずれにしろ、聖騎士が動かせないのなら王国には有利に働く筈だ。バルデラスも含め帝国内の情報を今後も頼む。――」
「――それと。例のあの人物に対しての情報は?」
「それが、あれ以降全く姿を現しません。クロヴィスという名とアルマコルタールという単語以外何も入手できていません。不甲斐なく」
そう言って男は頭を垂れる。
「前回の不穏な戦争の鍵となる人物だ。辺境伯の仇でもある。頼むぞ」
「はっ。全精力をもってお応えします」
配下の男はそう言って報告を終えた。
レオカディオをリンクして王国は進む。
§
――――東の果て
ここは聖獣の森と呼ばれている。広く豊かな場所だ。
食物の連鎖が連綿と流れ、厳しくも根源的な営みが整然と行われる。
この土地を守る主がいる。森の最奥に悠然と住まうものだ。
その身体は雄々しく。漆黒に覆われた狼だ。そして、身体をシルバーに輝く虎柄が覆う。
――陸の覇者虎狼。人はそう呼ぶ。
そのものは、洞窟の中で丸くなり生まれたばかりの子に乳を与えていた。
そこに不穏の影が忍び寄る。
――同族の若い個体だ。
群れを成さぬ虎狼は、下位の個体が上位へ近づく事は無い。だが、その個体は眼を血走らせ、涎を垂れ流し唸りながら近づいて来る。
主はそれに気づき近づくなと一鳴きした。だが、そのものの歩みは止まらない。
主はスヤスヤ眠る我が子を巣に残し洞窟から出て行く。
虎狼は順位付けで闘う事もあるが、長らく頂点に君臨する主に挑戦するものはいなかった。
最後の警告に去れと鳴く。上位者からの恫喝だったが、それを受けてもその個体は臆せず姿を表し唸り声を上げる。
主は悠然と構え唸り声さえ上げない。そして、おかしな個体へと注意を注いだ。
勝負は一瞬で決着する。
口を開けて挑みかかる個体をいなし、首へと噛みつき組み伏せた。
そこで、屈服の姿勢を見せる筈の個体は、抵抗し激しく暴れ回る。
主は更に噛みを強くして屈服を促すが、それでも個体は収まらない。
これ以上は命のやり取りとなる。種族のしきたりに則り首を噛みちぎった。
そして、その肉を吐き出す。
――と
倒した個体の頭部から、しみ出すように悪意の黒蝶が無数に現れた。
不穏な様子に飛退る主を取り囲む黒蝶はひらゆらと舞い飛び近づく。
主は土魔法で槍を生み出しそれらを攻撃するが、その岩を通り抜け身体に張り付かれた。
そして、表面を滑るように頭部へと移動する。
ガッ! ガルッゥー! 苦しむように唸り声を上げた。
0
お気に入りに追加
1,584
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
黒髪の聖女は薬師を装う
暇野無学
ファンタジー
天下無敵の聖女様(多分)でも治癒魔法は極力使いません。知られたら面倒なので隠して薬師になったのに、ポーションの効き目が有りすぎていきなり大騒ぎになっちまった。予定外の事ばかりで異世界転移は波瀾万丈の予感。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる