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第5章  流来

第55話  許可

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 エステラがウェンから渡された半球体は界域異空エスパシオと呼ばれるものだ。

 その場所でなにより、クラーラが喜ぶのはノアが設計した。完成されたキッチンスペース。

 エステラとクラーラは並んで、料理を作りテーブルで食事をとる。

 生み出される美味しい料理はもちろん、エステラと一緒に作れるのがうれしいのだ。

 エステラが、スタンピードへ対応中は、ここがクラーラの避難場所だ。

 今晩も和やかに料理は進む。


§

 ──ノルトライブ

 ギルド長室に声が響く。

「──ここのギルドに手紙が?」

 ギルド長の声だ。

 エレオノーラはそれに答える。

「はい。スタンピードの予兆を捉えたと、差出人不明の手紙が届きました」

「東へ向かっているんじゃなかったのか?」

「──詳細は不明です。……東というと例の?」

「あぁ。八個のスタンピードをほぼ単騎で収束させている。あいつもとんでもない者を育てたな」

「それにしても、うちの最高傑ワンズ作はどうした? まだ、戻らないのか? 数か月で戻るはずが、もう一年半にもなるぞ? ……戻って来るつもりがあるんだよな?」

「そう伺っています。王民事業体イーディセルからキノコの培地の輸送は順調のようです。その監督者がノアさんだそうです。区切りがつけば戻ると思いますが」

「それで、その絶界の弟子はそれほどですか?」

 エレオノーラが話を向ける。

「あぁ。まだB級だが、実質はすでにA級だな。誰も反対はすまい」

「――弓を使うそうですね?」

「あぁ。その魔法の美しさから、流星を統べるもの“星昴せいぼう”と呼ばれ始めている。……ダジルがウザイ程自慢気だ」

「──弓ならば、近接は苦手と見るべきでしょうか?」

「いや。ユストゥスが視察したところ。近接もしっかりと育て上げられていた。さすが、手堅い育成だ」

「──他に有用な情報はありませんか?」

「んっ? ──そうだな。この頃、女の子を連れているそうだ」

 エレオノーラは一通りギルド長から話を聞くと礼を言い部屋を辞した。

 応接用のソファーに座るギルド長はふと我に返る。

「──んっ? ……なんで俺はここに座っているんだ? ……誰かと話していたような」

(絶界の弟子。弓使いエステラの話を? ──そんな訳ない。ギルド副長までの極秘だ。俺がそんなへまをするはずがない。……気のせいだ)

 得も言われぬ不安を、自身の常識で抑え込みギルド長は執務机に戻る。

 悪意は静かに、だが、確実に王国に広がっている。





 いやぁ~。ウェン師に師事した俺は半人前?

 誰だ。そんな調子の良い事言ったのは?

 ウェン師は重要度の高い事を優先で教えてくれていただけだった。

 俺の一五歳の旅立ちに間に合うように。

 その事をしっかりと理解した研修期間だったね。

 なにしろ、アノアディス大師からは、みっちり基本のキから教えられた。

 エルフの都市に来てもう一年半。

 やっと、初心者講習が終わって、家への帰宅許可が下りた。
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