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第5章  流来

第67話  局地

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 爆走して現れたトラはモンスターを黒煙へと変える。

 そして、タイヤを軋ませ、ドリフトをかますと、方向を変え、その勢いのまま場を過ぎ去った。

 トラが優先させるのは、一般市民の保護だ。

 冒険者へは、モンスターへひと当てする援護に留める。

 冒険者達は、その理解を絶する光景にも、手を休めずに戦い続けた。

「さっきのは、ノアっちのトラクターじゃないか? ──でも、誰も乗っていなかったような?」

 シュバインが、独り言のようにそう言った。

「まぁ。侵不しんふのノアだ。──特別製なんだろ?」

 バステンがその声を拾って答える。

 モンスターを駆逐し終えた、別の冒険者が、声を上げる。

「おいっ! シュバイン。少しずつシェルターに向かって下がるぞ。逃げる時間は稼げたはずだ」

「そこら中で、湧いてるんだろ? どこに居たって一緒だ」

「この辺りに逃げ遅れた市民はいない。中心部に向かいながら、助けが必要な人を探すぞ」

 ダンジョンから戻ったばかりのシュバイン達は、城壁のすぐ近くにいる。

 バステンの一言に、シュバインも動き出す。

 冒険者は市民を守る、誇り高き希望の楯だ。


§


 ツンツクは一反上空まで飛び上がり、俯瞰で街全体を見下ろす。

 右手ではチャムが、波打つ青い光線を放ち、神秘的な光を空に映している。

 左手では、カロが緑の光線を薙ぎ払い大量のモンスターを一瞬で消している。

 妖精の光は、人、物を透過し、モンスターのみに影響を与えている。

 モンスターに取って、恐ろしく相性の悪い相手だ。

(神様方は、とんでもねぇなぁ。──味方で良かったってもんよ)

 オナイギは、ミドルレンジで飛び回り、風刃を連発し無双状態だ。

 ツンツクは、モンスターの密集する地点を見極めると急降下して、接近戦を開始する。

 今までのように、敢えて近距離で戦い、ピッピに攻撃のバリエーションを見せる必要はない。

 その制限を外した力は、まさに鎧袖がいしゅう一触いっしょく

 モンスターの間を最短の直線で飛ぶと、同時に複数の風刃が放たれ、視界に入る全てのモンスターが黒煙へと姿を変えた。

 そして、転移門を粉々に破壊すると、新たなモンスターを探しに街を飛び抜けた。


§


 女性は、五〇人を超える一般市民の前に立ちナイフを構える。

 そして、前方から視線を切らずに、背に庇う我がへ声をかける。

「シェスティ。危ないから、ママから少し離れていて」

「──ママ。怖いよ」

「大丈夫よ。──ママは、元冒険者よ。モンスターなんて簡単にやっつけちゃうんだから。安心して見ていて」

 女性は、娘が安心するようになるべく穏やかに声をかける。
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