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第5章 流来
第86話 導光
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イェルダは王都にいる恩師。そして密かに慕うイーギルに一瞬、想いを馳せた。
彼女は自分の役目を果たすために、拡声器を響かせた。
「王民事業体ノルトライブ支所のシェルターは、衣食住全てを賄えます。安心して避難してください」
目の前のこの感動的な光景を、しっかりとエーギルに伝えること誓いながら。
イェルダが左手薬指に嵌める、護身のリングには、ノアなりのゲン担ぎが込められている。
この世界では嵌める指に意味は持たせない。
そして、一般職員が持つ護身の魔道具とは、別に誂えたイェルダの指輪には対を成す一揃いが存在する。
同じデザインで、少し武骨に誂えた指輪は、王都でエーギルの左手薬指で光っている。
朴念仁気味のエーギルと中学生恋愛体質のイェルダを案じ、いつかその本当の意味を伝えられることを願って、それを知るのは、ウェンとパオラだけだ。
イェルダは独鈷杵に守られ、風を切って進む。
凛々しい声を轟かせながら。
§
黒い箱から硬質な声が響く。
「――それで? 家族は大丈夫なのか?」
声の主はガンソ。少しくぐもって聞こえる。
「えぇ。――もう、ギルドのシェルターへ入れました。店から近いので助かりました」
答えるのはドワーフの鍛冶師。ガンソの一門に連なる者だ。
「白い光る板が、モンスターから市民を守っています。私もそれに守られここへ戻って来られました」
「白い板? 聞いたことが無いな。それも気になるが、転移門による直接攻撃は、禁具が変化したと見るべきか?」
「情報が少なくて、推し量れませんが、以前報告したように禁具の波長が変化しています。新型である確率は高いと考えます」
「そうか。やはり一連のスタンピードは実験が目的か」
「主頭。再度の提案で恐縮ですが、侵不へ協力を要請すべきでは?」
「……今はその時期ではない」
「はっ。出過ぎたことを申し上げ失礼しました」
「お前も自分の命を優先させろ。ご苦労だったな」
そう言うと王都のガンソとの通信は切れた。
ドワーフの男は息を吐くと、外に見える光の路を見つめる。
その路を通ってギルドへと避難してくる市民大勢の達が目に映る。
ギルドはその機能上、冒険者の利便性を優先するために、ダンジョン近くの城壁に場所を構える。
男の店から目と鼻の先だ。その目に映る信じがたい幾筋もの光の路。
彼女は自分の役目を果たすために、拡声器を響かせた。
「王民事業体ノルトライブ支所のシェルターは、衣食住全てを賄えます。安心して避難してください」
目の前のこの感動的な光景を、しっかりとエーギルに伝えること誓いながら。
イェルダが左手薬指に嵌める、護身のリングには、ノアなりのゲン担ぎが込められている。
この世界では嵌める指に意味は持たせない。
そして、一般職員が持つ護身の魔道具とは、別に誂えたイェルダの指輪には対を成す一揃いが存在する。
同じデザインで、少し武骨に誂えた指輪は、王都でエーギルの左手薬指で光っている。
朴念仁気味のエーギルと中学生恋愛体質のイェルダを案じ、いつかその本当の意味を伝えられることを願って、それを知るのは、ウェンとパオラだけだ。
イェルダは独鈷杵に守られ、風を切って進む。
凛々しい声を轟かせながら。
§
黒い箱から硬質な声が響く。
「――それで? 家族は大丈夫なのか?」
声の主はガンソ。少しくぐもって聞こえる。
「えぇ。――もう、ギルドのシェルターへ入れました。店から近いので助かりました」
答えるのはドワーフの鍛冶師。ガンソの一門に連なる者だ。
「白い光る板が、モンスターから市民を守っています。私もそれに守られここへ戻って来られました」
「白い板? 聞いたことが無いな。それも気になるが、転移門による直接攻撃は、禁具が変化したと見るべきか?」
「情報が少なくて、推し量れませんが、以前報告したように禁具の波長が変化しています。新型である確率は高いと考えます」
「そうか。やはり一連のスタンピードは実験が目的か」
「主頭。再度の提案で恐縮ですが、侵不へ協力を要請すべきでは?」
「……今はその時期ではない」
「はっ。出過ぎたことを申し上げ失礼しました」
「お前も自分の命を優先させろ。ご苦労だったな」
そう言うと王都のガンソとの通信は切れた。
ドワーフの男は息を吐くと、外に見える光の路を見つめる。
その路を通ってギルドへと避難してくる市民大勢の達が目に映る。
ギルドはその機能上、冒険者の利便性を優先するために、ダンジョン近くの城壁に場所を構える。
男の店から目と鼻の先だ。その目に映る信じがたい幾筋もの光の路。
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